第26話 精霊たちと一緒にお手伝い。静かに進む破滅の準備
「あーくん、きーくん、みーちゃんは、しょっちおねがい! あおくんとぴーちゃん、しーくんはしょっち! ぴぃくんとメッケとあたちはこっち!」
『分かった!!』
『任せて!!』
『了解!!』
『みんな、野菜網持った!?』
『オレたちは飛べるんだから、そのまま捕まえれば良いじゃん』
『さっきそれで、捕まえられなかったでしょう! そっと近づいてもダメなんだから、絶対必要よ。それにせっかく私たち用の網を作ってもらったんだから、しっかり使わなくちゃ』
『そうよ。何回逃したのよ!』
「みんな、はやく!!」
『『『いくぞー!!』』』
『ぴぃっ!!』
『全部捕まえるんだじょ!!』
今日の私たちのお手伝いは、厨房でのお手伝い。と、言っても、私たちは今、厨房じゃなくて、厨房のすぐ外にある裏庭にいるんだけどね。野菜を厨房の窓から逃しちゃって、みんなで捕まえに外に出ているの。
……何を言っているのかって? 最初のお手伝いの時に、ツルッと滑って、ポ~ンと跳ねるジャガーを洗ったでしょう?
今日は不思議な野菜第2弾。ふわはねレターを洗うお手伝いをしていたんだ。だけど、そう。不思議な野菜だからね。これまた簡単に洗うことができず、逃しちゃったの。
まず、今日一緒にお手伝いをしているのは、あーくん、きーくん、みーちゃん、あおくん、ぴーちゃん、しーくん。それから、私とピィ君とミッカね。ミッケたちは、この前のカタリーナの時にいた小さな子たちだよ。
あの日、アルバートさんに聞いた話。ミッカたちは、やっぱり精霊でね。精霊は、本来あまり人前に出てくる生き物じゃないのに、かなりの人数で出てきたから、アルバートさんも少し驚いたみたい。
それから、カタリーナや集まっていた人たちに、私が感じていた違和感だけど、あれもやっぱり当たっていて。精霊はエルフにしか見えないらしく、だからあの時、誰もミッカたちに反応していなかったんだ。
だけど、見えないとしても、その場に精霊がいるかもしれないってなるだけで、街は大騒ぎになるらしいよ。
それは精霊が、他の生き物とは違う存在だと言われているから。なんていうのかな、神じゃないけど、そういう神秘的な存在だと思われているみたい。
しかも、精霊は人の願いを叶えてくれる、なんて話まで広がってしまっていて。本当はそんなことはなくて、精霊が見えるアルバートさんたちエルフさんたちが、そのことをきちんとみんなに伝えているんだけど、それでも信じる人が後を絶たないんだ。
あのカタリーナ事件の時、アルバートさんは私が手を振るのを止めたでしょう? それから、話すことも。
あれは、みんなが見えない何かに反応する私を見て、もしかしたら精霊がいるのかもと、騒ぎになるかもしれなかったから、静かにしているように言ったんだよ。面倒なカタリーナもいたしね。
と、こんな感じで、精霊たちも、自分たちは見えないと分かっていても、もしかしたらという事があるから、なかなか人前には出てこないんだって。
じゃあ、そんな珍しい精霊が、どうして人前に出てきたのか。それは、私とピィ君と話をするためだったんだ。
たまたま宿舎に遊びに来ていたミッケたち。その時に、面白い人間の子供と、面白い小鳥がいるって、私たちの存在に気づき。それから私たちの様子を見ていているうちに、私たちと友達になりたいと思ってくれたみたい。
それであの日、もともと私たちに会いに来ていたんだけど。私たちがカタリーナに絡まれているのを見て、ちょうど良いと思ったらしいよ。
ミッケたちは、カタリーナが面倒な人間だって知っていたの。どうして知っているかというと、ミッケたちの友達魔獣が、やっぱりカタリーナに迷惑をかけられていたから。
だから私たちを助けるついでに、その友達魔獣たちの代わりにやってやろうと、報復行動に出たってわけ。みんな、せいせいしたって言ってたよ。
ちなみに、魔獣は精霊が見えるらしい。だからピィ君はあの時、私と違って普通に気づいたんだ。ただ、ピィ君からバレる可能性もあったから、アルバートさんはピィ君にも、静かにしているように言ったの。
と、そこまで話を聞いて、私が他の人たちと同じ、みんなを見る事ができなかったら、友達になれないでしょう? それはどうするつもりだったの? って聞いたら。アルバートさんに頼んで、話を伝えてもらうつもりだったって。
でも、見えないはずの人間の私が、なぜかみんなを見ることができたから、心配ごとがなくなったと、すごく喜ばれたよ。
だけど、みんながよくても、問題なのは私の方。アルバートさんにも、どうして私が精霊を見ることができるのかは分からなくて。後で1番長生きのエルフの長に、聞いてもらえることになったんだけど。
もし理由が分かったとしても、精霊が見えることは、他の人にバレないようにしろって言われたよ。もしも私が精霊を見る事ができるなんてバレたら、またそれで大騒ぎになるだろうからって。
だから、喋るのは宿舎の中だけ。街へ出たら側にいても良いけど、絶対に話さないって約束で、みんなと過ごすことになったんだ。
ただ、そのせいで、獣騎士さんたちに緘口令が敷かれてね。みんな、私のためだって納得してくれているんだけど、そこまでさせてしまって、すごく申し訳なかったよ。だからこれに関しても、やっぱりお手伝いで恩返しできたらいいなって思っているんだ。
と、いうことで、精霊さんたちと友達になった私とピィ君。だけど、人型の精霊さんたちには名前がなかったから、仮の名前をつけることにしたんだ。
洋服に色が赤色のあー君、黄色のきー君、緑のみーちゃん。それから青色のあお君とピンクのぴーちゃん、シルバー色のしー君だよ。
そして唯一名前があるミッケは、あのたぬきっぽい子ね。ほとんどが人型の中で、ごく稀に、魔獣姿の精霊が生まれるんだって。アルバートさんも、かなり驚いていたよ。
でも、それ以上に驚く事があったの。なんとミッケが、私と家族になりたい、契約もしたいと言ってきたんだ。
アルバートさんの話では、これまでに精霊と契約した人間は、この国では2人ほど。しかも何100年も前の事で、まさかの事態に、アルバートさんも最初は、何も言えなくなっていたよ。
だけど落ち着いてからは、エルフに伝わっている話を聞かせてくれて。精霊本人が求めているのなら、それはとても素晴らしい事で。精霊は生涯を共にする、運命の相手を見つける事ができるらしく、それが私だったんだろうって。
運命で導かれたもの同士が契約をする。それでどんな事が起こるのか、詳しいことは伝わっていないが、素晴らしい事が起きたとだけは伝わっている、と。
だから、契約できるのなら、した方が良いって言われたよ。
でも、急に契約って言われても、私はまだ小さくて契約できないし。それ以前に、いきなり家族っていうのもね。
ということで、契約については、私がまだ小さいから契約できないっていう事をきちんと話して。家族については、これから一緒に生活してから決めるってことになったんだ。
ほら、もしかしたら、一緒に暮らしてみたはいいけど、やっぱり私とは合わないって、ミッケが思うかもしれないでしょう? だから、お試し期間を設けることにしたの。
これに納得してくれたミッケ。こうして、他の精霊たちが時々遊びに来る中、ミッケは、私とピィ君と一緒に暮らしているんだ。
そして今、みんなで野菜洗いのお手伝いをしていて、野菜に逃げられたところだよ。
今日の野菜の名前は、ふわはねレター。簡単に言うと、ふわふわな羽みたいなレタスって感じ。葉っぱの形はレタスなんだけど、羽みたいにふわふわしていて、少しの風でも、ふわふわと逃げちゃうんだ。
だから1枚外して洗うたび、蓋付きの入れ物へ入れていたんだけど……。
レターの葉の隣で、ちょっと手を動かしただけで。こう、顔を掻こうと手を動かしただけで、葉っぱがふわふわと飛んじゃったの。
それを見て、すぐに取ってくれようとしたみんな。だけどその勢いに、他の葉っぱも飛んじゃって。結局15枚ほどが、窓から外に出ちゃったんだ。
それで私たちは、その葉っぱを追いかけて裏庭へ。これがまた不思議なんだけど、なぜか葉っぱは、普通の一軒家の1階天井よりも上に飛ばないらいく。捕まえる時は、近づかず、遠くから静かに、虫取り網で捕まえるらしいの。
そう、他の不思議野菜にもこの網は使うけど。最初に見て、不思議に思っていた虫取り網と虫籠は、野菜取り網と野菜籠として、用意されていたものだったんだ。
「ちょお!!」
『ぴぃ!!』
『たぁなんだじょ!!』
『それ!!』
『ふんっ!!』
『ちょっと、ぶつかってこないでよ!』
1人で野菜取り網を使う私。飛んで捕まえるから必要ないのに、私の真似をして、それからミッケに張り合って。専用の小さな野菜取り網を作ってもらい、それを背負って、葉っぱ捕まえようとするピィ君。
これまた、普通に飛んで捕まえれば良いのに。ピィ君と同じ理由で、専用の野菜取り網を作ってもらい。それを背負って飛びながら、葉っぱを捕まえようとするミッケ。
ピィ君とミッケは、他の精霊、あー君たちよりも早く飛べるから、網よりも速さで勝負なの。
他の精霊、あー君たちは、何人かひと組で、少し小さめの専用の野菜取り網を作ってもらって、それで野菜を捕まえているよ。なにしろ、顔を掻く仕草で起きた風でも飛ぶ葉っぱだからね。少し離れた場所から狙って、一気に捕まえないとね。
「あっ! あっちににげた!!」
『ぴっ! ぴぴぴ!!』
『逃さないんだじょ!!』
『あー、惜しい!!』
『次よ、次!!』
「あ、こんどはしょっちににげた、まちぇー!!」
『ぴぴぃー!!』
『待つんだじょ!!』
『『『待てー!!』』』
「……ちょったじょー!!」
『ぴっぴぴー!!』
『じょー!!』
『『『とったぞー!!』』』
それぞれ別の葉っぱを追いかけていたはずなのに、なぜかいつの間にか、同じ葉っぱを追いかけていた私たちは。10分かけて、やっと1枚目の葉っぱを捕まえることができたよ。さあ、次の葉っぱを捕まえなくちゃ!
「料理長。この様子だと、今日は捕まえるだけで、お手伝いが終わりそうだぞ」
「リアたちは、それで良い。いや、それだけで良いんだ。この仕事場には癒しが必要だからな。その分、お前たちがしっかり仕込みをしろ。俺はリアたちのために、最高のおやつを作る」
「「「おう!!」」」
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「おい、準備はどうだ?」
「私が遅れるとでも?」
「ふん」
「それで、今日はどんな用事で?」
「お前のために、彼の方がこれをご用意くださった」
「……これは!」
「お前のこれからの計画に、これが加われば、さらに我々の計画は前進するだろう、とな」
「確かにこれは、今回の作戦には実に都合がいいですね」
「いいか。今回のことは本番ではない。だが、これから先にやることの確認という意味では、極めて重要だ。失敗などあってはならない。確実に実行するため、準備を怠るな」
「分かっていますよ。これがどれほど重要な意味を持つかくらい。それに、決行日はすでに決めてあります。3日後です」
「何? 予定では1週間後だったはずだ。お前、我らに何も告げずに決行するつもりだったのか!」
「まさか。そんな愚かな真似をするわけがないでしょう。これから報告に向かおうとしていたところですよ」
「フンッ……どうだか。私はお前という男を信用していない。なぜ彼の方が、お前のような者に、今回の重要な件を任せているのか、理解に苦しむ」
「あなたがどう思おうと構いませんよ。私が彼の方に信用されている。それが事実でしょう」
「チッ! ……いいだろう。私のほうから、お前に見張りをつける。いいか、勝手な行動は一切許さんぞ、フィンレイ・ストーンフォード!」
「フフフッ、そろそろお戻りにならなくてよろしいんですか?」
「お前に言われるまでもない!!」
バタンッ!! バタバタバタッ……。
「……まさか、これほど都合のいい物が手に入るとは。ククッ、あの方たちが苦痛に歪む顔が目に浮かびますね。……あの救いようのない野蛮人どもめ。貴様らのような不浄な存在、この世界に存在していいはずがない! ……私がすべてを正し、あの方の理想の世界を完成させるために、あなた方には1人残らず、消えていただきますよ」
カタンッ……。
「ああ、そういえば、面白い子供がいましたね。あの子供、特別な力を秘めている可能性がある。今回の計画と合わせて、あの子供も手に入れてしまいましょう。フフフフ……、フフフフフフ」




