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仲間との絆

 使用不可になるハイパー化に雪牙は歯軋りする。

「あの野郎……」

 高笑いが止まらない翡翠ひすいは過去の話をし出した。

 この二人のリングナイツを見て、自分もユナイトファングのリングナイツだった事を思い出した。

 半死半生の二人は敵の女の言葉に聞き入る。

「……ユナイトを抜けて本当に良かったよ。あそこにいたら私の技術は錆びるばかりだったからねぇ」

 かつて潮田と同じようにエースだった翡翠は二十代後半になると前線部隊から新兵の教育教官に回せれた。それが生粋の戦闘者である翡翠のプライドを傷つけ、ユナイトファングに不信感が生まれた。戦場にしか自分の生き場が無い自分が他人の教育などをするのは退屈で仕方ないのである。その心は一人の赤い髪の少女を思い浮かべ言う。

紅水泉こうすいいずみもそうよ……戦いの中でしか生きられない女もいるの。外に出れない鎖国されたような狭い世界から出られないなら、このジパングで徹底的に暴れるしかないのよ」

「……お前は男に興味は無いのか? 女は男と見れば近寄って来る。この世界は男は圧倒的に少ない女社会だからな」

 アハハハッ! と雪牙を恫喝するように笑う翡翠は、

「心が勃起してない男なんかとセックスはしたくないわねぇ。第一にこの世界はおかしいわよ。男の出生率が低い理由もわからないなんておかしいじゃない。大昔は男が戦場に立ち、女が家系を支えた……それが今や間逆。ダイオクに入ってからユナイトの管理するものは全てが歪んでいるのを感じたわ。潮田も美辞麗句を並べるだけの悪女だって事もねぇ」

 立ち上がろうとする左手に穴が空いているレーコを制する雪牙は、その潮田という言葉に過敏に反応しながら言う。

「俺達がリングを悪用してるというなら、お前達も同類だろ? 民衆はユナイトを支持しているが、もし俺達が消えたらその矛先はどこに向かうのかな?」

「人間の誰もがそれなりにリングを使える以上、リングの所持を禁止するのがいつまでも続かないわ。この戦争が終わればリングはユナイトだけが所持する事に反感を抱くでしょね。敵がいない以上、リングは公平に分配されるべきだからねぇ」

「そんな事で世界が回るか!」

「戦争があった方がこの世界の経済も産業も文化も、全てが上手く回るんだよ。それが人間の本質さ」

「人間は……人間はそんなに愚昧じゃあ……」

「愚昧だからこの現実がある」

「……」

 ガッ! と地面から電磁スピアーを引き抜き構える翡翠は叫ぶ。

「このアイヅは私専用のカスタム機。量産型とは違うのよ! 量産型とわぁぁ!」

 一方的な翡翠の蹂躙が始まった。

 ハイパー化もせず、圧倒的な力を出す銀髪の不動明王に雪牙とレーコは為すすべも無い。

 全身に蒼い炎が一瞬灯る雪牙だったが目の前の不動明王相手には何も出来なかった。

「甘い! 甘い! 甘い! ひしゃげて、とろけて、溶け合って汚物のように消えなさい!」

 装甲が大破しボロボロの雪牙は、胸を踏まれ電磁スピアーを見据えるレーコを見た。

 もう限界のレーコは自爆をして敵を仕留めようとするが、自爆装置すら起動させられず瞳を閉じる。

 笑う翡翠の右手が動く。

「――生き残りたければ全てを捨てる事よ」

 電気が火花を上げる電磁スピアーがレーコの心臓に迫る――。

「全てを捨てて、何が残るんだ?」

 キイイインッ! とハイパー化した虎柄のトサが翡翠のスピアーを防いだ。

 呆気に取られる雪牙とレーコは黒主と共に駆けつけた藤原を見て安堵する。

「ドラドラドラーーーッ!」

 叫ぶ黒主はアサルトアンカーを翡翠の腰に巻きつけ、白兵戦に勝った者が生き残るデスマッチを仕掛ける。野獣の咆哮のまま仕掛ける男に対し、狂喜する翡翠は叫ぶ。

「流石はうつけと呼ばれた男! 極上に甘いわ! 貴方なら私を満足させる男になれるかもねえーーーーーーっ!」

 ヘッ! と笑いながら黒主は言う。

「外の陽動は失敗だ。相手の大将が悪すぎた。この基地を攻略すんならコイツを倒すしかねーよ。こいつはダイオクの常勝武将だからコイツに勝てば敵は崩れる」

 この塔の外周はすでに翡翠の部下達に囲まれていた。

 外の陽動で相手を混乱させるだけよりも、この目の前の翡翠を倒さねば生きる場は無い。

 負けた瞬間に黒主部隊は一掃されるだろう。

 ソードを振るう黒主はアンカーを切られ後退し、仲間に言う。

「結構軽い気持ちでここまで来たがこっからが本当の地獄だ。外の百人相手にする方がヒャクパーマシなくらいにな」

 外の百人の部下を相手にしても勝てる翡翠との戦いに武者震いする。

 そして、スピアーを巧みに操り翡翠は言った。

「ユナイトの二つの部隊がキャノンで消えているんだからここに侵入するのをもう少し躊躇うかと思いきや、駆け上ってきた。やはり戦う男は違うな黒主京星」

「あんたがここにいるなら先に言ってくれよ。ボスキャラは最後まで出てこないのが定石だぜ」

「ダイオクのボスはユナイトプリズンに投獄されてるだろう? 紅水はそれを一人で助けようとしているようだがな」

「あー、それやめさせてくれ。こっちもしんどいんでな」

 だが、本当に翡翠を倒せば全てが終わるのかはわからない。

 口元を笑わせスピアーを肩に担ぐ翡翠は言う。

「安心しろ。私の部下は一騎打ちに手を出すほど野蛮ではない。たとえ私が死のうと手はださんように教え込んであるからな。私が死ねば、ここは陥落だ」

 黒主の予想通り、この女を倒せば全てが解決する戦いだった。

 この翡翠には戦闘での絶対的自信があるから部下も信頼しているのである。

 一気に仕掛ける黒主と藤原のトサが翡翠と激突した。

 幾度と無く互いの武器が交差し、周囲に突風が起こる。

 無言のまま雪牙は立ち上がる。

「……」

 不死身の異名を持つ雪牙はレーコに見つめられながら床に落ちるソードを片手に動き出した。

 心臓が痛むのか、苦しげに右手で抑えている。

 電磁スピアーの餌食になる藤原はスピアーを抑え、黒主に攻撃させようとする。

 バッ! と左手の甲から黒主はアンカーを射出し、アンカーを引っ張り体勢を崩させて黒主は一気にハイパーソードで斬りかかる。

「隙ありだぜ」

「甘いわよぉ?」

 バアッ! と黒主のハイパーソードはヒートバズーカで弾かれ、電磁スピアーの餌食になる。

「消えろ黒主―――っ!」

「俺はリーダーだ。仲間がいんのに消えられるかよ」

 カランッ……と黒主のカブトが地面に転がり、電磁スピアーを白羽取りで受けていた。

「見事だ。私の攻撃に白羽取りをしたのは潮田でも出来なかった事だぞ」

「そりゃ光栄だ。そしてそれがお前の最後の言葉だぜ?」

「――?」

 瞬間、背後に出たレーコの嵐のような拳の乱撃が炸裂した。

「カロリー流破壊拳・桃色ファンタジー!」

 ガガガガガガッ! と自身の全体重とカロリーを爆発させるような激しい拳の乱舞が炸裂し、翡翠の背中の装甲は弾け、肉体が露になる。

 背中の装甲を破壊され血を吐き出す翡翠はまだ生きていた。

 翡翠はレーコを仕留めようとする――が、一匹の虎の殺気がそれを防いだ。

 一匹の虎の特攻である必殺の突き技を発動させる。

 そして、翡翠も自身の必殺技の構えに出た。

「ドラドラッド・ドラガーン!」

「ジュガーイルミネーション!」

 虎柄の閃光の突きが翡翠に迫る。

 だが、前方にスピアーの穂先が壁のように展開し、黒主とレーコは吹き飛ばされた。

『あああああああああああっ!』

 弾かれた二人は壁にぶつかるはずがぶつからない。

 二人を受け止めたのは、雪牙の蒼いトサだった。

 その雪牙を見据える翡翠は欠けた奥歯を血と共に吐き出し呟く。

「黒主京星……強いな。どうしても私の男にしたくなったよ。甘い……お前の存在そのものが甘すぎるよ……」

 狂喜の目で見つめる翡翠をよそに、黒主は桃色のサイドポニーの少女の左胸に耳を当て心音を聞いていた。口元に手を当てるが空気を吸っても吐いてもいない。

 息を呑む黒主と雪牙は開いた口が塞がらない。

『……』

 レーコに息が無いのである。

 それを見た雪牙は全身に悪寒が走り、心臓にあるあいリングに蒼い炎が灯る。

 ザッ……とトリコロールの悪魔が電磁スピアーを持ち歩き出す。

 瞳を閉じるレーコは黒主が心臓マッサージをほどこすが反応が無い。

 その心臓に発生した蒼い炎はやがて雪牙の全身にも現れ――。

「レーコ……貴様―――――――――っ!」

 キレた雪牙はトリコロールの不動明王に突っ込んだ。



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