無双する蒼い炎
ハイパー化をしていないにも関わらず、スピードが二倍に上がる雪牙は無双していた。
ズババババッ! と蒼い炎が散り、潮田海荷と同等の力を持つ翡翠を圧倒する。
「がっ……ぐううああああああっ!」
徹底的に刻まれる翡翠は踊る達磨であった。
機体の装甲に多大な傷を受ける翡翠はダメージを受けた勢いで後退した瞬間、肩のヒートバズーカを放ち、雪牙の右手に直撃する。
「チッ!」
レーコのソードを地面に落とし突き刺さる。
それを見ている黒主は圧倒されていた。
「……雪牙の野郎、潮田と同等の力を持つ翡翠にあんな圧倒的な無双を」
レーコの心臓マッサージを続ける黒主は呟いた。
そして雪牙は更に躍動する――。
「重装甲ならその装甲の隙間を狙えばいいだろう」
両足の太腿の外側からダガーを取り出し、ダガーの二刀でアイヅを刻む。
翡翠は確実に装甲の隙間を狙う雪牙の技量と、全身に纏う蒼い炎に驚愕した。
「何だその蒼い炎は? ハイパー化は壊れてるんじゃないのか?」
「覚悟――」
「くっ!」
「ぬぐうっ!?」
突如、心臓を抑える雪牙はスピードが落ちた。
翡翠は態勢を崩す雪牙にアサルトアンカーを射出した。
「ぐううっ!」
もの凄いパワーのアンカーで引き寄せられ目の前で輝く電磁スピアーの餌食なるのは必然である。
確実に勝敗が決まる一撃に、互いは叫んだ。
「不死身とてこれならかわせまい!」
「うおおおおっー!」
ザスッ……!と蒼いトサの胸元に電磁スピアーが突き刺さる。
『……!』
串刺しになる雪牙にその場の全員に戦慄が走る。
勝った……と思う翡翠は残りの三人も始末しようと動く。
だが、手元の違和感がそれを許さない。
(中身が無い?)
そう、そのトサに中身は無かった
すると、自分のトサの上に生身の雪牙がいた。
絶体絶命の瞬間、雪牙はトサを解除し背中から生身を脱出させていた。
そして機体だけを翡翠のアンカーで送ったのである。
生身の雪牙の手には、レーコのソードが握られている。
「レーコの仇は俺が取る」
「あの女に惚れてたの? 同じ部隊で恋愛をするから苦くなるのよ。甘く燃え尽きなさい」
しかし、刹那の電撃を発する電磁スパークが雪牙の全身を焼いた。
天を仰ぎ煙が上がる雪牙はドクン……という心臓にあるIリングが蒼い炎を上げてもう一度身体の機能を回復させた。
唖然とする翡翠は生身でこれだけの電撃を浴びた少年の瞳と瞳が合い、息を呑む。
その少年は青い目を煌めかせ不動明王に言った。
「俺は不死身だ」
瞬間、蒼い炎が走り翡翠の首が胴から離れた。
雪牙は手に持つレーコのソードで翡翠の首を飛ばしていた。
ゴロリ……と敵軍の常勝武将の首が床に転がった。
『……』
勝負は決したが、あたりには言葉を発せられないような重い空気が流れていた。
座り込んだままの雪牙は口元から流れていた血を拭う。すると、何故か血が青い。
(青い血? いや、まさかな……)
敵の翡翠のオイルか何かだと思う雪牙は咳き込みながら黒主を見据える。
黒主はチロルチョコをレーコの口に入れ、心臓マッサージをしていた。
そして、雪牙は微笑んだ。
翡翠翔子が戦死した事により、ダイオク前線基地は司令塔を失いリングナイツの少女や工場スタッフの少女達は施設に火をつけて撤退した。
アリーナ一つ分を消す超距離ビーム砲であるビッグリングキャノンも破壊され、ダイオク前線基地は火の海になり崩壊した。
大将の死により混乱し逃げ惑う人々は自軍の死体を捨て、ワッカナイまで後退していく。
黒主部隊はその光景を少し離れた丘で眺めている。
風で流れる熱波が丘にいる四人の顔にかかる。
あの後、チロルチョコを口に入れた黒主のおかげでレーコの心音は回復し復活した。
髪が少し寝ている金髪をかきあげる黒主は瞳を細めリーダーとして言った。
「全員、あれを見ろ。あれが俺達のやった結果だ。この戦いは人間だけじゃなく、あの施設すら殺してしまった。もうダイオクとの開戦は避けられねーだろうな。次の戦争でジパングの三分の二は死んでもおかしくねーぜ」
溜息をもらしながら言う黒主に雪牙は前に出る。
それを左手に包帯を巻きつけるレーコは止めようとするが、藤原が抑えた。
火花を散らす黒と青い瞳は激情をぶつけ合う。
「軍人は命令に従う。あんたがおかしい。あんたは個人の感情がありすぎる。それでリーダーをやってるなんておかしな話だぜ」
「軍人は命令で動く。だが、現場の生殺与奪は自分の判断だ。ダイオクにも家族や仲間がいる。それを受け入れなきゃ、世界は変わらない」
「変えてはならない……ダイオクは悪だからだ」
「悪……ねぇ……。何でダイオク悪なんだ? 教えてくれよ? 今、俺はそれが知りたい。ダイオクは悪なのかどうかをな」
「……それはジパングを統治するユナイトファングに反逆する組織だからだ。人間として扱うのも危うい自我の欲望に負けた獣だ」
「ダイオクは同じ人間だ。あまり潮田に感化されるな。お前は自分が無いのか?」
「……」
その日、雪牙は自分という存在が無である事を知った。
潮田海荷というユナイトのエージェント時代からの教官の教えのみで生きて来た為に、まるでマシーンでしかない自分をこの男によって気付かされた。
〈戦争に生き残りたければ愛する全てを捨てろ。この世の正義は私が体現する〉
それが雪牙を今まで数々の暗殺や工作で生き残らせた潮田からの最初の言葉だった。
その言葉の通り生きて非戦闘員である男という性別ながら戦闘を主とするリングナイツまでのし上がった。
そしてまた、雪牙を壊す男の言葉が全身に響く。
「全てを捨てて、一体お前は何になるんだ?」
「……」
「結果が出た以上オメーは正しい。だが、仲間を苦しめた事実だけは覚えておけ」
「……了解」
頭が混乱する雪牙は唇をかみ締める。
(何だ……この不快感は。エージェント時代には味わった事が無い。仲間というものは……こんなに苦しい感情を俺に当てえるのか)
瞬間、フラッ……と意識を失うようにレーコが倒れた。
すぐに雪牙は介抱に向かう。
すかさずニッと微笑む黒主は言った。
「それがお前の本質だ。忘れんなよ」
その言葉を聴きながら、雪牙の左手はレーコの心音を確かめる為にFカップの巨乳に触れていた。
「……」
「強い奴は何かを護れる奴の事だ」
強い人間は人を護り、そして導く事の出来る奴だと雪牙は思った。
このテキトーなようでシメる所はシメるリーダーから学び、自分が出した答えだった。
敵の全てを殺せば全てが終わると思っていた雪牙に、黒主の部隊に入って他者と関わる事で心がエージェントから脱却し、仲間と共に活動するリングナイツになった。
雪牙はレーコがわざと倒れたとその笑顔で確信し、ポーチのチロルチョコを全部食べる。
ポコポコと怒るレーコに背中を叩かれつつ、このリングナイツの仲間を感じた。
(始めにこの部隊に配属された時は仲間と行動する事はこんなに面倒なんだと困惑した。潮田教官は戦争に生き残りたければ愛する全てを捨てろと言ったのはエージェントとして活動をする時の話だったんだ。最後は愛する者も全てを捨てないで勝つのがリングナイツ。それが本当の勝利。勝って仲間と喜び合えるからこそ人間は生きていける……)
ふと、目頭が熱くなる雪牙は一人で帰還の徒につく。
追おうとするレーコと藤原の尻を触り止める黒主は言う。
「一人が好きと言いつつも、奴は他人が気になるのさ」
そして、エアブレードの電池が切れた四人は救難信号弾を上げ、途中まで来た救護班の軍用車でセントラルまで帰還した。
三人の仲間が眠る車中で黒主は窓の外を飛ぶ鳥を見て思う。
「この世界は狭いな……俺はあの鳥のように自分の力で大空を……」
圧倒的な力を持っていたダイオク大佐の翡翠翔子やユナイト副支部長潮田海荷。そしてユナイトの管轄区にたまに現れダイオク首領・冥地功周奪還の為に単独で破壊活動をする紅水泉の自身の欲を具現化させたNリングのパワーを思った。
胸ポケットから雪牙と出会った時にたまたま拾ったNリングを手の中で転がし、左の中指にそっとはめた。今までは何の反応も無かったが、Nの文字が紅く発光し黒主は空を舞う鳥を羨むのはやめた。




