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ダイオクとの決戦2

 シュマリナイ湖周囲で火線が行き来し、周囲の景色が変わって行く。

 アイヅの火力は予想以上に強く、ユナイトのトサのライフルでは動きを止めるぐらいのダメージしか与えられず、白兵に持ち込みヒートソードで切り裂くしかない。敵よりも実戦経験と地の利があるとは言え、これをいつまでも続けるのは精神的に疲弊するだけである。過去に大勢のリングナイツが経験した大概の戦闘はライフルで片がつくような戦いばかりであり、前線部隊以外は白兵など演習でしかしないのである。しかし、ユナイトファングの武蔵坊弁慶と呼ばれる首から下が機械に成り果てたサイボーグ藤原のトサ・ベンケイの獅子奮迅の働きが周囲の兵を鼓舞し、白兵への恐れをなくさせる。

「セイセイセイッ! この藤原のトサ・ベンケイを突破できる者はおらぬのかぁ!」

 ヒートナギナタを旋回させながらアイズ二機を屠る。

 その風貌、正に現世の武蔵坊弁慶である。

 身体が機械になった為に、コンプレックスであった胸を盛ってEカップにしたのも藤原の勢いを際立たせていた。

 雪牙はその傲岸不全な女の戦い方に前線はしばらく問題ないと判断し、後続の部隊が藤原隊に気がつき迂回したアイヅの群れと戦闘に入りそうになる為に言う。

「各員、上手く周囲の地形を読んで二人一組で敵に当たれ。牽制をかけつつヒートソードで斬りつければ勝てる。前線で戦うパイロットが周囲の地形を覚えてないとは言わせないぞ!」

 まだ実戦に馴染んでいない各支部のリングナイツを叱咤しつつメインモニターに点在する味方と敵の位置状況を把握し未来の絵を脳裏で描いた。結束力はダイオクの方が上な以上、所詮は臆病な烏合の集であるユナイトファングは互いをカバーしていかなければ勝つ事が出来ない。戦う前線部隊を見つめながら思う。

「ジャスティスタワーでアイヅがいなかったのはこの決戦の為の温存か。やってくれるな」

 セントラル支部が突破された時点でユナイトファング全体の陥落は目に見えている。

 この戦いがダイオク側の勝利で終結し、まだ国力が整わないダイオクに迅速に介入行動に出られる組織は無いからであった。

(ここが橋頭堡だ。ここで勝たねばもうジパングに未来は無い。しかし、補給も無いこの戦いも今日中にケリをつけなければ突破されるな……)

 苛立つ雪牙の顔を司令席にいる玲奈は一瞬見つめる。

 多少各部隊の動きは良くなったものの演習慣れしかしてない連中の二人一組という連携も見るに耐えない所が伺える。アイヅはトサに比べて圧倒的火力と重装甲の機体だが所詮は機械であり攻撃を受ければダメージを受ける。用はリングナイツの能力と気組みの有無で局地的な勝敗などは決まるのである。続々とコサックテキーラより出撃して来る銀色の魔物の群れの少女達に雪牙は辟易した。

「その内地下道も攻めてくるだろう。地中部隊のトサ十機はプランGを発動させ、敵をうまく地下道に釘付けにし時間が来たら撤収し地上部隊の援護に回れ。冥地・紅水の空戦部機は常に支部と前線を行き来し諜報活動しつつ絨毯爆撃を加えろ。松井隊! 必要以上に支部の防衛ラインから離れるなよっ!」

 戦闘開始から三十分近く経ち、少しずつ戦局が後退して来たのが伺える。

 オペレーターは伏兵の登場に気をつけながらモニターを見ていると、一機のアイヅが半径50メートルは消すであろうソルトボマーを使った。パパパパッ! と友軍のシグナルが次々とメインモニターから消えて行き、最前線の戦場は視界が白く霞んだ。

「先行する藤原部隊と後続の九流、相馬部隊の損傷拡大! 持ちこたえられません!」

「自軍さえ巻き込むとは強行な姿勢だな……兵力差は圧倒的だ。アサヒカワは棄てろ! 全軍第二防衛ラインまで後退! プランA発動準備!」

 雪牙の叫びと同時にシュマリナイ湖での戦いを諦め、ユナイトの軍勢は第二防衛ラインのタキガワまで後退する。重装甲、大火力のアイヅには白兵でしかダメージを与える事が出来ず、ライフルで弾幕を張りつつ後退するしか無い。縦横無尽に後退するトサを追うアイヅはこれみよがしに射撃を加える。雪の斜面が激しく揺れ、二機のトサが態勢を崩す。トサの群れは大木を避けるように大きくV字に別れつつ後退し、その中央を我が物顔でアイヅが行く。

「――堕ちろ」

 瞬間、友軍のトサの視界から全てのアイヅの少女達は消えた。

 仕掛けられた落とし穴にアイヅは落ちたのである。

 激しい爆音と閃光が煌めき五機のアイヅは落とし穴に仕掛けられた爆弾で大爆発と共に消える。

「各員そのまま防衛ラインを押し上げろ。フラノの山脈前にてダイオクを迎え撃つ」

 そのままユナイトのトサは一気にフラノまで前進して行く。

 アイヅはレーダーで確認出来る範囲の熱源を確認しつつじわりじわりと進行して行く。罠が多数巡らされるフラノまでの道を、金色の悪魔が先行して飛んで行く。

「ナハハッ! トラップはアタシが全てサーチしてデータ転送するわ。各員、それを参考に進みなさい。あの中央のトラップはアタシが解除する」

 言うなり金神閃からキャットビームが放たれ、アイヅの群れの眼前の地面が大爆発を起こす。その爆風の中をトラップの位置をデータ転送され、全ての罠に怯える必要の無いアイヅは水を得た魚のように一気に攻勢をかけ防衛線のトサを一気に叩いて行く。

 フラノの山脈を突破されればもう次はプリズンを侵略されセントラルへの直接攻撃が始まる。メインモニターの識別反応は友軍が80を切り、敵軍は未だ150近くの勢力がある。好転と悪化の流れの最後に来たといわんばかりの状況に本部支部の司令室の空気は重くなる。

(このままだと勢いに呑まれて負ける。これでは黒主が出て来るまで藤原や冥地に泉が持つかわからんな……。本当は黒主、猫神、潮田との戦いに備えてエネルギーを残しておきたいんだが、俺が出撃するしかないか)

 雪牙は悪化する状況から自身の出撃準備をしようとすると、支部長席にいる琴乃が突然立ち上がる。次々に倒されていく紺のトサに混じり、緑のトサがバズーカでアイヅを撃破していく。それは冥地家のカラーリングの機体のトサ――。

「冥地家のトサ……まさか樹音?」

「そうよ琴乃。これよりハコダテの冥地家はユナイトファングに協力しダイオク駆逐に専念する」

「何で? 貴女はユナイトにいながら冥地家の為にユナイトを潰そうとしてたんじゃ……」

「ここで負けたらどのみちユナイトだけじゃなく世界が終わる。どうせ終わるなら派手にいきたいだけよ」

 突如、琴乃の妹である冥地樹音率いる冥地家の増援部隊百機が現れた。

 それは冥地功周の大義を貫く為に集まった部隊である。

 わざと反乱を起こしユナイトに捕まり、ユナイトの現状とダイオクの関係を探っていた冥地の思いを受け継ぎ完遂する集団はアイヅの進攻を許さない。

 その背後にはトリコロールに塗られたやけに強いトサの一団がいる。その一機が映像通信を送ってくる。

「こちらダイオク・元翡翠翔子ひすいしょうこ貴下、翡翠ブレホ部隊よ。セントラルより応援にきたわよんっ。アナタの指示でアタシを逝・か・せ・て♪」

 ダイオクの大佐であった翡翠翔子ひすいしょうこの部下の部隊がダイオクを離反し動いて来た。かつてアサヒカワでビッグリングキャノンの攻防戦で散った翡翠の報復ではなく、このユナイトファングに正義はあると信じて現れたと翡翠の妹は言った。

 新しい風が流れるユナイトに、可能性の翼が見えたのであった。

「……まさか翡翠大佐の貴下部隊が来てくれるとはな。君達は冥地家の部隊と連携して行動に当たってくれ。協力を感謝する」

 顔を硬直させながら雪牙は答えた。支部の全員もとてつもない集団が次々に雪牙に映像通信で非常に暑苦しく、熱気を帯びる少女の体臭がこちらまで匂ってきそうな挨拶する様を見て指揮官の辛さを知る。しかし、翡翠翔子部隊の連中はダイオクの最前線にいた部隊だけあって努力も怠らず相当強い。本部支部の全体はその増援に心強さを感じる。

 空でその光景を見ている口元を引きつらせる猫神は眼下のゴミを見下すように言う。

「ナハハッ! やるじゃない。コサックテキーラの防衛にあたるアイヅ全ても出しなさい。セントラルを焦土に変えてやるわ」

 更に増援をかけるダイオクはフラノから先へ進行しようとするが、どうにも行かなくなった。拮抗する戦局には新しい一手が必要。セントラル支部の司令室では雪牙が最後の命令を出していた。

「……松井隊はユナイトの後方支援から離れるな。指原隊は敵の奇襲部隊を警戒しつつ牽制をかけ続けろ。整備班、私のトサ・セブンソードの出撃準備をさせろ。オペレーター各員、冥地琴乃総司令。後は任せる。各々の大義を胸に抱えこの戦いを生き抜け」

『了解』

 全員のオペレーターが一様に立ち上がり雪牙に敬礼する。

 玲奈もユナイトファングを民衆に認められる軍隊にするという大義を胸に敬礼した。

 セントラル支部の全ての人間がその場所で雪牙に敬意を表し、閉じた瞳をゆっくりと開き言った。

「会桑雪牙出撃する」



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