第29話 恐れていた最悪な状況、まさかの証言?
トントン……。カチャ……。
「アンドリュー、入るぞ」
「……あんどりゅーしゃん、はいりましゅ」
「……」
返事を聞かないまま、アンドリューさんの部屋に入る。そしてそっとベッドに近づき、アルバートさんが、アンドリューさんの様子を確認し始め、私とピィ君とミッケは、少し後ろに下がって、その様子を見守るよ。
「アンドリュー」
「……」
「まだ、ダメか」
「あるばーとしゃん?」
私がアルバートさんに声をかけると、アルバートさんは首を横に振り。それから私に、タオルを替えるように言うと、自分はアンドリューさんに治癒魔法をかけ始めた。
「ちっかり、ちぼろね。しゃっきはちょっと、ちぼりがわるかったから」
『ぴぃ』
『任せるんだじょ。今度は失敗しないんだじょ』
何度も何度もタオルを絞り、水が垂れない、ちょうど良い具合になるまで絞る私たち。絞り終わったあとは、私たちが作業している間に治癒魔法を終えていたアルバートさんに、絞り具合を確認してもらって。
それから私はアンドリューさんのおでこに載せていたタオルと、新しいタオルを交換したよ。
「……あちゅい」
思っていたよりも、ずっと熱くなっていたタオル。ピィ君とミッケもタオルを触って、その熱さにビックリして、思わず飛び退いた。
「……あんどりゅーしゃん。だいじょぶ?」
「……」
やっぱり、返事はない。
「あるばーとしゃん」
「何だ?」
「あんどりゅーしゃん、まだ、め、しゃましゃない? ちゃんと、め、しゃましゅよね?」
「……おそらくな。さぁ、次の部屋へ行くぞ」
「……あんどりゅーしゃん、しゅぐまた、くるからね」
『ぴぴぴ』
『その時は、きっと起きてるんだじょ!』
そうしてアンドリューさんに声をかけたあと、次の部屋へ向かう私たち。
総団長さんたちが獣衰病で倒れてから、数日。危惧していたことが、起き始めてしまったんだ。
獣衰病は、だんだんと治癒魔法や薬、ポーションが効かなくなってくるって言ったでしょう? 実は、それと同時に、ある症状も進んでいくの。
どんな症状か。それは、眠りの感覚が長くなるというもので。普通に眠っていたはずが、そのまま目を覚まさなくなってしまう。この前のヒルドレッドさんみたいに、治癒魔法ですぐに目を覚ましてくれれば良いけど、いくら治癒魔法、ポーションを使っても、目を覚まさない。
といった感じで、少しずつ目を覚まさない時間が伸びていき、最後は眠ったままになってしまうんだ。
これは、獣衰病の末期症状らしく、この症状が出始めてしまうと、かなり危険な状態なんだとか。そして、その症状が出た患者に残された時間は、あまり長くないって……。
ただ、この症状が出るまでには、かなり時間があるはずで、今までの記録から、半年は大丈夫だと、みんな思っていたの。でも、もちろん、もしかしたらということもあるから、みんな気をつけてはいたんだけど。
まさか、数日で20人もの獣人さんに、この症状が出始めてしまい、その中に、アンドリューさんもいてね。アンドリューさんが、最初に長く眠ってしまったのは、一昨日の朝から夜まで。でも今は、一日以上眠ってしまっている状態なんだ。
あまりにも早い病状の進行に、そのことを聞きつけた、総団長たちを心配する街の人たちの中で、少しでも治癒魔法を使える人や、ポーションを作れる人たちが集まってきてくれて。総出で対応してくれているけど、上手くいっていないの……。
いつも、あんなに元気だったアンドリューさんや、私に優しくしてくれた獣人さんたちが、今はただただ眠っている。しかも熱も酷くなっていて、たぶん体の痛みも、相当なんじゃないかな。眠っていて、痛みを感じていないなら良いけど。でも、目を覚ましてほしいし……。
「……リア、ピィ、ミッケ。お前たちには、かなり辛い状況だろう。お前たちは何もしないで、外で待っていても良いのだぞ」
ハッとして、顔を上げる。アンドリューさんたちのことを考えていたせいか、しっかり歩けていなくて、アルバートさんから離れちゃってたよ。
「だ、だいじょぶ! ごめんなしゃい! ちゃんと、ちゅいていく!!」
危ない危ない。みんなの看病をするって言ったのは自分なんだから、しっかりしないと。私は自分のほっぺをパチンッと叩き、すぐにアルバートさんに追いついた。
「本当に大丈夫か?」
「あい!!」
『ぴぴ!!』
『おいらたち、頑張るんだじょ!!』
そうして気合いを入れ直し、看病をし続けた私たちは、今日もいつも通り、遅い休憩を取ることに。
今日は使えるようになった厨房で、エルフさんたちが作ってくれている、甘いお菓子をもらい、自分たちの部屋でゆっくりしようと決めて、すぐに厨房に向ったよ。
そうしたら特別にって、今日は厨房担当だったキーファンさんが、少し多めにお菓子をくれてね。私はそれを何気なしに、マジックバックにしまったんだ。
そして残りのお菓子を持って、部屋に移動した私たち。と、部屋に入ってすぐだったよ。精霊のあー君たちが遊びにきたの。
『みんな、こんにちは!』
『今日は約束の日、遊びにきたよ!!』
『なぁなぁ、どうしたんだ? なんかここ、いつもよりも静かじゃないか?』
『いつもうるさい獣人がいないの?』
『それになんか、どんよりしてない?』
そうだった。本当なら、今日はみんなが遊びに来て、一緒にお手伝いをしたあと、遊ぶ約束してたんだった。
「みんな!!」
『ぴぴぴっ!!』
『みんな、遊んでる場合じゃないんだじょ!! 大変、大変、と~ても大変なんだじょ!!』
みんなに駆け寄る私たち。そして、今、宿舎で起きていることについて、全部話したんだ。ただ、まさか、みんながここへ遊びに来てくれたことが、今の最悪な状況を打開するための希望になるなんて、この時は思いもしなかったよね。
私たちの話を聞き始めて、すぐに大変なことが起きているって分かってくれた、あー君たち。それからは静かに、最後までしっかり話を聞いてくれて。そして話が終わると、アンドリューさんたちの様子を診に行ってくれたの。
みーちゃんは、癒しの魔法が使える癒しの精霊でね、みんなに癒しの魔法をかけてくれたんだよ。
アルバートさんの話だと、精霊の力は、私たちとは比べ物にならないくらい強いから、これでみんな、病状の進行が遅くなったんじゃないかって。
事実、末期症状に陥っていた獣人さんのうち2人が、みーちゃんが癒し魔法をかけてくれてすぐに、会話ができるまでに回復したんだ。……アンドリューさんは、まだ眠っているけど。
でも、みーちゃんが癒し魔法をかけてくれたんだから、きっと、もうすぐ目を覚ますはず!
こうして、みーちゃんのおかげで少し落ち着いた私たちは、もう1度部屋に戻って、話を始めたよ。
『まさか、ここでこんな大変なことが起こっていたなんて』
『本当よね。いつも通り遊べると思っていたのに』
『今日も、お手伝いに挑戦するつもりだったのにさ』
『なぁなぁ、アルバート。本当に、この病気、治らないのか?』
「まだ分からないが、このままではな。何しろ回復した者が少なすぎて、どう治療すれば良いか分からず、私たちに今できることが限られてしまっているのだ」
「そっかぁ」
「リアたちの大好きな獣人たちだから、助かってほしいよね」
『でもさ、みーの魔法でもダメなら、やっぱりダメなんじゃない?』
「何でそんなこと言うんだよ。みんな、心配してるのに」
『僕だって、治ってほしいよ。でも、ちゃんと状況を確認しないと』
『何か、僕たちにできることないかな? ほら、美味しいご飯を僕たちで作ってさ。それを食べさせて、元気になってもらうとか」
『それで元気になるなら、もうなってるよ』
『そうそう』
『俺なら、美味しい野菜を食べれば、すぐに元気になるのに』
『ん? 美味しい野菜?』
『他に、何かないか?』
『美味しいお菓子は?』
『それも、野菜と同じじゃん』
『美味しい飲み物!』
『だから、食べ物から離れなよ』
それからは、真剣に考えてくれているはずなのに、なぜか食べ物の話になってしまった、あー君たち。でも、そういうちょっとしたことでも、もしかしたら、みんな元気になってくれるかもしれない。
そう思った私も、みんなの話に入ろうとした、その時だった。
『……野菜、……病気』
『なぁ、きー。お前も、何か美味しい食べ物、考えろよ』
そういえば、さっきから、きー君の大きな声を聞いていないなって思って、みんなと一緒に、きー君を見る。すると、きー君は何かブツブツ言いながら、考え込んでいるみたいで。
『きーったら!!』
ぴーちゃんが大きな声で呼ぶと、ハッとした様子で顔を上げる、きー君。
『さっきから、何をブツブツ言ってるのよ』
『お前もしっかり、食べ物、考えろよ』
『いや、あのさ。オレ、この病気の名前、聞いたことあるかも』
『え? どこで聞いたの?』
『それに、この病気、せいっちが治したって言ってたような?』
『『『……』』』
「……」
『『『えええええ!?』』』
みんなが大きな声で叫び、
「何だと!?」
アルバートの、今までで1番大きな声も響いたよ。




