第37話 もう1つの不穏な空気と、いつも通りの嬉しい日常(前半フィンレイ視点、後半リア視点)
何故、何故全員が回復した? あれはただの獣衰病ではなかったはず。
これまで確かに何例か、獣衰病から回復したという報告はされています。ですが、ほとんどの獣人どもが死に至り、今回の計画には、これほど良いものはないと思っていたのに。
しかも、今回の私の計画を、彼の方は了承してくださり。そして確実に事が進められるようにと、『あれ』まで、私に用意くださったというのに。
何故、何故獣人どもは、全員回復してしまったのか。
「……おい」
「何故、来たのです? 私は今、彼らに監視されているのですよ」
「……奴は戻ったようだからな。他の者たちは、私の存在にも気づいていない」
「それでも、彼らはエルフです。いつ気づかれるか分かりませんよ」
「そんな失敗はしない。それよりも、これは一体どういうことだ? お前は完璧にやり遂げると、彼の方の前で言ったはずだが?」
「……」
「面倒だったが、お前は今、奴らの監視のせいで動けないだろうからな。私が簡単にだが、調べてきてやったぞ」
「余計なことを」
「彼の方の指示でもある」
「……」
「どうやら、誰かが最高級のニーンを、奴らに届けたらしい。奴らというより正確には、お前が狙っていた子供か、エルフの次期族長とされている、アルバートにだ」
「あの子供に?」
「どちらかだ。そして、そのニーンを届けた人物は、特定できていない。それどころか、届けたと言ったが、あの宿舎を訪れた者の中に、それを運べるような人物は、誰1人いなかった。……数時間ほど、あの子供とエルフが消えていたという情報もある。その間に、誰かが接触してきたのか。それとも、奴らがどこかへ向かい、ニーンを手に入れたのか」
私も宿舎は、細かく確認をしていた。しかし、すべての時間を監視することは、さすがにできませんでしたからね。その間に動かれてしまったのでしょうか。
「もし、それが事実だとしても、今回私が起こしたあの病は、いくら上級のニーンでも、治せるはずがありません」
「フンッ。だが、回復したのは事実だ。お前は、かなりの自信を持って今回の計画を立て、実行したようだが……やはり、お前には、それを成し遂げる力がなかったということだな」
「私の計画が、たかがエルフと子供に邪魔されるようなものだと?」
「事実、今回の計画は失敗に終わった。これから私は、関わった者たちの始末をしなければならない。お前のせいでな。まぁ、どちらにしろ、今回の件については、お前には必ず責任を取ってもらうぞ。彼の方も、何故お前のような男に任せたのか……」
私の前から、面倒なやつが消えて行った。
チッ。今頃は、すべてが終わっているはずだったのに。エルフと子供に、一体誰が接触したんだ!!
つい数時間前まで、奴らの苦しむ姿を見て、すべてが計画通りに進んでいると、そう確信していた。最高の気分を味わっていたというのに! 誰だ!! 誰が手を差し伸べた!!
……ふぅ。落ち着かないといけませんね。私は今、エルフに監視されているのですから。
今回のことで、彼の方から何らかの処分を受けるのは間違いないでしょう。そうなれば、ここにいられなくなる可能性もある。しかし、それまでは、なるべく正体を隠し、これ以上、彼の方に迷惑をかけないようにしなければいけません。ですが……。
あの者の報告によれば、消えたのはエルフと子供のみ。子供は、あのエルフが面倒を見ていたから、連れて行った可能性が高いでしょう。
そしてエルフたちは、私たちが持たない特別な知識を持ち。また、私たちでは接触する事ができないような存在とも、交流があると聞きます。
あの、次期族長と言われているエルフのアルバート。次期族長と言われるほどなのだから、他のエルフよりも、特別な知り合いは多いはず。その中に、獣衰病を治すことのできる、ニーンを持っていた者がいた可能性は十分にあります。それとも……。
エルフではなく、あの子供が関係しているか。あの子供には、出会った瞬間から、何か不思議なものを感じていました。それがどんな物か、まだ確かめてはいませんが、私の勘はよく当たりますからね。
もし、エルフでなく、あの子供が何かしたのならば。それが何か特別な力なのか、それともエルフのように、誰か特別な者が、彼女を支えているのか。
どちらにしろ、彼女は私が手に入れ、あれの渡す予定でいましたからね。それをやめて、彼の方の元へ連れて行き、彼女を調べ。もしも私たちが使えるようならば、そのまま使えば良い。なに、あちらには適当に、別の子供を差し出せば良いだけのこと。
「……」
「何ですか? まだ何か?」
私がこれからのことを考えていると、あの男が戻って来た。
「彼の方からだ。お前の処分が決定した」
こんなにも早く? 先ほどこれと話したばかりだというのに。……いや、彼の方は、どんな時でも私たちを見ていますからね。
ここは、私にくだされる処分をしっかりと受け止め、次こそは彼の方のために、この世界のために、完璧に動かなければ。
「フィンレイ・ストーンフォード、お前には……」
「……!?」
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「いて、いてててっ! 何すんだ、ピィ!? それに、こっちで俺の毛を引っ張ってるのは、ミッケたちか!? 何で引っ張るんだよ!!」
『ぴっ、ぴぴぴぃ!!』
「臭いの、ありえない、と言っていますよ」
『臭いんだじょ!! 全員、倒れたんだじょ!!』
『何、あの匂い!!』
「あーくん、におい、おぼえちぇる?」
『覚えてないけど、酷かったことは確かなんだからさ』
『それもそうね』
あー、まぁね。私も覚えていないもんね。
『おいらたち、頑張ったんだじょ!!』
『ぴぃー、ぴぴぴぃ!!』
「頑張ったのに、この仕打ちか、と」
「何だよ! 別に俺は、何もしてないだろう!! ただ着替えをしただけだ。ずっと同じ服を着ていたからな。このまま洗濯して使っても大丈夫だとは言われたが、一応ってことで捨てることになっただろう。それで着替えただけだ。その後に、お前たちが入ってきただけじゃないか!」
『ぴっぴぴぴぃ!!』
「すぐに箱にしまわないのがいけない、と」
『そうだじょ!! 何で箱にしまってないんだじょ!!』
『僕たち、それ知らないんだけど!!』
『噂は聞いてたけど、本当だなんて思わないじゃない!!』
『そうよ、そうよ!!』
ピィ君の通訳を、元気になったヒルドレッドさんがして、ミッケたち妖精たちの通訳を、アルバートさんがしてくれて、アンドリューさんに伝える。
一体、何の騒ぎが起きているのか。
ニーン入りのフルーツスムージーを、全員に飲ませた私たち。すると、1時間もかからずに、獣衰病に罹っていた総団長さんたちは全員が回復した。
その後、全員に確認の診察が行われ、そこでも問題なしと判断されて。ついに私たちは、獣衰病に勝つことができたんだ。
そしてこのことは、すぐに街中に知らされて、住人たちもみんな喜んでくれたんだ。魔法の花火みたいなものまで、打ち上げてくれてね。
と、それからも少しの間、みんなと喜びを分かち合った後、今までずっと寝ていた総団長さんたちは、アンドリューさんが言った通り、洋服をほとんど替えていなくて。洗えば使えるとは言われたけど、気持ちの問題と一応ってことで、全員の服が捨てられることになったんだ。
それで、私たちがお手伝いとして、その捨てる服を集めていたんだけど……。
アンドリューさんの部屋に入った瞬間、私もピィ君もミッケも、それからあー君たちも、全員気絶しちゃったんだよ。そう、アンドリューさんの臭靴下でね。
病気で寝ている時は、動いていないせいか、全然匂わなかったのに、元気になって少し動いただけで、臭靴下になっちゃって。
アンドリューさんの部屋にも、臭靴下用の箱があるのに、アンドリューさんはそれに入れず、その辺に放っておいたもんだから。部屋に入った私たちは一瞬で匂いにやられて、気絶したってわけ。
それで今、目を覚ましたピィ君たちが、アンドリューさんに怒りの攻撃しているところだよ。
「だから、痛いって言ってるだろ! お前たちが勝手に入ってきただけじゃないか!!」
『ぴぴぴぃ!!』
「お手伝いをバカにするのか、と」
『おいらたちのお手伝い、邪魔しちゃいけないんだじょ!!』
『何してくれるんだ!!』
『私たちの服に、匂いがついたらどうしてくれるのよ!!』
さらに、ピィ君たちの攻撃が激しくなる。はぁ、まさかこんな時に、臭靴下攻撃を受けるとは思わなかったよ。でも……。
私は、思わずニヤニヤしてしまった。だって、いつも通りの光景が戻ってきたんだよ? 少し前まで、暗くて嫌な空気が流れていたのに、それが今は……。うん、やっぱり、こうじゃなくちゃ。
「リア、嬉しそうですね」
「うん!!」
「まったく。いくら皆の病気が治ったとはいえ、少しは静かにできないのか」
「アンドリュー。今はいいではありませんか。リアたちにとっては、これが元に戻ったと実感できる時なのですから。ピィたちを見てください。皆、攻撃していますが、ニヤニヤしています。怒ってはいますが、それ以上に嬉しいのでしょう。私も、そうですよ」
「ふん」
そう。ピィ君たちもニヤニヤしてるんだ。アンドリューさんも笑ってるし。ああ、本当に、みんなを助けることができて良かった。このまま、全部が早く元通りになってほしいな。
なんて思いながら、ピィ君たちに近づこうとした私。でもその時だった。
「……何だ? イライアス、どうした?」
アルバートさんに動きが止まって、1人で話し始めたんだ。たぶんエルフ同士で、離れた場所の相手と話すやつ。それでたぶん、イライアスさんと話してるんじゃないかな。でも、なんか様子が……。
「おい、何があった? 聞こえないぞ。おい……」
「アルバート?」
「……声が途切れ途切れでな、何と言っているのか分からない。……ん? 何だ? ……何だと!!」
そう、アルバートさんが大きな声を上げた瞬間、私の体がふわりと持ち上がり、慌てて前を見ると。アンドリューさん、ヒルドレッドさん、アルバートさんが、それぞれ攻撃姿勢をとっていたんだ。




