ダイオク大佐・翡翠翔子
そして、ビッグリングキャノンが設置される灯台砦の最下層で一つの爆発が起こる。
『……』
一瞬だけの爆発で何かが崩れたような感覚はしなかった。
二人は顔を見合わせ、上へ進んで行く。
すると、下層から白い煙が立ち込めて来たのが見えた。
まだ生きている敵の少女がガクリ……とうなだれたのを見ると、レーコは直感で白い煙の正体を見破った。
「神経性の毒煙ね……」
生身では効果があるが、リングナイツになっていればオーラの薄い膜がある為によほど強力でなければほとんど効果は皆無である。しかし、カブトが外れた場合や疲労などでリングチェンジが解除されればアウトであった。白い煙の効果はあまり無いと判断した雪牙はレーコに言う。
「一階で爆発があったなら退路は完全に断たれたな。あまりリーダー達に敵の戦力が分散してないのか?」
「退路が断たれてもいいのよ。上のデカブツを壊せばおのずと退路はリーダー達によって生まれるから」
「やけに信用してるな。長い付き合いだからか?」
「信用と信頼よ。私は貴方もリーダーと同じだけの感情があるわよ」
「そうか。あのリーダーにどやされる前に早くキャノンを破壊しないとな」
黒主・藤原ペアの活躍を思いながら最上階に急ぐ。
現れる敵をアンカーで絡め取り壁に叩き付けて戦闘不能にする。
そろそろライフルの予備カートリッジにも不安が見えて来た為、上手く敵を倒しながら最上階まで辿りついた。その重厚な鉄扉の前に立ち、雪牙はダイナマイト三個を取り出し鉄扉ではなく天井に設置した。
「ちょ! まさかいきなり天井に穴を開けてキャノンを破壊するつもり? 天井の状況はわからなのよ?」
「この鉄扉の先の敵を倒すのが目的じゃないだろ? 任務は確実に本質を見極め実行するだけだ。それが潮田教官の教え」
「そんなエージェントの考え方は捨てなさい。私達は戦闘を主にした軍人のリングナイツなのよ?」
やはりこの女とも話がかみ合わないと思う雪牙は天井にライフルを構えたまま、
「このままだと敵はアサヒカワに侵攻できる全線基地をここに築く。奴等はここで始末するしかない」
「待って雪牙君! 元エージェントで実戦経験が豊富でも、リングナイツじゃ貴方はペイペイよ。貴方の身勝手さが仲間を殺す事になる」
「相手を殺せば俺達は死なない」
「そんな理屈聞きたくないわ。今は軍曹より階級が上の少尉である私が上官よ」
イラ立つ雪牙は壁を叩き反論する。
「奴等も独立して三年になる。もう戦力が整ったからユナイトを潰すって、ことだろ。今やらなきゃいつ――」
ゴウウウウンッ! と更なる爆発が起き、勢いでレーコは倒れた。
目の前の鉄扉が内側から爆破されたのである。
その爆音と煙に乗じて現れる影にソードを構え動く。
「チィ! どっちがペイペイだ!」
銀色のトサ数機を倒すが、そこにはトサとは違う重装甲の槍を携えた赤・青・白のトリコロールカラーのリングナイツの女が不動明王が如くたたずんでいる。両肩には二門のバズーカ砲があり、明らかにトサの後継機とも考えられる機体にダイオクの技術力の恐ろしさを雪牙達は思う。
「私はダイオク大佐、アイヅの翡翠翔子。甘いひと時を期待してるわよ。ボーイ&ガール」
その仏のように微笑む女は瞬時に鬼の顔に変化し、スピアーを持ち襲いかかってきた。
「こいつのリングナイツはカスタムタイプ。やるしかない!」
ゾワゾワッ! と背筋に悪寒が走る雪牙はレーコに言いつつも自分に言い聞かせた。
ボーーッ! ボーーッ! とアイヅの両肩のヒートバズーカが唸りを上げる。
爆発の中をユナイトファングの二人は左右からライフルを射撃しつつ攻める。
その弾丸は微かにアイヅの装甲を傷つけるだけで決定打にはならない。
「甘いわね。このトサの発展型のアイヅに勝てると思わないで!」
この翡翠の駆るアイヅはかつてオビヒロで黒主が交戦経験のある機体だった。
装甲はトサの倍近くあり肩のバズーカ砲はトサの装甲を吹き飛ばすだけの威力があった。しかもこの翡翠のテクニックはアイヅのカタログスペックの限界まで引き出しているようで、雪牙は恐怖と興奮で神経がおかしくなっていた。
「コイツ……紅水泉並みかそれ以上だ。ぐあああっ!」
ライフルの弾丸も気にせず特攻してきた翡翠にソードを繰り出すがヒートバズーカで胸元を撃たれ、壁に激突する。
「寝るには早いわよ! 次は桃色ちゃんね」
バシュ! と左手の甲から放たれた翡翠のアサルトアンカーにレーコは捕まり、ソードとライフルの両方で鋼の糸を断ち切ったが目の前には銀色のスピアーが顔面を貫こうと迫っていた。
「レーコ!」
「後輩の前じゃ死なないから安心して」
その槍をレーコは左手を犠牲にして防いでいた。同時に右手に浅く握るソードが翡翠の首筋を狙う。
「――ああああああっ!」
バリバリバリッ! と身体が痺れたレーコは全身から電気を発し焼かれていた。そして、ヒートバズーカがレーコの心臓部分に直撃し、左のだるんとした巨乳が露になる。
「一つ――」
電気を発するスピアーでレーコの心臓を串刺しにしようとする翡翠はエアブレードを急旋回させて顔面に蹴りを入れられた。ベッ! と血の混じる唾を吐く銀髪の女は甘いひと時が長く続きそうだと高笑いする。だるんと揺れる乳房を抑えながら咳き込むレーコは、
「電磁スピアー? 気をつけて! あの槍は電気を発してるわ!」
「わかってる!」
Nリングの自然力こそないが、この翡翠は紅水泉と同等かそれ以上の技量で攻め立てて来る。泉の専用機の炎姫といずれ量産型になるアイヅを比べれば、この翡翠の技量の方が上なのだろう。二対一というハンデも生かせないまま二人は防戦一方になる。
帰還時の残りのパワーも考えていたが、今は目の前の敵に勝たなければ待つのは死だけだった。弾の切れたライフルを捨てる雪牙は言う。
「レーコ! ハイパー化だ! 帰りの心配をしてる場合じゃない!」
瞬時に雪牙はハイパー化する。それをレーコは青ざめた顔で見つめていた。
「ハイパー化は無理よ……あの女の仲間に機能を破壊されたから」
「な……に?」
翡翠は口元を笑わせ、スピアーを地面に刺す。
「アーマーの心臓部分のメインコンピューターを破壊すればハイパー化は発動しないのよ。甘いわね」
Iリングの切り札である機体の性能を二倍まで引き上げるハイパー化は、リングアーマーの心臓部分のメインコンピューターを破壊すれば発動しなかった。同じくIリングを使う翡翠にはそれがわかっていた。
「ハイパー化はしない方がいいのよ。あの力の反動は確実に自分の寿命を削る諸刃の剣だからねぇ。一時的なチートパワーに頼る奴ほど弱いのよチェリーボーイ?」




