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旅する奴隷


あれ? 文章力が……




早朝、まだ小鳥のさえずりすら聞こえない薄闇の中僕はノノールファさんに起こされた

寝ぼけてしばらくボーッとしていたが、しばらくして今日が出発の日だということに気づくとノノールファさんに奴隷の焼印で急かされながら急いで準備に取り掛かる


カーキ色のパンツに紺色の動かしやすそうなシャツに着替えると、昨日ノノールファさんに買って貰った外套をその上から羽織る。まだ春先なので空気は冷たい



ノノールファさんのお古のせいか少々腰回りが緩いパンツをベルトで締めると、ベルトに昨日ポイントで交換した飾り気の無いロングソードを差し込んで、革ブーツの紐をしっかり結べばとり合えずの身支度は完成。


一応抜剣してみたが違和感なく引き抜けるのでいざという時にも問題は無いだろう




同じく旅用の丈夫で身軽な服を着たノノールファさんと軽い朝食をすませば早速馬車に荷物を積み込む。二頭立ての馬車に少なくない量の荷物を積み込むと少し車体が沈んだ気さえする

そこはノノールファさんが大丈夫だと言っていたので大丈夫と信じたい

……果てしなく怪しいけど



「馬車の操り方を教える前にまず馬の乗り方を教える必要があるな」


「えぇ~、馬車の操り方だけで大丈夫じゃないですか」


「ほう。ならもしも馬車の車輪が壊れた時には、一人おいていかれることになるのだがそれで良いのだな?」



グウの音も出ないとはこの事だ。結局ノノールファさんのスパルタ教育によって三十分もしない内に乗馬の基本を叩きつけられた。一応なんとか乗れるようにはなったが、乗っているというよりかは馬に乗せられているという感じが強い



「まぁその程度乗れればいいだろう」となんとかノノールファさんから合格を貰い、ようやく馬車の操作方法かと思いきや「後は乗馬の応用だ」とおっしゃりやがった!



何ですかその説明は!? 一を聞いて十を知るような頭の持ち主ではないのだよ僕は!



勿論そんなことはいえないわけで、適当にやってみると案外簡単に出来た。馬自体がもともと賢いのか、それとも僕の隠された力が覚醒したのかはともかく馬は軽く手綱を引いてやると進んで欲しいところに進んでくれた



「でどっちに行けば良いんですか?」



この街オルベスクはザルナ王国の首都から南の方向にあり、西へ進めば大森林地帯に、東へ進めばこの大陸の半分近くを支配するウェスベニア帝国、南へ進めばこの世界には珍しい共和制のバノン共和国など行き先は選り取り見取りだ。



ちなみにこの大陸の名はアーガーテ。三大陸の内で一番大きな大陸で多種多様の種族が住まう。他にも常に海洋を移動し続ける移動大陸テレジア、はるか上空に浮かぶ浮遊大陸オスタラなどの大陸がある。



「東門から出てナル川沿いを真っ直ぐ進め」


東門ということはウェスベニア帝国の方面か。帝国とザルナ王国は数年前から国境近くで小競り合いが起きていて、いつ戦争が起こってもおかしくないとニックから聞いている。

そんな危険な場所に行ってノノールファさんはどうしようというのだろうか?



少しは僕に今回どういう訳ではっきり何処へ行くのか教えてほしい

そんな僕の不満が顔に出ていたのかノノールファさんはいつもの無表情で



「どうした? 街道沿いはモンスターが出難いとはいえ、まったく出ない訳ではないんだぞ。集中しろ」



とキツイ一言。秘密主義がかっこいいのは絶賛厨二病の僕にも分かるがここまで隠されると本当に何かあるのではないか? と疑ってしまう

いや真面目な話、実際何かがあるから僕に隠しているんだろうけど。



本人はこういう時も魔導書から目を離さずにいる。さすがに周囲を全く警戒してないわけないので探知魔導を用いているのだろうけど、もう少しこちらに協力する格好をして欲しいものだ。何せこっちは慣れない手つきで馬を操りながら更にモンスターや盗賊なんかの警戒をしなければならない。少しでもノノールファさんが索敵の素振りを見せてくれれば精神的に楽になるんだけどな~



チラチラとノノールファさんに子犬のような視線を送ってみたが彼はまったくの無視を貫いている

僕は全く隠さずに重い息を吐いた





馬車を走らせて昼ごろにはナル川の中流に位置するサレマ湖に到着。サレマ湖付近はこの世界には珍しくモンスターの類が存在しない。準聖地と呼ばれる場所でモンスターの嫌がる鉱石成分が含まれている特殊な土地だ。その為準聖地の多くには都市や街が建てられているが、ここが準聖地たる所以はその鉱石成分が水に解けこんでいるかららしい



人間には害がないし、兎に角美味い。ミネラルが含まれていて硬水の筈なのにこの喉越しの良さ! これが異世界の不思議の一つなのか?


動物の皮で作られた二つの水筒にコポコポと水を汲む


少し肌寒いが、春の日に照らされ湖面がキラキラと輝く様子は絶景。これが旅の途中じゃなければこの湖の近くで生涯を暮らしたいと本気で思ったりする



「さっさと行くぞ。今日の道程はまだ半分ほど残っている」







再び馬車を操り始めて二時間、その異変に最初気づいたのはノノールファさんだった。


「おい、馬車を止めろ」


「えっ!? わ、わかりました」


僕は街道沿いの横の開けた地に馬車を誘導して止める。突然なんだろう?

異変は感じないがノノールファさんの言う事だ。止めた理由は決してトイレではないはず


「一体何ですか?」


「前の茂みをよく見てみろ」


彼が言っているのは街道の横の森から街道側に突き出た茂みのことだろう。ジッと見ていると茂みが時々ガサガサと蠢いているのが分かった。


何かいる?


ひょっとして待ち伏せか?



「探知魔導で分かったのは人型で四体のモンスターということだ。このあたりのモンスター分布からすると十中八九ゴブリンだろう」



モンスター。太古の時代から湧き続ける人類の敵



その種類は人族と同様に様々で人型系、アンデッド系、鳥系、ビースト系、植物系、虫系、邪霊系、ドラゴン系、非生物系etc.と数え切れないくらいいる。


そしてこのモンスターが人類の宿敵足りえているのはその強力な力だけではない


彼らは進化する生物だ。彼らの殺戮(他のモンスターや人間を含む)は自身の能力を高め、ある程度まで達すると別の生物へと進化することが可能になる。

例えばこのゴブリンなんかは人型系の中で最弱の代表的な存在だが、進化するとホブゴブリンという通常のゴブリンが五匹かかっても倒せない強い存在へとなる。更に進化するとゴブリンキング、オーク、オーガ(鬼)へとなり、それまでの環境や食べ物、特殊な条件によっては進化する先が変わってきたりするのだがそれを一々説明するとキリがないので今は割愛させていただこう



~閑話休題~



そしてこの人型系の基本であり始祖であるゴブリンの段階を一期と呼ぶ。そこから進化するごとに二期、三期へと変わっていく。この一期や二期なら通常の武器で殺せるレベルなのだが、三期になってくると通常の武器はほとんど受け付けなくなり、それに対抗するには魔や気が不可欠。

この点と、どういう訳か諸悪の根源たる一期のモンスターは何度絶滅させようと国家間規模で討伐しても再び何処からか沸いてくるおかげで、過去この大陸で戦争が起きたことが数回しかないのは皮肉といえよう





話は長くなったが、今ここで重要なのはどうやってゴブリンの待ち構える場所を突破するかだ


馬車の勢いで切り抜けても轍を目印にして追ってくるかもしれないから、今殺したほうが安全なんだけど……



「高名なサイフォー剣術道場に通う腕を見せて貰おうか?」


「い、いや無理ですって!」



一対一なら、サイフォーさんに五点と評された僕でもゴブリンに勝つことは出来るだろう

そのぐらいゴブリン単体は弱い生物だ。だが一度ゴブリンが群がれば歴戦の騎士とてそう簡単に討伐することは出来ない



数は暴力という言葉はこの世界でも変わることはないのだ



それでも四体ぐらいなら少々腕に自信のある奴ならそう苦労もしないで倒せるけど、僕にそんなものがあるはずがない!



「……仕方あるまい。お前はモンスターと闘うのは初めてなのだろう?」



コクリと頷く。物心ついた時からあの街オルベスクで暮らしてきた僕は城壁の上から遠くにいる鳥系のモンスターを見たことがある程度で、先ほどの知識もノノールファさんから教わったものだ。


正直実戦を考えただけで太ももがピクンピクンと震えてきてしまう。何せ幾ら弱いとはいえ奴らは殺意むき出しで僕達の命を狙ってくるのだ


怖くないはずがない


ノノールファさんが僕を見つめる無表情な顔にほんの少しだけ慈しみの感情が見えたが、それは直ぐに表情から消えた。きっと僕の勘違いだったんだろう


「なら石をあそこの茂みに投げてゴブリンをおびき寄せろ。後は私がやる」


言われるまま、手の平に納まるぐらいの大きさの石を拾い時速160km級の豪速球で投げつけた


あくまで気持ちだけだった僕の投げた石は大きな弧を描いて、それでも目標の茂みへとガサッと落ちる。良しっ、結果オーライ!


「グギャッ!」「ググウ!?」


驚いた声がする茂みに更に投石を開始する。しばらくするとさすがに投石攻撃に耐えかねたのか茂みから次々とゴブリンが飛び出してきた。


体つきは老人をそのまま赤ちゃんに変えたかのように背筋は曲がり、とんがった耳、醜悪な顔、頭には毛が生えてなくツルツルだ。申し訳程度に股間をボロ布で隠し、それぞれの手には棒っきれや錆びたショートソードが握られている



奴らはそのまま投石を続けようとしていた僕を見つけると怒りの声を上げながら走ってきた。


急いで僕は馬車の荷台の上に立つノノールファさんの後ろまで上り、その頼りがいのある背中に隠れ、僕とゴブリンとを遠ざける壁兼盾にする

彼は一度煩わしそうにこちらを見たが、そのまま何も言わずに指先の魔光で空中に陣を描きながら古代語で詠唱する。


陣が完成した印に一度光ると、陣の中から何かがもの凄い勢いで射出され、馬車に飛びかかろうとしていたゴブリンの体が揺さぶられる。


ノノールファさんの後ろに隠れていた僕が何が起きているのか分かった時には既に辺りに動くものはなかった。



そこにいたのは腹の真ん中を氷で出来た槍によって串刺しにされている四体のゴブリン。


そのゴブリンの目にはまだ光りが少し残っているように見える。自分がいつ死んだか分からないほど素早くノノールファさんの魔導によって殺されたのだろう



「ゴブリンの魔殊はほとんど二束三文だが、ちょうどいい機会だから魔殊の剥ぎ取りを経験しておけ」



前にも言ったようにモンスターは魔の製造機たる魔殊が体内に存在する。しかもそれは大抵生きていく上で一番重要な心臓にあることが多い



つまり魔殊を採取するには少々グロテスクな行為を覚悟しなければならないのだ。



「そんなに嫌そうな顔をするな。誰だって好きでやる奴はいないんだぞ」


「それは分かってますけど……」



前世でこんな死体を見ることもなかったし、動物ならまだしもゴブリンは人型だからどうしても人間の死体を連想してしまい、喉の奥から酸っぱいものがこみ上げてくる



さすがにゴブリンを殺して貰った手前、再びノノールファさんに頼るのも情けないので吐き気を堪えながらナイフで皮を、臓物を切り裂いていく。


時折ビュッと溜まった血液が噴出す度に軽い悲鳴を上げながらもなんとか魔殊を取り出すことに成功した。見た目は黄色く濁ったビー玉のような感じだ



「どうだ。簡単だろう?」


「ええ思ったよりは。でもしばらく肉が食えなくなりそうです」




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