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作戦開始

 川の流れのような緑の美しいエネルギーの本流がセントラル支部の方向に向けて行く。

 その時刻、ユナイトの支部長室にて山崎支部長は参謀の水野と共に茶を飲みながら囲碁をしていた。

 ジャスティスタワーへの部隊配置が終わり、後は作戦の結果を待つだけの作戦本部ではもう相手が攻めてこない限りやる事も無い為、囲碁をしている。囲碁は戦略の基本と常々言っているが、そう思ってるのは当人だけであろう。敵は籠城という策をとっている為に攻め込まれ無い事を理由にだれきっているこの状況が今のユナイトファングを象徴しているとも言える。

 一発目のキャノンが外れた事によりオペレーター達もインカムを外し、モニターを眺めてはいるが隣同士の会話に夢中で戦闘中という概念すら感じない。アリーナ一つを軽く消す威力には恐怖するが、そこまで強力ならエネルギーなら一発撃てばキャノンにオーラを注ぎ込んだリングナイツ達の少女も回復までに時間がかかり、連射は出来ないだろうという考えがあった。その時間を利用して内部に侵入すれば、その後はユナイトの牙に屈するのは明白である。

 今はセントラルの譲渡という交渉でダイオク対話しキャノンの発射を遅らせている。その全員を嘲笑うかの如く二度目の警戒警報がけたたましく鳴り響き、司令室全体が騒然とする。状況を確認したオペレーターの一人が悲鳴を上げるような声で叫ぶ。

「……リングの高エネルギー反応! この基地に向けて来ます――直撃!?」

『!』

 その緑色の悪魔のエネルギーにセントラル支部の人間は死を覚悟した。

 視界一面は緑のみが支配し、他の色が何かを訴える事も無い。

 その司令室の司令である緑色の長い髪を巻いた少女が口元を笑わせる。

「落ち着いて下さい。セントラルは絶対無敵の城。ユナイトの象徴です」

 現在のセントラル総司令である冥地琴乃めいちことのは言う。琴乃は冥地功周めいちこうしゅうの孫娘で若干十五歳ながらセントラルの総司令として君臨している。その背後には副司令として同じ冥地家の実の妹である冥地樹音めいちきおんがいる。樹音は不安そうに振り返る琴乃に対し、微かにベリショートの髪を揺らし無言のまま大丈夫と呟いた。

 この二人はもしもこの期に乗じて冥地功周が出現した場合の人質にしていた。

 孫娘の命を盾にすればこの混沌とする戦況からセントラルが守られるという山崎の作戦だった。

 しかし、そのエネルギーはセントラル支部の真横を通過し一直線に空を抜けていき四散していった。

 モニターを見つめるセントラルの人間達の意識は永遠の刻をさ迷うように拡散した。





 フラノの空が泣いているように雨が強くなる――。

 静まり返るジャスティスタワーの司令室のオペレーターが言う。

「エネルギー反応消失……セントラルに直撃しているかは不明。……いえ、セントラルへの被害は認められません潮田総帥」

「いや、それでいい。これでセントラルの連中は我が身の保身に走り、あの場所から動かなくなるだろう。そして、冥地功周もな」

 嗤うようにプクーッとマルカワガムを膨らませる潮田は言った。

 そして、もう一人のオペレーターの少女の声が通る。

「キャノンの一部が損傷した模様。修理まで時間がかかるそうです。それとビッグリングキャノンのエネルギー注入組も疲弊で倒れています」

「まぁ、いいさ。休ませてやれ。キャノンが無くとも我々は負ける事は無い」

 そして、騒然とするセントラルはレーザー通信で暗号文を各支部に送り、敵が現れた場合は支部の全てをもって内々に反逆者を鎮圧せよとの命令が下った。

 まるで鎖国されたかのようなまだ寒気が強いチトセとフラノにて、ユナイトファングとダイオクの戦いが始まった。





 激流のビッグリングキャノンが放たれた震動はセントラル支部を多少揺らすほどの衝撃を与えた。

 命令を無視しジャスティスタワーに威力偵察に出かけた黒主は雪牙に命令違反をとがめられていた。

 すでに各リングナイツ達は自分の自室で仮眠を取り午前零時の出撃に備えて待機している。

 深夜十二時近い状況で全てのトサを整備しているスタッフや各地に他の反乱の芽が無いかを監視してるオペレーター達は寝る間を惜しんで作戦行動に当たり、各所で出る新しい情報はすぐに伝えられ各所の連携はかつてないほど上手く行っている。故にその状況での命令違反を止血が済み痛み止めを飲んだ雪牙は許せずにいた。

「……いやー、外はひでー雨だ。明日もこの調子じゃやってらんねーな」

「今はセントラルを譲渡するという嘘の交渉で時間稼ぎをしてる最中。敵を挑発するような事はするなと言ったはず。あのキャノンがここに直撃する可能性もあったんだぞ」

「ならとっとと出撃して鎮圧すればいいだけの話だろ? それをわざわざ猫神の言う通り戦力が整うまでの零時まで伸ばすなんてな。第一にお前が全軍に指示を出せば、一気に出撃してタワーを急襲出来ていたはずだ! その怪我もこの状況もお前の弱さが招いた結果だ!」

「……!」

「交渉は相手を待たせた時点で勝ちだが、潮田相手に交渉なんてカードが本当に通じるとでも思うのか? 奴はそんなん無視して二度もキャノンを撃った。俺達は踊らされてるだけだろうよ」

「……ならこの戦いは何だ?」

「この戦いはユナイトであるかユナイトでないかを決める人種区別の戦いだ。断罪は下される」

「……」

 言葉に詰まる雪牙を無視し、黒主は会議室を出た。じっと立ち尽くす雪牙は右肩の痛みに耐えつつ会議室の出入口を見据えている。痛み止めはまだ完全に効いていない。

「ナハハッ! 悦い顔をしてるな雪牙。例のブツとパワーアッププランは完成させておいたわよ。アレを扱いこなせたら黒主にも勝てるかもぬぇ」

 そこには白衣に一匹の猫が肩に乗る姿の猫神がいた。

 ゆっくりと薄い唇を突き出し歩みよる猫神に雪牙は多少の不快感を覚える。

「最近は黒主のフィジカルデータも調べているそうじゃないか。身長や体重もさして変わらないが、俺の方が身体能力は高いだろう?」

「ナハッ! そうね。けどそれだけじゃアナタは黒主を超えられないようね」

「その為のパワーアッププランだ。今はトサで結果を出すだけだ。零時の作戦開始まで機体の調整を続ける」

「機体の調整よりも自分の身体を調整した方がいいんじゃない? その身体はもうハイパー化したら赤い血には戻らない方向に向かっている」

「言ったはずだ。俺はトサで結果を出す。それだけだ」

「……もっと自分に素直になりなさい」

 肩の白い猫を撫でて笑う猫神の瞳を無視し会議室を出た。

 確実に起こる体調の変化と黒主に対する怒り、不安、嫉妬を感じ、それを心の中で八つ裂きにしながらリングマシーン格納庫に向かった。




 リングマシーン格納庫。

 三十三機のトサが鎮座する中、一機のトサのみは重厚な鎧に包まれ顔以外が灰色の武装に包まれている。左腕にガトリングガン、両肩に小型のバズーカ、右手にライフル、両腰にヒートダガーと手榴弾。両足の外側の左右に五連のグレネード、背中のバッグパックには三基のリーダーがあり、そのリーダーが地面に刺さるとトライアングルの中にいる存在を焼き払うプラズマリーダーになる。そして、そのトサの横に魔物のように居座るトサと同じ身長の高出力殲滅兵器Rランチャー。

「Rランチャーの調子は決して良くない。撃てても三発が限度だ。焦って先行しないでよ」

「了解」

 時刻は潮田海荷がジャスティスタワー占拠を宣言した時から丸一日が経つ午前零時になる。

 出撃時間になり、メカニックとの会話を打ち切りリングにトサ・ヘビィアームズを収容する雪牙は深呼吸をした。斬り込み隊長を勤める雪牙はトサ・ヘビィアームズの重装甲、大火力の機体を操り、立て籠りをする潮田海荷のいるジャスティスタワーの正面に鎮座するリングランチャーを破壊し、錐の如くタワー内部に進行しなくてはならない。

 以前から重装甲型は試していたが、一般のリングナイツでは十以上に渡る多すぎる火器管制を扱う事が出来ず、対重力特性が有り思考を機体と一体化出来るとまで言われる雪牙の専用機でもある。しかし、鎮圧兵器である急造のRランチャーは携帯性を重視した為に内部のエネルギージェネレーターが不安定過ぎ、高出力に耐えきれず割れてしまう。

 未だリングという物が兵器として有能であるが、無敵に思えるリングも人類は完全に使いこなせてはいない。その結果が今の騒乱の縮図である。

 鈍重な雪牙のトサ・ヘビィアームズが出撃し、後続に肩にバズーカを二門抱えたパワード・トサが二機続く。その少し後にレーコと藤原を中心にした三十機のトサが整然と扇形の陣形を乱さずジャスティスタワーまでのジャスティスロードの一直線を行く。総勢三十三機のユナイトファングのリングナイツがジャシティスタワー正門に向けて進行した。


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