ジャスティスタワー攻略戦6
「雪牙とは離れたか……野郎、どこへ消えた?」
氷つく周囲の空間を見据えながら黒主は雪牙と潮田を探す。
冷気が漂う空間には二機の存在は確認出来ない。
氷麗深紅祭でオーラのほぼ全てを使い果たし、肩で息をしながら充血する両目を左右に血走らせる。今は夜天光を機体として保つのも精一杯の状況にある。その最悪の状況を乗り切ろうと黒刀を両手で微かに揺らしながら進む。
「限界か黒主。刀が震えてるぞ?」
「!?」
突如、頭上からの声と共に背中を斬られた。
潮田のトサ・セブンソードは健在で酷いダメージは受けていない。
自爆の瞬間に、藤原のトサの自爆装置を隠し腕で外して投げていたらしい。
不快感を感じると同時に背中の黒い装甲に火花が散り左腕の装甲が落ちる。
額の海蛇の剣がうねうねと高速で動き心臓目掛けて迫った。
それを必死に黒刀で弾き先の見えた応戦をする。
その心中を察するように潮田は言う。
「もうわかっているはずだ。お前のNリングは長続きしない。それは強い力を生むが安定の無い一時の力。信長の人生そのものの力だ。私のいた世界では二百年以上続いた徳川の歴史からすればそんなものに価値は無い。世界は違えども、過去の歴史は全てを証明してるんだよ」
「だっ、黙れ! 異世界の過去の歴史なんて知るか! 俺達はこの狭いジパングでの世界しか……この島国の世界しか知らねーーんだよっ!」
「Nリングの使用者は の地恒庵。紅水泉の炎姫しか存在しない。お前も我欲に歪んで生み出されたまがい物だ」
「ハッ、その言葉そっくりそのまま返すぜバーさんよ?」
まともに力が入らない右手で黒刀を振り抜いて海蛇剣を弾き、口元を笑わせる。
しかし、笑っているのは潮田も同様だった。
「いいぞ、いいぞ! その欲の力はどこから生まれる!? 貴様は何を望んでそのNリングを覚醒させた!?」
「俺はこの狭い世界を飛び出して、海の外を見たいんだよーーーーーっ!」
「いい答えだ。私と協力すればその望み叶えてやろう」
潮田は黒刀の振り抜きの硬直を狙い、二刀流を×字に振り抜いていた。
胸元を刻まれ天井の壁を突き破る夜天光は黒い粒子を散らし消滅して行く。
絶望に顔を歪める間も無く黒主は宙を舞う。
天井からのコンクリート片を刀で弾くと、潮田は黒主の姿を見失った。
冷気に包まれる空間に変化が起こる。
「周囲の氷が溶けてきたな……黒主を回収して会桑も早く覚醒させねばな」
スッと左掌を上げ上層階にアサルトアンカーを射出しようとすると、一機のリングナイツが颯爽と姿を現す。そこには、雪牙の乗る蒼色のユナイトのトサがいた。
雪牙は一度、トサ・ヘビィアームズを放置したポイントまで戻り、動く機能だけはある内部のトサを回収し乗り換えていた。
まともに戦っても勝てる相手では無い以上、雪牙は切り札を使う。
トサにハイパー化の蒼い炎が灯ると潮田はフーセンガムを膨らませ足を走らせる。
人である事を止め、野生を解き放ったように蒼と白の鉄の戦士が激突した。
雪牙は外異特務部隊の隊長である事を止め、一個人として戦っているように見えるがそうでは無い。これも潮田の計画通りなのかはわからないが、ユナイトに対しての、潮田に対しての忠誠心がまるで誰かに洗脳されたかのように雪牙の野生を完全に解き放つ事をさせない。これは雪牙自身が軍人ではなく、一人の人間として人生の主題――つまり大義を持ち成長する上で大きな戦いとなった。蒼い炎と白い七星剣が躍動する。
「いい加減落ちろ潮田海荷っ!」
「その異人の証しである蒼炎はそんなもんじゃないだろう! リングが心臓に埋まりし輪が息子よ! 欲望の潮を吹けぇ!」
一瞬の判断のミスが命取りになる七本の剣の応酬に両手に二本のヒートソードで攻めるように切り結ぶ。左の一本は自爆した藤原の剣だった。雪牙のトサの一撃、一撃で少しずつ潮田の武装にもヒビが入り出す。
「ユナイトはジパングを束ねる組織。故にユナイトは間違った事を世界に宣誓しない」
「ユナイトの言葉に惑わされるな。言ったはずだ。常に物事の一部ではなく大局を見据えろとな」
「反逆者の言う事など……リーダー無くとも――!」
「そう、黒主の夜天光は紅天京。本来ならばそうなるはずだったが、無理に心を殺し続けたまま正気を保った故に夜天京という闇属性を持った。生半可な奴なら闇に呑まれ精神崩壊している所だ。欲の強さで乗り越えたな」
「くっ! 欲に溺れただけだろう?」
「食欲、性欲、睡眠欲。人間は欲で動いている。それが当たり前なんだ」
「黙れ! 黙れ! 黙れえっ!」
「いい加減、理解しろ。お前が知るNリングも持つ者は私欲で動く人間だらけだ。Iリングとて、選抜されたエリートだけにしか使えないというのはユナイトの建前。リングとはいつの間にか選ばれし者の手元にあり才能を開花させる。まるでこの世界、地球が課した運命かのようにな」
歯軋りする雪牙はNリングを持つリングナイツ達の行動理念を思う。
各々に大義はあるがどれも私欲にまみれ歪んでいる。
それは自分と相容れる大義では無いはずなのに何故かそれを肯定しようとする自分がいた。それを胸の中で握り潰せないまま機体を感情のままに動かす。身体が欲の言いなりになる為、口を動かし相手を否定して自身の正しさを証明しようとする。
「その大義の先に何がある? 破壊は破壊しか呼ばないはずだ。望む世界は何だ潮田っ!」
「望むものは平成なる世界。平和で人が未来を成せる、大志を抱ける世界。子供が戦争にとりつかれていては、ジパングに未来は無くなる」
「それでもお前は軍人しか出来ない女。平成なる世界には必要無い存在だろう!?」
「そうだ。私は闇の住人として闇に沈む運命にある。私利私欲でリングを使用しない世界が来るならば私は腹を切り武人として生を終える」
「――! そんな戯言だれが信じるか! 世界はいずれユナイト最強になる俺が変える!」
「機械に使われる貴様では無理だな」
凍る地面を左右六本の剣ですくい上げ、氷と石つぶてを浴びせる。意表を突かれた雪牙はそんな攻撃など機体から出る蒼炎で消えるとわかりつつもその後の攻撃が読めずにトサをジャンプさせ回避する。頭の海蛇剣に注意を向けていたが特に次の攻撃も無くトサは着地する。
「――うっ?」
ズシンッ! と溶け出す氷の水溜りに滑り転んでしまった。その光景を嘲笑うかのように見下す白い阿修羅は言う。
「黒主が倒れた今、貴様ではこの私に勝てん! 先程のように欲望をむき出しにして来れば別だがな!」
額から蛇腹のように動く鋼の剣が雪牙の左腕を貫く。火花を散らす左腕は爆発寸前になりすぐさま装甲だけをパージし爆発を間逃れる。間断無く迫るトサ・セブンソードの迫力に圧倒され、雪牙は攻勢に出る事が出来ない。両者の煌めく刃が幾度と無く激突し、機体の頭部を斬られカブトを失う。
「どうした会桑! 人を乗り越えてみせろ! それでも家康の子かーーっ!」
「黙れっ!」
右の甲のアサルトアンカーを穴の空いた天井に射出し上の階の主柱に突き刺す。そのアンカーのワイヤーを戻し、一気に上層階に登る。フン、と口元を笑わせる潮田は左の甲のアサルトアンカーを射出し雪牙を追撃する。エアブレードで走行する振動音が空間に響き、薄暗い地下を切り裂くように走る。背後に迫る悪魔を気にしつつ、雪牙は来た道を光を求める亡者のように戻って行く。
(あの蒼い炎が家康の試練の炎なのか……? だが、あの蒼い炎は確実に俺の身体を変化させ……)
冷や汗がとめども無く流れ、身体の芯を冷たくする。
雪牙は紅水泉の炎姫と戦った時に発現した蒼い炎をこれ以上使うのを躊躇っていた。
ハイパー化と同時に発現するその力は爆発的な力を生み出すが、代償として自身の体調にも悪影響をもたらす諸刃の剣だった。
「早いな……」
とうとうジャスティスタワーに押し潰された時に乗り捨てたトサ・ヘビィアームズのある場所まで到達した。しかし、背後のトサ・セブンソードに追い付かれる。ふと、雪牙は黒い影が通り過ぎるのを見た。
「地上に逃げても仕方あるまい? ユナイトからの増援など見込めんぞ!」
「増援などいらん。お前は必ず俺達が倒す――」
瞬間、一気に薄闇の空間に青白い磁場が発生しトサ・セブンソードが激しい発光と共に焼かれる。絶叫を上げる潮田はプラズマリーダーの直撃を浴び、トサ・セブンソードの動きも止まる。雪牙は背後の鉄屑になるトサ・ヘビィアームズからRランチャーを取り出すが完全に引き金部分が消失していて使い物にならない。
「くそっ……他の武器は……!?」
完全に停止させるはずの電撃にも関わらず、潮田のトサは動きを止めない。
次第に電撃そのものの効果時間が無くなって来る。
(タワーに押し潰された衝撃でプラズマリーダーの一つが破損してたか? チィ――)
残骸となるトサ・ヘビィアームズからガトリングガンを取りだし構えた。ガガガガガッ! という轟音が弾け、弾が射出される――が、それは数発放たれたのみで稼働を止めた。笑う潮田は身体に走る電気すら自分の栄養とするように笑う。
「ハハハッ! ぬるい電撃だあっ!」
「果たしてそうかな?」
シャキン! と黒い影が走りトサ・セブンソードの増設された腕が切断され、切断面が紅く氷つく。シュウウゥゥゥ……と紅い冷気が全ての生命の活動を停止させるように空間に広がって行く。一角獣のように角が生える黒く精悍な顔つきに、夜を纏うかのような漆黒の黒いマントを翻す悪魔の姿をした天使――夜天光。
「待たせたな雪牙。可愛いネーちゃんいたからナンパしてたわ。終わったらデートあるから、早くケリつけんぞ」
「……言ってろ」
笑う雪牙は壊れたガトリングガンを捨て、ダガーを抜く。
黒主は背中のマントの中に隠れる黒刀を抜き、冷たい冷気が刀身に白い靄をかける。
(……回復してるのか? 氷と闇の属性を完全に使えるようになったか……だが会桑も成長しなければこの戦いの意味は無い)
カブトの中で嗤う潮田は補助腕の無いトサ・セブンソードを躍動させる。
瞬間、バチンッ! と腰から予備の隠し腕が飛び出し背中の二刀と本体の腕の二本を構えた。
二人は潮田にこれ以上の手は無いと確信し、最終決戦を意識する。
潮田は二人の闘気を機体の肌越しに感じ武者ぶるいをした。
更にそれを感じたいのか、二人を煽るように言う。
「思想や宗教は嘘を飾り立てた虚構でしかない。大義とてそれと同じ。そんな大義無きたかだがリングナイツ風情に何が出来る? ……果たして、貴様等はどういう未来を辿るのか楽しみにしてるよ」
その言葉を噛み締め、両者は動く――。
水を得た魚のように雪牙のトサと黒主の夜天光は攻勢に出て潮田を翻弄して行く。
額の海蛇の剣も足の裏に隠したダガーも夜天光の濃い闇を纏うマントには何物も貫ける事は無い。隠し腕の二刀は雪牙が神がかり的なダブルダガーの捌きで潮田のお株を奪う。互いの命を絞り尽くすような激戦も終幕の刻が来た――。
海蛇の剣で夜天光の身動きを封じ、隠し腕の二刀で仕掛ける。させるか! という気迫で雪牙は武器の無いトサでタックルをかける。足の裏のダガーを出すトサ・セブンソードからその隠しダガーが射出された。ザクリ……と首の下に突き刺さり雪牙のトサは動きを止める。
「マントが開けなければただの人形だな!」
ブラックマンテルが海蛇の剣により展開出来ない夜天光はただ身動きが取れぬまま顔面に迫る二本の刃を見据えた。刃を見据える黒主の瞳が冷たく輝き、雪牙は叫ぶ。同時に全ての刻が氷ついたように止まる。白い冷気が空間を包み、異様な寒さが雪牙の吐息を白くする。
「海蛇を伝わる冷気で凍らせたか黒主……氷麗真紅祭と言ったか? 今度は完璧じゃないか。素晴らしい」
氷ついたのは刻ではなくトサ・セブンソードそのものだった。
その黒主の視線はトサ・ヘビィアームズを装備する雪牙を見ていた。
(あいつ、まさか……先に奴を逮捕しねーと!)
機体に巻かれる海蛇の剣を破壊し、黒刀を煌めかせ斬りかかろうとするが、雪牙は自爆装置が生き残るトサ・ヘビィアームズを自爆させて潮田を始末し、この戦いの全てを抹消しようとしていた。
本来なら逮捕して軍法裁判にかけなければならないが、私情に駆られる雪牙は心臓にある一つのリングに急かされるように自爆コードを入れスイッチを押そうとする。間に合わんか……という黒主は目を見開き叫んだ。
「待て雪牙! 猫神が居る!」
「何だと?」
邪魔な鉄屑を排除つつ振り返ると、何故か肩に猫がいない白衣の女がこちらを見つめていた。瀕死の黒主を助け、死の淵から闇の力を引き出す新しい夜天光を観察する為に戦況を見つめていた。猫神を見た事で安堵し、精神も体力も尽きた黒主はリングナイツを解除して瓦礫の上で息をついた。その猫神を凝視した潮田は呟く。
「……お前は黒主を愛してるようだな。同じ世界から来た人間をいつまでも誤魔化せると思うなよ。お前も近い内に全てを決断する事になるから覚悟しておけ」
無言の猫神は答えない。そして潮田はやけに晴れ晴れした顔で微笑む。
「この二人も成長している。全てはこれからだな」
そうこうしている間に、トサ・セブンソードの前で銃を片手に自分を見つめる潮田に言う。
「元ユナイトファングセントラル支部副支部長・潮田海荷。ユナイトファングへの数多の反逆行為とジャスティスタワー倒壊の首謀者として連行する。お前の組織、ダイオクについても尋問するから覚悟しておけ」
「何ならここで答えてやるぞ? 時間はあるようで無いものだ」
「黙れ。撃つぞ」
連行される気が感じられない潮田を撃とうと銃の引き金に指をかける。
「会桑、黒主と共に私の元に来い。私の子宮にいれば、ハーレムだろうが力だろうがこの世の全てがてに入るぞ」
「俺は女には興味は無い。あるのは軍人として目の前の任務をこなす事だけだ」
「意気込みはいいが、綺麗事は止め野心を出せ。野心の先にしか自由は無いんだぞ?」
その冷たい瞳は黒主の内面を見据えるようにじっ……と見据えていた。
その動揺する黒主を見て納得した潮田は言う。
「貴様等にやられず共、自分の始末は自分でつけるさ――藤原、お前の真似をするとはな」
そう潮田が呟いた刹那――急速に半壊するトサ・セブンソードから閃光のような光が発した。
「猫神っ!」
叫ぶ黒主は爆発に巻き込まれる猫神に向けて飛んだ。
猫神は左手のNリングをかざし、金色の金神閃を生み出した。
それを見た雪牙の心に蒼い炎が灯る。
自爆した爆発音が空間を満たし、音を無くさせる。
一瞬、蒼い炎が煌めき金色の光が周囲を満たし――消えた。




