ダイオクとの決戦4
蒼天楼とチョウシュウが高速で激突する――。
いつの間にか猫神の金神閃は姿を消している。
二刀の刀で七本の剣に対して互角に対抗する雪牙は蒼い炎を際立たせながら戦う。
「まさか心臓のリングが覚醒してIリングをNリングにまで進化させた? 間違いないわ……それしか考えられない」
「これも親父の家康の恩恵かな!」
「あの男は私を受け入れたが、ずっとはいてはくれなかった。そして、お前に興味が無かったからこそ大奥の連中に勝手にされて私共々潮の渦巻く海に落とされ、この異世界にワープしてしまったのだ! 全てのきっかけは貴様だよ雪牙!」
「たとえ誰に受け入れられなくても、俺は俺の人生を完遂する! そして――」
感情が最高点に達しフッと鼻をならし雪牙の瞳が鋭くなり、
「潮田海荷っ! 貴様の大義、この会桑雪牙が打ち破る!」
「よくぞ吠えた雪牙! ようやく貴様も潮を噴ける一個人になったな!」
弾けたマルカワガムを顔面に張り付かせ狂乱の笑みのまま潮田はチョウシュウの力を最大限に発揮し、蒼天楼に襲いかかる。通常のトサでは機体が持たないほどの神速とも言える七本の凶器が一進一退の攻防を見せ、その全てに雪牙は応じた。
「そろそろこのチョウシュウの武装チェックをしておくか。まずはマイクロミサイルだ」
「マイクロミサイル?」
バババッ! とチョシュウの左右の足の脹脛から小型のミサイル郡が放たれた。
回避不可能のミサイルに対し、雪牙は突っ込んだ。
「ダメージを受けるなら最低限に止め、爆煙で身を隠しながら次の攻撃に出る。いい判断だ」
そう思う潮田は左腕を犠牲にしつつ突っ込んで来る雪牙にアンカーを射出する。
腕から射出されたアンカーを左手に巻かれながらも右手で斬りかかる。
「その手は通じんぞ」
「ならこの手はどうだ?」
バリバリバリ! と電気が発するアンカーに身体を焼かれた。
そのアンカーはエレキアンカーで電撃を与える力があった。
そして、身体を焼かれて動けない雪牙はチョシュウの臍の部分に白い粒子が収束していくのを見た。エレキアンカーを戻す潮田は高濃度のリングオーラを射出するビーム兵器を起動させた。禍々しいオーラが臍に溜まる潮田に雪牙は戦慄した。
「潮を吹け! ソルトフラッシュ!」
まばゆい純白の閃光が雪牙とその背後の空間を満たした――。
シュウウウ……と、蒼いリングナイツは機体の全身から煙を上げ、立ち尽くしていた。
雪牙は両肩にある円盤型の武器、蒼炎輪をバリアとして使い死を免れた。一気に体力の大半を持っていかれ脱力感に負けそうになる。
「……全く、その機体は多武装だな。白兵から遠距離までこなせる正に白い阿修羅だ」
ソルトフラッシュに耐えた雪牙に狂喜を隠せない潮田はマルカワガムをプクーッと膨らませた。
「この機体は猫神にユナイトファングを一人で壊滅させられるよう設計させたものだからな。どんな局面にも対応できるように設計されているのさ」
「……それは無理な話さ――」
その言葉を全て自分が無理な事だと教え込む為に雪牙は動く。
放たれるエレキアンカーを雅神剣で受けると、マイクロミサイルが迫っていた。
「うおおおおおおおおっ!」
剣に巻きつくエレキアンカーをマイクロミサイルの方向に向かって弾き飛ばし、ミサイルの誘爆を誘った。
「!? ――」
すると、時間差で放ったマイクロミサイルの第二弾が放たれていて目の前にあった。
瞬間、雪牙はユナイトの道場で潮田と竹刀を交えた時の事を思い出す。
(俺は……流れる水だ)
蒼炎の粒子がマイクロミサイルを笑うように弾け飛び、蒼天楼は全てを受け流す。
背後で爆発が起こり、まばゆく煌めく蒼炎の粒子に潮田の両眼は意識まで持っていかれる――。
「完璧な回避行動――まさか!」
「迂闊なぁ!」
ガキィン! と頭上から一撃を入れようとした雪牙はチッと舌打ちをした。煌めく流水のような動きのまま後退した。地面の雪を慣らすチョウシュウはその蒼い機体を見据える。
「その動き……流水の動きか?」
「そうだ。貴様が剣道の稽古の時によくしていた動き。Nリングの蒼天楼ならばその動きさえ可能になる」
「人の技をこうも再現されると天晴れとしか言い様が無いものだな。見事だ雪牙」
元部下である子供の成長を嬉しく感じ、新しいマルカワガムを口に入れる。オレンジの充満な香りが口に広がり、目の前の敵に興奮を抑える事が出来ない。じわっ……と巨大な大河の静寂さと獰猛さを兼ね備えた蒼き炎が燃え盛る。炎が灯る剣を水平に構え、
「残念だが後がつっかえてるんでな。すぐさまケリをつける。さらば、潮田海荷」
「――!」
閃光のような炎の煌めきと共に蒼天楼はチョウシュウの背後に出た。
中空に舞う水が雪の上に散り穴を穿つ。
同時にチョウシュウの七本の刃が折れた。
ピキッ……と兜のような頭の脳天から縦一直線にヒビが入る。
「……その急成長は若さの特権。しかし急なる者は狂なる者に消される運命。自由への飛行という大義、貫けるか――」
断末魔の叫びと共にチョウシュウは爆発した。
悠然と蒼天楼を見下す鉛色の空を見上げる雪牙は呟く。
「運命は乗り越える以外に存在しない人間の命題。俺は自由を舞う」
そして、蒼天楼は水飛沫を上げながらゆっくりと空を舞った。
その脳裏には猫神と運命の宿敵である黒主京星がいる。
蒼い炎が鉛色の空を駆ける。
数機のアイヅがセントラル支部にまで迫りビームバズーカを叩き込んだ後、トサ五機に倒される。すでに支部周辺にもダイオクの戦力は迫っている。激震が走る支部のメインモニターを見据える夢は敵軍の赤いシグナルが急に増えている事に疑問を感じた。
「増援? まさかダイオクにそこまでの部隊は……」
それはオビヒロ支部の部隊だった。
総司令である冥地琴乃はこの他支部からの裏切り行為は、猫神の作戦の一つだと思った。
元々オビヒロ周囲で演習をする事が多かった為に、オビヒロ支部での猫神の人気は高かった。狡猾な手段に思えるが、全ては猫神の掌の中で動いているだけである。
「各員、敵はユナイトファングのオビヒロ支部ですが恐れる事はありません。敵の参謀に惑わせれた二心を持つ兵が動いているだけです。心に迷いが無ければ負ける事はありません」
そう、冥地家の人質でしかなかった玲奈はユナイトファングの総司令として言った。
環境がこの緑色の髪の少女の面構えを変え、一軍の司令としての風格に変わりつつあった。それをセントラル守護をする冥地功周は自分の孫娘を誇りに思った。
戦局は最終局面を迎え、ここまで来たら最後に勝つのは自身の大義をひたすらに貫く者が最後の勝利者になるであろう。全ての終わりはもうすぐである――。
セントラルの人気の無い個室病室が揺れている。
他の病棟は前線部隊の怪我人で混乱していて、手当てを受ければ出撃出来る者もいればそうでない者もいて救護スタッフはてんやわんやの状態にあった。
全身を包帯で巻かれているレーコはベッドの上で目を覚ます。
「うるさいわねぇ……これじゃ、寝てられないじゃない。やっぱヒロインがいなきゃダメなようね」
空腹を感じるまま起き上がると、横のテーブルの上にはノンカロリーチロルチョコが大量に置かれていた。その一つを口に入れると、溜息をつくように呟いた。
「やっぱ、カロリーないとチョコじゃないわね」
そのまま立ち上がるレーコは全身の痛みなど感じないように個室から出て行った。
その歩いた道の後には、微かな血の痕跡が残っていた。




