第8話 黒い噂と怯える子供、俺たちがしっかりと守らなければ(アンドリュー視点)
「あの子はどうした?」
「アリシアと一緒に、洋服を買いに行きましたよ」
「それと他にも必要な物も買ってくると、うちのルーパートたちを連れて行った」
「そうか。はぁ、しかしあそこまで怖がるとは。一体どうしたのか」
「ずっとお前の後ろに、隠れるようにしていたな」
「ああ。初めてのスープ依頼、警戒してあまり寄ってこなかったが……。と言っても、あの鳥が、近づけさせないようにしているって感じだが。今回はあの鳥も、俺よりもあっちを警戒していたしな」
「完璧に敵認定されていますね、今だにそれですか。まぁ、最初からあんなことをすればね。大切な人を傷つけられたら、たまった物ではないとでも思っているのでしょう。はぁ、あなたはあいかわらず、魔獣たちから避けられますねぇ」
「ふんっ、まったく俺のことを何だと思っているんだか」
「おい、今はその話じゃないだろう。それにヒルドレッド、アンドリューが避けられるなど、いつものことだろう。いちいち言ってどうする」
「エディスン、お前までなんだよ」
俺は一気にお茶を飲み干す。まったく勝手なことばかり言いやがって。別に俺は、魔獣たちに何もしちゃいないだろう。まぁ、ちょっと力を入れるすぎることはあるが……。
「いい加減その話はやめろ。それでだ、何か気づいたことは?」
俺とエディスンとヒルドレッドは今、総団長の部屋に集まっている。あの子供の話をするためだ。
本当だったら、同じ種族が世話をした方がいいだろうと、総団長が人間側の総団長、アレクシオンに連絡をとり、今回の保護先を決める話し合いに至ったが。まさかあの子供が終始人間たちを怖がり、結局ほとんど話をしないまま、俺たちが保護することで決まってしまうとは。
いや、人間たちじゃないな。明確にフィンレイを怖がっていた。おそらくそのことは、ここに居る全員が、気づいていると思うがな。
「あれはセリオス団長も気づいたのでは? ……そしてフィンレイも」
「やっぱりそうだよな」
「鈍感なあなたじゃないのですから、すぐに気づきますよ」
エディスンが頷く。
「けっ」
やはり全員気づいていたか。
「しかし、何故あそこまで彼を怖がった?」
「部屋に入ってきた途端、すぐだったからな」
「……あの子が森にいたことに関係あるのか。それともあの子自身は関係なく、ただあの者を怖く感じて、あのようになったのか」
「彼女について、分からないことが多すぎますからね。ただでさえ彼女は記憶をなくし、森でのことが分からない状況で、そこに彼女の『表示内容』です」
「それで、どちらが保護するかって話になったからな」
実はあの子供には悪いが、保護してすぐ、ある道具を使い、あの子の情報を見させてもらっていた。その道具を使うと、名前や年齢などの基本情報から、その人物が持っている能力までが道具に表示され、確認できるんだ。
本来なら勝手に見ることは許されないが、今回は彼女を保護する上で必要だと判断し、使用させてもらった。
すると、だ。名前の表示はなく、使える力も半分以上隠された状態で。はっきり分かったことといえば、年齢と、一応全属性の魔法が使えるということだけだったんだ。
「あれほど、情報が見られないのも珍しいからな」
「あの子がどんな存在なのか。消された力があまりにも珍しく特別なもので、その力を狙い誰かがあの子を捉えようとしたため、わざと名と力を隠し、そして逃げていたが。あの森で襲われ、あの子だけがあそこに取り残されることになったか」
「または、あまりにも問題のある力を持っており、それを隠そうと全ての情報を伏せておきながら、最終的にあの子を消してしまおうと、あの森へ捨てたか」
「それ以外の理由か……」
「考えれば考えるほど、いろいろな状況が考えられるからな」
「どちらにしろ、あの子供には何かあるってことだ」
「そして記憶は失っているが、そのどこかにフィンレイ・ストーンフォードに関する記憶があり。完全には思い出せなかったものの、怖い存在だというのはなんとなく感じて、あの怖がり方に至ったか」
「彼女に、何が起きたのかは分かりませんが、何かしらフィンレイ・ストーンフォードが関わっている可能性が高そうですね」
「……あいつには黒い噂があるからな。はぁ、何だって向こうは、あいつを副団長になんかしたんだか」
「それは向こうの判断だ。私たちに何かいう権利はない。彼らがフィンレイ・ストーンフォードを選んだ。それだけのことだ」
「しかし、もしも関わっているとすれば、今後、彼女に接触してくる可能性もあります」
「そうだな。その可能性は高い」
「少しでもあの子供の記憶が戻れば、どうにかすることもできるんだがな」
「記憶を取り戻す。この前も言ったが、無理やりそれを強要することはできない。だが、もしもフィンレイ・ストーンフォードが関わっているのならば、あの時怖がってくれて良かったのかもしれない。私たちが守ることができるからな」
「そうですね」
「まぁ、そうだな」
「あの子の今後だが、まずはあの子を守ることを優先する。どこへ行く時も、必ず誰かがつくようにし、身の回りで何かあった場合はすぐに報告するよう、皆に伝えてくれ」
「「「ハッ!!」」」
あの子供に何があったのか、まだ何も分かっていない。しかし、あんなに小さな体で記憶をなくすとは、どれほどの恐怖を味わったのか……。保護した以上、少しでも安心して暮らせるよう、俺たちが守ってやらなければ。
そうだな。俺の場合はまず、俺に敵意を剥き出しにし、しかも時々攻撃してくるあの面倒な鳥に、俺のことを分かってもらうことから始めないとな。じゃないと、話し合いの時は特別だったんだろうが、普段はあの子供に近づくこともできやしない。
と考えていた時だった。
「ごめんなさいね。さぁ、行きましょうか」
「あい」
『ぴぃっ!』
買い物に行ったはずの子供たちとアリシアが、医療いつから出てきた。俺たちはすぐに声をかけた。
「アリシア、どうしたのですか?」
「もう買い物を終わらせたのか?」
「いえ、私がちょっと忘れ物をしちゃって。今、もう1度出るところよ」
「そうなのか」
「さぁ、行きましょう」
「いってきましゅ!!」
「気をつけてな」
「欲しい物があったら、ちゃんと言うんだぞ」
「転ばないようにな」
『ぴぃっ!!』
「いってっ!」
鳥が俺のひげを抜き、さっさと子供の頭の上へ戻ると、こちらをニヤリと見てきた。すると、それを見ていなかった子供が鳥に話しかける。
「どちたの?」
『ぴぃ、ぴぃっ』
「ああ今のは、何でもない。ちょっとついでに、と言ったのですよ!」
「ふ~ん?」
ヒルドレッドからそう聞きいたあと、玄関から出ていく子供と鳥とアリシア。が、ドアが閉まる直前、鳥がもう1度ニヤッとこっちを見てきた。
「何だよ、俺は何もしてないだろう。大体ついでにって何だ? さっきは一緒に子供を守ってたじゃないかよ」
「元に戻ったんだろう。あちらの方がお前よりもまずい存在だと認識しただけで、奴がいなければ、今ここで1番の危険人物はお前だからな」
クッ、絶対に認めさせてやる。




