第25話 悪役令嬢ざまぁは、小さな子たちとたぬきにお任せ?
「ぐっ、誰よ、私を押したのは!!」
「カ、カタリーナ様!?」
「出てきなさい!! 今すぐ出てきなさい!!」
立ち上がり後ろを振り返り、喚き散らすカタリーナ。そんなカタリーナに、アワアワと慌てて何も対処ができていない、おつきのひとたち。
そんなカタリーナたちの周りを、あっちへ飛んだり、そっちへ飛びながら、ケラケラ笑っている小さな子たち。
あんなにケラケラとあの令嬢の周りで笑ったら、怒鳴られるだろうに。と思いながら、でもここまでの様子から、カタリーナたち、小さな子たち見えていない? とも思っていて。
だって見えていたら今頃、誰よ! なんて騒がずに、しっかりと小さな事たちのことを怒っているはずでしょう?
もしかして、あの小さな子たちは、みんなに見えていない? ただ、アルバートさんは見えているよね? 何だろう、見える人と見えない人がいるって事?
なんて事を考えていたら、もうカタリーナのことは良いやとばかりに、『終わり終わり』とか『うるさいしもう良いよねぇ』とか『悪さするからいけないんだよ』と言いながら、小さな子たちが私たちの方へ飛んできて。そして私たちに、何か話しかけてこようとしたよ。だけど……。
「お前たち、今は話すことはできない。私の家は分かるな。そこで待っていろ」
『分かったぁ』
『あとでな!』
『残念、お話まだなんだじょ! でも、もうすぐなんだじょ!』
アルバートさんが、さっきみたいに小声で話すと、小さな子たちはそう返事をして、またケラケラと笑いながら飛んでいったよ。
「居たんですね?」
「ああ」
「あれをやったのも?」
「そうだ」
「やはり、そうでしたか。倒れ方がおかしかったので、もしかしたらと。さて、この状況をどうしますか」
カタリーナに視線を戻す私。あ~あ、キンキラキンの洋服が。それに、顔も髪の毛も大変なことになってるよ。
実はさっき、カタリーナは思いきり転けたんだ。ただ、自分が原因で転けたわけじゃない。小さな子たちが、カタリーナを転ばせたの。
カタリーナが私たちに向かって歩いてこようとした時、まず数人の小さな子たちが、カタリーナの洋服を前に引っ張って。それと同時に、別の子たちがカタリーナの足元へ、そこそこ大きな石を転がし。
そして最後、止めとばかりに、残っていた小さな子たちが後ろから、カタリーナのことを思いきり押したの。ここまでほんの数秒。とても息の合った連携だったよ。
そんな、意気の合った連携に、カタリーナが転ばないわけがなく。結構な勢いで、前方に転けたんだよ。
「ぎゃあっ!? へぶっ!?」
って声は、その時の声。
それでね、転ばされたとはいえ、普通に……っていうのもおかしいけど、普通に転べれば良かったんだ。でも、転んだ場所が問題だった。
私たちがいた場所は、たまたま、本当にたまたま、レンガを敷き直していた場所で。今はレンガがすべて取り払われ、土があらわになった状態になっていてね。しかも、昨日大雨が降ったもんだから、地面は泥だらけのぐちゃぐちゃ状態で。
……そこに、思いきり転んだんだよ。
だから今のカタリーナの状態は、顔は手をついたけれど、勢いがついていたから、結局地面にバッチリつけることになり。さっきまでのケバケバな化粧顔じゃなくて、泥だらけのパック状態に。
髪の毛は、後ろは無事だったけど、前の方は綺麗な金髪から茶髪に。それから全体的に、エクステしたみたいに、藁や葉っぱで飾り付けられて。
そしてキンキラキンだった洋服も、後ろ側はキンキラキンのままだけど、前は茶色に染まり、斬新な洋服へと様変わりして、なんとも言えない状態になっているよ。
まぁ、倒れ方がアレだったからね。ほら、急に倒されたでしょう? だから怪我をしていないか、ちょっと心配したんだけど。あれだけ元気に叫んでいるんだから大丈夫かも?
「けがちてない?」
「ああ。彼らが一応、地面に倒れる瞬間、魔法で泥をさらに柔らかくして、怪我をしないようにしていたからな」
思わず口にした言葉に、アルバートさんがそう答えてくれる。なら、やっぱり大丈夫だね。
「早く出てきなさい!! 絶対に許さないわよ!!」
「お、お嬢様、一旦馬車へお戻りください!」
「うるさいわよ!! 早く私を押し倒した者を見つけてきなさい!!」
自分の状況を分かっていないのか、止めようとするおつきの人たちにまで、喚き散らすカタリーナ。その姿に、集まっていた人たちは、なんともいえない表情を浮かべている。
パック顔で、斬新な姿のまま喚き散らされたら、そりゃあ、何ともいえない気持ちになるよね。何人かは笑いを堪えているし。カタリーナが私たちにやってきた事が、そもそも問題だし、人に絡むのもいつものことみたいだから、誰も心配してないんだろうな。
と、そんなカタリーナが、さらに騒ぎ出しそうになった時、ドレッドさんが。
「ああ、やっと来ましたね」
そう言ったの。すると向こうの方から、エディスンさんたちが走ってきたんだ。
「騒ぎが起きていると連絡が入ってな。気配を調べたら、お前たちの気配もあったから、俺たちが来ることになった。それで、この状況は何だ?」
「彼女がいつも通り、ピィをよこせと言ってきたのですよ」
「ああ、いつものあれか。……それで、あの姿にしたのか?」
「いいや、私たちは何もしていない。ちょっとこっちに」
アルバートさんに呼ばれて、エディスンさんが近づく。
「なぜかここに、小さき者たちがいてな。あれをやったのは、その者たちだ」
「ああ、なるほど。ではそのことは伏せて、いつも通りの対処をしよう。しかし、それだけではな。もう少し詳しい話しが聞きたいのだが」
「アルバートは、彼らと待ち合わせをしていますからね。私がついて行きます。アルバート、リアを頼みますね」
「ああ」
「よし、それじゃあ……。その者を、魔獣不法奪取の罪で連行する!!」
「な、何よ! 離しなさい!! 私を誰だと思っているの!? 私を押し倒した者を、すぐに捕まえなさいよ!」
「連れて行け!!」
「放しなさいったら!! 私が訴えれば、あなたたちなんて……」
エディスンさんの指揮のもと、カタリーナは怒りが収まらないまま連行されていく。おつきの人たちも、一緒に連れて行かれたよ。
そうして数人の獣騎士がその場に残り、野次馬の対応を始めたよ。はぁ、面倒な目にあった。初めて見られて、最初は感動したけどもう良いかな。
「よし、私たちも行こう」
「あい」
アルバートさんに抱き上げられて向かったのは、お店通りから10分ほど離れた、とても綺麗な緑色の屋根をした2階建ての建物だったよ。
「ここが、街で暮らす用の私の家だ。本来は森で暮らしているのだが、どうしても用事がある時はこの家を使う」
「あるばーとしゃんのいえ、きれい。みどりがいい」
「そうか」
いつも無表情のアルバートさんが、微かにニコッと笑った気がしたけど、気のせいかな?
「さぁ、事を大きくしてくれた者たちが待っているからな。リアとピィも、大切な話があるから、全て話した後、昼食にしよう」
そう言って家に入るアルバートさん。そして中に入った瞬間。
「おそいんだじょ!!」
「待ってたよ!!」
「ささ、お友達になろう!!」
「ちゃんと僕たちのこと、見えてる?」
「目が合ってるんだから、見えてるよ」
「早くお話なんだじょ!」
小さな子たちが、私たちの周りに一斉に集まってきたんだ。




