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崩壊の序曲

 ユナイトファング・セントラル支部科学主任部屋。

 夕方という時間感覚さえまるでわからない窓も無き資料が散乱するその部屋に雪牙せつがはいた。

 向かいの椅子に座る猫神は黙ったまま手に持つデータを見据えている。

 変化する雪牙の身体が血に青みを持たせた事が猫神の興味を狂気に染めている。

 雪牙に現状の身体の変化は生活には問題ない事を説明し、青い血の対策の為の注射を打った。

 猫神はすでに雪牙の能力を解明しだしていた。

「ナハハッ! 感情の高ぶりで意図的に蒼い炎を使えるようになったのね。もうすぐよ。もうすぐで貴方はハイパー化しなくてもNリングのような自然属性が目覚める」

「蒼い炎という事は炎姫と属性がかぶる……それで勝てるのか?」

「それでも勝てるわよ。リングは人の思いに忠実な代物。貴方の思いが強ければ強いほどリングの性能は引き出される。後から来たって追い越せばいいだけよ」

「あの蒼い炎には未来に繋がる力がある。やってやるさ」

 フッと笑う雪牙は紅い太陽のような炎を纏う炎姫えんきを思う。

 Nリングから自分の意思を具現化させ生み出された炎姫はトサを自爆させた時にエネルギーを取り込み機体に還元する事もでき、自然力の属性を持ち炎を生み出せる事が出来る代物である。

 それがあればセントラル支部最強の潮田海荷しおたうみかとて勝てる自信がある。

 思考の中の潮田が具現化して行き、脳裏を支配する。

 そして、ノイズのように冥地めいちとのジャスティスタワーでの会話が響く。

 あの時、潮田がよく口にする〈大義〉とは果たしてどちらにあったのか? その出来事がずっと雪牙の中で渦巻き、心を重くしていた。

「……ジャスティスタワーでの話で冥地功周めいちこうしゅうと潮田教官は交遊があるように見えたが、それはどんな関係だ?」

「リングが発見されトサがジパングに生産配備された後に起きた反乱を鎮圧していた独立機動部隊に属していたようよ。戦友、と言えるでしょう」

「……戦友か。ジャスティスタワー建国祭の時、ユナイト側の発砲は完全に民意を失うものだった。せっかくアサヒカワをユナイトの領土にする時が来たのに果たして大義があるのか……」

「ナハハッ! なら工事中のアサヒカワまで行って現状を調べてくるといいわ。それは当人に聞くのが一番早い問題よ」

 ハッとした顔で雪牙は猫神を見た。

「迷いは若者の特権だけど、戦場では死にいたる煩悩よ」

 フッと頷いた雪牙はアサヒカワまで偵察名目でトサを出撃させた。

 肩の猫を撫でながら見つめる猫神の瞳は妖艶に笑っていた。

 猫神は指にささくれを発見し、無理矢理剥いた。

「……私とは違う。母は違えど父親が同じなら弟と同じだけど、雪牙の心臓にある家康のあいリングは不死身の力を与えている。あれこそ本物の家康の呪いね……」

 指先から吹き出る赤い血を見て呟いた。




 焦る気持ちを抑えたまま基地建造中のアサヒカワに向かった青い髪の少年は止まっていた。

 そこで立ち尽くす雪牙は茫然としている。

「施設内にユナイトのマークが何一つ無い。それに工事が全く進んで無い……どういう事だ?」

 縦に突き刺さる一本の剣に左右から牙がクロスするユナイトファングのロゴマークが施設のどこにも施されておらず、工事用のショベルカーやトラック、作業用の機械も存在するがどれも動かずに世界の果てに忘れ去られたように停止している。

 まるで廃墟のように静まり返るアサヒカワ区域は何故人っ子一人居ないのかが疑問に思われる。

 本来ならばまだ工事は行われている時間で、それなりの騒音がし人がたくさん動いている時間である。 夕陽が傾いて行く中、静寂に包まれる空間に潮田が姿を現す。

 黒く美しい長い髪を柔らかな風に流し、紺のユナイトの制服がよく似合う女である。

 唖然とする雪牙はこの状況の説明を求めようとするが――。

会桑かいそう。私と共に世界を変える気はあるか?」

 突如言われたその一言に雪牙は困惑する。

 突如、ウイィィィン……という音がし開かれる地面から無数の銀色のトサが現れた。

 機体のカラーリングが紺色でないトサは本部支部では黒主部隊と潮田副支部長のみである故、存在しないはずのカラーのトサに疑念を抱く。

(何だこの数? そしてこのカラーリングは……?)

 銀色のトサのフェイスクローズされる両目が赤く煌き、一様に雪牙を見据えた。

 明らかに戦闘をする為に存在するトサの群れがこれから何をしようとするのかが頭をよぎると同時に潮田の声が響く。

「回答しろ会桑。私と共に来るか?」

「それはユナイトを裏切るという言葉に聞こえますね。この状況といい貴女は一体……」

「そうだ。悪行を正義と成すユナイトファングを叩き潰し、我々ダイオクが戦争を生み出す産物であるリング管理と監視を行い平和な世界を生み出す剣となる」

「ダ、ダイオク? い、一体何を言ってるんです……貴女がユナイトを裏切るなんて有り得ない……」

 呆然としたまま後ずさる雪牙を見て、潮田は瞳を閉じため息をつく。

 全く状況が読めない雪牙はこの質問が自分の人生を左右するであろう質問と理解しながらもユナイトの軍人としての本能が潮田の言葉を拒んだ。潮田の部下のトサが廃棄熱を外部に放出し潮田の指示を仰ぐ。

「貴女は俺の正義の象徴だった……貴女は……」

 ユナイトにエージェントとして入隊して以降、雪牙はリングナイツ候補生教官である潮田海荷を目標とし、生き抜いて来た。幼少時代の少年兵時代の血まみれの日々も視線の先には潮田の姿があり、常に雪牙の行動の指針になっていた。ガクリ、と膝を曲げ地面に両手をつけ土下座をするような形で苦悩する。

 そして、潮田はリングナイツにチェンジしトサ・セブンソードに変身した。

 その純白の白いカスタム・トサの姿を見て雪牙の身体が動いた。

(……)

 瞬間、雪牙の叫びが空間にこだます。

「俺も……俺も教官について行きます!」

 全身を震えさせ、瞳孔が開いたままの雪牙は自分の心に反した言葉を叫ぶ。

 しかし、その言葉を全く信用しない潮田はクチャクチャとマルカワガムオレンジをプクーっと膨らませ、

「本日の終わりと共にダイオクからの声明を読み上げる。貴様の青い血の力である蒼い炎が自分の力として完全に目覚めたら我々と行動を共にする意思があるものと見なす。大義無き者に世界は手にいれられんぞ会桑」

 ガムの風船が弾けるなり、全てのトサは潮田の号令で雪牙に発砲許可を出した。

 焦る雪牙はこの現状をセントラルに知らせる為にエアブレードを吹かして逃げ出す。

 背後から果てしなきライフルの発砲が続く中、絶望に顔を歪める雪牙は呟く。

「何故、俺が青い血である事を知っている……何故だ……潮田教官」

 雪牙の絶望と共に夕陽は沈んで行った。

 潮田の裏切りにより、ユナイトファング全支部はかつて無い危機を迎えた。

 しかし、今は誰もそれに気がついていない。

 やがて悪夢が始まる夜の闇がジパングを支配した――。



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