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混乱

 副支部長・潮田海荷しおたうみかの裏切りにより激震が走るユナイトセントラルでは支部長の山崎が参謀の水野にダイオクに対する一手を考え、作戦を練っていた。リングナイツ達の少女も憧れの女がダイオクの人間だった事に驚愕し、かなり士気が衰えた状態にあるが藤原中尉が中心になり何とか各部隊を纏め上げていた。

 最近は数々の新型や強敵を退けた事で黒主部隊の評判も上がり、外異特務隊の存在をユナイトのリングナイツ達も認めるようになり、潮田の働きかけで支部長の山崎から有事の特務隊編制件を与えられたばかりである。

 時刻は昼の12時――。

 そして、ユナイトの寮の屋上では金髪の少年と青い髪の少年が話していた。

 その雪牙せつがは睡眠不足すら感じさせず、先の戦いの怒りをぶつけるように青い瞳をギラギラさせながら携帯を見つめ指を動かしていると黒主の声が響いた。

 一台のベンチで寝転がりマンガ雑誌を読む黒主は心ここにあらずといった感じで話す。

「ダイオクの行動の散発的な原因の全ては、このアサヒカワに集まるダイオクの勢力の存在をカモフラージュする為か。まさかあの潮田が……な」

「これは何かの間違いだ。きっと潮田教官には何か作戦が……」

「そんな作戦、あるわけないだろ? 奴は、潮田は裏切り者だ」

 雪牙は格子にもたれかかり携帯ゲームをしていた。

 すでに脳がテトリス・ハイと呼ばれる中毒症状を引き起こしている。高速で動く指はつる事も無く瞬きをろくにしない両眼と共に動き続ける。目の下には隈が出来、最近の激動の日々が災いして睡眠不足が伺える。その思考はテトリスではなく潮田の裏切りのみに染められている。

 マンガを閉じ起き上がる黒主は雪牙を見る。

「やけに携帯に御執心だが、その高速の指の動きだとゲームか? その指の動きを女のアソコに叩き込んでやれば喜ぶぜ?」

「ピザを頼んでテトリスをしてる。俺は女に興味は無い。欲しいのはユナイトの地位だ」

「ハッ、オメーがおっぱいマンなんて知ってんだよ。本当に欲しいのは潮田海荷だろ」

 苛立ちを見せる雪牙の心を見据えるようにベンチに寄りかかり雑誌を広げながら黒主は言う。

 パチリ、と携帯を閉じ雪牙は大きく息を吐いた。その瞳は蒼い炎が揺らめいている。

「最近、猫神の奴と密会してるそーじゃねーか。ごくろうな事だな。その目の隈はヤリすぎて寝てねーのか? いや、寝たけど寝てねーのか?」

「ただの身体検査だ。最近は忙しくて体調が優れないんでな。特別な関係など無い」

「そうかい。で、どうだった? 味は?」

「……俺は女に興味は無い」

「あの猫女とは子供の時に知り合ったが、あんな女でも機械以外で感じるもんがあるとはな」

 少し笑う黒主に怒りの瞳を向けると、ただ雑誌を読んで笑っているだけだった。

 二人の間に微妙な感情が走り、ページをめくる音がやけに響く。

 この二人には決定的な溝が生まれている事を互いに感じ、わかっていた。

 しかし、口に出す事は無い。

「……今週の週間エゾマンガ読まねーのか?」

「読まん。俺はマンガより小説なんだ」

「そうかい、そうかい、ソースかい」

 もう読む漫画が無いと言わんばかりに雑誌を閉じ、左手で抱える。

 じっ……と灰色の天を見上げる雪牙は、

「もう一度言うが俺はあんな女に興味は無い。そして、お前はいつか我欲に呑まれ死ぬ」

「夢も希望も語れないからってムキになるなよおっぱいマン」

「何だと? 俺はムキになどなっていない」

「いい加減戦闘中の時のように自分の欲望に正直になれよ。お前は元々欲望の強い男だろーが。おっぱい星人がよ! ハハハッ!」

「――!」

 激情に駆られるまま腰の銃に手をかけ黒主の胸元に突きつける。

 雪牙の心臓にあるあいリングに蒼い激情の炎が灯る。

 左の人指し指のリングが輝きを発し、その輝きに黒主は目を細める。

(コイツとは、いつまでも同じ場所にはいられねーな)

 その瞳はアサヒカワで間違って敵と勘違いし戦った時の雪牙を思い出していた。

 銃の発砲音が数度続き、黒主の顔が歪んでいる。

 二人の目の前には雑誌の紙切れが舞っていて互いをはっきり見れない状態にある。

『……』

 弾が切れた雪牙は青い髪にかかる紙切れを気にせずに目の前の憎き男を見据える。

 銃弾によって粉々になる雑誌は原型を止めずに地面に落下する。

 二人の間に舞う紙片も全て地面に落ちた。地面の紙切れを踏む黒主は、

「……夢を棄てた男の末路はこうだ。我欲が人間の未来を生み出す」

「違う。我欲はユナイトにとっても世界にとっても悪」

「なら何で潮田や紅水にあれだけの力があって、お前がハイパーモードの蒼い炎を自由に発現させられない? お前の理屈ならお前はとうに最強のリングナイツになっているはずだがな。口先だけじゃなく結果で示せ」

 屋上から去り行く金髪の男に雪牙は呆然とする。

 粉々になり風に流され空中に舞い始める漫画雑誌に視界を奪われ、自分の理想の女である潮田海荷の偶像を砕いたのはこの欲望にまみれた男だと誤った認識をした。

 男の欲望を抑えつけユナイトファングのエリートになろうと必死になって我慢して来た日々が報われないのか? という焦りが予備の弾倉を取り出させ撃鉄を引かせる。

 背中を向け自分の人生の前へ、前へ進んで行く憎き男を殺そうと引き金を引いた。

 その弾丸は真っ直ぐ黒主の後頭部に向けて飛んで行く。

 その銃声に息を飲む黒主は雪牙の精神状態を見誤ったと後悔し、死を覚悟する。

 屋上の階段の入口の上にある貯水槽から白い影が焦ったように動き、蒼い炎に瞳を染める雪牙の両眼にちょっとぽっちゃりな感じの桃色サイドポニーの髪が揺れる優しげな少女が立ちはだかる。

「ピザお待ち」

 全ての銃弾を受け止めたピザの容器が弾け、中身のクワトロジェラートアイスピザが剥き出しになった。この危機的状況を止めたレーコに雪牙は我に返る。

 そのまま黒主は手を上げ、立ち去る。

 雪牙は自分のした行動に崩れ落ち、呆然とした。

 その光景を貯水槽の影にいる猫神が二人を見据え、その憎しみや嫉妬に狂気するように薄い唇に舌を這わせた。雪牙の目の前のミント、チョコ、オレンジ、パインのクワトロジェラードアイスピザは冷たい冷気を放ち、食される瞬間を待っている。

 そのピザは雪牙の拳の一撃でグチャグチャになり、青い髪がチョコの黒さで染まった。



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