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ジパング

 神の国ジパング――。

 ダイヤモンドを横にしたような形で四方を海で囲まれ霧に覆われている島国はそう呼ばれていた。

 その島国の外の海は磁場の嵐が吹き荒れ、鉄を簡単に錆びさせる強い酸を帯びた海水がジパングを鎖国された島国として成り立たせていた。

 ジパングのチトセという地区の中央に位置する灰色の重い鉛の空のような色の基地はユナイトファングという軍事施設があり、ユナイトファングはジパング全土を脅かす犯罪者を取り締まる任務を日夜こなし犯罪組織であるダイオクをリングナイツをもってして撲滅しようとしていた。

 人間の身体に戦国武将のような機械的な鎧を装備するリングシステムは、五十年以上前の戦国時代の初期に織田信長という武将が生み出した機械武装システムであった。信長の死後、その家宝の中からリングを発見した徳川家康はたまたま指にはめた時にその力を引き出してしまい、家康に野心が芽生え時代は宝暦を迎えた。

 家康は一般人が使えるリングシステムの基礎を五年かけて作り、軍事組織・ユナイトファングを平定し寿命を終えた。

 そのリングは家康の死後量産され様々な混乱と英雄をジパングに生み、神の国ジパングは規定された世界になりつつあった。

 時に宝暦二十年四月一日――。

 現在はアサヒカワのやや上にあるシュマリナイ湖から上はほぼダイオクの支配下にあり、最北端のワッカナイはすでに三年以上ダイオクが支配し、独自の食料供給や機械整備により反落の余地もない安定した経済活動を見せていた。

 その均衡状態を、一人の新たなリングナイツに選ばれた青い髪の少年が崩そうとしていた。

 見上げる暗い天には鋭利な黄色い三日月――。

 そして見下ろす地上は電波妨害の作用があるミストジャマーの霧と、深淵の闇に包まれるジャンクシティーのアサヒカワ。

 その冷たい夜風が流れる灰色の街の女達はドラッグ、セックス、ハンバーガーの事しか考えていないような無頼のような連中の集まりだった。郊外の外れの街に迫る脅威を監視する灯台の役割も担う要塞砦はダイオクが突如襲撃を開始して占領されていた。

 その争いはすでに半日が過ぎ、ここ数年のダイオクとのイザコザでも大きいレベルの事件だった。このイザコザはドラッグ関連のイザコザである為、アサヒカワの市民はこのジパングを管轄するユナイトファングには助けを求める事は出来ない。その為、このダイオクとの間で起こる事件の大半は一日が経過しない限りユナイトファングが動く事は無かった。

 奪われた要塞砦を敵の銃弾の射程距離に入らない木々の密林を壁にしながら敵を観察する女は煙草が切れ、ヤニも吸えない苛立ちをツバを吐いて紛らわせていた。

「交代の時間だわ。休んでいいわよ」

 瞳に青い闇の色しか宿さない黒いコートを着た青い髪の少年が夜の帳を下ろすかのような顔つきで現れる。あくびをする女にスッと煙草を差し出し、火を付けてやった。

「すまないわね。敵はもうネンネのようだわ。ここの部隊はもう出番は無いわね」

「当然だ。もうお前は死んでんだからな」

「お、男!?」

「この地域に男は珍しいか?」

 その青い髪の少年は躊躇い無く女をナイフで刺した。心臓に迫る一撃は回避したが腕を刺され、すぐさま銃を出し狙撃するが少年に回避される。青い髪の少年の反応速度に驚きながらも足元にある木箱を踏み潰した。

「この地区に男はあのうつけ者の黒主くろすしかいないはずなのに……どこのガキだか知らんが仲間を呼ぶわよ!」

 頭を抱えダイビングジャンプする女は地面に伏せると同時に、一筋の白い狼煙が天の三日月を挑発する事も出来ない滑稽さを際立たせながら登る。地面に倒れる女は勝ち誇る顔をした。しかし、青髪少年の声色も脈拍も変化は無い。

「狼煙を上げてもいいが誰への合図だ」

「誰って仲間よ。それ以外に誰がいる……」

「後ろでたむろしてた奴ならもういないぞ。ドラッグを注意したら銃を向けてきたから始末した」

 すると、口元を笑わせる少年の左手の人指し指に銀色のアルファベットであいと刻まれたリングが青い炎を灯していた。それを見た女は苦痛に顔を歪めながら呟く。

「リングの力? あんた! ユナイトファング!」

「俺はユナイトファングのリングナイツ。会桑雪牙かいそうせつが

 少年のコートの胸部分には縦に突き刺さる一本の剣に左右から牙がクロスするユナイトファングのロゴマークがあった。

 そして、動揺する女の視線の先に蒼い閃光と共に紺色の戦国時代のようなメカアーマーを身に纏い、右手にソード・左手にシールドを持つリングナイツが姿を現した。

「始めるぞ。俺のトサが世界を変える」

 〈トサ〉と呼ばれる量産型のメカアーマーを装備した青い髪の少年は瞳を細める。

 女はそのロボットと人間が一つになる姿を足元からゆっくりと視線を上げ、その圧倒的な姿に怯える間もなくドサッ! と白目を向いて乾いた地面に倒れた。

 天を見上げるように少し先の窓側がチカチカと点滅する崖の上にある要塞砦を見た雪牙は、

「こっちは配属先の部隊のリーダーと会う事も出来ず、こんな事件に巻き込まれたんだ。ユナイトファングの大義は疑わしきを罰する。その誓いを守る為に一人でもやってやるさ」

 イラついた声で言うと同時に足首にある機械がキュイィィィン! と反応し、エアブレードという高速走行兵器起動させる。

 これは通常にユナイトファングのメンバーに配布されるもので、リングのパワーによって生み出された物ではない。軽くホバーのように浮き上がる雪牙は左手のリングのオーラを解放した。そして、右手のソードを突き出し言う。

「さて、あの砦を壊滅させれば任務は完了。隊長達とは会えなかったが一気に行くか」

 そして、銃身から飛び出していく弾丸のように高速で加速し要塞砦に突っ込んだ。

 青い髪を風になびかせ、憎しみの炎に瞳を染める雪牙は呟く。

「――戦争に生き残りたければ愛する全てを捨てろ。この世の正義は俺が体現する」







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