第39話 大切な家族、リアを追って。そして伝説との遭遇(アンドリュー視点)
「なっ!? 転移魔法!?」
「だが、完璧には使えていないようだ。……ストーンウッドの木のところだ!! そこに気配が出た!!」
アルバートのその言葉とほぼ同時だった。獣人の俺たちは、人族よりも目が良いのだが。そんな俺たちでも目で追えない速さで、ピィが俺の肩を踏み台にし、勢いをつけて窓から出ていった。
『ピィ、追いかけてるんだじょ!! おいらたちも行くんだじょ!!』
『待って、また気配が移動したよ!』
『今度はシャープウッドのところで気配がするよ!』
『あっ、次はププウッドのところだ!!』
『あいつ、アルバートの言う通り、ちゃんと魔法を使えてないんだよ。だからいっぱい移動したり、ちょっとしか移動できなかったりしてるんだ!』
『なら、私たちなら、すぐに追いつけるわね』
『行きましょう!!』
「私も先に行く!!」
「アルバート! 私たちもすぐに追いつきますが、何か印を残していってください!!」
「分かっている!!」
『アルバート、僕たち先に行くよ!!』
『リア、すぐ助けるんだじょ!!』
俺たちにはミッケたちの会話は聞こえなかったが、アルバートよりも先に、ミッケたちはリアを追いかけていったようだ。それに続くように、すぐにアルバートの姿も見えなくなる。
俺とヒルドレッドも、すぐに追いかけたかったが、俺たちだけで解決できない場合を考えそれはせず。すぐに総団長の元へ行き、他の獣人たちと共に向かうことに向かうことにした。
「何だと!! おかしな気配がしたと思ったら……。すぐに全隊の団長、副団長を集めろ。それと、お前たちは他に必要だと思われる団員を集めておけ。準備が整い次第、直ちにリアの救出に向かう!!」
そうして集まったのは、今宿舎にいる者たち全員だった。リアが連れ去られたと聞き、俺たちが知らせなかった者たちも他から話を聞き、全員が集まっていたんだ。
おそらく、詳しい説明はされていないが、今回の獣衰病のこと。皆がリアとピィとミッケとあーたち、そしてアルバートのおかげだと理解していたからだろう。
それと、リアがここで暮らしてきた時間はまだ短いが。それでも、俺たちのことを思って一生懸命に動くその姿を見て。いつの間にか仲間として、そして家族のような存在として受け入れ、共に過ごすようになっていた。
その大切な仲間や家族が攫われたと聞けば、助けに行くのは当然のこと。だからこそ、誰に言われるまでもなく、全員が集まったんだろう。
そこで総団長は、数名を宿舎に残し、他はそれぞれ第1獣騎士団、第2獣騎士団といった形で、団ごとに動かすことにし。全体の指揮はエドウッドに任せ、総団長と俺、それにエディスンとヒルドレッドで、アルバートたちを追うことを決め。
こうして、リアが連れ去られてから10分後には、それぞれがリア救出に向けて、宿舎を出発することができた。
そして街の外へ出て、アルバートが最初に気配を感じたストーンウッドという木がある場所へ向かえば。そこでは、ある匂いが漂っており、そに匂いは向こうの森へと続いていた。
「なるほど、これならば分かりやすい。このまま匂いを辿るぞ」
「「「はっ!!」」」
ある匂いというのは、マータという果物の匂いだ。このマータだが、かなり香りが薄く、あまりの薄さに、人間や他の種族の者たちには、全く匂いが分からず。俺たちのような獣人や魔獣だけが、匂いを感じ取ることができる。
そのため、獣人や魔獣の追跡以外に使われることが多い。マータの果物を粉末状にしたり、果汁を搾り、そのまま瓶に入れ持ち歩くんだ。どうやらアルバートは、それを持っていたらしい。
「それにしても、なぜフィンレイ・ストーンフォードが」
「黒い噂の内容については何とも言えないが、黒は黒で間違いなかったな」
「……先ほどの様子。あまりにも普段の彼と違っていましたね」
「そんなにか?」
「ああ。何人もの人格が混ざっているっていうか、言葉遣いも、仕草も、全部がバラバラだったな。それにあの魔法」
「見た目だけなら、闇魔法に似ていましたが。あれは闇ではなく、触れてはいけないような何か。悪意そのものが形になったような、そんな魔法でしたね」
「悪意……か」
「はぁ、まったく。あんな黒い噂があるようある奴を、副団長になんかしやがって」
「その話は後だ。あちらとも、しっかりと話さなければならないからな」
「その関係で、もともとリアを狙っていた可能性もあるでしょう。ただ、はっきりしたこともあります。先ほどの言葉から見て、私たちが獣衰病にかかった件に、彼が関わっていたのは間違いありません。そして彼は獣人差別主義者であり、おそらく我々を狙う組織に所属している可能性が高い」
「面倒な奴だ」
「まったくだぜ」
「それも、やつをリアを救出し、奴を調べれば何か分かるだろう。今はリア救出に集中するぞ」
俺たちの命を救うために、何かをしてくれたリア。リアの存在は、今の俺たちにとって、なくてはならない存在だ。
……怖くて泣いていないだろうか。苦しい思いをさせられていないだろうか。必ず追いつき、助けてやる。だから少しだけ、そうもう少しだけ待っていてくれ。
そう考えながら匂いを辿る俺。総団長たちも、同じ気持ちだっただろう。そうしてリアたちを追いかけ始めて、1時間半が経とうとしていた頃。ようやく俺たちは、アルバートたちに追いつくことができたんだ。
俺たちがたどり着いた場所は、街からかなり離れた場所の森の中だった。そしてそこには廃屋があり、その廃屋からは確かにリアの気配と、フィンレイの気配がしていて……。
リアの気配に、リアはまだちゃんと生きていると、ホッとした。が、それはほんの一瞬のこと。
「おいおい、これは一体どういうことだよ」
リアたちとは別に、俺たちの前に、まさかの光景が広がっていたんだ。
「あれは……本物か?」
「間違いないかと」
「それにしては、目にするまで、まったく気配がしなかったぞ」
「まずは合流するぞ。あれではリアに近づけるかも分からな」
「アルバート!!」
「来たか」
「来たかって、お前。あれは本物だよな」
「ああ、いつの間にか、生まれていたらしい」
「それに、あれは何をやっているんだ」
「分からん。私がここへ来た時には、もうこの状態だった。お前たちはどうだ?」
『くるくる回ってたよ』
『それでキラキラだった』
『それからボウボウだった』
アルバートに、妖精たちの言葉を伝えてもらう。するとどうやら、妖精たちが来た時点ですでに、この光景が広がっていたらしい。
俺たちは今、一体何を見ているのか。それは……。
綺麗に燃え上がる炎を纏い、何かの魔法を使いながら、リアたちがいると思われる廃屋の上を、くるくると旋回する存在。
俺たちの前に、フェニックスがいたんだ。
まさか、こんな場所にフェニックスがいるなんて。
フェニックス。それは、生きた伝説と呼ばれる存在で。強大な炎を操り、命が尽きる時には自らの体を燃やして灰となり、そこから再び生まれ変わるため、不死とされている。
かなり昔のことだが、その時に生きていたフェニックスは、とても優しい性格だったと言われていて。森や林、自然の中で生きる魔獣たちを守り、決して無意味に力を振るうことはなかったと。
しかしある時、魔獣たちと我々獣人を、この世界からすべて消し去ろうとする組織が動き出してしまい。その組織は、のちに滅ぼされることになるが。その時、フェニックスは仲間たちを守るために力を使い果たし、自らの命を燃やし尽くすことに……。
そんな自分たちを守ってくれたフェニックスにお礼を言うため、魔獣や獣人たちは、フェニックスの復活をまった。
だが、何故かフェニックスが復活することはなく。それ以降、何10年もの間、誰1人としてその姿を見た者はいなかった。もちろん俺たちもな。見てたらそれこそ大騒ぎになっていただろう。
そんなフェニックスが今、俺たちの目の前にいて。そして小屋に向かって、何かの魔法を使っているんだ。
「なんでこう、いろいろ起こるかね」
「あの力、攻撃しているわけではないようですが」
「とりあえず、もう少し近づいて状況を……」
アルバートが話している途中で言葉を止めた。妖精たちが何か言っているようだ。
『ねぇ、それよりも、早く行こうよ!!』
『リアはすぐそこだよ!!』
『それに、リアを助けた後は、ピィを探さなきゃなんだじょ!』
「分かっている」
『どうしたんだ?』
「ああ。フェニックスもことなど良い、それよりも皆で早くリアを助けようと言っている。それからピィを探すと」
それよりもって、確かに早くリアを助けに行きたいが、フェニックスが何をしているのか、分からんからな。それと、ピィがどうしたって? そういえば……。
「ピィの気配がしないな。来ていないのか? どこかで迷ったか?」
「それなら、後で契約している私が探せば問題ないでしょう。今はリアの方です」
「そうだな。まずはリアだ。だが、あれでは中に入っていいのか悪いのか分からんぞ」
と、その時だった。それまで廃屋の上をくるくると旋回していたフェニックスが、何故か俺たちの方をじっと見つめてきた。そして、
『ピギャアァァァッ!!』
突然の出来事に、思わず動きも言葉も止まってしまった。おそらく、他の面々も同じだっただろう。しかし。
「全員、廃屋へ突入!! フェニックスが消えた今、一瞬も無駄にするな!!」
総団長の号令と共に、俺たちは廃屋へ突入する。そうしてある部屋に入れば、誰かの結界に守られ、ピィを抱きしめているリアの姿と、そんなリアたちを睨みつけているフィンレイの姿があった。




