第63話 ペタ洋服で描かれるムムギの道の地上絵
簡単に説明すると、コロコロ転がっているだけね。ペタ洋服を着た状態で、そのままコロコロ、コロコロと、ゴミが落ちている場所を転がるの。
まず、ムムギについてだけど。麦に似ている植物があって、その実をムムギと言い、とにかくちょっとしたことで、パラパラとそこら中に散らばっちゃうんだ。
ただ、肉食魔獣だろうが、草食魔獣だろうが、どんな魔獣もみんなこのムムギが大好きで、具合が悪い時でも、煮て柔らかくすると食べてくれるくらいなんだよ。だから買ってくる以外にも、宿舎で育てているの。
住民たちの中にも、ムムギを育てている人たちがいて。多めに収穫できた分は、街の食糧庫へ運んで、非常食としてとっておくんだ。それに、人や獣人、他の種族の人たちの非常食にもなるしね。
これが、いろいろな料理が作れてね。とっても美味しいから、私もグルルもモルーも大好きなの。この前は、サイラスさんが、ムムギとお肉を合わせてたハンバーグを作ってくれたよ。
味が美味しいのは、サイラスさんのご飯だから絶対だけど。ムムギがいい具合にプチプチで、これがなかなか癖になるんだ。
ただ、この時は、プチプチ食感だったけど、作り方によって食感が変わってね。それもムムギの面白いところなんだ。
ただ。そう、ただね。さっき言った通り、ちょっとしたことで散らばるから、床に落ちるのを止められなくて。今回の掃除で1番多いゴミは、たぶんムムギなんじゃないかな? 履いたと思っても、どこからともなく出てきて、絶対1回じゃはみ終わらないし。
そんなムムギのゴミの上を、ペタ洋服を着た状態でコロコロ転がれば? ペタ洋服には、しっかりとムムギが付き、そして転がった後には、綺麗な小さな道ができるんだ。
『ぴぴ!? ぴぴぴぴぴ!!』
『本当なんだじょ!? あおとしーのマークができたんだじょ!!』
なになに、今度はどうしたって?
いつまでも、あお君たちを見ていちゃ、掃除ができないからね。隙間はあー君たちに任せ。それでも大人では狭い場所の掃除を始めたんだ。でも……。
最初は私が箒で履いて、その時に取りこぼしたゴミを、ピィ君とミッケに、小さな箒で履いてもらっていたんだけど。気づけば、いつの間にか2人の姿は消えていて。後ろを振り返れば、少し後ろの方でピタリと止まり、何かを見ていたよ。
「ぴぃくん、みっけ、しょじ!!」
『ぴぴ、ぴぴぴ!!』
『リア、おいらも、あれやりたいんだじょ!!』
「はぁ」
ピィ君は、リア、あれ良い!! って言ったの。私は溜め息を吐きながら、ピィ君とミッケのところへ。
「なにがよくて、なにをやりたいの?」
『ぴぴぴ、ぴぴぴぴ!!』
『おいらも、自分のマーク描きたいんだじょ』
「じぶんの、かきたい? まーく?」
ピィ君とミッケは見ている方を見る。……って、何あれ?
私が目にしたもの、それは……。ムムギをペタ洋服にくっ付けることでできる、綺麗な道で描かれた、あお君としー君のマークだった。
そしてそのマークの隣では、あお君としー君が、コロコロと転がり、あー君たちのマークも描いているところだったよ。
『コロコロ、どこにでも転がれるようになった』
『右、左、斜め、前、後ろ。いろんな方向へコロコロ』
『掃除しながら、描けることが分かった』
『みんなのも描けるよ』
『えー、僕まだ、横にしか転がれないんだけど』
『私もよ』
『でも2人は、すぐにできるようになったのよね』
『なら、俺たちもすぐに、できるようになるんじゃないか?』
『よし、掃除して、たくさん転がって、自分のマークを描こう!!』
『隙間の掃除で練習して、それで本番は、広い場所の掃除をしながら描いた方が良いわね』
『そうね。広い場所で描かないと、しっかり自分たちのマークが描けないものね、練習で書けなくなっちゃダメ』
『よし! 俺はここの隙間だ!!』
あー君たちには、自分だけのマークがあるんだ。あるというか、作ったというか。みんなが約束の日以外に遊びに来た時に、毎回私たちが宿舎にいるとは限らないでしょう? それで何回か行き違いになったこともあるし。
そういう時は、遊びにきたよとか、また今度、いついつ来るねとか、メッセージを残しておいてってお願いしたの。妖精の文字は読めないけど、私たちにはミッケがいてくれるからね。それは問題なし。
それと、そのメッセージを残した時に、誰がメッセージを書いたのか分かると、もっと良いから。名前を書いたり、何かマークを書いたらどうかな? って言ったんだ。
だから最初は、名前を書いていたあー君たち。だけど、私がこの街で友達になった子から手紙が来た時に、その子が手紙にマークを書いていてね。それがカッコよくも、可愛くも見えたみたいで。それから、それぞれのマークを考えたんだよ。
あー君が2重の三角。ぴーちゃんが2重のハート。みーちゃんがお花のマーク。きー君が、ギザギザの雷マークを3つ並べたマーク。そしてあお君が、りんごみたいな果物、リーンのマークで。最後しー君は、子犬みたいなかわいい魔獣の顔マーク。
今、あお君としー君はそのマークを、ムムギの綺麗な道で描き。その後、あー君たちのマークを描いてあげていたの。
というかね、あお君としー君のあの動きは何? 本当に自由自在にコロコロ転がっているんだけど。というか転がるだけじゃなくて、転がった状態でジャンプもしてるんだけど。羽は? いくら羽がペタ洋服にくっ付かないからといって、その状態で羽はなんともないの?
『ムムギ、いっぱい。捨ててからまた描く』
『うん、そうだね』
パタパタと、ゴミ箱まで飛んでいき、ブルブルと体を振ってムムギを取り、戻って行くあお君としー君。うん、あれだけおかしな動きをしても、羽は大丈夫みたい。って、なに新しい芸術を生み出しているのよ。
『ぴぴぴ、ぴぴ。ぴぴぴぴぴ』
『そうなんだじょ。おいらも自分のマークを、綺麗に描きたいんだじょ』
カッコいい、完璧。あれはやるべき、だって? ピィ君とミッケにはまだ、マークはないでしょう。
「まーく、ないでちょ。かけない」
『ぴぴぴ、ぴぴぴぴぴ。ぴぴっぴ、ぴぴぴぴぴぴ』
今はない、だけどすぐに考える。カッコいいマーク、それでみんなよりも完璧に描くって?
『おいらも、カッコいいマーク考えるんだじょ。それで、ピィよりも完璧に描くんだじょ。ハッ!! やっぱりペタ洋服必要なんだじょ! エドウッドに、いっぱいお願いなんだじょ!!』
『ぴぴ!? ぴぴぴぴぴ!!』
そうだ!? お願いしなくちゃ!! じゃないよ。今にも、エドウッドさんのところへ、飛んで行きそうになるピィ君とミッケを止め。お願いは、ちゃんと掃除を終わらせてからと、無理矢理掃除を再開させる私。
それでなんとか、掃除は始めてくれたんだけど……。まぁ、チラチラ、チラチラ、何回もあお君としー君の方を見ちゃって。練習している、あー君たちの方も見て。どれだけ、コロコロ絵が描きたいのか。
ただ、まぁ、掃除はちゃんとしてくれているから、チラチラくらいさせてあげるか。私が取り残したゴミをチラ見しながら、少しも残さず綺麗に箒で履くピィ君とミッケ。
それだけじゃなく、どこからか降ってきた埃を、その場でパシッ!! と捕まえて、横に用意してあったペッタンに貼り付けてね。これをよそ見しながらやるんだから。
その動きが、ベテランの動きでさ。ほら、どんな職業にも達人がいて。そういう人たちって、手元を見ていなくても、いろいろ作業することができる、凄い人たちじゃない? グラムが変わらないとか、同じ形にできるとか。
そんな感じのベテラン感を出す、ピィ君とミッケ。マークを描くのも凄いけど、その動きも凄いと思うんだけどな。




