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魔導と奴隷


いつの間にか日間ランキング一位に

慢心せずに努力していきます




荒野のど真ん中


視界に移るのは夕焼けの空を飛ぶカラスと赤茶色の大地。あとは木が申し訳程度にあるぐらいで随分空しい


そんな場所が今日の僕達の野営地だ



ノノールファさん曰くモンスターや盗賊の発見が容易になるのでわざとこうして開けた地で野営するらしい。その分こちらが見つかりやすくなるんじゃないですかと尋ねてみたところ、不意打ちされるよりはマシだろうと諭された。



なるほどな~。でもその作戦はモンスターや盗賊が真正面から襲ってきても充分対処できるという自信がなければとても出来ない芸当だってことに本人は自覚があるのだろうか?


きっとこの無表情で端整な見た目とは裏腹に心臓が毛でビッシリと覆われているに違いない!



「おい、これからテストをするぞ。モンスター避けの魔導陣をだいたい半径三メートルの大きさで書け。もしミスをしたら今晩のメシは抜きだ」


僕の心の声を読んだかのようにノノールファさんは厭らしい笑みを浮かべながらそう告げた




モンスター避けの魔導陣。この世界で旅する上で必ず必要になってくる陣だ


効果はその名の通り周囲のモンスターを近寄らせない至ってシンプルなものだが、これがないとモンスターの動きが活発になる夜の野営は死を意味する


魔導の使えない一般人は金貨一枚、およそ三万円ほどの魔導陣が描かれた布を買わなければ満足に旅が出来ないというのだから、どこの世もやはり金だと改めて思う。



そして僕達魔導師は主に染料や地面に溝をつけてこの魔導陣を描く。前述の魔導陣を描いた布を使ってもいいのだけど、その場合は特殊な触媒を混ぜた染料を使わなければいけないやら何やらで意外とお金がかかるのだ。



だからこそ効果時間は一日足らずの簡易的な魔導陣でもお金がかからないほうを選ぶのは当然と言える




今回は染料がないのでそこらに転がっていた棒切れで地面に溝をつくり代用してみる


まずノノールファさんに言われた通り、棒で野営地を囲むように地面をガリガリと削り半径三メートルほどの大きな円を描いてその中に幾何学模様と複雑な古代語を付け足していく。



この位置関係や古代語の内容がこの魔導陣の胆らしいが、別に内容が分からなくても正式な手順さえ踏めば魔導は発動するので僕は内容をほとんど覚えていない



空で描けるようになるまでノノールファさんに何度も書き取りさせられたのでミスはないと思うが、今晩のメシが懸かっているのでしっかりチェックしておこう



…………良しっ、大丈夫だ! 見た限りミスはない


だがここで油断してはいけない。ここまではあくまで下書きの段階なのだ


僕はゆっくり呼吸をして左手の先に魔光を集めると、棒の先に左手を当てて魔光を宿していく


熟練になれば左手を介さなくてもそのまま持っている物の先に魔光を宿せるらしいが、僕はまだまだ未熟なのでイメージしやすい体の一部から間接的に魔光を宿すことしか出来ない



棒の先に青白い光りが宿ったことを確認するとそのまま下書きした陣を棒でなぞりながら、陣の中に描かれた古代語を復唱していく


ノノールファさん曰く下書きした上からなぞる僕のやり方は邪道らしいが、唯でさえ複雑な魔導陣を描きながら古代語を復唱し、魔光を宿らせるなんてそれどんな無理ゲー?

(おそらく)マルチタスクのスキルを持つノノールファさんにしてみれば僕のやり方がまどろっこしいのだろう



もしノノールファさんがマルチタスクのスキルを持っていないでその発言をしているのだとしたら全僕が泣くことになるので、もうあまり考えないようにしよう

今集中すべきは目の前の魔導陣なのだから



汗を流しながら全ての部分をなぞり終わると魔導陣全体が一度青く発光して消えた。


この反応は成功の印だ。どうやら無事に完成したらしい!



「ノノールファさん出来ましたよ!」


「見れば分かる」



彼は僕が喜び勇んで言ったセリフをそうアッサリ流し食事の支度に取り掛かる

はしゃいでいた自分が急に恥ずかしくなって僕はそれを隠すかのようにテントの設置に取り組む。


少しぐらい褒めてくれてもいいだろうと内心思いながらの作業はテントの仕組みを良く理解してないこともあって、思うように進まずノノールファさんが夕食を呼ぶ声でやむなく中断された



今日の夕食は鍋で水と一緒に煮込んだ干し肉と野菜クズのスープとパン

うん味気ない。やはり味噌汁が僕のソウルスープだ


そのままモソモソと食べているとノノールファさんが



「今夜の見張りは最初私がやろう。三時間程で交代だ」


とパンをスープに浸しながらそんなことを告げた


「分かりました」



いくらモンスター避けの魔導陣をしていたところで強いモンスターは僕達の姿を見つけると襲ってくる可能性もあるし、何より一番警戒したいのは盗賊だ。


あくまでこの魔導陣はモンスター避けの為のものなので人はあっさり通してしまうばかりか、地面に書かれた魔導陣を消されるとモンスターの脅威も加わり更に危険が増す


誰かが見張りをするのは当然のことだろう



夕食の後汚れたお皿を洗う為に貴重な水を回すことはできないので、馬車に適当に重ねて放置。今度水場でも見つけたらその時に洗う事にしよう


それが済むと今度はノノールファさんと協力して不恰好ながらもテントをたてる








「もし何か少しでも異変を感じたら私を起こせよ。何でもなかったとしても怒りはしない」



三時間後に外で見張っていたノノールファさんがテントに入ってきてそういい残すと、毛布にくるまって寝転ぶ



初めての野宿で緊張し全く眠れなかった僕が外へ出ると直ぐにその光景が目に入った



「うわぁ綺麗だ」


そんな言葉が自然と漏れてくる

目に映るは満天という言葉ですら表せないほどの星。しかもそのどれもが地球で見たものより鮮やかにハッキリと見える。北極圏でさえこうは見えないだろう



一通り眺め終わると

明かりに目が慣れないように焚火に背を向けながら腰を降ろす

星明かりのおかげで辺りの様子がボンヤリ見えるので余計な気遣いもしれないが、油断はしないほうがいい


周囲の注意が足りなくて後ろからバッサリというのは勘弁だ



「それにしても眠いな。寝なきゃいけない時に寝れなくて、寝ちゃいけない時に眠たくなるのはいったいどうしてなんだろう? 」



実際ここで寝てしまったら起きたノノールファさんにえげつないことをされるだろう


寝ちゃダメだ。寝ちゃダメだ。寝ちゃダ…メ………………だ……









肩を揺さぶられる


ハッ!? ……どうやら僕はすっかり眠っていたようだ。きっとノノールファさんと交代の時間が来たのだろう


急いで閉じかけの目を開いて振り返り謝ろうとした瞬間、頬の熱い痛みと共に後ろへ吹き飛ばされた。


某解説者風に言うと

アランくん、吹っ飛ばされたーー! という感じだ



確かに悪いのは僕だけど殴らなくてもいいんじゃないかとノノールファさんに告げようとして僕はそのことにようやく気づいた。


僕を吹き飛ばしたのは闇夜に溶け込む全身黒服姿の男。顔も目だけを残して黒い布で隠す徹底ぶりだ


さすがにこれが変装したノノールファさんだって思えるほど僕の目は腐ってないので、ある一つの推測がされる


つまりこいつらは盗賊か

あの時寝てしまった自身の迂闊さに吐き気さえするが今更どうにもならない

今僕が出来るのはどうやって盗賊を追い払えるか、逃げられるかをちっぽけな脳で考えることだけだ



とりあえず状況把握。

どうやら襲撃者は僕を攻撃した男一人だけではないらしく、同じ格好の何人かがノノールファさんの寝ているテントの中に侵入していくのが視界の端で見えた


さすがにノノールファさんでも寝ている最中に攻撃されたらどうしようもない


とりあえずノノールファさんを助ける為には目の前の男を倒さなければいけないことは確か


僕のへっぽこ剣術が何処まで通用するかは分からないけど、ここで何もしないなんて選択肢は倫理的に存在しない。ノノールファさんと僕の関係は主人と奴隷だけど、その前に僕にとっては恩師なのだ。もう逃げるという選択肢は残されてなかった


幸い僕は見張りの時に帯剣していたので……あれ?


剣がない!? いや、それよりも前に僕の体は縄で身動きがとれないように縛られているではないか

道理でさっきから立ち上がることも出来ないわけだ。

そんな風に冷静に現在の状況を確認している僕の心理状態から、人間っていうのは本当に危機的状況に陥ると落ち着くってのは事実だなと実感する




――やばいっ!!



黒服男が身動きのとれない僕に振り下ろした剣を必死に体を捻じ曲げて避ける。やはりさっきの説は嘘だ。今の僕の心臓はバクバク言っているもの



「チッ、外したか」


悔しそうに言い放つ男。



「生かせてやろうと思ったんだけどよ。お前が正直に俺の手刀を受けて気絶しなかったのが悪いんだぜ」



男がそんな嬉しくないことを言っている間に僕は芋虫のように這って少しでも男から距離をとろうとする。ノノールファさんを置いて逃げるのはつらいが、人はやはり自分の命が一番大事なのだ



最初の『恩師だから逃げるという選択肢はない』という言葉の前半部分は嘘偽りないが後半はあくまで建前であり、心の叫びであることを賢い読者の皆さんは理解してほしい。そしてノノールファさんは頼むから僕を怨まないでくれ


そんな主人不孝者に罰が当たったのか、あっさり男の足に踏んづけられ、固定された僕を見下ろして男が布越しに軽く笑った



「最後に言い残す言葉は……?」


「たとえ僕を倒してもいずれ第二、第三のアランが――「死ね!!」――ちょっ!? 最後まで言わしてっ!」



男が喉を狙って振り下ろして来たナイフは轟っという音と共に僅かに切っ先がズレて、僕の首の薄皮一枚斬り裂くだけで終わった



その轟音のした先を見るとテントが青白い炎によって包まれていた。テントを襲っていた襲撃者も体についた火を消そうと地面に擦りつけていたが、火は消える様子を全く見せず襲撃者は黒っぽい塊となって動かなくなった。辺りには人の焼けた嫌な臭いが漂う



僕も、目の前の男でさえも想像だにしない出来事がどうやら起きたらしい


あの中にはまだノノールファさんが残っていたと言うのに……

しばらく現実を受け入れられず呆然とする


だが目の前の男はプロらしく、仲間の死体に軽く一礼すると当初の目的を達成しようとナイフを振りかざす


最初のような奇跡はもう二度と起きない。あの時はまだ死ぬことを実感出来ていないでいたが、襲撃者の男たちやノノールファさんがあっさり死ぬのを見ていると現実がよりクッキリと形を持って迫ってくる



嫌だ、死にたくない



目に熱いものがこみ上げてくる

物語の主人公たちのように困難を乗り越えることなんて現実ではありえない。あの強いノノールファさんのように人はあっけなく死ぬのだ



「グフッ」



突然男の口から黒っぽい血が溢れてきて、僕の体の上に倒れた

男の背中には青い炎で出来た矢が刺さり男の体を焼き尽くそうとしているのが僕にも見て取れたので、火が燃え移らない内に急いで男の脱力した体から抜け出す



「無事か?」



声の先には服が少し煤けてはいるが元気な姿のノノールファさん!?

掌には人魂のような青い炎が握られている。おそらくあれでさっきの男を攻撃したんだろう



「ああ、ノノールファさん!? 生きていて良かった!!」


「途中、逃げようとしていたのを見ていたぞ。それに見張りの最中に寝るとは何事だ。貴様の頭には脳みそが入っているのかも疑わしい」


ノノールファさんは髪を片手で掻き揚げながら僕にズバッとキツイ一言を突きつける


僕はそんなノノールファさんらしさにさえ喜びを覚えるほど、ノノールファさんの生存が嬉しくて思わず飛びつく。精神が肉体に引かれているせいか、感情の表し方が我ながら子供っぽいとは思うのだがこの喜びを表す方法はそれ以外に思い浮かばなかった。


決してBLではない!!


あれだ、子供の頃憧れのお兄さんに思わず飛びついてしまうような感覚だ。無ければ記憶を捏造したまえ



ノノールファさんは僕の気が落ち着くと、直ぐに野営地を変える準備を始める

魔導陣もすっかり盗賊の手によって荒らされ、人の死体が転がってる状況では安全上と精神衛生上寝るのに適していないことはハッキリしていたので僕も進んで手伝った



不幸中の幸いとしては馬車の荷台も、馬も盗む予定だったのか全く壊されていなかった

被害はテントとその中に入っていた食糧品数点だけだと考えるとそう状況は悪くはないのかも



「盗賊にしてはやたら統率が取れていたな。食糧も荒らされている様子はないようだ」


「僕達を殺してから荒らす予定だったのかもしれませんよ」


「……そうかもしれないな」


ノノールルファさんが能面のような表情に戻るのを僕は見た



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