隊長としての初陣
トサのカブトをフェイスクローズする雪牙はレーダーで敵を察知した。
「目標発見……各員ライフルを炎姫が掘る穴に向けて一斉射撃だ。炎の魔人とて実弾は通用する。ただ少し性能が高いだけの機械にビビるなよ」
『了解』
目標とする紅水泉の炎姫が現れたポイントに雪牙隊は到着し、ゆっくりと炎姫が上部に向けて掘る穴の真下に進む。襲撃時に見た時とはやけに静まり還る地下道を三機は自分達が緊張を生み出している空気に多少の怯えを見せながら真下付近に着く。
「カウント三で目標に対し仕掛ける。三……」
少しずつユナイトプリズンの真下に向けて掘り進む炎姫の燃やし尽くす焦げた土の残骸が地面に落ちる。
「二……」
三機のトサのエアブレードが起動し、ゆっくりと三機が少し浮かび上がる。
「一……」
全員の心臓の鼓動が早くなり、全身の毛穴から汗がじわじわと吹き出し始め、ライフルのトリガーにかかる指に意識を集中する。
「ゼロ」
雪牙の言葉と共に三機のトサは穴の上部にいる炎姫に一斉射撃を加える。
激しい滝のような火線が一気に流れ込み、暗い穴の奥が爆音を上げる。
黒い煙がブワッ! と悪鬼が舞い降りるように三機のトサに覆いかぶさる。
「退避!」
という雪牙の叫びと共に三機のトサは炎姫が落ちてくるのを待つ。
激しい爆発音が地下道を満たし、雪牙は思考が停止した。
友軍であるトサが爆散したのである。
「――!」
上穴からの煙だけで無く、目の前の爆発により視界はブラックアウトする。
全身の神経が冷え、感覚が鋭くなるのとは対称的に絶叫を上げソードを振り回す。
その形相は正に悪鬼そのものであり、人の皮を被った獣である。
闇雲に目の前の状況による恐れから逃れようとする刃が、固い金属に突き刺さり相手の刃も雪牙のトサの首に当たる。
「あああああっ!」
次の瞬間、雪牙のトサのライフルが四方八方に唸りを上げ、周囲の空間を抉る。
ライフルの弾が尽きると同時に後方に退避して煙が晴れるの待つ。
更に爆発音が上がり、黒い煙が辺りを支配した。
(やったか……?)
我に還る雪牙は軍人としてあるまじき行為をしたという事さえ忘れ炎の悪魔を倒したかを確認する。
ふと、メインモニターに赤い金属らしき何かが映る。
それは赤い髪の悪魔の女の顔――。
「うわああっ!」
突如、目の前に紅水泉が現れた。二人は同時に刃を繰り出す。
「貴様等ダイオクは何故平和に同調しない!? ユナイトに属すれば平和でいられるんだぞ!?」
「ユナイトは全てをシステムにして人間の可能性を消そうとしてる。アタシはこの海に囲まれたジパングの外にも世界があるって信じてる! それを潰したユナイトは許さない!」
かつて、この紅水泉は磁場に包まれ荒れ狂う海原に一艘のボートで飛び出そうとした。
その行為はユナイトに発見され泉はユナイトプリズンに拘束された。
それをハコダテの財閥である冥地家は目をつけてこのジパングの外にも世界はあると冥地功周は宣言し、ジパング全土を驚愕させた。
その一連の流れが人々の心を開放していき外の世界を見たい人間達は結集し、ダイオクという組織を生んだがユナイトファングに駆逐された。だが、ユナイトから離反した翡翠翔子や冥地功周の支援を受けて復活したダイオクはジパングの最北端にあるワッカナイを占拠し、そこで独自に生活を営みその兵力を肥大化させて行った。そして泉は叫ぶ。
「アタシは自由に飛びたいんだ! こんな狭い世界でノーノーと生きてはいたくない!」
「人間は共同体を保つには法が必要だ! 自由、自由では世界はまとまらない!」
「ユナイトファングの正義は人の可能性を消すだけよ!」
「貴様個人の正義を俺に押し付けるなあぁぁぁ!」
心に蒼い炎が灯る雪牙は動向が開き口が半開きになる。
ジワッ……とトサの背後に蒼い陽炎が揺れる――瞬間、泉はしゃがみ込みながらトサの真下に入りバックドロップを叩き込んだ。
「アタシの直感をバター犬みたくナメんじゃないわよ!」
意識が飛びそうになりながらも雪牙は耐え、
(……ここで冥地を奪還されたら日本の状況は変わる。コード・ユナイトブレイク)
ここで確実に泉を始末しようと雪牙は自爆コードを音声入力でトサに認識させる。
「とうとう諦めたのね。じっとしてなさいな!」
泉は止めを刺そうと鬼硬刃を心臓目掛けて迫らせる。
ピピッ……という音と共に10秒のカウントが表示された。
その間、手の平と足の両太股の外側から射出されるアサルトアンカーが炎姫を強襲し絡めとる。
「緊縛プレイ? アンタいい趣味してるわね!」
「ユナイトファングの大義に鎮め、炎の悪鬼よ!」
泉に取り付くトサの背面を開放して飛び降り、一気に通路を駆け抜ける。
自爆カウントが三秒になり、内部の起爆装置が作動した。
「決戦を目前にして冥地を奪還出来ないのはダイオクの敗北を意味すんのよ。自由が無いユナイトのエゴには付き合えないわ!」
トサ全体が発光すると同時に炎姫から炎射弾が雪牙に向かって放たれた。
背後を振り向き、目を見開く雪牙の絶望と共にトサの自爆が地下通行道に広がった。
※
乾燥した冷たい空気が流れるユナイトファング専用地下通行道。
その通行道はジパングのアサヒカワ以下の全てと繋がっていてどの地区に敵が現れても障害無く地下から目標に接近し地上の敵を殲滅させる事が出来る。
昨日起こった冥地奪還妨害作戦は失敗した。
泉を倒す為に地下通行道でトサを自爆させた後、泉は自分が掘った穴を突き抜けプリズンに侵入し冥地功周を奪還してプリズンから脱出した。冥地家との摩擦を恐れるセントラルは大々的にハコダテで生活する冥地家を潰すような声明は出さず、極秘利に首領である冥地と炎姫のリングナイツ・紅水泉を始末する命令を下した。
大怪我を負った雪牙の傷は一日でほぼ完治し、不死身の会桑の二つ名の通りの奇跡的な回復力に猫神は疑問をもってフジィカルチェックを行った。外れた骨程度なら直せるというのも異様であるのを思いながら猫神は血液から入念に調べた。
冥地が泉によって奪還され、本部支部は地上と地下道の徹底した探索捜査を行っていた。
すでにユナイトの領土には存在しないと踏んでいる猫神の指示で雪牙は炎姫の開けた穴を調査していた。
「……まさかこの網目のようなアサヒカワから上以外の全ての区域に繋がるユナイト専用の地下道を利用するとは……ミストジャマーが薄く監視カメラの感度も上がるここを我が物顔で利用されてはひとたまりも無い。ここを自在に使われたらユナイトの存亡に関わるぞ」
そのポイントに着き昨日の戦闘跡地を肉眼で確認する。
「ここか。よくもまぁ炎で穴を掘るとはな。炎の悪魔め」
穿たれた大穴と真っ黒焦げの地下道の壁を見た雪牙は呟く。
周囲を探索し炎姫が残した装甲の破片や何かしらの物証を探す。
すると、先の戦いで一撃を与えた時に破壊した赤い装甲の破片が見つかる。
手のひらサイズの破片をプラスチックの袋に入れ回収する。
「後は何か……? おおおっ!」
突如の銃撃が雪牙を襲う。
即座に相手から隠れられる横の通路に飛び込み撃たれた左足を意識しつつ銃を出す。
チラッと銃撃の先を見据えるが、金色の粒子が舞っていてわからない。
この地下道に金色の粒子が舞い散る設備などは無い。
(……まさか黒主リーダーが前に出会ったNリングのコードネーム金色祭か? 俺に狙撃を当てるとはかなりの技量だ……)
数発の銃撃を加えると、すぐさま反撃の銃撃を与えてくる。
雪牙は腰のライトを取りだし、リミッターを外して宙に投げた。
同時に、まばゆい真夏の太陽のごとき明かりが空間を照らす。
瞬時にリングナイツになり機体を起動させライフルを構える。
(粒子が収束して行く……?)
先手必勝と言わんばかりにライフルを連射し、地下道に着弾した弾丸の煙が視界を灰色に染める。
金色の粒子が舞散る中に現れたのは、黒主が新しい力への羨望の中オビヒロを彷徨っていた時に現れた謎の金色のリングナイツ。
コードネーム金色祭だった。
その謎の強敵に雪牙は笑う。
「リーダーはしくじったようだが、お前は俺のスコアに上乗せさせてもらう」
滲み出る欲望がハイパー化を呼び寄せ、トサの全体に蒼い炎が灯る。
「そう、それでいいの」
歪んだ薄い唇を嗤わせ金色祭のリングナイツは攻め立てて来る。
青く輝く瞳が全てのビームの軌道を読むように回避行動をし、間段なくライフルを射撃しヒートソードで斬りつける。胸元の金の装甲が砕けると同時にライフルが破壊され爆発が両者の間を包むが、そんな事は気にもならぬように白兵を続ける。
蒼い炎を纏い切れ味が増す剣が相手の装甲を刻み、トサも数度の打撃を浴びて顔のカブトは変形し、胸元も歪んでいる。金色祭の両手が発光すると、雪牙はヒートソードを上段に構え放たれるビームを切り裂こうと構えた。全身の毛穴から尋常でない汗が吹き出る雪牙は瞳孔が開き、自分の息が上がっている事にすら気がついていない。
(勝てる……勝てるぞ。オレは黒主を超えてリーダーになり潮田教官に――)
よだれが垂れ蒼い断罪の一撃のようなヒートソードを振り下げると蒼い炎は消失した。同時に胸元にビームが直撃し、トサは後方へ大きく吹き飛びアーマーが破壊され血まみれの雪牙が見える。大破寸前のトサに対し、容赦ない射撃が浴びせられようとする。
同時に、エアブレードの音が空間を満たした。
「この狼藉者がぁ! 各員一斉射撃で会桑を援護しろ!」
『了解』
ズバババババッ! と援護に駆けつけたトサの三機が射撃を始める。数発のビームを浴びる雪牙のトサは完全に沈黙し、リングナイツ状態が解除される。激闘を繰り広げる目の前の戦闘にすら目に入らない雪牙は自分の両手を見つめていた。
(……)
べったりとした液体は青く、額からもその青い液体が流れ口に入る。
その液体は人間の体内に流れる赤き血潮。心臓から押し出される人間の原動力――。
「これは血……血が……青い?」
口に入る血の味は赤い血の味であり、目に見える青い血は紛れも無く血液であった。脳が揺れて視覚が乱れているわけでも無い青い色の血である。
その最中、金のリングナイツは口元を笑わせ全身の射出口からビームを無差別に発射した。地下道全体に地響きが走り破壊させたコンクリート片から舞い上がる粉塵が視界をアウトさせる。雪牙の意識は遠のいて行きやがて失神した。




