第30話 もたらされた一筋の光、病を治す鍵はぐうたらセイッチ?
「きーきくん、ほんちょ!? ほんちょに、なおしぇるひと、ちってるの!?」
『そうだよ、きー。僕は獣衰病なんて聞いたことないし、せいっちが治したなんて話も聞いたことないよ?』
『そうよ。私だって、聞いたことないわ』
『お前たち、静かにしろ。きー、本当に話を聞いたことがあるのか? そして、この病を治せる者がいるのか?』
私を含め、みんなできー君を囲む。私たちを注意している、あの、いつも冷静なアルバートさんまでもが一緒になって、私たちの上から覗き込むようにして、きー君を見ている。見ているっていうか、その視線だけで、きー君を射抜きそうな勢いだよ。
でも、こうもなるよね。ほぼ完治は不可能で、不治の病だと言われている獣衰病。それを治せる人がいるなんて聞いたらね。
『きー、本当なの!?』
「きーくん、ほんちょ!?」
『ぴぴぴ!?』
『いつ、お話聞いたんだじょ? おいらも聞いたことないじょ!』
『『『きー!!』』』
『わわわ、待って待って!?』
『早く話してよ!』
『そうだよ! 話してよ!』
「きーくん!!」
『わあぁぁぁ!?』
「あ? アルバートまで一緒になって、何してるんだ?」
全員で、バッ!! と後ろを振り返る。
「うおっ!? って、何だよ。アルバート、本当に何してるんだ?」
ドアのところで驚きながら立っていたのは、イライアスさんだった。
たまたま私たちのところに、作りたての美味しいお茶を持ってきてくれたイライアスさんのおかげで、我に返った私たち。それですぐに、きー君に一斉に迫ってしまったことを謝ったよ。
それから、一旦お茶を飲んで心を落ち着かせてから、改めて、きー君の話を聞くことになったんだ。
『なるほどねぇ。じゃあ、僕たちが知らないのは当たり前か』
『ごめんね。無理やり聞こうとして』
『ううん、良いんだぞ。オレだって、何か分かるかもって思ったら、ああなると思うし』
「なるほど。その話が本当なら、ここにいる獣人たちは皆、完治する可能性があるのだな」
『たぶんね。でも、オレが聞いたと思ってる、病気の名前が違うかもしれないし、絶対じゃないぞ』
きー君の話は、こうだった。きー君は、遊びに来てくれている精霊の中で1番年上で、獣衰病という言葉を聞いたかもしれないのは、みんなが生まれる前だったんだって。
そして、その話をしていたのが、ミッケも時々口にしていた、セイッチという人で。その人は、友人の獣人が病気にかかった時に。
『大切な友人だから、頑張って治したんだよ。いやぁ、さすがに獣衰病はちょっと大変だったけど、ま、これくらいの時間で助けられればね。体の負担も少なく済んだし、良かったよ』
と、話していたらしいんだ。それで、その光景を見ていた他の妖精に、きー君がどんな様子だったかを聞いたら。
いつもは、ぜんぜん動かずにダラダラしているセイッチが、一生懸命、目に見えないくらいの速さで動いていたって聞いて、きー君はとても驚いたらしい。だから、覚えていたんだって。
本当に、セイッチはぐうたらで、よく精霊たちに怒られているとか。そのセイッチの話をきー君がすると、みんなが、うんうんって思い切り頷いていたからね。本当に、ぐうたらなんだろうね。
どんな覚え方だよって、ちょっと思ったけど。でも、そのぐうたらなセイッチが動いてくれたおかげで、きー君が覚えていてくれたんだから、結果的にはぐうたらで良かったのかも。
「ならば、そのセイッチを尋ねたいところだが。だが、その前に、そのセイッチという者は、一体何者だ」
『え? せいっちは、せいっちだよ。ね、みんな』
『うん。せいっちは、せいっち』
『僕たちの面倒をみてくれるの』
『私たちが具合が悪い時や、困っている時に助けてくれるのよ』
『でも、普段はぐうたら』
「だから、それは誰だって聞いてるんだよ」
『だから、せいっちだって』
「そうではない。人間なのか、獣人なのか、それとも他の種族なのか、それを聞いている」
『えー?』
『僕たち、生まれてすぐに、せいっちって呼んでねって言われたから」
『あ、でも、いつもせいっちって呼んでるけど、せいっちが側にいなくて、僕たちだけの時は、ぐうたらお父さんって呼んでる。ゴロゴロしてる人間や魔獣のお父さんたちに似てるから。ねぇ』
『『『ねぇ』』』
ねぇって。だから、結局誰なのよ。
「お父さんか……」
「お父さん、ねぇ」
ほら、アルバートさんやイライアスさんも、分かってないじゃん。
『それよりもさ、きーの話が本当なら、今からせいっちのところに、みんなで行こうよ』
『アンドリューも、そのつもりだったでしょう?』
「……ああ。だが、そのセイッチという者は、我々に会ってくれるのか?」
『あー、どうだろう』
『そういえば、友達以外の人間や獣人、エルフには会わないよね』
『ボクたちに悪意を向けてくるから、本当に信じている人以外、僕たちの家に近づけさせないもんね』
『あ、でもさ。前に、僕たちのお友達が困っていたら、連れてきても良いって言ってたよね』
『うんうん! 言ってた言ってた!』
『リンとピィは、僕たちの大切なお友達だから、きっと会ってくれるよ。黒い悪いの、出てないし』
『だな。きっと大丈夫だよな』
黒い悪いの? フィンレイの黒いやつのことかな? あんなの私たちから出てたから困るよ。
『リンたちよりも、アルバートの方が会ってもらえないかも』
『そうだね』
『リアたちは僕の友達。アルバートはリンの友達で、それから僕たちの友達。一応』
『うん、だからリンとピィだけ来れば良いよ。そうしたら僕たちの友達って言って、獣衰病の治し方聞けば良いし』
「いや、待て。幼いリンとピィだけでは、行かせられない。私もどうにか、会うことはできないだろうか」
『う~ん、どうかなぁ』
『あ、じゃあさ。途中まで一緒にくれば? それで、僕たちの家に入る時は、リンとピィだけ。アルバートは、外で待っててもらえば良いんじゃない?』
『それが良いよ!! そうしよう!!』
『よし! じゃあ、僕たちの家まで出発!!』
私とピィ君を後ろから押して、部屋から出ようとするあー君たち。もしかしたら、みんなの獣衰病が治るかもしれないって思うと、それはとても嬉しい。だけど、あまりにも急な展開に、ちょっと慌てちゃったよ。
「まっ、まっちぇ!?」
「待て待て、まだ話は終わっていない。それに、行くとしても準備が必要だ」
そうそう、それそれ。どこまで行くか分からないけど、どこへ行くにしても、準備は必要でしょう。アルバートさんは、他にも聞きたいことがあるみたいだし。
ということで、なんとかみんなに止まってもらって、アルバートさんが、どこへ行くのか話を聞いている間に。私とピィ君は、イライアスさんと一緒に、荷物の準備を始めたんだ。
ご飯やお水とか、洋服とか、旅に必要そうな物を、とりあえず片っ端からマジックバックに入れていったよ。
まぁ、総団長さんたちが、何かあった時のためにって、ここで暮らし始めてすぐ、必要な物をかなり用意してくれて。それを、マジックバックに入れておいたから、そんなに追加する物はなかったんだけどね。
そうして、すぐに終わった準備。でも、準備が終わっても、まだアルバートさんと、あー君たちは話をしていたから。
私とピィ君とミッケは、イライアスさんと一緒に、アンドリューさんや、ヒルドレッドさん、レーノルド先生たち、みんなに、行ってきますの挨拶をしに行ったんだ。
そうしたら、みんなとっても心配してくれて、なるべく私は行かない方が良いって言ってくれたんだけど。会えるのは、私とピィ君だけみたいだし、私たちは絶対に行くって答えたら。最後はみんな、ありがとうって、私たちを送り出してくれたよ。
こうして挨拶を終えて部屋に戻ると、アルバートさんと、あー君たちの話は終わっていて。今度は、私たちと交代で、アルバートさんが準備をしに行き。
そして、30分後の、夕方少し前。私たちの準備は整い、いよいよ出発の時を迎えたんだ。




