一幕~ダイオク~
ブチ破るはずの要塞砦の扉はダイオクの襲撃からか破壊されていてスムーズに侵入出来た。
内部は意外に静かで、本当に寝てるんじゃないかと思うぐらいの静けさを保っていた。
雪牙が現在展開している家康のIリングである兵装〈トサ〉のリングシステムのレーダー機能は脳に直接信号として送られて来る。しかしジパング全体を覆うミストジャマーが全ての計器を狂わせる為に近場で無いと機能しない。
「……」
エアブレードでの移動を止めて足音を消しながら薄暗い砦の中を歩いて行く。夜の風の冷たさが流れ込む内部は微かに血の匂いが立ち込めていた。開け放たれた古びた扉の奥の室内に、外の三日月の明かりを浴びる紺色のコートを着た一人の金髪の男がいた。
「あーん? まだ居やがったか。今日はいい拾い物したから機嫌がいいからケツ揉んでから消えてもらうぜ」
「……」
無言の雪牙は金髪の男が砦のボスだと認識しエアブレードを起動させ排除にかかる。
同時に金髪の男もエアブレードを起動させた。このエアブレードはユナイトファングの軍用歩行兵器の為に一般人の使用は禁止されている。金髪の男は言う。
「そいつをどこで奪いやがったんだ?」
「……」
「だんまりか。いいぜ……派手に散れよ!」
エアブレードは最大パワーだと五メートルぐらいのジャンプ力があり、五十メートルは三秒で駆け抜ける。敵の男も何故か家康のリングであるIリングを使い虎柄のトサカがついたトサを展開させ装備した。男は叫ぶ。
「ドラドラドラーーーッ!」
「はああああああああっ!」
男はソードを振り回し、雪牙に蹴りを入れると錆びた鉄看板の背後に身を隠した。と同時に雪牙の足元に転がる小型の爆弾が爆発する。
「チッ! こいつリングを使いなれてやがる」
ギリギリの所で回避した雪牙は、エアブレードの最大出力で錆びた鉄看板にソードを突っ込ませた。それを見た男は勢いよくその場所を飛び出す。突如、男の隠れる看板は爆発し冷たい地面の上を転がる。男は床に転がっているバズーカを雪牙に向けた――が。
「うそーん!」
ズゴウンッ! とバズーカごと爆発した。爆発の余波で転がりながらも雪牙は、自分を再度狙うバズーカをシールドを投げつけ破壊していた。しかし男は焦げる右腕など気にせず、シールドからソードを取りだし仕掛けた。
雪牙と男のソードは互角の剣椀と切り返しで、二人はソードを落とす。
ソードを拾おうとする雪牙に男の太腿のサイドのナイフパックが開き、雪牙の右手の甲に刺さる。
しかし、鬼神のごとき顔になった雪牙は左手で男の虎柄のトサのトサカをへし折り攻撃しようとするが、サマーソルトを繰り出すように片足を上げて身体を一回転され蹴られてトサカを落とす。間髪入れずに雪牙も太腿のナイフパックからナイフを持ち構えた――刹那。
『――』
不気味な死霊が辺りに飛散するような悪寒を覚えた二人は一瞬動きが止まるが、ザッ! と馬乗りになる男の左手のナイフが雪牙のトサの首筋にズブリ……と食い込み、無意識のまま雪牙の右手に持つナイフが男の心臓を捉え――。
「コラーーーーッ! 仲間同士で何やってんの!?」
『――!?』
突如現れた中肉中背の桃色の髪の少女は叫んだ。そのサイドポニーと巨乳を揺らす少女の叫びで殺し合いをしていた二人の男は止まる。雪牙の目はその少女の豊かな巨乳に目が行く。そして少女は自己紹介をした。
「私はユナイトファングのリングナイツ四之宮玲子少尉よ。レーコでいいわ。そんでもって――ってリーダー逃げちゃだめー」
何故か逃げようとしているリーダーと呼ばれた男はレーコにチョコで餌付けされ逃げるのを止めた。虎柄のトサを解除した男は逆立つ金髪をかきむしりながら地面に落ちていた紺色のコートを拾い着た。
(……このデザインはユナイトの制服。形こそ裾が長く改造されてるが、この男がリングナイツのうつけ者と呼ばれた男……)
金髪でユナイトの制服の上着の裾をコートのように膝まで伸ばし改造した制服を着ている派手なリングナイツのうつけ者の男は言う。
「俺はユナイトファングのリングナイツ黒主京星大尉だ。黒主部隊のリーダーもしてる」
その黒主はチロルチョコを手の中で転がし、ポイッと口の中にほおりこむ。
イチャイチャする黒主とレーコを見ながら雪牙は思う。
(コイツ……俺の反応速度と互角? しかも本気じゃなかったみたいだな……)
ヘラヘラとレーコの尻を軽く触ってポコポコと優しく叩かれる黒主を見てそう思う。
そしてリーダーの男は、
「でもって誰だお前? リングを使うって事はユナイトファングの軍人か?」
「先ほどは失礼しました! 私は新たにリングナイツ黒主小隊に配属されました会桑雪牙伍長です。以後よろしくお願いします!」
「お前が不死身の会桑か。おう! 俺も勘違いしてたから悪かった。よろしくな!」
出された手に一礼してレーコにも頭を下げる。
やけに硬い男が来たなと黒主は雪牙を見つめる。
するとレーコは腰のポーチからチロルチョコのきなこ餅味を数個取り出し、
「チョコあげる」
「太って猫神に怒られんぞ。最近、餅みてーな腹になってきてんだかんな」
鋭い黒主のツッコミに顔を青ざめるレーコは、
「ひえー怖い! でもチョコはやめられない! よね?」
「あっ、あぁ……」
リアクションに困る雪牙は話の流れで答える。
黒主は左手にぬめりを感じて手を見る。
(……何だこりゃ? 青いオイルなんて珍しいな)
左手に付着している青い液体を制服で拭き取る。
そして黒主はレーコの胸元を見据え、
「レーコ、胸元の傷はちゃんと手当てしとけよ。胸の傷はあんまよくねーかんな」
「あ! ほんとだ! 敵との戦闘でアドレナリンバリバリ出てて気付かなかった」
「いっぱい、おっぱい、でかぱいぱい♪」
「もー変な歌、歌わないで~」
フッと口元を笑わせる雪牙は、
「傷口を見ようか」
胸元の制服が切れて血が出ていた事で雪牙は自然に胸を調べる為、制服の前を開けさせる。水色の淡い色のブラジャーの下に隠れる豊かな乳を雪牙は目に焼き付けつつ、右手の人差し指で横乳に触れて傷口を見る。
(たるんでるがいい乳だな……おそらくFだな。フライで揚げたいFカップか)
相手に公然と下心無くおっぱいを見ているのを正当化するには、いかにマジメにおっぱいを見るかが大事である。顔を硬くして真剣に眺めていれば相手は案外黙っている。この一連の流れが雪牙が子供を卒業し、大人になるにつれて女性のおっぱいを堂々とチェック出来なくなる事を恐れた雪牙の編み出したパイチェックだった。雪牙の左の人差し指は一タッチで相手の乳の弾力、大きさを当てる神の秤ともいえる代物であった。
「傷口は右胸の下一センチほどだが、早めに止血をした方がいい」
「ありがと」
雪牙は素早く腰のポーチからマキロンを吹きかけ殺菌してから絆創膏を取り出し手当てをした。レーコは無駄にニコニコしながら雪牙と仲良くなろうと肌に密着する。
この行為はジパングの女にとって普通の行為であった。
このジパングには敵のダイオクも含めて女が九割の人口を占め、男を見かけるのは戦闘区域であるダイオクのいるシュマリナイ湖から上では見かける事は絶無である。
基本的に男はメカニックを中心とした裏方業務に従事していて黒主のようにリングナイツを志願する者は少ない。ユナイトファングの管轄下にいれば男に餓えた女共にチヤホヤされ誰でもハーレムを満喫できるのである。複数の女との交際も問題にはならない世界の為に、普通の男は戦闘などに参加するのは有り得ない。その有り得ない方の一人である黒主は言う。
「この戦闘区域の女はユナイトの管轄の地域と違って男が珍しいから本能のままに迫ってくるから気をつけろよ。男が存在しないダイオクの女なんざ、男の身体目的で襲って来る奴もいるからな」
「そんなのはエージェント時代にもいましたよ」
雪牙に寄り添いながらレーコはチロルチョコをあーんと口を開けさせ食べさせる。
ここの要塞砦にいたダイオクの女達はすでにこの精鋭の二人で始末した為に、この砦には誰もいなかった。黒主とレーコのこの二人はユナイトファングのリング部隊の中でも勝手気ままでジパングの広範囲をウロウロとしながらダイオクと交戦を繰り返している為に死傷者が多く、最近また死者が出たので雪牙が配属になったのである。
(あの時崖の下から見えたチカチカという点滅はコイツ等が動いていた明かりか。どうやら潮田教官も面倒な奴等の部隊に配属したもんだ)
ユナイトファングの工作員であるエージェント時代からの恩師である鬼女教官である潮田海荷副支部長を思い浮かべ口元を笑わせた。
ユナイトファングメインタワー。
ジパングの中央であるチトセに位置する灰色の重い鉛の空のような色の基地にいる女は副支部長室のモニターで今までの戦闘を眺め微笑む。腰まである黒髪のスレンダーな美女はこのジパングを支配するような鋭利な瞳を笑わせマルカワガムのオレンジを噛み、プクーッと膨らませた。
そして、戦場にいた三人の黒主小隊はユナイトファング・セントラル支部に帰還しようとしていた。
黒主は二人に指示を出す。
「さーて、新人も来たし帰えるとすっか」
リングナイツの三人はセントラル支部に向かった。
しかし、一つの爆発が上がり三人は振り向く。
『……』
今いる要塞砦の管轄する街であるアサヒカワの市街地が燃えている。
左手の中指にあるIリングにオーラを込める黒主は部下に命令する。
「リングナイツ出撃だ!」
『了解!』
雪牙もすぐさまリングチェンジし、紺色のトサで駆けた。