第44話 あれから1ヶ月、そしてお手伝いの毎日は続く
「そうか。アレは捕えられたか」
「いかがいたしましょう」
「アレがどうなろうが、どうでも良いが、アレの力を調べられると少々面倒だな。今のアレの様子は?」
「今は力の暴走は治っており、普段通りの奴に戻っております」
「取り調べはどうだ?」
「何も答えておりません。ここ数日は尋問も激しさを増しておりますが、悲鳴1つあげないので、向こうも次の尋問を考えているようです」
「フン、あいかわらずか。……アレは口を割ることはないだろう。アレはそういう風に作られた人間だ」
「では、そのままで?」
「いや。アレが何か言わなくとも、何かの拍子に、力に気付かれる可能性がある。あの力は、これからも我々にとって、なくてはならないものだ。それが今気付かれてしまえば、これからの計画に支障が出るやもしれん」
「それでは、生きているうちに、やつの救出を……」
「いや、生死は問わん。救出の際、何かあって、アレが死にそうになったなら、そのまま指輪だけ回収して戻ってこい。助かった場合は、予定通りそのまま、実験体として扱う」
「はっ!」
「それと、アレが気にしていた子供だが。お前から見て、その子供はどうだ」
「奴が思っているような、特別な能力はないと。奴から攻撃を受けている最中も、ずっと守られていました。もしも何か強い魔法を、珍しい魔法を使えるならば、使っていたはずです。しかも最後は、あんな物を……」
「……そうか。しかし、あれが現れたのも事実だ。そこだけは気にしておいた方が良いかもしれん」
「消えてからは、少しも奴の存在を感じることはありませんでした」
「アレなら、気配を隠すことも造作もないだろう。しかし、いつの間にか復活していた奴が、なぜあの場に現れたのか。たまたまか、それとも……」
「このまま、奴らの監視を?」
「いや、そちらは後だ。次の計画に移る。それにはまだ、人数が足りんからな。他に人を割いている場合ではない」
「では、ついにあれを?」
「そうだ。そのための……」
「ねぇ、俺はいつ動けば良いのさ」
「おい、***様の前だぞ!」
「煩いなぁ。そっちの話が長すぎるんだよ。どれだけ待ってると思ってるのさ」
「お前……。大体お前はいつも」
「静かにしろ」
「……」
「……」
「ここまでは、大した計画ではなかったが、これからはそうもいかんだろう。計画を確実に実行するには、万全を期して当たらなければならん。いいか、それぞれのすべきことを忘れるな。ましてやくだらないことで、争う時間などない。オズマンド、お前はすぐにアレの元へ」
「はっ」
「ディードリド、お前は私について来い」
「は~い」
「なんだ、その言葉遣いは」
「あれ? 争ってる時間はないはずだけど?」
「お前!」
「早く行け」
「チッ!」
コツコツコツコツコツ……。
「ねぇねぇ、本当にアレをそのまま連れて帰ってくるの?」
「ああ、まだ使い道はあるからな」
「ふ~ん」
まっ、良いけどね。どうせ***様の後は、僕が実験に使わせて貰えば良いだけだし。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
「え?」
『だから、あの黒い炎男、消えたんだって』
『それに、見張ってた人たち、消されちゃったって』
『人間の方、今大騒ぎよ』
フィンレイを捕らえてから約1ヶ月。今、あー君たちがある報告をしに、掃除の手伝いをしていた私のところへ来てくれたんだけど。
それとほとんど変わらないタイミングでエディスンさんが来て、ヒルドレッドさんとエドウッドさんのところへ行くと、深刻そうな表情で、3人で話し始める。
フィンレイが捕まってからの、この約1ヶ月は、まぁ、怒涛のように過ぎていって。ようやく今まで通り、といっても、まだまだドタバタしているけど。私がこうして、お手伝いを再開したのは、つい数日前。それまでは、本当にみんな大変だった。私を含めてね。
まず、フィンレイに私が攫われる前、アルバートさんにイライアスさんから交信があったでしょう? でもアルバートさんは、イライアスさんが何を言っているのか聞き取れなくて。
あれはね、イライアスさんたちがフィンレイに襲われ、大怪我を負ってしまっていて、きちんと会話が出来なかったからだったんだ。
どうも、私やピィ君やミッケ、それからあー君たちのフィンレイに対する様子を見て、おかしいと思ったイライアスさんが、アルバートさんに私たちのことを伝え。
イライアスさんはそれからずっと、数人のエルフさんたちと一緒に、フィンレイを見張ってくれていたらしいんだ。
でも、私が攫われる前にフィンレイに襲われて、全員大怪我を負ってしまってね。みんな、今は元気になったんだけど。宿舎に戻ってから、イライアスさんたちの怪我をした姿を見た時は驚いたよ。
レーノルド先生とみーちゃんが居てくれて、本当に良かった。じゃなきゃ、助からなかったかもだって。
あと、宿舎に戻ったすぐの時は。これも本当に、私のせいで申し訳なかったんだけど。私を助けるために、みんなが動いてくれていて、宿舎にあまり獣騎士さんが残っていなくてね。
そんな中、エディスンさんが指揮をとって、私たちが戻って来てから10分もしないで、フィンレイを受け入れる体制を整えると。
その5分後に、拘束の鎖でグルグル巻にされ、アンドリューさんに担がれたフィンレイが、ミッケたちの作ってくれた入り口から戻ってきたんだ。
拘束の鎖は、重犯罪者に使われる、特別製の鎖らしくて。これで巻かれると意識が朦朧とし、魔法を使うために必要な魔力も抑えられ、ほぼ何も出来ない状態になるみたい。
総団長さんが危険だと判断して、何人かに持たせていたんだ。これでフィンレイは、あとで目覚めても、何もすることは出来なかったよ。
ちなみに入り口は、私の部屋に繋がっていたよ。ほら、他の人には見せられないでしょう? 宿舎には人もいるから、だから私の部屋に入り口を作ったんだ。だけど……。
総団長さんたちも、ピィ君、ミッケ、あー君たちも。みんなが、フィンレイのことが終わって、掃除も完璧にしたのに。1度でも、そして気を失っていたとしても、変な奴が入った部屋は使わせられないって言って。私たちは新しい部屋に、引っ越しすることに。
だから、この入り口はもう消されて。今度新しい部屋に、入り口を作る予定なんだ。
そして、その問題のフィンレイの今は……。王室に、そういった重犯罪者を扱う機関があるらしく、そこへ送られて尋問を受けている、はずなんだけど。
もちろんそちらへ引き渡す前に、総団長さんたちも尋問はしたよ。でも何も答えることはなかったフィンレイ。ずっとニヤニヤしていて、とっても気持ちが悪かったって、ミッケたちの報告。
何で、そんなことをあー君たちが知っていたか。取り調べ室に入り込んで、様子を見てきたらしい。
まったく、危ないことしてって怒ったよ。だって、あのフィンレイだからね、何があるか分からないじゃん。
ただ、そんなあー君たちに、密偵ができるなと笑った獣人がいる。そう、アンドリューさんね。だからアンドリューさんも、あとで総団長さんに、みっちり叱ってもらったよ。あー君たちがその気になったらどうするんだ。
それから、フィンレイが所属していた、人間の騎士団の方だけど。こちらも、何事もなく終わるなんてことがあるわけなく。というか、結果的にはこっちよりも、人間の騎士団の方が問題なわけで。
全員が王都からきた機関の人達に、事情聴取を受けたんだ。重罪犯が所属していただけでも問題なのに、副団長をしていたんだからね。
その時に、フィンレイや、フィンレイが属しているかもしれない、魔獣や獣人を差別する組織との関わりを詳しく調べられることに。
その結果、直接的に何か関係している人はいなかったものの、数人がそういった差別する組織やグループに属していることが分かり。今回の件があったから、フィンレイと一緒に、王都へ連れて行かれたんだ。
それから、フィンレイを副団長に決めた、人間側のアレクシオン総団長さんと関係者も処分されてね。総団長さんは責任を取って、騎士団を退くことになったんだ。
これは後から聞いた話だけど、アレクシオン総団長さんは、もともとフィンレイの黒い噂を知っていて、副団長にするのを反対していたらしい。でも、アレクシオン総団長さんよりも偉い貴族の人たちが、押し切る形で決まってしまい……。
どうにも、その貴族の中に、フィンレイの関係者がいたみたい。だから、その貴族も取り調べを受けることになって、今は王都にいるよ。
ただ、アレクシオン総団長さんは、みんなからの人望が厚いため、辞めてからも時々騎士団に顔を出して、みんなの話を聞いてあげたり、何かあれば力を貸してあげたりしているって。それ以外の時間は、冒険者として活動しているらしいよ。
ちなみに、フィンレイの黒い噂っていうのは、子供を攫って売買している、というもので。これに関しても、今後詳しく調査されるみたい。
もしこれが本当だったら、これまでにどれだけの子供たちが被害に遭っているのか……。しっかり調べて、助けられる子はみんな助かってほしいな。
そうして、私たちといえば。まぁ、私もいろいろ聞かれましたよ。ただ、子供ってことで、他の人よりは短い時間だったけどね。
それと、私がここへ来た時のことも、一応もう1度調べられることに。状況が状況だったから、こればかりは仕方ないんだけどね。
ただこっちも、総団長さんたちが調べた内容に、おかしな点はなかったから、これといって何かを突っ込まれることもなく。逆に記憶をなくしていると知って、優しくしてもらったよ。
と、こんな風に、約1ヶ月は、怒濤のように過ぎていったんだ。そして今……。
フィンレイが、何者かの手によって脱獄したらしい。王都から知らせがあって、その話をしていた総団長さんたちの会話を、あー君たちが盗み聞きしてきたんだ。この前、取り調べのことであんなに叱ったのは何だったのか……。
見張りは全員殺されて。それだけじゃなくて、フィンレイとは関係ないけれど、別の罪で捕らえられ、フィンレイと同じ階の牢に入れられていた人たちも、全員殺されていたらしく。少しでも目撃される可能性がある人物は、全て殺されたんじゃないかって言っていたって。
『あいつ、どこに行ったのかな?』
『最近、意識がなかったって』
「いりきがない?」
『そう、ある時から急に、ずっと眠ったままになってたらしいよ』
『じゃあ、急に起きて、仲間と逃げたのかな?』
『どうかな。起きないあいつを、仲間が引っ張って連れて行ったのかもよ』
『起きても、魔法使えないはずだしね』
『鎖、ずっとグルグルだって言ってたわ』
『じゃあ、やっぱりあいつは動けなくて、誰かが引っ張っていったんだよ』
『だから、分からないわよ』
『リアのところに来ないよね?』
『どうかしらね。でも来るなら、もう来てると思わない? ばらばらに遠くへ飛んだり、近くへ飛んだりする魔法だけど、一応使えるんだもの。それで今、来ていないってことは、リアのことは諦めたのかも』
『それか、危険な臭靴下があるからかもしれないね』
『あっ、きっとそうだよ! それで諦めたんだよ。リアが鼻に突っ込んだもんね』
『アレがトドメ』
『あれで怖くなって、来なくなったんだ!!』
『リア、良かったね』
……それはないんじゃないかな。来ても避ければ良いだけだし。あれだけの最悪な人間が、臭靴下で来なくなるってね。
まぁ、でも、みんなが言ったことじゃないけど。もし私を狙っているのなら、王都からの知らせが届く間に、もう私のところへ来ていると思うんだよね。でも私の周りは、一応はお手伝いを再開できるほどには落ち着いているし。
このままもう2度と、来ないでくれると嬉しいな。
『なぁなぁ、もうあいつ来ないなら、俺たちもお手伝い、またやろうぜ』
『そうね!』
『せっかくお手伝い始めたのに、あいつに邪魔されちゃって、まだ全然、何もできてないもんね』
『そうそう、前回は結局、野菜に逃げられちゃったし』
『リア、今日のお手伝いは?』
「えっちょね、おしょじと、しょれから……」
横でヒルドレッドさんたちが、まだ厳しい表情で話していたけれど、私たちはお手伝いの話しに。
またフィンレイが現れるのか。それとも私のことは、もうどうでも良くなっていて、2度と会うことはないのか。
はたまた、誰かがフィンレイを捕まえて、今度こそしっかりと、あいつを処罰することができるのか。
いろいろな可能性がある。1番良いのは、2度と会わないまま、フィンレイが捕まることだけどね。
でもこのまま、何もない平和な生活が続くのなら。今度こそ私は、総団長さんたちのために、お手伝いを頑張りたい。本当、お手伝いを、まだほとんどできていないからね。
『リア! お手伝い!!』
『早くやろう!!』
『ミッケ、それなぁに?』
『お掃除する道具なんだじょ! おいらだけのなんだじょ!』
『え~、良いなぁ』
『ピィも?』
『ぴぴぴぃ!!』
『私たちも、私たちのお掃除道具、欲しいわよね』
『頼んでみようか』
『そうね、そうしましょう!!』
『みんな、行くわよ!!』
『『『ウエ~イ!!』』』
『ウエ~イなんだじょ!!』
『ぴぴ~ぴ!!』
ウエ~イが、なんでも使える、万能言葉になってきちゃってるよ。そうだ! それについても、今度精霊王のところへ行って話をしなくちゃ。変な言葉を教えないようにって。
『リア! 早く!!』
「う、うん!!」
呼ばれて、急いでみんなに追いつく私。これからどうなるか、それは分からない。もしかしたら、また何か大きな事件が起こるかもしれないし。
でも、それでも、少しでも長く平和な時間が続くように。そして、みんなが元気に暮らせるように。これからもっと、お手伝いを頑張らないとね。
さぁ、まずはお掃除からだ!! やるぞー!!




