ビッグリングキャノン攻防戦
ジャスティスタワーはフラノの盛り上がった大地の上に建てられており、三十階建てのタワーは通常の建造物よりも高く見える。それは建築者の意図か支配者の欲望が反映されているのかはわからない。確実に言える事はジャスティスタワーはジパングの象徴であり、各地域の多様な人種が集まる場所で、ユナイトの正義を象徴する希望の塔でもあった。
このジパングにおいて騒乱の無い正しさを得るにはユナイトを受け入れるしかない。
そうすれば手厚い保護を受け生活の保証が約束されるが、昨今のユナイトとダイオクのを中心に書き変わる世界ではいずれ軍事に駆り出され死に耐える運命にもある。土地も、人もである。
ジャスティスタワー国王室。国王室の奥には口にサルグツワをされ、逆に座らさせる椅子にロープでがんじがらめにされる国王が意気消沈している。国王席の前には潮田が悠然と立っており、他の会議室から持ち込まれた机が整然と並んでいてオペレーター達は周辺の策敵とユナイトからの動向を探っていた。
一発目の試射が外れた事により、二発目に向けて各員は動いていた。
「入口正面リングランチャー設置よし。感度良好。豪雨により視界不良ですが周囲に敵影無し」
マルカワガムのオレンジを噛む潮田は頷き言う。
「よし、海藤と奥村のトサ二機を残し、後は内部と地下二階からの警戒に当たれ。海藤と奥村は敵が接近し次第撤退しろ。リングランチャーは威力は高いが連射には向かないからな」
『了解』
各員は反応をし、それぞれの持ち場につく。
そして、ジャスティスタワーから発せられる緊張感はジパング全体に伝わって行く。
ユナイトの内乱というかつて無い出来事にジパング民は動揺し、近くの公民館などの施設に避難した。
アサヒカワ区域の長期会合も潮田が水面下で進めていた計画の一旦であり、ユナイトに住民が入隊するか否かを判断させジパング全体をユナイトとして存在させるかという話など自分達の内乱をただ話し合い、軍備増強と地下でリングナイツ達が演習をする為の時間稼ぎでしか無かった。
「……」
マルカワガムを膨らませまた口の中に戻した潮田は、全軍の重い空気をひしひしと感じる。
敵は実戦を多数経験しているセントラル支部の精鋭である以上、現在の戦力的に優位なダイオクとはいえ実戦経験無き連中の為に緊張の色を隠せない。司令室の空気が更に重くなる事を敏感に感じ取る潮田は、
「各員リラックスしろ。戦いまではまだ間がある。水を飲む、ガムを食べるなどもまだ自由だ。ユナイトファングの怠惰は諸君が一番知っているはず。心に潮を吹かせるのはもう少し後だ」
ダイオクの兵は一瞬怯むがその潮田の言葉で平静を取り戻す。
そして、全ての調整が済み潮田の号令が発せられた。
「奴等はセントラルの譲渡などというありもしない話で我々を釣っているが、時間稼ぎがしたいのは明白だ。リングナイツ十人分のエネルギー、セントラルに向けて叩き込んでやれ。エネルギー再度充電開始」
そんな言葉も知らず、タワー正面にある一本道の外れの木陰に伏せる黒主はレインコートを着ているがびしょ濡れになりながらも双眼鏡でタワー入口正面に鎮座する高出力ビーム砲・リングランチャーを見据える。
作戦前に単独行動をしているのは雪牙へのあてつけでもあるが、何かあってもこの作戦は成功させなければいけない為、敵情偵察だけはしなければならなかった。いずれ越えてやろうと思っていた潮田を乗り越え、リングナイツとしてこの世界から飛び出すという野望を叶える絶好の機会と捉えていた。
(タワーの入口前にリングランチャー……周囲には二機のトサ。奇襲を仕掛ければいけるんじゃないか? もっとものものしい警戒をしているかと思ってたから拍子抜けだぜ……? 何の音だ?)
突如、屋上の空間からリングの途方も無いオーラが発した。
それはダイオクの切り札であるビッグリングキャノン。
雨で濡れる双眼鏡で周囲を見渡し、屋上に現れた物を確認したと同時に全身に悪寒が走る。
「もう二発目を撃つのか? つー事は照準が絞れたという事……」
携帯を見る手が雨で体温を奪われつつ息を飲む黒主が呆然としていると、潮田はマルカワガムを膨らまし言う。
「では、ユナイトファングを乗っ取る戦いの狼煙を上げようじゃないか。ビッグリングキャノン発射!」
そして、二発目のビッグリングキャノンは発射された。屋上から放たれる緑のズ太い本流がセントラルに向けて流れて行く。同時に、オペレーターの声が国王室に響く。
「総帥! キャノンの射線に二機のリングナイツ反応!」
「ぬうっ?」
射線上に冥地功周の地恒庵と紅水泉の炎姫が空を飛んで現れる。二機のNリングによるリングナイツは機体の出力を全開にし構えていた。地恒庵の腰の注連縄に垂れ下がる緑符が回るように展開し、炎姫の炎を纏っている。
何故、この場所にダイオクとしてメイチがいないかというと、潮田が本性を出した事でメイチも居場所を失っていたのである。そして、寝込むユナイト支部長山崎はこの混乱の発端となる冥地へのあてつけとして冥地の孫を任命した。
その冥地はククッ……とシワの深い口元を笑わせ、
「ワシとて人の子だ。ユナイトに孫を人質にされたら守らざるを得ないな。支部長として結果が出ればそのままいられるようにせんとな」
冥地はセントラルの山崎に人質にされている孫娘の琴乃と樹音の二人を思った。
どこからか流れて来た金色の粒子が散っているのを横目で見据え、オーラを更に高める。
「やはりあの筒はセントラルの方角を狙っているな。そのエネルギーは空の藻屑となってもらう。泉!」
「あいよ!」
降り注ぐ雨を蒸発させる火山のような炎を纏う炎姫はエネルギーを両手で受け止める。瞬時に機体の腕全体にヒビが入り、泉は絶叫を上げた。停滞したエネルギーを炎の緑符で包み込み方向を被害の無い空中へとそらす。しかし、血を吐いた 冥地は一瞬力が抜け緑符のコントロールを誤る。
(何じゃ? 力が急激に落ちる? まるで何かに吸収されているようじゃ……)
「まだ終わってないわよジーさん!」
「わかっとるわ!」
雄大な大地の力を再び全開にし、炎姫と共に方角を一気に無理矢理そらす。悪鬼の形相の二人は機体の損傷も省みず、叫んだ。
『ぬおおおおおおおおおおおっ!』
ズバアアアアアアアアッ! と激烈な音を上げ緑のエネルギーはセントラルの方向へと向かう。両腕がボロボロになり、大破寸前の炎姫を空中で抱える 冥地はセントラルの方角を見つめていた。
「……終わった。後はユナイトの牙がなんとかするだろう……」
おそらく直撃は免れただろうと思いつつ、エネルギーの流れを見ながら安堵した。
すると、真後ろに魔霊の死神のような冷たい女の声が響く。
「それはどうかしら?」
「――!? すまん泉! ぐおおおおおおっ!」
炎姫を地面に向かって蹴る冥地は、突如現れた金色のリングナイツの圧倒的砲火を浴びた。空中に機体の破片を散らしながら舞い、冥地はまた激しく吐血した。口元を歪める金色のリングナイツの砲火を残る二枚の緑符で防ぎつつ霞む眼で敵を睨み据える。
ジャスティスタワー司令室にてモニターを見据える潮田の視線の先に金色の機体の姿があった。
「奴等はこれで当分まともに動けんだろう。もうすでに寿命が近く無理は出来ない。潮を吹け、悪の権化ユナイトセントラル」
空の周囲に舞う金色の粒子の群れが金のリンブナイツの全身の射出口から溢れ続け、機体内部のエネルギーはとてつもない野獣と化している。口から溢れる血を拭おうともせず、激怒する冥地功周は叫ぶ。
「金神閃……小娘ぇ! そんなにこの世界が気に入らんか! リングを支配する事で人間に幸福は得られんぞ! ゴフッ……」
金神閃と冥地に呼ばれた金色のリングナイツは全身を廻るエネルギーを胸の射出口から吐き出した。
「この空間に満ちていた二人のエネルギーの余波は全て吸収させてもらったわよ。ここまでのエネルギーを体内に宿したのは始めてかもしれない」
絶句する冥地を笑うように、長い白髪頭の金神閃の少女の生気の無い薄い唇が動く。
そして、灼熱の嵐のような緑のエネルギーがセントラル向けて走る。




