ダイオクとの決戦5
その森に雪牙と黒主は対峙していた。
蒼と黒のNリングのリングナイツが構えた。
「この森なら誰も来ないだろう。一対一の決着をつける。あの時の決着だ」
「俺もリーダーと本気で戦いたかった。勝たしてもらうぞ」
蒼天楼が増えて行く――。
流水ような動きにより炎の残像が増え冷たい風が流れる森に無数の蒼天楼が生まれる。
対する夜天光はブラックマンテルを展開し内部の冷気を全解放する。
森の奥では前線で活躍し続けていた泉の炎姫と藤原のトサ・ベンケイが沈黙していた。
黒刀をギュと握り締めると同時に残像が陽炎のように淡く揺れ、一気に弾けた。
放たれた冷気の塊である氷柱が残像をかき消す。
すると、蒼天楼の肩にある蒼炎輪がその全ての氷柱を切り裂きながら溶かした。勢いを増す円盤は黒主の胸を切り裂き、黒主は氷の虎である雹虎牙狼を胸の虎の顔から放った。蒼炎輪が破壊され、両者は前へ出る。雪牙の雅神剣と黒主の黒刀が激突し火花が散る。
「炎で氷柱を溶かしたか。泉の炎姫さえ貫いた氷柱なんだが?」
「奇遇だな。俺も同じ事を思った。この雅神剣は潮田のチョウシュウすら斬り裂いた剣なんだが?」
笑う二人は上空に向かって螺旋のように上昇しつつ互いの獲物で火花を散らす。
二人はもうお互いしか見ようとしない。
激烈な炎と冷気にあと数分しかもたない戦いに自分の誠を互いに見せつけようと全てを費やそうとする。剣から放たれる炎が乱れ桜のようにブラックマンテルに直撃しそのエネルギーを冷気の矢に変えて一気に返した。左腕が爆発し、爆炎の中から現れた蒼天楼によりブラックマンテル二枚が斬り裂かれる。鬼気迫る二人は叫ぶ。
「雪牙ーーーっ!」
「黒主ーーーっ!」
黒刀が唸りを上げ蒼天楼の腹部を貫き、夜天光のカブトが飛んだ。
振り抜かれた雅神剣の先に蒼炎が煌めき、二機は停止する。
互いにリングチェンジが解除され、黒主は倒れた。
同時に、ジパングの各支部を覆う結界である氷麗真紅祭にヒビが入り出し、各所で崩壊が始まる。立ち尽くす雪牙は大の字で寝転がる黒主に呟いた。
「俺が勝った理由は俺はジパングを見ていた。でもあんたは外の世界を見てた。このジパングへの思いの強さの差が現実の力になって現れただけさ」
「お前も……外の世界を見てるんじゃなかったのか?」
「見てはいるが、今はジパングが俺の全てさ」
欲望渦巻く両眼で見据えて来る雪牙を様々な出来事を思い返しながら黒主は見た。
全ての思いを察したように雪牙は微笑む。
そして、黒主は胸ポケットから一つの袋を取り出す。
それはチロルチョコのピザ味の袋だった。
「お前ピザ好きなんだろ? 前に猫神に作らせておいたんだ。食えよ」
「……不味かったら猫神もしばかないとな。それにレーコにもあげないと何を言われるかわからん」
「そーだな。レーコは元気にしてるか?」
「戦士としては再起不能だが、ちゃんと生きている。後一月もすれば日常生活に復帰できるはずだ。その頃には今より太ってるかもしれんがな」
二人は黒主部隊のもう一人の仲間の話で盛り上がっていた。
すると、二人の周囲の地面がモゾモゾと動いた。
(ナハッ! ここで雪牙を捕らえるわ……)
瞬間、機体の表面をミストでコーティングし地面の下に隠れていた金神閃に乗る猫神は完全にピザ味のチロルチョコを味わう雪牙に両手を迫らせる。
「邪魔はさせないわよ」
金神閃の背後に、突如片腕の素肌が剥き出しになり、カブトのトサカが欠け機体が半壊する泉が現れる。金神閃に突き刺さる泉の刃は完全に機体の動きを停止させている。舌打ちをした猫神はこちらを見据える雪牙と目が合い微笑む。
「大局を見据えろと言ったはずよ。一つの戦いに夢中になってたら、この女狐の思う壺」
そう言う泉の言葉に二人は頷くが、猫神はそんな言葉など耳に入らないように意識を更なる欲望へ沈め雪牙の青い瞳が狐のように細まる。その瞳が、青い髪の少年の言葉によってかつてない驚きと共に見開かれた。
「俺達はユナイトから抜け、自由の翼を手にする。世界を自由に羽ばたいてやる」
「だ、そーだ。俺も同じ意見だ。ユナイトだダイオクだとかもううんざりだぜ。俺は誰かの意思じゃなく自分の意思で自分の人生を切り開く。それが俺達の自由って大義だ」
猫神は茫然と青と黒の髪の二人の少年を見る。
その青い瞳と黒い瞳の少年は揺るがぬ決意である。
全身を震わせ、金髪の髪をかきむしる猫神は叫ぶ。
「黒主っ! ここまで来てダイオクを裏切るの!? アナタはもうすぐ世界を手に出来るのよ! このジパング全てを!」
「俺はこの世界から飛び出すって言ったはずだ。お前の愛は受け取れない……お前も俺に依存しなくてもオビヒロ支部の人間を手中に出来るほどの信頼があるんだ。もう独りじゃねーだろうよ」
「それでも……私は貴方にいてほしい」
「俺の人生はどこかに巣を作る事は無く、天を飛び続けている鳥になりたい。俺は、俺のしたいようにする」
「……そんな事が現実に出来るとでも? もし外に世界があってもリングが使えるかどうかはわからないわ」
「そんならリングを捨ててこの身一つで行くさ。男には行くべき道がある。ちなみに、この話はダイオク全軍に繋がってるぜ? リングの活動が活発すぎてミストが充満してきたからどこまで聞こえてるかわかんねーけどな?」
ククッと笑う黒主はピザ味のチロルチョコの食いすぎでゲホゲホッと胸を抑え咳き込む。顔をしかめる雪牙はやはり本物のピザを食いたいと思いながら言う。
「猫神。俺はユナイトで出来る事はした。後は次の世代に託す。これは俺の自由へ向けた最後の戦いだ」
「ナハハッ! もちろん最後でしょう……貴方はいつまでも生きてられない。いずれ肉体は蒼い炎に呑まれて消え去る。それが家康の呪いよ」
「知ってるさ……すでに俺は心を失いかけている。やがて、肉体も心もリングの闇の中に消える……だが! それは過去の事だ! 俺は呪いの全てを乗り越えたんだ!」
自分自身が消えるのにも関わらず何にも動じない雪牙に猫神は不快感を覚える。
今までフィジカルチェックの時に青い血の成分を調べ暴走する家康の呪いを抑え込もうと投薬で対処していたが、すでに雪牙は家康の呪いを受け入れIリングを心臓にあるリングのパワーも合わせNリングに進化させた事で家康の呪いを乗り越えていた。
短期間でここまで変わる少年達に驚きを隠せない。
「別人……別人すぎる。私のシステムをこうも変えるなんて……」
「人は変わる。良くも悪くも」
「ここまで来て変わるなんて……有り得ない」
目を丸くする猫神の猫のいない肩に手を置く黒主は言う。
「思春期なめんなよ」
その台詞に猫神は愕然とした。
「こんなこと……こんなことは……」
人間の無限の可能性というものを一途に信じた者と枠に当てはめ可能性を消そうとした者の差。
会桑雪牙は全ての過去に打ち勝った――。
ここからが自分自身をキャンバスにし虹色の筆で未来世界を描く始まりの時である。
この物語のカーテンコールが降りるように、金神閃が蒼天楼の一撃によって倒れた。




