第59話 姿の見えぬ力ある者
「姿は現さず……か。おい!! どこかで私を見ているのだろう!! 姿を現し、話をしたらどうだ!?」
気配も返事もない。しかし……。あれだけの力を爆発を起こす魔獣なのだ。気配を隠すことなど、容易にできるだろうし。その状態で、姿を隠しながら、私を観察することも可能なはずだ。
「お前が何のために、あの力を使ったのか、まだ我々は調査中だ。しかし、もし森を破壊することが目的ならば、もうここは無事では済んでいないだろうし。あるいは、ここに住む魔獣たちをどうにかするつもりならば、ここまで魔獣たちは落ち着いていないだろう。まぁ、面倒な者たちは、少々ピリピリしているようだが」
他から見れば、誰もいない場所で、1人で話している私の姿はおかしく映るだろう。だが、奴は確実に近くにいるはずだ。森の奥へ入って来た者は、私だけだからな。
街で感じたあの力の爆発。あれは間違いなく人間のものではない。魔獣か獣人にまつわるものだ。が、あれほどの巨大な力を使える獣人は、そうはいない。おそらく私が生きているうちで、数人出会うかどうかだ。
そのため、もしかしたらそのうちの1人が、この森であの爆発を起こした可能性もある。これは否定できない。
だが、あの時の感覚……。私だけではなく、ブランデンや、ヒルドレッド、ローゼンベルト、他の獣人たちも、はっきりと口には出していないが、皆が獣人ではなく魔獣だと思っている。元騎士で今は料理長のサイラスも、私が出て行く時、魔獣に気をつけろと言っていたくらいだ。
「この森には、危険なことと、物も少ないこと。そして街から近いことから、街の住人たちがよく来る森だ。そのため、定期的に魔獣たちの調査が行われているが、お前のような存在は、1度も確認されたことがない。おそらく最近この森へ移動して来たのだろう。そして、他の魔獣たちが落ち着いているということは、お前がここで暮らすことを認めているということ」
もしも、これだけ力があり、他の魔獣たちや森へ害をなす魔獣が、他の場所から移動して来た場合、すぐにでもこの森の頂点に立ち、他を服従させるだろう。
すると、魔獣たちは大人しくなるだろうが、空気はかなり悪いものとなり、それこそ私やブランデンたちは、すぐに森の異変に気づくはずだ。
しかし、あれほどの力の爆発があったというのに、ここまで森が落ち着いているとなると、皆がこの力のある魔獣を受け入れ、普通に生活をしているということ。それどころか、前よりも空気が良くなっている。ならば……。
あの力の爆発がなぜ起きたのかは分からないが、奴が本当に森のこと、魔獣たちのことを考えているのならば、今は爆発以上の問題は起こらないはずだ。
「この森で、何か問題が起きていているのか!? お前の手に負えないほどで、我々の力も必要なほどの問題が? それとも、もうこれ以上問題は起こらないか!? 話をする気は? お前の話を聞けば、私や他の獣人は、すぐにここを立ち去るぞ。安全が分かればな」
私の言葉に、相手は何も返してこない。これでは街へ戻るのがさらに遅くなってしまう。まったく面倒な。
「はぁ。では、問題がないのならば何でも良い、合図をしろ!! ……そうだな、何か音を立てればいい。問題がない場合は1回、問題がある場合は2回だ。それくらいはしても良いのではないか? あれだけの力は、さすがに私たちも放ってはおけない。それくらいお前も分かっているだろう」
と、その時だった。少し向こうの方から、バーンッ!! と岩を叩いたような、大きな音が聞こえて来た。やはり居たな。
「問題がないと言うことだな!?」
バーンッ!!
「それは今だけか? それともこれからもか? 今だけの場合は1度鳴らせ!」
バーンッ!!
「分かった。今はお前を信じよう。だが、また少しで異変を感じた場合は、その時はしっかりと森を調べさせてもらうぞ。いいな!?」
バーンッ!!
「それでは、私は戻る! 邪魔をしたな!!」
結局姿を見ることはなかったが、まぁ、今はこれで十分だろう。あれほどの力の持ち主と揉めたところで、良いことは何もないからな。だが……。
今度リアたちが、ここへ来ることになっている。私が付き添いでくる予定だが、一応気にしておいた方が良いだろう。
私は急ぎ、ヒルドレッドたちの元へ戻る。するとヒルドレッドたちは、別の場所へ調査へ出る前だった。
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「おう、問題には会えたか?」
「姿を見ることはできなかったが、返事はもらった。問題はないと。そしてそれは、今だけではなくこれからも、だそうだ」
「そうですか。まぁ、森の魔獣たちは、ある者たちを除いては、いつもよりも落ち着いていますからね」
「1箇所に集中して集まっているのは、もしかしたら、俺たちが来ると分かっていて、皆で集まっていた方が良いと判断したからかもな。あの力を見て、俺たちが絶対ここへくると、それで俺たちに攻撃されといけないって感じにな」
「おそらくそうだろう。そして、それを指示したのが、奴かもしれん」
「まぁ、とりあえず問題はないって言われたなら、俺たちは帰るとするかね」
「報告はどうしましょうかね。総団長も大体は分かっていると思いますが」
「そのまま報告すりゃ良いさ。新しい奴が住み着いたみたいだが、今のところ問題はないみたいだってな」
「どうだった?」
話していると、他へ調査に行っていた、ローゼンベルトたちが戻って来た。
「今のところ問題はないようですよ。そして、一応これからも問題はないと」
「会えたのか?」
「いいや、姿は見ていないが、返事はもらった」
「そうか。……子供たちがここへ来るのは?」
「大丈夫だろう。あの感じだと、我々と敵対するつもりもないだろうからな。だが、そうだな。心配ならば予定を変えると良い」
「いや、お前が大丈夫だと言うのなら大丈夫だろう。ここは初めてを経験するには、本当に良い場所だからな。それにお前もいる」
「そうか」
「よし! それじゃあ戻るか! おい! お前たち……」
皆が帰る支度をし始める。
一体、相手はどんな魔獣なのか。これをリアたちにどう伝えるか。あーたちがいるからな。変に隠しても、すぐに気づかれてしまうだろうし。
ならばここは、森に力を持った存在がいると、そのままを伝えて、心に留めておいてもらった方が良いだろう。
「よし、街へ戻るぞ!!」
それは少し気は思い。だがとりあえず、森で大きな問題は起きていないようで良かった。




