少女との出会い
今回キリ良く終わらせるため短いです。すみません
ニャンニャンマウンテンの中腹から現れた彼女の名前はニャンニャンプリンセス――ではなくクィンネミアというらしい。色白の肌と大きな瞳を隠すようにレンズの分厚い丸眼鏡をかけているのが損をしているとしか言えない程の美少女。
そんな少女がなぜ猫の山の中にいたのかというと、毎日猫を餌付けしていたらいつの間にか懐かれて今日の様にじゃれ付かれるようになったらしい。あれがじゃれ付くというのか甚だ疑問だ。どちらかというと襲われていたに近いんじゃ?
「君は変わっているね」
「いや、わざわざ猫を追いかけてこんな所まで来る君こそ変だと思うよ」
そう言ってパンパンと服を叩いて彼女は汚れを落とす。猫にじゃれ付かれる前から汚れていたんだと一目で分かるほど服は汚れ、破けた後を別の布で縫い付けている様子から彼女の家は裕福ではないのだろう
あちこちに跳ねて、キューティクルも瀕死の状態の銀髪を少女は軽く撫ぜるがその程度では戻りそうにない。僕が『トリートメントはしているか?』と聞いたところで直ぐに否定されるだろうことは分かっていたので勿論口には出さなかった。彼女も手櫛では直らないと考え、途中で髪を整えるのを諦めると僕のことを興味深そうにジロジロと見つめだす。
う、気まずい。純粋な瞳が何も悪いことしてないはずの僕に罪悪感を感じさせる
これは新手の精神攻撃か!?
「確かアラン……君だったよね?」
いつの間にか僕の膝の上に納まっていた猫を撫でながらクィンの言葉に頷く。僕の手をおもちゃか何かと勘違いしているのか、執拗に猫パンチをしてくる猫の喉を擦って逆襲してやる。
猫は最初抵抗を見せていたが指先の神業レベルのテクニックにあえなく屈してゴロゴロと喉を鳴らし始める。ふふっ、僕の手にかかれば女(メスだと後で確認した)なんてこんなものよ
「アランでいいよ。僕も君のことクィンって呼ぶから」
クィンネミアは呼びにくいからクィン。我ながら中々のセンスだと自画自賛してみる
「…………」
「やっぱ――さすがに図々しかったかな。まだ僕達知り合ったばっかりだしね」
「――違うの! ……そうじゃないの。私、そんな風に呼ばれたの初めてだから……」
クィン(もう勝手に使っている)は満足そうに自分の愛称を何ども確かめるように繰り返して、その語呂が気に入ったのか眩しい笑顔を浮かべた
それはクィンが少し暗そうな少女だと思っていた僕の固定観念を粉々に打ち砕くのに充分な威力だった。
そんな中でも猫は空気を読まずにしきりに僕の右手を攻撃している。――痛っ!?
こいつ引っ掻きやがったな!!
「あ、ごめんなさい! この子普段こんなことしないのに……」
「こんなの平気だよ」
そう強がってはみたものの実際結構痛い。クィンがいなければ叫んでいたところだ
一応血が出てないかどうか、右腕に巻いた包帯を外して確認してみたが少し赤くなっていただけだった
それでも痛いものには変わりがないので猫をギロッと睨んで脅したが、猫はまったく怯まず睨み返してきた。その様子はまるでクィンという姫を守る騎士のように堂々としていて、先に目を逸らしたのは僕の方だったりする。
猫に負ける男というのも新しくてカッコいいんじゃないかな?
ダメ? そうですか……
「!? それ……」
うん? 何やらクィンが僕の右腕を見て固まっているぞ。ガキ大将にやられた傷跡はまだ残っているかもしれないが、見れないほどの傷でもないはず
いったい――アッ、なるほど…
右腕の甲の焼印。それを隠す為に包帯を巻いていたことを僕はすっかり忘れてしまっていたようだ
「じ、じゃあね!」
急いで包帯を巻きつけて逃げへの一歩を踏み出そうとした右足が不意に掴まれた。
バランスを崩した僕は顔から気持ちいいぐらいの勢いで地面に激突する
「ま、待って! に、逃げないで」
クィンは子供だし、僕が奴隷だという秘密を誰かに喋ってしまう恐れがある以上、僕は逃げざるを得ない。奴隷というだけで変な言いがかりをつけてくる奴らはたくさんいるのだ。それにもし在られもない罪を押し付けられた場合、主人であるノノールファさんの罪にもなってしまいかねない。
恩師であるノノールファさんの期待を裏切るような真似はしたくないという気持ちが一番だ
「は、離してくれよ」
クィンは全身に力を込めて僕の足を引っ張りつつ、突然自らのスカートの裾を捲り始めた。いきなりの行動にしばし呆然した後、直ぐに止めるようにクィンの腕を押さえ込む。
女の子がそんなはしたない真似しちゃいけません!!
こんな光景を人が見たら、きっと僕が少女に変態行為をしようとしているように見えるだろうなと頭の隅で暢気に思いながらクィンを止めようとしたが、予想以上に力が強い
剣術道場に通っているとは言え、長年のストリート貧困生活で体もあまり大きくない僕ではただでさえ成長期真っ盛りの同年代の女子の力には勝てず、その暴行を許してしまった
「見て、私のここ」
そんな甘い誘惑には乗らないとしっかり目を瞑ってみせる。同年代とは言え前世の分を合わせるとかなり年下なので、そんな厭らしい気持ちを抱いたりしないがこれは男としての最低限のマナーだ
ところが不意に目を突かれて、痛さのあまり思わず目を開いてしまう
そこで僕が見たのは太ももの辺りまでスカートを捲し上げているクィンの姿だった。
急いで目を閉じようとしたが少し違和感を感じて、指の隙間から覗いてみる
ん? クィンの太ももに何かある。
皮膚が黒ずみ、何やら植物の図柄を作り出しているそれに僕は酷い既視感を感じた
「君はもしかして……」
「そう、私も奴隷。あなたと同じ」
…………なん……だと?