ぶつかる意思
アサヒカワ区域に隠れ潜んでいたダイオクの兵士達は潮田の占拠するジャスティスタワーへと集結しその警備を磐石なものとした。混乱が続くセントラル支部は反逆者の抹殺とジャスティスタワー奪回作戦に動き出していた。
現在時刻は18時。
かつて無い内部の反落に胆を冷やした山崎支部長は血圧が上がり倒れ、陣頭指揮は水野参謀から外異特務隊に一任された。ジパングの各支部はダイオクがどういう部隊展開をしているかわかなない為に、セントラルの応援に向かえない。
そして、時刻は19時になる――。
殺風景な会議室に紺の制服に身を包む黒主と左右に雪牙とレーコが立ち、その前にはセントラル支部のリングナイツが整然とイスに座っていた。
潮田の裏切りはジパング全体を揺るがし、特に潮田と行動を共にして来ていた古参のリングナイツ達は潮田につこうとしていた。明らかに潮田を捕らえ処分しようとする黒主に対し憤慨しながら作戦概要を聞いている。すると、潮田の過去の腹心の一人である大柄のショートカットの藤原中尉が怒気をはらんだ声で言う。
「黙って聞いてりゃ、トーシロの若造が指揮官気取りかよ。ジパングの治安を今まで守って来たのは私等、潮田副支部長を信頼するリングナイツ達だ。裏も取れてない情報で殲滅行動に出るのはおかしいぜ外異さんよ?」
その挑発的な藤原に黒主は答える。
「裏を取る必要性は無い。何故ならば潮田自身がダイオク真の総帥として演説していたからだ。故に、この一ヶ月近く外異討伐に従事して来た我々が山崎支部長の命令で指揮を取る。それだけだ」
「潮田副支部長が奴等にリングを使って洗脳されている可能性だってあるだろう? だいたいそこの青頭が来てからおかしな事だらけだ。お前が外異を引き寄せているんじゃないのか?」
ピクッと黙って黒主の横に立つ雪牙のこめかみが動く。
周囲のリングナイツ達の少女も一様に雪牙を非難し出し、三人は行き場の無い思いの怒号に応じた。
混沌とする会議室は一触即発の状態にある。
互いに潮田海荷を尊敬し、ユナイトファングが結成されてから一緒に激戦をくぐり抜けて来た少女兵と、数少ない少年兵として訓練され人生の基礎を殺人によって叩き込まれた兵。
両者の思いが強い故に互いに口論は終息の糸口が見える事が無く、一切の妥協点が見出だせず雪牙は溜め息をつき青い瞳を閉じた。隣の男の温度が冷たい蒼い炎が纏われたように変わった事に気が付いた黒主は息を呑んだ。雪牙は銃口を藤原に殺意を込めて向けているのである。
「やめろ、雪――」
「小僧っ!」
鈍く光る銃口に怒りが沸騰した藤原は腰から銃を一瞬にして取りだし引き金を引く。
二発の銃声が響きわたり室内は完全に静まりかえる。
「……この反乱を制圧し、ユナイトファングセントラル支部の磐石な体制をジパング民に示すのがこの戦いの大義である。我々は一、リングナイツとして一致団結し任務を成し遂げねばならない! ……外異特務隊に力を貸して欲しい」
その雪牙の宣誓に会議室の全員は黙る。
右肩は投薬によって一時的に赤くなる血に染まり顔に多少の血が付着している。雪牙の放った弾丸はまるで藤原を狙ったわけではないように明後日の方向に向かって着弾していた。一同はその行動に驚愕する。銃口を床に向ける藤原はワナワナと震え、
「わざと撃たせたのか……この場を沈める為に。自分の……血で……」
その雪牙の覚悟にリングナイツ達は思いを一つにした。
潮田の状況を知るには全力でこの任務に当たるしかない。
隣の青髪の覚悟を肌で感じた黒主は思う。
(コイツは案外、人をまとめるのは上手いのかもしれんな。ここはコイツに任せておくか)
リングナイツの少女達の思いを汲み敬礼をした雪牙は黒主に促され宣誓する。
「……改めて言おう。私は外異特務隊、会桑雪牙伍長である。本日の始まりと共に発生したジャスティスタワー占拠事件を解決する為に我々は作戦行動を開始する。敵は元セントラル支部副支部長の潮田海荷を頭とするダイオク。これはユナイトファングへのクーデターである! 我々はジパングの正義の牙である事を世界に再認識させる必要がある! 各員の健闘を祈る!」
『ハッ!』
雪牙の敬礼と共に一同も敬礼する。そして雪牙は叫ぶ。
「ユナイトファング!」
『ユナイトファング!』
正義を貫く信念の宣誓と共にパイロット一同は会議室を急ぎ足で出ていく。
制服の上着を脱ぎ雪牙は黒主に連れられ医務室へ向かう。
入口に着くとすぐに行こうとする黒主の肩をつかみ、
「隊長は俺でいいのか? 外異特務隊は三人。本来ならリーダーであるあんたが隊長になるべきだ」
「俺は自由に戦場を駆けたいだけだ。優等生のお前の方がジパング支部の連中も言う事を聞くだろ」
「本当にいいんだな……?」
刺すような視線に対し黒主は肩にかかる手を振り払い、
「お前がこの戦いで結果を出せば何の問題もあるまい?」
ナイフで刺されたような目をし、雪牙は頷く。胸のポケットから携帯を取り出し、周辺マップでリングオーラの反応を見る。ジャスティスタワーのポイントのみが大きな反応を見せていた。タワーの周囲には敵が点在しているだろうが、ミストジャマーを高濃度で展開している為にトサの存在は反応しない。脳裏には、ある光景がよぎった。
「ジャマーをものともせずにレーダーにああも反応させるリングの反応とはな。正に化物の兵器だ」
「そうだな……奴等のキャノンが直撃すればセントラルが消失するかもしれない。いや、するね」
「厄介な敵だよ。あの女は」
雪牙の溜息に黒主は笑う。
「セントラルの施設はどこまで持ちこたえるかわからない。ミストジャマーでビームが衰退しても潮田教官の切り札だ。この距離もものともせずセントラルを突き破る可能性は大いにありうるかんな」
「そうだな。だが、猫神が言うにはあれだけのエネルギーの塊が今までジパング内でレーダーに反応が無かったのは別々にリングシステムを調整してたかららしい。今は奴等もこのセントラルに直撃させるキャノンの調整に忙しいだろう。最近続いた戦闘で大破、損傷した機体も多くこっちも戦力を整えるのに時間がかかる」
二人は窓ガラスから外の景色を眺めた。
夜が深くなる闇夜の空は小雨が降り出していた。
金髪をかきあげる黒主は言う。
「外はこれから豪雨になるらしいし俺だけ先行して仕掛けるか?」
「駄目だ。今の戦力を結集させて戦わないと勝てる戦いじゃない。個々に戦って錐のように穴を広げてもそれを拡大させる事が出来ない」
「相手は潮田だ。お前こそ焦ってチームワークを乱すなよ?」
その言葉に、医務室に来た目的さえ忘れている雪牙は言った。
「何だと? いつ俺がチームワークを乱した? 今は俺がリーダーだ。良い気になるなよ」
「リーダーになったからと言って、それが本当にお前そのものの力だと思うなよ」
その言葉に一瞬雪牙はたじろぐが、すぐに憎悪を剥き出しにし睨む。
最近は蒼い炎の目覚めのせいか感情が安定せず、感情を剥き出しにする事が多くなった。
まるで獣のようだと思い自制しようとしていたが、自制出来ずにいた。
医務室の前の通路に嫌な空気が流れ、出撃前の二人の心にわだかまりを生んだ――瞬間。
『!?』
突如支部全体にこだまする警戒警報に驚き、二人は窓の外に見入る。
基地の真横を通り過ぎる二人はその光景を見て声を失う。
ダイオクのビッグリングキャノンが発射されたのである。




