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四幕~志の翼~

 ジャスティスタワー崩壊事件の一連の流れをまとめた雪牙せつがはセントラル新支部長に就任した冥地琴乃めいちことのにダイオクとの戦いの詳細を報告した。その反乱はソルトブレイクと呼ばれジパング民を揺るがし、各支部のユナイトもダイオクに対しての警戒を強め肝を冷やす日々を送るようになっていた。

 雪牙は階級が大尉に上がった。ソルトブレイクでの活躍というのが昇格理由だが、これから先の出来事を踏まえてという為というのが大きいだろう。階級が上がった所でその本人が変わらなければ何も意味は無いのは当の雪牙が重々承知していた。

 雪牙は先の戦いで自身の実力と世界においての立ち位置を知った。

 何も出来ない子供でしか無いという立ち位置を――。

 だが、時は待たない。

 ユナイトファングセントラル支部の入口では、赤い炎を宿したリングナイツが憮然と立ち尽くしていた。その怒りの炎を具現化させたような少女の背後には若草色の着物を着た冥地功周めいちこうしゅうがいた。その二人は本部のリングナイツに周囲を囲まれ、青い髪の少年を見据えていた。怒り心頭の紅水泉こうすいいずみは言う。

「……潮田にこうも人生を操られていたのは我慢ならないわ! それをアンタ達にぶつけてやる!」

「いいだろう。一体一で決着をつける。お前には過去、散々煮え湯を飲まされてきたからな」

 迎え撃つ雪牙は今や一兵卒に成り下がった者ばかりの部下達に手を出すなと静止させ、リングチェンジした。すでにハイパー化しているトサは蒼く輝き、目の前の炎姫のオーラに遜色の無いエネルギーを発していた。その二人を見据える冥地はシワの深い両眼を笑わせ、

「決着がつき次第、ワシからユナイトに対しての話を聞いてもらいたい。いいかな会桑大尉?」

「わかった。すぐに聞くとしよう」

 動き出す泉の左手に炎が宿る。

 それを見た雪牙の青い瞳が揺らめく。

(炎射弾をブラインドにして、一気に頭を狙うようだな――遅い)

 その動きの先読みをしていた雪牙は一切の無駄の無い動きで泉の攻撃をかわし、カウンターを叩き込む。泉は声が出ず唖然とする。

「潮田との戦いで地獄を見たからなあの感覚を味わって間も無い俺がそう簡単にやられる訳が無い」

 潮田海荷の超絶技巧をその身で味わった雪牙の反応速度は超スピードで成長していた。ジャスティスタワーでの地獄が戦士として一皮むけさせたのである。

 泉の炎姫は倒れ、雪牙のトサがそれを見下ろしていた。

「俺の中で何かが目覚めつつある。俺の心臓にある家康のリングが俺を何かに変えようとしているんだろう」

 圧倒的な力を見せ泉との決着がついた。

 そして、冥地功周との共同戦線の話になる。ワッカナイのダイオクの人間はもう仲間では無い為に冥地はユナイトに協力をするというのである。

「ここでダイオクが潰れてもらわねば、ジパング全体に利益が出なくなる。戦争特需ほど人間を活性化させるものは存在しないからな」

「冥地殿。貴方は商売がしたくてここまで来たのか?」

「そうであるし、そうでない。人間は平和になれば堕落するのは見てきたはずだ。この戦時下ですら動かぬ者は動かなかっただろう? だから今は動ける者がやるしかあるまい」

「……なるほどな。清濁含めて、ユナイトファングは全てを受け入れよう」

 冥地功周は孫娘の玲奈にダイオクとの決戦の総指揮をさせ、冥地自身作戦に干渉しない事でユナイトの信用を得た。そして、雪牙は猫神から連絡を受けてオタル支部の先にある海岸へと向かった。





 オタルの海岸――。

 さざ波が白い髪の細い少女と、金髪の黒いコートを着る少年の足元を濡らしていた。

 黒主と猫神の二人は海風に髪をなびかせながらたたずんでいる。

 今年はジパング内の雪の溶け具合が悪いらしく未だにまだ大地が白い。

 その二人に向かって青い髪の紺色の制服をの上に黒いコートをはおる少年が歩いて来る。

 一週間が経ち他支部から援助を受けたセントラルの基盤は一応ながら安定した。

 しかし、まだまだ元の状態にはほど遠く、さらに戦力を増強して反乱が起きてもすぐに鎮圧出来るような磐石な態勢になるにはほど遠い。しかし、刻は進むだけで待つ事はない――。

「……ナハハッ。それで、ユナイトを抜けてダイオクに入り自由を得る翼を勝ち取る為に動くのか。哀れな末路だねぇ」

「俺には俺の行き方がある。ここまで自分の本能に従って生きてる奴を見て自分を抑えるのは不可能だぜ」

 もう覚悟が決まっている黒主に対し、雪牙は黙ったまま何も言わない。

 すると、身体に猫を乗せていない猫神は自分の過去を話し出す。

 誰も知らない猫神の過去の話に、二人はただ聞き入った。

「もう、薄々感づいているかも知れないけど私はNリングの使い手。謎の金色のリングナイツと呼ばれた金神閃きんしんせんなのよ」

 猫神はNリングの使い手であり、ジャスティスタワーの潮田の自爆の爆発は金神閃が吸ったのである。そして、この謎の少女の本質の話しになる。

「私は潮田と同じ世界から転生した存在なの。だから、この別世界で独りで生き抜くには大きな力が必要だった」

 雪牙とは別の家康の子である猫神は二歳の誕生日を迎えてから髪が金色に変化し出し、異人の血が混じっていると大奥の連中が恐れを抱き崖から海へ落とされた。そして、この異世界に転生した。まだ幼い猫神はユナイトに拾われ、持ち前の好奇心の強さから科学者としてたまたま指にはめられていたリングの特殊能力を見つけ、リングナイツ計画を行う主任技術者となり異世界での生存権を得た。

 その最中、大人としか関われない寂しさから孤独に潰されそうな猫神はリングナイツ選抜試験に来た唯一の男である黒主を友達にする為に猫神は声をかけた。両親の乗る黒間が事故に合い天涯孤独になる黒主に目をつけたのである。

 男の出生率が低い女社会の異世界では女が戦場に立つ。

 その女だらけのリングナイツに男の力を入れるには幼少からリングナイツにしなければなれないという事を猫神は知っていた為、両親が死んでいる黒主はちょうどいいと思った。

「……リングナイツを生み出す為にリングを人体で試し続けた結果、金から白髪の色になった。潮田は私が特に反乱を起こす意思が無いから見逃していたんでしょう。全ては、貴方達をダイオクの潮田の最強の私兵にする為に行っていた計画よ」

 白く儚く風に流れる猫神の髪が薄い唇にかかり顔の半分が見えなくなる。

 前髪を上げながら雪牙は顔を隠し、自分の困惑する顔が見られないようにする。

「……色々、あるもんだな」

 黒主はこの白髪頭の少女の全てを知り、溜息をつくように呟く。

 雪牙との出会いの戦いで手にしたNリングは猫神が仕込んだ物であり、潮田から成長依頼をされた事でもあった。そして、外の世界を見る欲の為に潮田に乗る黒主を止める。

「海の外は未知数過ぎる。リングが使えるかどうかもわからない……実際に大陸があるかもわかならいのに行くなんて自殺行為よ」

「自分の志に従って生きれない方が自殺行為だぜ」

『……』

 あらぶる冷たい海風などまるで気にもならぬ三人の心は平静を保ち、ただ静かにたゆたう海の水面のように会話を続けた。そして、黒主は雪牙に向き直る。ユナイトファングの大義に従って生きてきた過去の全てを忘れるように二人は道を別つ。

「……それがお前の大義か。やはり俺達は同じ道は行けないな」

「潮田のような事を言いやがって。譲れねぇ物を持っている以上誰かと道が同じだなんてあり得ないだろう?」

 そう言う黒主を、何かを諦めたかのような冷ややかな目で猫神は見た。

 雪牙の肩を叩く黒主は微笑み、

「お前は唯一無二の仲間だ。だがお前とは行けない。……俺はずっと努力を重ね結果を出すお前を恐れていた。だからこの気持ちに気付けたってのあんだろ。あんがとな」

「努力しなきゃ、あんたに追い付けなかった。黒主部隊にいられなかった。努力して追い越し、ずっと前を走って来た……俺が一番見てた人間は潮田じゃなくリーダーだ。リーダーの才能に、ずっと嫉妬してた。俺は……お前のようになりたかった……」

「人は自分にしかなれないぜ」

 互いはは自分達の思いを打ち明け、心のモヤモヤを吐き出した。

 潮風を感じながら雪牙はこの二ヶ月近くの日々を全て走馬灯のように思い出した。

 もう戻る事の無い日々に一瞥をくれるように石ころを蹴飛ばし、黒主は歩き出す。

 フッと何かを自嘲するように笑う雪牙も歩き出す。

 そして、動けない猫神はただ立ち尽くした。

 離れて行く二人の背中にはもう戻れない永久の距離があったが、その距離は止まる。

「水野?」

 そう呟いた猫神の声で歩く二人の歩みは止まった。

海岸を歩いて来る長い黒髪のセントラル支部参謀・水野が現れたのである。

『……』

 すでに支部長の山崎と一緒に潮田に処分されていた水野が何故生きているのか? という疑問が全員の頭によぎる。すぐさま腰の銃に手をかけた雪牙は突如現れた女に警戒心を解かず言う。

「水野参謀……山崎と一緒に死んだはずでは?」

「死んだわよ。もう何年も前に潮田の死の味のキスでね」

 その水野は口元を嗤わせ、左手のリングをかざしオーラを流し込む。

 すると、その髪の色は金色になり顔は元ユナイトファング副支部長の顔へと変化した。

 思考が止まる雪牙は、無意識のまま声が出た。

「潮田……海荷」

 その目の前に現れた人物は紛れもなく潮田海荷だった。

 黒髪のはずの髪は金髪であるが、この髪の色は元々異人であるからこれが正しい姿なのだろう。雪牙は自分の手で首を落とした相手が生きている事を信じられずに立ち尽くす。

「いい顔をしてるな雪牙。私はこの世界に来てから特殊な力を得たんだ。相手にキスをする事により相手の意思を支配し、相性がよければ身体の細胞さえも自分のオリジナルと同じに出来る自分を複数存在させる事が出来るフクアカの力をな」

 潮田海荷の本体であるうみかは、この世界に転生してから閉ざされたジパングの世界を支配する為に自分の息子をユナイトのエージェント育成科に預け、様々な方法を使い暗躍した。フクアカの能力で生み出した影武者を利用し、ユナイトファング内でのし上がった。二体作り上げたフクアカの一体であるピザ屋のピーコは失敗作であった為に、雪牙の面倒を見させる存在とジパング全土を調べ上げる忍びとして使ったのである。

 それを知る雪牙は潮田の背後で鉛色の空を眺めている黒主を見た。

「……黒主はどうしても外の世界に出たいようだから私に協力するの。もうユナイトも何もかもどうでもいいみたいよ」

 瞬間、雪牙はハイパー化したトサで構えた。

「今の俺ならお前とて倒せる」

 そのすさまじい蒼い炎を見た黒主は言う。

「派手になったじゃねーか。お前はお前の人生があるし、俺は俺の人生がある。こればっかりは譲れねーな」

「……そうか。確かに人の道は交わらない。大義あるものならば尚更だ。でも俺には護るものがあるからな。潮田は生かしておくわけにはいかない」

「護るもの……か。古来の英雄である信長も家康も受け継いだ物があり、それを護らなくちゃならなかった。宝暦になる前の西暦では、初の天下統一を成し遂げたのは豊臣の秀吉よ。俺は現世で豊臣の秀吉を越えてやるぜ! 俺の道を阻むなら派手にブチ倒す!」

「規律があるからこそモラルが生まれる。家康はそれを作った! だからこの日本はユナイトが管理し、安定している!」

「島国を出れず、大海おも知らず、呪われた世界の何を是とするんだ!」

黒主の言葉に潮田は微笑み、猫神は頷いた。しかし、雪牙はユナイトファングの軍人として言わなければならない。

「今は戦国の世じゃない。戦国時代が終わり、徳川はユナイトファングになった。世界は変わっているんだぞ? ジパングの全ての人間が野心を持ち、全員が信長になったら世界は終わる」

「家康にだって野心はあるさ。あるから勢いだけの日々を乗り越え、逆境の全てを糧にして長い時間を生き抜いて天下に名が轟いている。名は変わっても徳川時代の保守、保全、隠蔽、工作、暗殺体質は百年の昔より変わりか無いぜ。この潮田海荷がいい例じゃねーか。出る杭を打つだけじゃ、本当の非常時に何も出来ない奴しか存在せず、ジパングは終わる。新世界に向けて旅立つ気概を持たなければならなねーと思うぜ。狭き箱庭を抜け、己を己の命を、もって駆け抜けられる奴だけが新しいものを、世界をつかめる。俺は、行くぜ。ジパングを無に返してもな」

 スッ……とリングチェンジを雪牙は解除した。

 その行為に猫神は驚き、潮田は目を細めた。

 ハイパー化している時と同じような殺気を放つ雪牙は目の前の三人に向けて宣言する。

「ならば決着をつけよう。ユナイトファングの総意をもってしてダイオクを潰し、お前が潮田に協力する無意味さを教えてやる。飛び立つ前に他人に頼るような奴が外の世界でやっていけるはずがないとな」

「……派手になったじゃねーか。新入り」

 雪牙の堂々とした姿に黒主は興奮した。

 金髪の髪をかきあげ、雪牙の成長を喜ぶように潮田は微笑む。

 猫神は黒主の考えに従おうと思い黒主の側に寄る。

「俺は行くぜ。このジパングを更地にしても俺は外の世界に出たい……じゃあな」

 そして、黒主は自分の心の赴くままに従う為に潮田に協力しユナイトファングを倒す事を決意し、雪牙と決別した。

 リングチェンジし、地平をエアブレードで駆けて行く黒主と猫神の背中をただ見つめていた。



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