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決戦への日々

 ユナイトファング慰霊碑の丘。

 オタルの北の海沿いにあるその場所はユナイトの軍人が戦死した時に葬られる場所である。

 アリーナ一つ分の敷地にはすでに三分の一の石碑があり、この三年ですでに三千の軍人が死んでいる事を現している。その半分近くはこのジパングでのダイオクとの戦闘での死傷者であった。そのなだらかな丘の上を雪牙せつがと泉は歩いていた。そして、戦争や騒乱に巻き込まれて死んだ無縁仏が眠る慰霊碑の前に立つ。雪牙は瞳を閉じ、泉は烈火のような赤い瞳で睨むように見据える。

「こんな所一体誰が来るのよ。今の世の中は人間が死にすぎて墓の機能なんてないじゃない。アタシはここに死者がいるとは思わない」

「お前は俺の監視下にある。今回は今までの戦死者とこれからダイオクの戦死者を祭る為に来た。お前とてダイオクで仲間だと思った人間もいるだろう?」

「はいはい。ありますよー」

 ふてくされた顔の泉はまぶしい太陽の日が注ぐ海岸線に目を向ける。すると雪牙は慰霊碑の前に座り込み正面の太陽を見据える。

「……あの太陽は唯一無二のもの。人間の世界でもたった一人の行動で世界は変革する。その人間に大いなる野望、魅力があれば造作も無い。だが、一時期は英雄になれ大空を羽ばたいてもても、早く死ななければ心の弾みを無くし必ず最後は失墜して堕ちるのがカリスマの運命」

「称賛と孤独は紙一重だかんね」

「そうだ。中途半端な才能を持つ俺はそれを努力で補い、常に最高の高みにいる存在でありつづける。この世界の家康の子である俺があの男のように、欲望と冷静の狭間で生きる人生を選ばねばならんとはな……皮肉なものだ」

 泉に言っているようで、自分に言い聞かせるような雪牙の話は続く。

「猫神が発展させたリングはこのジパングが人類に課した命題。つまり、大地を汚染する災悪を自分達自身で始末させるって事。この大陸は人間を消し去りたいのかもしれない」

「そんなの使いようでしょ? リングはそんな問いをしてきた事は一度も無いわ」

「そう、リングは何も言わない。だから俺達は考えなければならない」

「ジパングがどうだこうだなんか知らないわよ。この大地がガタガタ言うならアタシの炎姫がジパングに人間の存在を証明させる。人間がいなきゃ、この大地の存在も無いからね」

「本当に泉は自分に正直な女だ。それを見習うわけじゃないが、これから俺はダイオクを消す。あの女達に個人的な遺恨は無いが、全てを終わらせるには痛みは必要だ。決戦に現れた人間は全て排除する。人類がこれ以上堕落しない為だ。人類の過渡期な以上、努力するしかない。しないなら、俺が世界まるごと消すしかあるまい」

「で、アンタの大義はようするに何?」

「俺はリングで起こる紛争を解決し続ける自由の翼になる。それが俺の大義だ」

 フフッと微笑む泉は太陽に照らされ決意の満ち溢れる雪牙の表情にこれまでに無い強さを見た。

 雪牙は大空を見上げ、大きく息を吸い込む。

 雲が流れ、五月にしては冷たい風が二人の間を駆け抜けた。





 ワッカナイ・ダイオク本部コサックテキーラ。

 その格納庫に猫神は居た。整備士達が重装甲兵器・アイズの調整を急がせる中、純白の潮田海荷専用機である新型リングナイツ・チョウシュウの調整を終え、整備スタッフに指示を出し自身は格納庫を後にしようとする。すると、目の前に金髪ロングの白いスーツを身に纏う長身の女が現れた。

「お前まで来るとは思わなかったな。来てくれたおかげでチョウシュウも決戦前に完成した。人を愛するという事は素晴らしいな猫神」

「この戦いに勝っても黒主は外の世界に旅立つから私の愛は報われないわ。それでも私は貴女に協力する。同じ世界から来た人間としてね」

「そうか。ならばダイオクの総力を持ってセントラルを奪い、そしてジパングをダイオクの手中に治め私がこのジパングの未来永劫繁栄させる神になる」

「おそらく戦力が確定するにはまだ数日かかるわ。おそらく五月の終わり頃になるはず」

「決戦は5月31日。6月からはジパングは私のものとなる」

 重装甲、大火力のアイズが二百機。それに猫神が極秘に譲渡していたトサが百機。

 いかに実戦未経験といえども現状のセントラル支部の戦力で勝てる道理は無い。

 このままではセントラル支部に勝ち目はまず無い。

 そんな事など知らぬように日々は流れ、ついにその時は訪れた。




 コサックテキーラ最上階円卓の間。

 中世の騎士が集う円卓の間の他とは違い特注の椅子に潮田海荷は座る。

 その背後には黄色いスーツに身を包む黒主がいた。

 潮田は悠然と王座からその間を見渡す。

「……随分仰々しい間だな。嫌いじゃないが」

 それに円卓の席に座る白衣を着る猫神は答えた。

「これから世界の王になるインペラトルの総帥・潮田海荷にはかなり地味な円卓の間でしょうが、今だけの話。やがてこの場所にジパングの全てを管理する円卓の騎士は集まり、貴女を頂点とする最強のダイオクが誕生する」

 その言葉に黒主は反応した。

「それにはまず、ユナイトファングを落とす事だな。そして雪牙を……」

「そう、雪牙を……」

 潮田の青い瞳が輝き、ねっとりと唇を舐める。

 外の世界に飛び出す為の最後の試練と考え、黒主は瞳を閉じた。

 日付が変わり開戦の刻限が迫る――。

 そして、時に宝歴二十年5月31日深夜零時。

 セントラル支部に向けて突如発信されたレーザー通信が支部のメインモニターに映る。

 それを待っていたかのように雪牙は支部長室で冥地功周めいちこうしゅうと孫娘二人と共に白いスーツを身にまとう元ユナイトファング副支部長潮田海荷に見入る。

「私はダイオク総帥・潮田海荷である。我々ダイオクはユナイトファング・セントラル支部の制圧と共に、ジパングの中枢であるセントラルの全てを奪う事をここに宣言する。大義は我等ダイオクに有り!」

 その映像はユナイトファング・セントラル支部だけではなく、ジパング全体に向けてダイオクからの宣戦布告が行われた。雪牙は支部長室で一人笑い、冥地達の恐ろしいものを見るような視線を受けながら決戦の気持ちを高ぶらせた。




 宝歴二十年5月31日午前零時三十分――。

 ユナイトファング・セントラル支部支部長室。その場所から外異特務隊隊長である会桑雪牙は全軍人に館内放送とモニター通信を使いダイオクとの決戦についての話をしていた。全ての軍人は一時的に手を止め雪牙の声を聞く。

「各支部は管轄区である全土に守備を固めたが所詮は自衛で精一杯。セントラルは増援を受けているが実戦部隊に人員が取られる為にここはセントラルの人間だけで守るしかないようだ。この作戦に限り参加の拒否を認める。特に他支部から来た人間は自分を死にゆく駒とわりきれないならば各支部に帰還していい」

『……』

 各支部の増援兵は動揺と不快感を示す。今から決戦というのに帰還するような事を言う指揮官に対し否応ない不信感を覚える。やはり会桑は潮田よりも経験も浅く、この作戦の指揮官には向かないんじゃないのか? という声が上がり始める。すると、雪牙は軍人共が各人の意見を周囲に言っているのを見計らうように間を空けてから言う。

「少し長くなるが私、会桑雪牙の言葉を聞いて欲しい」

 雪牙は自分が異世界で生まれた人間である事と、心臓にあいリングがある化物という事を伝えた。そして、ダイオクの総帥が自分の母親だという事も――。

『……』

 その告白に更に支部全体が動揺し、これから決戦など行えないような状況に陥る。

 敵軍の将である息子などと一緒に戦えるわけがない。

 しかもその人間の指示で動くなどというのは無理な話である。

 しかし平然と雪牙は話す。

「私……いや俺の信頼していた、皆も周知の潮田海荷元副支部長は自分の欲望に忠実に動いている。それは黒主部隊リーダー黒主京星にしても、科学主任であった猫神にしてもそうだ。奴等の大義とは欲望に忠実な自分の中の信念を貫く事。たとえそれが歪んでいようがなんだろうが関係の無い事だ。人の顔色など伺わず、自分の生きたいように生きる。だがそう簡単にはそのように全ての人間は生きられない。だから、ユナイトの命令ではなく自分の為に戦えない者には去ってもらいたい。この戦いは死戦になる。生き残る者はほぼいないだろう。だからこそ自分自身にこの戦いを勝ち抜く意思が無い者には去ってもらいたい。この件は軍法会議にかける事もない事は冥地玲奈支部長も認めてくれている」

『……』

「ユナイトの大義とは平和だ。そして、俺の大義は自由を得る事だ。自由という大義を勝ち取る為に、俺は戦う。ユナイトファング以前に、一人の人間である会桑雪牙として」

『……』

 広がる動揺は止まる事が無く、支部の人間達は開いた口が塞がらない。

 軍人が欲望むき出しにして戦えばそれは過去に往く例も出た自堕落な軍事政権でしかない。それは必ず破滅にある運命にあり、ジパングを統括するユナイトファングがそれをすればリングを悪用する者が多発し、世界は終わるだろう。まるでそんな事は気にもしないように雪牙は今までに無い爽やかな声で言う。

「動揺する必要などは無い。俺達は自由に戦えるんだ。勝利の暁には各々セントラルから報奨金をぶんどってやれ。なんせ支部長は大企業の冥地家の人間だからな」

 笑いながら言う雪牙に対して、まるで別人のように変わる様に驚きながらも玲奈は、いいですわよと呟いた。軍人達の動揺もやや鎮まり、各人が自分の大義と今後について考え出した。

 火の属性を持つ炎姫のリングナイツである紅水泉は戦闘、冥地功周はダイオクの壊滅、潮田海荷はダイオクによるジパング制覇、猫神は愛する男への無償の愛、雪牙と黒主は自由への翼――。

「各員、自分の意思を大義を持て。各々が一騎当千の戦国武将だ。信念無き者にこの戦いを勝ち抜く事は出来ん」

 その言葉に圧倒されるユナイト軍人全ては自分達が死の一歩前にいる事を改めて実感した。

 広がる動揺に雪牙は納得したような顔で言葉を続ける。

「これはユナイトファングである前に人間という存在個人の戦いだ! 自分の信念に大義無き者は去れ! これは人間の尊厳を守る戦いだ!」

 ドン! とおもいっきり机を叩き宣言した。

 息を呑むユナイトファング・セントラル支部の全ては蒼き炎を瞳に宿す雪牙を見た。

 そして、支部長でありこの作戦の総司令である冥地琴乃の言葉が紡がれる。

「ユナイトファング・セントラル総司令冥地琴乃です。本作戦であるソルトブレイク壊滅作戦開始は約一時間後を予定されます。自分自身の心に大義無き者は速やかにセントラル支部より去ってください。この作戦に参加するユナイトの軍人に栄光あれ。ユナイトファング!」

 その冥地功周の孫娘である玲奈の迷い無き宣誓に触発された者は動き出す。

 戸惑い、焦り、他者との同調、そしてそれぞれの思惑を胸にセントラル支部の人間の心は決戦へと向かう――。



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