第46話 お説教と、優しくてとっても強いアリシアさん
「今日の訓練が終わったから、手伝いに来たんだが。あれはどうしたんだ」
「いつものお前と、同じようなことをやらかしたんだよ」
「は?」
「いま、あたちたちは、なんのじかん?」
『ぴぴぴぴぴ……』
『お手伝いだじょ……』
『うん、お手伝い……』
「どんなおてちゅだい?」
『ジャガー洗い』
『今日は外で野菜を洗うお手伝い』
「しょれで、いまは、なにちてるの?」
『ジャガー追いかけてるじょ』
『ツルッとポ~ンッて逃げた、ジャガー追いかけてた』
『ぴぴぴぴぴ』
『そう、捕まえようとしてた』
「でも、みんな、ちゅかまえてなかった。ちゅかまえないで、なにちてたの?」
『ぴぴぴ……』
『喧嘩してたじょ……』
『みんなで喧嘩……』
「しょれは、おてちゅだい?」
『ぴぴぴぴ……』
『違うじょ……』
『違うわ』
私の前には今、ピィ君、ミッケ、あー君たちが、正座じゃないけど、きちんと背筋を伸ばして座っている。そしてその隣には、私が踏んでしまったジャガーが置いてある。
「で、何が原因で。あんなことになってるんだ?」
「お手伝いから、喧嘩に発展してだな……」
そう、喧嘩の末、私の足元へ飛んできたジャガーを踏んだ私。ツルッとポ~ンッのジャガーを踏んで、無事でいられるわけがなく。私はそのまま、後ろに倒れるように転びそうになったんだ。
ただ、間一髪で、ボルトレーンさんが私を受け止めてくれたから、私が怪我をすることはなく。ついでに、私が踏んだジャガーも、また私が転ばないようにって、ボルトレーンさんが拾ってくれたの。
そして私は、何度もボルトレーンさんにお礼を言ったあと、問題のジャガーを受け取り、ピィ君たちを見て。
私がすっ転びそうになった姿を見て、固まっていたピィ君たちに、私の前に座るように言い、そこからは、お説教タイムに。と、ここで、アンドリューさんが来たんだよ
『おてちゅだいは、あしょびじゃない! たのちいおてちゅだいだけど、ちっかりやらないとだめ』
『ぴぴ……』
『うんなんだじょ……』
「あたちいった。じゃがちゅかまえる。けんかちないって。どちて、あたちのはなち、きいてくれないの。じゅっとけんか、しゃわぎっぱなち。これは、だめ! おてちゅだいじゃないでちょ!?」
『うん、ダメ……』
『お手伝いじゃない……』
「おてちゅだいちないなら、べちゅのばしょで、けんかしゅる! しょれか、べちゅのばしょであしょぶか、あーくんたちは、おうちかえる!」
「なぁ、ボルトレーン」
「何だ?」
「リアのあの怒り方、よく見る気がしないか?」
「“俺自身”は、そんなに体験したことはないが、誰かさんのこういった場面には、よく出くわすな。うん、その光景にそっくりだよ。その誰かさんは今、俺の隣にいるが」
「……そのことは良いんだよ。というか、お前も俺と変わらんだろう。じゃなくて、この光景だよ。リアのあの姿、アリシアが怒っている時の姿にそっくりじゃないか?」
「そっくりだな」
「あの立ち方や、叱り方、体も動き、そっくりだよな」
「以前よりも、もっとな」
「このままだと、今はリアだけかもしれないが、それがピィやミッケに広がったら、第2、第3のアリシアが生まれることになるぞ」
「それは否定できない」
「……誰に誰が似ていて、何を否定できないのかしら?」
「……」
「……」
ぎゃあぁぁぁ!!
私がピィ君たちに、お手伝いについて、しっかり分かってもらおうとしているのに。誰だ、叫んでそれを邪魔してくるのは。
そう思い後ろを向くと、そこにはいつの間にか、アリシアさんがいたんだ。……両腕で、アンドリューさんとボルトレーンさんの首を、締め付けているアリシアさんがね。アリシアさん、なんでそんなことしてるの?
「ありちあ? なにちてるの?」
あまりにもな光景に、私に怒られて、下を向いていたピィ君たちも、そろそろと前に出てきて、アリシアさんを見る。
「ああ、これはちょっとね。2人の反射神経を試してみたのよ」
「はんちゃしんけ?」
「そう。その前いろいろあったでしょう? それに、あなたも攫われてしまったし。反撃もできず、簡単にリアを攫われてしまうなんて、アンドリューたちの動きがなってないってことなの。だから時々、私がこうして、反射神経が良くなるように、訓練してあげているのよ」
『訓練なんだじょ?』
『ぴぴぴ?』
「そう、訓練よ。でも、いくら訓練しても、全然ダメなのよね。それに、背後に人がいるのにも気づかないなんて……ね。もっともっと訓練が必要だと思わない? アンドリュー、ボルトレーン?」
「あ、ああ。俺はまだまだだな」
「そ、そうだな。アンドリューは、まだまだだな」
「あら、ボルトレーン。あなたは違うの?」
「俺はほら、料理担当……」
「違うの?」
「……いいえ、俺もまだまだです」
「そうでしょう! 後で、そのことについて、しっかりきっちり話をしましょうね」
おおおおお!! アリシアさん、カッコいい!!
私の、アリシアさんの印象。宿舎に来た頃は、物腰が柔らかくて、治療が終わっても、念のため治療室に残る人たちがいると、その人たちに尽くしてくれる。そんな、とっても優しい人だから、医療班で働けるんだろうなぁ、と思っていたんだ。
でも最近は、獣騎士さんたちと一緒に狩に行ったり、魔獣の暴走が起きると、その魔獣たちを止めに行ったり、総団長さんたちと、行動を共にしていて。
他にも、この間なんて、街のお店通りで、アリシアさんと一緒に買い物をしていたら、体がとても大きなゴリラっぽい獣人、ゴリーが逃げてきて。そいつは、引ったくり犯だったんだけど。
なんと、小柄なアリシアさんが、自分よりも横幅が2倍以上はあるんじゃないかと思われるゴリー獣人を、軽々と背負い投げにし。その後、お腹を1発殴って気絶させ、見事捕まえたんだよ。
だから今のアリシアさんの印象は、獣騎士さんよりも戦えるかもしれない、強くて優しい看護師さんって感じなんだ。まぁ、この世界に、看護師さんって言葉はないから、みんなには言っていないけどね。
何にしても、私にとっても、ピィ君、ミッケ、あー君たちにとっても。アリシアさんは、憧れの人になったんだ。
「ありちあ! かっこいい!!」
『ぴぴぴぴぴ!!』
『カッコいいんだじょ!!』
『『『ウエ~イ!!』』』
「フンッ!」
私たちの、カッコいいの声と共に、投げ飛ばされるアンドリューさんとボルトレーンさん。それに、拍手する私たち。
「ふぅ。それで、私は、リアたちに、嬉しい伝言を頼まれたんだけど。どうしてみんな、リアに怒られていたのかしら?」




