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The world's end  作者: イズチ
1/4

ハジマリ

パーティー:セリ

現在地:エーデ国アルノの村

「あ~、暇だなぁ……」


 その時、ある者はのんびり過ごし。


「そこだぁっ!」

「いいな……だがまだ甘いっ!」


 ある者は剣の修行を行い。


「よ~し、上手くできたっ!」


 ある者は店に出すお菓子を作り。


「え……運命変わるって……私今日どうなんの?」


 ある者は占いの結果に動揺し。


「なんか味気ないわねぇ……爆発事件とか起こらないかしら?」


 ある者は紅茶を飲みながら不穏な思考を張り巡らせ。


「今日も晴れ……か。次の町を目指すとしよう」


 ある者は気ままに旅を続け。


「すいません、助けてほしいんですけど……」

「えっ、あの、はい?」


 ある者はまた人に助けを求められ。


「よし、今日の鍛練は終了っと!」


 ある者は朝の鍛練を終え。


「標的Aノック……ミッション完了」


 ある者は任務を遂行し。


「…………」


 ある者はまだ夢の中で。


「――ようやく始まる――」


 そして、ある者は――。


 これは11人の者たちが織り成す物語。


 セリは現在、暇を持て余していた。彼女は女にしては珍しく、今となっては世にはこびるようになってしまった……いわゆる『怪物』というのを倒す仕事をやっている。でも、こんな田舎だとそんなにしょっちゅう怪物が来るハズもなく、そもそも怪物がよく出るのは夜の時間帯だ。しかしセリは今の暮らしが気に入っていたので、都会に移る気も生活を夜型にする気もさらさらなかった。もう今日は店仕舞いにして、マコのところにでも行こうかと立ち上がった時、ドアが開かれた。客人が来たことを知らせてくれるドアについたベルがチリンと鳴る。嬉しいのやらそうでないのやら、半ば複雑な心境でセリは再びソファに座り直した。入ってきたのは同性のセリでも目を見張るほど綺麗な金髪で、白い鎧を身に纏った正に女剣士だった。聖なる者にさえ見え、セリは普段なら絶対来なさそうな風貌の依頼人をしばらく見つめていた。


「あの……入ってもいいか?」


 沈黙を破ったのは向こうの方だった。セリは慌てて、


「はい。向かいのソファにどうぞ」


女はセリの向かいのソファに座った。女はまじまじとセリのことを見つめる。


「あ、あの……?」

「あ、失礼。『闇猫』と呼ばれてるのも納得だな、と思って」


『闇猫』とはセリの通り名である。暗い色素の髪に遺伝のせいである猫耳としっぽ。まあ、『闇猫』なんて名前がついたって結局はそのまんまである。


「それで……僕に何の依頼?」

「ああ、すまない。私の名前はシアン。国王軍騎士団の第1番隊長だ」


その言葉にセリは目を点にした後、失礼ながらもビシッとシアンを指差して、


「し、シアンって……!国創立からの史上初の女騎士団長?!」


こんな田舎にも耳に入ってくるくらい彼女は有名だった。さっきの堂々とした態度とは打って変わって、シアンは恥ずかしそうに頭をぽりぽりかく。


「なぜか変に有名だな……。……まあ、それはいいんだ。今日は依頼をしに来た」

「な、なんでしょう?」

「詳しいことは王がお話しになられる。とりあえず私と一緒に城に来てくれないか?」


突然の大きそうな依頼にセリはただこくこくとうなずくしかなかった。


「お前が『闇猫』のセリか?」

「はい、お会いできて光栄です」


 玉座の前で王に跪く。めんどくさかったが教養を身に付けておいてよかったとこういう時に思う。


「挨拶はこれくらいにして……。セリよ、世界の果てにいる者の話は聞いたことがあるか?」

「はあ、なんとなくは……」


世界の果てには絶対的な力を持つ人物がいて、ソイツに会うと災いが起こるとか幸せになれるとか確証もないお伽噺を昔はセリもよく聞いた。


「連れてきてくれないか?ここに」

「え、でもあれは空想上の……」

「いるかもしれない、という話が出回っている。それにこの世を平和にするにはきっとその者の力も必要となるだろう。セリも知ってるだろう?最近怪物の数が急激に増えてる」


セリは口をつぐむ。なぜなら本当のことだから。


「頼む、やってくれるか?」


……まあ、どうせこのままでもボーッと生きていくだけだし。セリはこくんとうなずき、


「……わかりました」

「ありがとう。護衛と言ってはなんだが……シアンも同行させよう」

「なっ、王!?」


王の横で真剣な面持ちで立っていたシアンが慌てたように王の方を見る。


「お前も広い世界を見てくるがいい。それとも嫌か?」

「……いえ、とんでもございません」


腑に落ちない表情だったが、シアンもうなずく。セリは立ってシアンのもとへ駆け寄るとニコリと笑い、


「よろしくね、シアン!」

「……ああ、よろしく」


2人は互いに笑いかけ、固い握手をした。


 こうして運命の歯車が回りだしたのだった。


「ところで……商店街なんかに来てどうするんだ?町の外に出る門とは反対方向だぞ?」


 素直に疑問を口にすると、護衛対象――もといセリはニヤリと笑った。別に守ろうとも思っていないが。通り名がつくぐらいなのだから自分の身くらい自分で守れるだろう。


「ふっふっふっ……よく聞いてくれました!」

「はあ……?」

「腹が減っては戦はできぬ!ちょうどツテあるしご飯作れる人を仲間にしようと思って!」


その話を聞いて思わずずっこけそうになった。


「まて、止めた方がいい。もしソイツに怪物に襲われるようなことがあったらどうする?なかったとしても……」

「大丈夫」


私の声を遮って、セリは今度は決意を秘めた目で優しい笑みを浮かべた。


「何がなんでもその子のことは僕が守るから!」


シアンは大丈夫そうだけどね~、と冗談っぽく言うセリに冗談っぽく当然だと返した。


 たどり着いたのはこの町で有名なお菓子の店の『秋桜』。僕はいつも通りドアを開けると、店番をしていた子(仲間予定)が笑いかけてきた。


「いらっしゃいセリ~!」

「やっほーマコ!」

「こんにちは」

「こんにちは~!……って、その人は誰?見かけない顔だね?」

「この人はシアン!ところでマコ……」


『僕たちと一緒に旅に出ない?』


「へ?」

「なんかね、世界の果てにいる人に会いに行かなくちゃならなくなったんだけど……元々その話を教えてくれたのはマコだし、会ってみたいかなー、って」


マコが僕の言葉を聞くと、目を輝かせカウンターから僕の前まで来て、僕の手を取ってぶんぶん振る。痛い、痛いですマコさん。


「行く行くー!」

「いや、そんなに簡単に決められるものじゃないぞ……第一親に許可をもらわないことには……」

「準備できたよ!」

「はやっ?!」


シアンはビックリしていたが、マコが出掛けるとしたらいつも持っていくのは財布と材質不明の飴のレプリカくらいだから準備にかかる時間はこんなものだ。


「どうせ弟もいるし大丈夫!戦いはあんまりできないけど……ご飯なら任せて!あ、シアンもよろしく!」

「よ、よろしく。……マコ」

「ところでさあ、マコ」

「何?」

「このメンバーで長旅をするには何かが足りないと思わない?」


シアンとマコがメンバーをぐるりと見渡すが、わからないといった顔をする。もう、ダメだなあ、2人共。


「魔法使い!魔法使いがいないでしょ!」

「あぁ……」

「魔法使いっているの?」


何か2人共微妙な反応。


「いや、だって前見た本で『長旅に魔法使いは必須!』って書いてあったんだよ!」

「一応私も中級くらいまでならそこそこ使えるが?」

「……いるよ、魔法使い?」

「本当!?」


思わずシアンの言葉をスルーしてしまった。ゴメンね、でも今は魔法使いの方が大事。


「うん。私の幼馴染みなんだけど……でも一緒に来てくれるかなあ」

「どういうことだ?」

「んーっとね」


『スッゴく運動が嫌いなの。幼馴染み……アスカは』


「なるほど……」


確かに運動が嫌いなら旅に出るのも嫌がるかもしれない。


「まあ、とりあえず行ってみよー!」

「おー!」

「私はもう何も言いません、王……」


なぜかシアンだけがうんざりとした顔でそう呟いた。


「ここだよ!」

「おぉ……」

「いかにも魔法使いがいそうな……」


 セリの言う通り、目の前には暗い色調の、セリの家と同じくらいの大きさの家が建っていた。ドアの前にプレートがかかっており、『占いやってます』と普通の人なら素通りしてしまいそうなくらい目立たなく書いてある。占いをする本人は占いで稼ぐ気はないのだろうか?


「アスカの占いはね、百発百中だよ!よかったら今度セリたちも占ってもらうといいよ」


そう言って、マコは息を大きく吸い込んだかと思えば、


「アスカーっ!」


と、大声で叫んだ。声の大きさにビックリして近くの木に止まっていた飛び立っていくほどに。しばらくすると、ドアが開いて……。


「マコ……アンタは一体何回言ったら呼び鈴を鳴らすよう……に……?」

「アスカ!こっちがセリでその隣がシアン!で……」

「え、『闇猫』に騎士団長……?」

「マコ、一旦止めろ。アスカってヤツ混乱してるぞ」

「……とりあえず中に入って」


言われるがままに、私たちは中に入って行く。入る途中、アスカが小さく何かを呟いた気がしたが、詳しくは聞き取れなかった。


 ここでマコとアスカの容姿について紹介しておこうと思う。マコはオレンジに縁が白いワンピース、ワンピースと同じような橙の髪を2つに分けてくくっている。何よりも目を惹くのは大きい棒つきキャンディーだろう。本人曰く小さい頃誕生日で両親からもらったレプリカらしい。一方でアスカ。正に魔法使いのような格好である。白い髪(決して白髪ではない)をショートヘアにし、眼鏡をかけ、紫のとんがり帽子とワンピース、茶のブーツ。そして何よりこちらの目を惹くものは、アスカの身長の3~4分の1はありそうな巨大な水晶だ。その上に乗っていつも浮いている。体も上に乗れるほど小さい。そして背中からたまに見える羽のようなものは……気にしてはいけないだろう、うん。


「で、私に何の用?」

「だーかーらっ!一緒に旅しようって……」

「嫌よ」

「そんなすぐに否定しないでよぉ……」

「だって歩きたくないもん」

「アスカは水晶の上に乗るから一緒でしょ!」

「うっ」


図星と言うようにアスカは言葉をつまらせる。困った顔をしてシアンの方を向き、


「……アンタもどうにか言ってよ」

「生憎私は王からの命でセリの護衛としてついてきてる。セリの言動に逆らうワケにはいかない」

「マトモに話ができるヤツはいないってことね……」


アスカは深くため息を吐く。それを見て、マコは膨れっ面になり、


「いーじゃん、ついて来てくれたって!お客さんたちも言ってたよ。『アスカは魔法と占いに関しては天下一品だ』って」

「私に魔法の才能が有るにしろ無いにしろ、旅についていくのは私の自由でしょ?」

「……もうっ!アスカなんて知らないっ!」


マコは踵を返すとずかずかと部屋から出ていった。僕とシアンはとんとん拍子に終わってしまった会話に戸惑いつつも、とりあえずお辞儀をして部屋を後にした。


「なんだってのよ……」


 もう1度ため息を吐く。確かに占いに『運命が変わる』と出た時点で覚悟はしていたが、旅に出るなんてそんな面倒なこと私はゴメンだ。しかし……何か胸騒ぎがする。


「……『時の神よ、我の願いに応え未来を示したまえ』」


呪文によって光を出した水晶を覗き込めば、幸か不幸かその胸騒ぎが本当のものだと思い知らされる。結局私はあの結果から逃れられないのかと思うとまた憂鬱になってくるが、今から行かなければおそらくこの未来通りにはいかないだろう。


「さて、行きますか」


私は再び水晶の上に乗った。


「もうっ、アスカったら本当に意地っ張りなんだから!」

「まあまあ、嫌と言う者を無理矢理連れていく必要はない。魔法使いなんてこの世界にはごまんといるのだから」


 さっきからぷんぷん怒っているマコをシアンがなだめている。現在は町を出たところ。アスカに断られた僕たちは早速次の町を目指すことになったのだ。それにしても……2人がケンカしたのって本を正せば魔法使いが欲しいなんて言った僕のせいだよね?そう考えるとみんなに悪いことしちゃったなぁ……。


「どうしたんだ、セリ?」

「セリは悪くないよ!悪いのはアスカなんだから!」


僕が沈んでいることを察してくれたのか、2人がフォローを入れてくれた時だった。黒い影が一斉に僕らの周りに集まってきた。影の正体なんて……言わずもがなだ。


「マコ!僕とシアンの後ろに隠れて!シアンは援護よろしくね!」

「う、うん!」

「望むところだ」


マコは慌てて後ろに下がり、シアンは剣を抜く。一目見ただけで上物とわかるその剣は日光に反射してキラリと光る。僕も鉄球と鎖で繋がれた持ち手を尚一層強く握る。魔物の姿は変形しない。魔物は幽霊のようにゆらゆら揺らめいている。どうやらこの辺りでは珍しい実態を持たないタイプらしい。こんな時に魔法使いがいたらな……思わず舌打ちしたくなった。隣のシアンも苦い顔をしている。


「シアン、コイツに肉弾戦は無理だと思うんだけど?」

「……そうだな、普通なら」

「え?」


するとシアンは何やら呪文のようなものをぶつぶつ唱え始める。と、シアンの持っている剣に白い光が宿った。


「魔力を剣に込めた。これなら対等に張り合える」


シアンが不敵な笑みを浮かべた。


「お前もやればできるんじゃないか?」

「いや、僕は普通に魔法でいくよ」


あのアスカって子ほどじゃないけど僕も魔法が使える。それに、武器を魔力に込めるなんてしたことないから、今確実に敵を仕留めなければならない状況ではやらない方がいい。


「そうか……じゃあ、行くぞっ!」

「うん!『闇よ……その力を前に示せ』!」


シアンは光を纏う剣で敵を凪ぎ払い、僕は敵のいる地面を闇の沼へと化させ、敵を沈みこませていく。だが、敵は中々減らない。むしろ増える一方にさえ思えてくる。


「くそっ、キリがないな……」

「ホントにね」

「きゃあっ?!」

「!?マコっ!」


見ればちょっとの隙をついて魔物がマコに襲いかかろうとしている。慌てて手を伸ばすが届きそうになく、もうダメだ――と思っていた時だった。


「『天を司る神よ、今こそその力を示し……』あ、めんど……以下省略」


 省略するのかよっ!と、ツッコもうとしたのも束の間、雷鳴が轟いて、視界が真っ白に染まるほど僕たちの周りに雷が落ちてきた。あまりの凄まじさに目を閉じてしまう。一拍しておそるおそる目を開けてみると、マコも含め全員無事で、目の前にはやはり――。


「助けてくれてありがと、アスカ!」

「まったく……私が気まぐれでここに来なかったら今ごろどうしてたつもり?」


アスカはわざとらしくため息をついた。そして、


「……ここに『完璧な』魔法使いがいないのはよくわかったわ。しょうがないけど、ついていってあげる」

「よっしゃあ!」

「さっき思ったのだが……アスカは噂に聞いた『略無詠唱のスペシャリスト』なのでは?」

「う……むぐっ」

「それはない。絶対。必然に」

「そ、そうか……?」

「んー!んー!」


まあ、スペシャリストなのかはさておき、これで魔法使いが仲間になった。僕の目標は達成だ。魔物たちもさっきの雷や轟音を知っていれば次の町まで襲ってくることはないだろう。


「じゃあ、東の町へレッツゴー!」

「東の町……イルミス、あらゆる武道の鍛練所が軒を連ねる町だな」

「げ、そんなとこ嫌だわ……」

「もう、ついてくるならもう文句は言わない!」

「はいはい……」


 鍛練所が軒を連ねる町か……何か楽しみだな!僕らはそのまま東に向かって歩いていく。目指すは、世界の果てまで。


―続く―



















パーティー:セリ、シアン、マコ、アスカ

道程:【エーデ国】アルノの村→道(魔物出現)→イルミスの町

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