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ジャスティスタワー攻略戦4

 そして黒主は呟く。

「好きだった女と戦うのも悪くないな」

「リーダーは潮田に恋をしてたから彼女がいなかったのか」

「お前こそ彼女いねーだろうが。レーコはフリーだぜ?」

「余裕そうだな二人共!」

 ひたすらに金属音のみが空間に響き渡る。

 二対一のユナイトの優勢に進むはずの戦いも七本の剣を巧みに操る潮田の力量は数的優位などものともせず、圧倒的な絶望を雪牙せつがと黒主に与えて来る。まだ戦闘開始から一分にも満たないが、すでに十分以上戦っているような感覚に陥っている。

 間合いが取れる黒主の持つライフルは額の海蛇に弾かれ遠距離での優位は無い。近距離でも六本の腕が全ての斬撃を防ぎ、死角から海蛇が獲物を串刺しにしようと迫って来て用に間合いの中でも戦えない。ここが橋頭堡きょうとうほである以上、軍人として戦う事を止めるわけにはいかない雪牙は叫ぶ。

「潮田っ! 何故貴様は今になって造反する? ダイオクの掲げる正義に一体、何があるんだ? ユナイトとの支配もダイオクの支配も悪政でない限り結局は同じ事だろう?」

会桑かいそう。お前の言葉は綺麗なだけで心に響かない。それがお前の良さであり悪さだ」

「何っ!?」

「お前の言う通り今やっている事は今までの時代にそぐわない悪であろう。しかしその行為の全ては新しい時代の秩序ある正義である。世界に真の正義というものを教えてやる」

「教えて見せろ教官殿!」

 ババババッ! とライフルを乱射しながら黒主は叫ぶと同時にソードで斬り込む。自分の間近に攻撃をされた為、雪牙は機体を離れさせもう一度仕掛ける。この戦いの最中何度か見た光景に笑いつつ潮田は教官として告げる。

「お前達は二人で戦ってなどいない。一人で戦っている。だから全部隊をタワーに潰されるんだ。……潮を吹けぇ!」

 シュバババババッ! と空間に隙間無き斬撃を展開し二機を弾き飛ばす。機体を制御し体制を立て直す二人は目の前の白い阿修羅を見据える。これは演習ではないが演習をしていた一月前を思い出す。

 この二人は他の誰よりも連携が取れない二人で潮田からよく注意されていた。その時は黒主が恐ろしいほど傲慢な行動を取り、雪牙が合わせようとするが全く噛み合わないという今とは逆の関係だったが――。

「ダイオクはユナイトがリングを独占的に保有するのが気に入らないなら、ワッカナイでじっとしてればいいんだ。それを今更戦争などと……」

「そこまで私はユナイトを怨んではいないさ。強くなれば世界を統治できる。強ければ髪の色が人と違おうが、血の色が違うが全ては関係ないのだ。自分が便利な存在になったのもリングのおかげだ。この異世界には感謝している」

『……異世界?』

 雪牙と黒主は同時に呟き動きが止まる。

 潮田は過去の雪牙と共に大奥の女達に崖から落とされ、偶然異世界に転生した事を思いながら話す。

 潮田が言うには自分はこの異世界に自分の子供と共に来た女らしい。

 生まれた世界は日本の戦国時代という血で血を洗う時代で、その武将の一人であるこの世界のリングシステムを発見しユナイトファングを設立し死んだ家康と同姓同名の、徳川家康の妾になり子を産んだ。しかし、潮田は異国から宗教を教える宣教師の家庭で日本にいた。

 元の世界の家康に見初められた為に、元の金髪を染めて日本人という装いでいたが子供の髪の色から異人という事がバレた為に大奥の連中から崖に突き落とされ、海に呑まれこの世界に転生したという。そして皮肉にもこの世界の家康が死んだ宝暦五年にジパングに転生し、基礎が生まれていたユナイトファング内で頭角を現し現在に至る。

『……』

 黒主はその言葉を聴いて雪牙を横目で見据え、雪牙は瞳孔が開きただ心臓だけが動いている状態にあった。さっきまでの激闘よりもダメージが大きい話に二人は完全に勢いを殺がれてしまっていた。冷たい空気が流れて行き、潮田の過去の話は終わりを迎える。

「……ユナイトは私と息子を育てた組織だ。しかし、このジパングは私が母として存在し、私の子宮の中で人々は生きなければならない。それが平和と維持の礎になるのだ」

「このユナイトに恨みなくして戦争を仕掛けるのか……? お前は自分の我欲の為だけに今まで俺を騙していたのかーーーーーっ!」

 怒る雪牙はハイパーモードの蒼い炎を今だ使わず攻勢に出た。

 今のトサは他人の機体の為、先の潮の三人衆を倒した反動でハイパーモードに不調が出ていた。それ故、使った場合機体が壊れる危険性がある。

 それに続くように黒主も勢いを取り戻せないまま攻めた。

 対応する潮田はその髪の青い少年に向けて刺激のある一言を言う。

「リングは利用する価値があるから利用する。それは人間が使える必要最低限をだ。いい加減理解しろ、雪牙」

 下の名前で呼ばれ、雪牙はこの女の全てに圧倒される。

 この女が子供と共にこの世界に転生してきた人物は、すでに誰だかわかっていた。

「! 理屈を……」

「人類が生み出した、水力、火力、風力の補助材料としてリングを使えば人の未来の全ては丸く治まる。何かが過剰なのは常にどこかに弊害をもたらす。貴様や黒主がいい例だ」

 ソードで斬りかかる黒主は叫んだ。

「どういう事だ? 答えろっ!」

「潮を吹き、我が身を知れーーー!」

 ズゴンッ! と前がかりになる虎柄のトサが弾け飛ぶ。

 それを華麗に回避する雪牙は問う。

「どういう意味だ? 我が身を知れとはどういう意味だ!?」

「言葉の通りだ。ダイオクはリングの有効利用を目的とし、私欲に溺れるセントラルを消し去りジパングを手に入れる」

「このジパングの平和の象徴であるジャスティスタワー崩壊を足がかりにしてセントラルを潰し、ジパング全土の人民の人心を奪いその力を利用しダイオクをジパングの新たな主にするのか。お前の子宮から出られない閉じ込められた世界なんてまっぴらだ」

 その雪牙の言葉に潮田は意外な言葉で返す。

「リングは人に力を与えない。人の力を奪い去る物だ」

 潮田が見たユナイトの地下に眠る過去の文献によると、リングの出現により海やジパングの各地に電波障害が発生し通信機などが使用不可となる白い霧・ミストジャマーが溢れ出た。そのおかげで発達しすぎていた過去世界の通信網は破壊され、地下に専用のケーブルを繋ぎ全ての都市はそこから通信をせざるを得なくなっていた。

 携帯電話は全く使えないツールでは無いが、ユナイトが携帯会社を買収し通信規制なども行っている為、過去ほど携帯の使用はされてはいない。リングでは携帯は機能せず、必ずしもリングが人類に対して無償のエネルギーを与えた訳ではなかった。しかしリングは軍事や民間でも有効活用され人員削減や環境破壊対策などに役立っている。

 黒主は廃棄熱を利用したトサの熱く煌くヒートソードを突き出し、

「二十年以上前にリングが発見されてからその世界分断の出来事を除けばそう大きな事故はジパングでは報告されていねぇ。リングがどう人の力を奪う?」

「楽は堕落」

 まるで自分で考えろと言わんばかりの答えに雪牙と黒主はまた過去を思い出す。

 潮田は基本的な事は全てスパルタで叩き込んできたが、何かを選択しなければいけない時には自分の意思で選択させた。それは軍人である二人には対象を生かすか殺すかという選択でしかなかったが――。

(……潮田海荷。この女は強すぎる。あれだけの戦いを戦い抜いてきた俺と黒主をこうも赤子扱いするとは……本当に俺はこの女の……)

 青い血を拭う雪牙は量産機であるトサの強化型でしかないトサ・セブンソードに勝てない自分にイラつく。

「どうした? かかってこないのか? 今の力では私には勝てないと悟ったか? まぁいいさ。新たな子供を増やし管理するには戦闘有料種のみの遺伝子が必要。次の世代のダイオクの戦闘員になる子供達はお前達の精子を使う事にしよう」

「テメェ! まさかこのジパングに男が生まれなくなった理由はお前が子供を管理してたからか? 答えろ潮田ぁ!」

 ガキインッ! とアサルトアンカーを射出し潮田の左手の一つを絡めた黒主はとうとうハイパー化して巨大な剣で斬りかかる。しかし、残る六本の剣がそれを防いだ。

「男は一割いればいい。男の欲望なら一割でも他の九割は十分潤うから。それを私は元の世界の家康から学んだよ」

 じっ……と悪魔の女の冷たい瞳が黒主の全てを硬直させ――。

「――がっ……はっ!」

 一瞬の間に、虎柄のトサの装甲の全てを破裂させ黒主は宙に待った。

 地面に身体が落ちると、潮田はその指にあるあいリングを手に取った。

 それを見た雪牙は思わず叫ぶ。

「潮田っ! やめ――」

 グチャ……と潮田は右手で黒主のIリングを破壊する。

 粉々になる金属の粉が周囲に四散した。

あいリングは壊した。これで黒主は何も出来ない」

 トサ・セブンソードは獰猛な七本の剣を小刻みに動かし雪牙に接近する。

 後ずさる雪牙はもう行動する事すら考える余裕が無かった。

 圧倒的な白い阿修羅である大きな、大きな存在である潮田海荷に――自分の母親であるこの女に勝てるはずも無い。

(無理だ……俺には勝てない。俺にはこの女には――)

「俺の仲間に……手を出すんじゃねぇよババア!」

「……!」

 振り返る潮田は半死半生の黒主を見た。

 頭の海蛇剣を動かす潮田はそのまま心臓を貫こうと動く。

 笑う黒主は右手にある銀色のリングを見ていた。

「……まだ完全じゃねーが試すしかねーな。このえぬリングをよ」

 黒主はNと刻まれる信長のリングをはめてオーラを流し込む。

 それに焦る潮田は、

「Nリング? 一体どこで手に入れた――くっ!」

 瞬間、膨大なオーラが弾け空間に悪鬼のような冷気が走った――。

 空間を包み込む白い煙の中から、カブトのトサカだけではなく、全身にトゲを展開している茨の装甲の新たな黒が目立つ虎柄の甲冑を身に纏う黒虎が姿を現した。

 黒を基調にするカラーに似合わず、清閑な顔に凛々しい両眼。背中には一本の黒刀が鎮座し、両肩にはミストジャマーを取り込み機体の力を増幅させる紅いパワーアンプがある。胸部は虎の口のような牙が剥き出しのフォルムで、腰には氷を射出する専用の氷結銃があった。漆塗りのような黒い足元からゆっくりとフェイスクローズされる視線を上げ、その圧倒的な姿にその場の二人は呆然とした。

 そして、黒主京星は新たなリングナイツ・夜天光やてんこうをフェイスオープンをし微笑んだ。


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