三幕~大義~
セントラル支部の支部長室では山崎支部長が反ユナイト組織ダイオクの真の総帥・潮田海一が本日の始まりと共に出した声明をモニターにて見ていた。苦虫を噛むような表情をし、豊かな頭をかきむしり机に置かれるコーヒーを飲み干す。
潮田率いるダイオクの面々はフラノのジャスティスタワー地区にはビックリングキャノンというリングナイツの力を合成させ一万人収容のアリーナ一つを軽く消滅させる悪魔の力を放つキャノン砲が設置されており、セントラル支部の譲渡という交渉を目的とする相手には低姿勢を保ちつつ奇襲をかけたい所だが、ユナイトファングの少女達の人心は潮田にある為に迂闊に士気が下がる戦力で相手を挑発するわけにはいかなかった。
現在は、ユナイトが誇る連絡地下道も潮田のアサヒカワに貯めた雪解け水を流す作戦で満たされ完全に遮断されており通行が出来ず、タワーの周囲の電源を切ってもジャスティスタワーは自家発電も備えており人質もいる為に直ぐには解決にならない。むしろそんな事をしたら確実にビッグリングキャノンは射出され、セントラル支部など簡単に消失するであろう。再度、作戦参謀である黒髪の長いスタイルの良い美女である水野に色目を使いながら入れられたコーヒーを飲み干す山崎は言う。
「潮田め……ここまで来て裏切るとはな。地下は水責めにし通路が封印され攻め込むには地上からしかない。このセントラルも射程距離内であり、あの高台の見晴らしでは周囲の行動が見え見えではないか……。これでは全ての行動がバレてしまい各支部と連携して行動も出来ないぞ」
「では、次の一手はどうしますか?」
「猫神が極秘に作成していた弾道ミサイルを発射しろ。あれはワッカイのダイオクを消滅させる用に作らせていたが仕方あるまい。一発でジャスティスタワーが消えるだろうが、今は細かい事は言ってられん」
「ジパングの各支部の友好の象徴であるジャスティスタワーにですか? いくら反逆者の巣窟とは言えそれは……」
「あのタワーももう古い設備だから問題あるまい。向こうのキャノンは黒主達からチャージのかかる代物という報告を受けているはずだ。ミサイルとビームの違いを教えてやろうぞ」
「かしこまりました。正義の塔の消失、本当によろしいのですね?」
「今はただの反逆者の巣窟。工事ついでに更地にしてやれ」
躊躇いを見せる水野は今の言葉をメインブリッジのオペレーターの少女に伝える。
オペレーター達も躊躇いを見せるが、潮田とまともにやり合えば自分達もジャスティスタワーの連中と同じ道を辿る所か軍人故に殺されるだろうと感じ、コンピューターで地図を出しジャスティスタワーに向けて猫神が開発した弾道ミサイルをミストジャマーの電波障害を考慮しつつ、発射角度を調整し始めた。
「たかだが一兵卒の成り上がり風情が副支部長という役割を与えたからこういう事態を招いた。やはり下品な雌犬は下品でしかない。のぅ、水野君」
「えぇ、支部長の仰る通りです」
まるで山崎の言葉が全て正しいという敬服の笑みを浮かべ水野は山崎を見据える。
その美しい顔ににんまりした山崎はモニターに映るジャスティスタワーに向けて飛んで行く一発のミサイルを見た。水野はストレスを全て噛み潰すようにマルカワガムを噛み、山崎は大いに微笑んだ。
(消えろ、ユナイトの大義もわからず無い物を欲しがるだけの哀れな雌犬共が……)
水野によって汲まれた新しいコーヒーを一口飲み山崎は思う。
ミサイルが着弾するジャスティスタワーの監視カメラをモニターに映し出し、それを見た。
ミストジャマーの霧のせいで解像度は悪いが、フラノ区域の地表に蠢く銀色の何かがあった。
「あ……あれは?」
ジャスティスタワーの頂上部にあるダイオクの切り札のキャノン砲が動いた。
カメラに微かに映るそのシルエットを見て山崎はコーヒーカップを溢し、床にこぼれたコーヒーが拡がる。同時に緑のビームが流星のように空を流れた。
「――ビームはチャージが必要じゃなかったのか!?」
ミサイルがフラノの鉛色の空を赤く染め上げるように上空で爆発する。
爆発の炎で赤く照らされる地表の少女達の銀色の機体の群れは続々と増えジャスティスタワーへの周囲を警護する。色こそ違うが、それは間違いない無くユナイトファングが誇る機動兵器・トサだった。ジャスティスタワーの司令室にいる潮田はモニターに映し出されるミサイルの群れを見据えマルカワガムを膨らませた。
「……おそらくチャージの時間を考えミサイルを撃ったのだろうが、切り札である以上いつまでもそんな欠点を抱えてると思うなよ? ミストジャマーによって照準も絞れないミサイルはリングナイツを介してこそ役に立つ代物。打ちっ放しのミサイルなどは無抵抗な輩を大雑把に消し去るだけのものでしかない。ユナイトらしいといえばユナイトらしいがな」
唖然とし、椅子からカツラと共に身体もズレ落ちる山崎は敵の予想外の戦力に頭が真っ白になった。
参謀の水野は老人を介護するような手つきでガムを噛んで山崎を支えた。
※
時刻は13時――。
ユナイトセントラル・猫神の研究室。
その診察室にて、上半身裸で診察台に横になる雪牙はゆっくりと起き上がる。
作戦前に猫神に身体と血液のデータを取られていた。
イスに座り足をバタつかせ白衣を揺らし、雪牙のフィジカルデータが乗った紙を見つめ、
(最近赤から青に変化した青い血の原因はこの雪牙はこの世界の人間じゃない事と、異人の血を引いているから……。黒主やレーコは染めてるけど、雪牙の髪は異人の証である青。この少年は私と同じ境遇であるのはわかったけど、徳川家康以外の血も混ざっているのかもしれない)
そう思いながら視線を雪牙に向け立ち上がる。
「体調は万全よ。その青い血はリングナイツになってハイパー化した反動。そして、貴方の心臓にはリングが埋まっている可能性がある」
「リングが!? 何故リングが心臓に?」
「ナハッ! そんなん私にもわからニャーよ。とにもかくにもアンタの心臓には何かのリングがある。それがハイパー化の蒼い炎を生み出してるようね。薬で血を安定させると赤くなるようだけど、いつまでもは続かないでしょうね」
「……俺の生まれがわかればその原因がわかるかもしれんが、俺は物心ついたらユナイトの潮田教官の元にいた。ただの戦災孤児という事しか過去はわからん」
「過去は知らない方がいい事もあるわよ? もしかしたら、IリングでもないNリングでもない新たな力が目覚めるかもしれない」
猫神に両肩を叩かれ定期検診が終わる。黒いシャツを着た雪牙は、まだ自分の心臓にある謎のリングの正体を不振に思う。デスクのイスに座り、視線をデータにやりつつ猫神は、
(この戦いで黒主部隊の真価が問われるわね。明らかに黒主も雪牙も心が変化してる……ジャスティスタワーで死ななければいいけど)
猫神は黒主の写真が写るタブレットパソコン画面を見据え、肩の猫を撫でる。
雪牙は制服の上着に袖を通し思う。
潮田から得たエージェント時代の格闘術や戦闘における心構えは今でも雪牙の中心にあり、今もそれが正義だと思う。軍で誰よりも早く昇格する為には、軍の命令に忠実でありつつも集団の中で自分の色を嫌味無く出さなければならない。その全てを感情を消して、戦争に生き残りたければ愛する全てを捨てろという覚悟でエージェントとしてダイオクの工作員などを暗殺し成果を上げて来た。
雪牙は、この一月に渡るユナイトセントラルの生活において確実に変化した。
しかし、潮田海荷には自分の教官であり、目標であり、母であった感情の全てをぶつけて勝たなくてはならない。
(やってやるさ……俺は潮田教官を……)
心臓に手を当て、ゆっくりと雪牙は胸元に一本の剣に左右から牙がクロスするユナイトファングのロゴマークがある紺色の制服を着て立ち上がった。




