第24話 これぞ異世界テンプレ? 悪役令嬢に絡まれた!?
「さぁ、早くその鳥を私によこそなさい! それはあなたのような平民が持っていていいものじゃないわ。私のような高貴な者が持つべきものなのよ! まったく、そんなことも分からないなんて。さぁ、早く!!」
うわぁ、まさかここに来て、異世界ファンタジー、テンプレみたいな状況に出くわすなんて。じゃない、まさかそれに私が巻き込まれるなんて。
今、私に一体何が起きているのか。それは……。
今日、私とピィ君は、宿舎の中でのお手伝いがなかったから、じゃあ雑用係のお手伝いをしてみようって決まってね。ヒルドレッドさんと、ヒルドレッドさんと仲のいいエルフのアルバートさんと一緒に、街のお店通りへ買い物に来ていたんだ。
今日の雑用は、総団長さんや、他の獣人さんたちに頼まれた物を買ったり、備品で足りないものを揃えることで。結構な量があったけど、他の雑用係の人たちと手分けをして、頑張って買い物をしたの。
その結果、最初の雑用係のお手伝いは、問題なく終えることができたんだ。そう、ここまではね。
買い物が終わったのは、ちょうどお昼ご飯の時間で。それじゃあ、お昼ご飯を食べてから宿舎に戻りましょう、という話になり。初めてこの世界の食堂に入れると、ウキウキになった私とピィ君。
そうして、嬉しすぎてスキップしながら進み始めた、その時だった。突然、道に大きな声が響いたんだ。
「ちょっと、そこのあなた。止まりなさい!」
誰よ、うるさいのは。
「聞こえているでしょう? この私の声を無視するつもり? 早く止まりなさい!!」
ったく、うるさいなぁ。
「ちょっと、上の者の声を無視するなんて! 早く止まりなさい!!」
うるさい! もう、本当に誰よ。そう思いながら振り向いた私。
すると、私たちの少し後ろの方に、キンキラキンの派手な馬車が止まっていて。その馬車の前に、これまたキンキラキンで、何とも言えないドレスを着た、高校生くらいの女の人が、お付きのような人と一緒に立ち、こちらを見ていたんだ。
これが、今の私たちの状況につながる、面倒な出来事の始まりだった。
まぁ、簡単に言えば、異世界転生あるあるかな。主人公の家族や相棒魔獣を、お偉いさんが横取りしようとして揉めるやつ。
私とピィ君が絡まれた時、ささっと事情を教えてくれたのはアルバートさん。絡んできた相手は、この街に住んでいるウォーロック伯爵家の令嬢で、名前はカタリーナ。歳は17歳。
カタリーナはよく、人の魔獣を見ては欲しがり、相手が一般市民の場合は、こうして堂々とよこせと言ってくるらしい。それで毎回注意は受けるんだけど、それでも全然やめない、どうしようもない人間だって。
だからね、なんでそんな勝手を許しているんだよ、両親は何をしているんだ? と思えば。娘がカタリーナ1人しかいないため、甘やかすだけであまり怒らず、こちらも毎回注意されているのに、改善の兆しなしの、ダメ両親だって。
と、ここまでの情報を、ささっと教えてくれたアルバートさん、凄いよね。
それで話を戻すけど、これは前に聞いた話。他の国ではまた違うらしいけど、この国では、誰であろうと、人の魔獣を奪う行為は禁止されているんだ。それが一般市民だろうと、貴族だろうと、王族の人間だろうと、関係なくね。
この国は、人と魔獣の関わりをとても大切にしているの。だから、そういう決まりが作られたんだ。
そのため、この決まりを破ると、その時の状況によって罰の重さが変わる。1番軽いものは注意で終わり、次が罰金。その後は牢獄、奴隷落ち。そして最悪の場合は処刑されることもあるとか。
それでね、カタリーナの場合は、ほとんどが罰金刑らしいんだけど……。罰金の金額もいろいろあり、立場によっても金額が変わるんだ。
だけど、カタリーナの場合は伯爵家でしょう? 変にお金があるせいで、両親がすぐに罰金を支払って終わらせちゃってね。だから娘のカタリーナは、まったく反省しないって。
そして私とピィ君ね。今契約してくれているのはヒルドレッドだけど。私とピィ君はいつも一緒にいるからね。
どうやらそんな私たちを、どこかで見かけたらしく、それからずっと狙っていて、今日ついに接触してきたみたい。
いやぁ、まさかこの世界に、こんなテンプレみたいな人物が本当にいるとは。絡まれて面倒なのは確かだけど、ちょっと感動したよ。
「何をニヤついている?」
「へんなひといちゃ。おもちろい」
「面白い、ですか」
アルバートさんの問いに、思わず面白いと答えてしまい、慌てて手で口を塞ぐ。
「ふふっ。あの者は、リアにとっては、たいした相手ではなさそうですね」
「そうだな。怖がるどころか、面白いと答えるとは」
「おもしろいだけじゃない。ちゃんとめんどう」
「はぁ。お前は大物になりそうだな。この状況で、面白いと面倒の両方が出てくるとは」
「ですが、確かに面倒ではありますね。いい加減にしてほしいですよ」
「そのうち、お前たちのところの者か、人間の騎士が来るだろう。お前はやらないだろうからな。どちらかが来たら、さっさとここから離れるぞ」
街で何か問題が起きた時は、人か獣人のどちらかの騎士が対応することになっているの。ただ、ヒルドレッドさんは今日は非番なんだ。
それでさっき、今日は騎士の仕事は何もしたくないって言っていてね。本当に危ないと思えば動くんだろうけど、相手が相手だから、動きたくないんだと思う。
そりゃあ、休みの日まで仕事はしたくないよね。まぁ、雑用はしているけど。でもこれに関しては、前々から買い物を楽しみにしていたって、買い物前に聞いていたし、実際とても楽しそうだったからストレスにはなってないはず。
と、カタリーナを相手にせずに、こっちで話を進めていたら……。
「ちょっと、先ほどから何こそこそと話しているの! 早くその鳥を私に渡しなさい!! うふふ、私の側に置いたら、どれだけ私が映えるか。美しい私が、さらに美しくなってしまうわぁ。私はどれだけ美しくなればいいのかしら!」
えー。そのセリフを、こんな場所で言う? 人がたくさんいる場所で? しかも、やってはいけないことをしているのに?
「あの者は、いつも通りだな」
「そうですね」
ああ。あれで通常運転なのか。
「この街に住んでいる者たちの中で、私が1番美しいというのに。あなた!」
カタリーナが私を見て言う。
「あなた、見てみなさい! 皆が私を見て、この美しさに見とれているわ。あまりに美しすぎて、顔を背けてしまう人までいる。ああ、私はなんて素晴らしいのかしら。あまりの美しさに、皆の視線を奪ってしまうなんて罪よね」
そう言って、今度はヒルドレッドさんとアルバートさんに向かって、アピールするように目をぱちぱちさせるカタリーナ。
その言葉と仕草に、集まっていた人たちは一気に静まり返った。
「ああ、また注目を集めてしまっているわ!!」
え、カタリーナ、本当に大丈夫かな? みんな、うわぁって顔をしているけど。ヒルドレッドさんとアルバートさんに至っては、無だよ無。嫌悪感すら通り越した無表情。ピィ君は私の肩で、気持ち悪い物を見たせいでって感じで、嗚咽してるし。
うーん。最初は異世界テンプレを見られて感動したけど、これ以上ピィ君に変なものを見せたくないな。それに私もちょっと、ぞわっとしたし。
これ、どちらかの騎士さんたちがくるまで、待ってなくちゃダメ? 無のヒルドレッドさんとアルバートさんには申し訳ないけど、ここは2人に対応してもらってさ。それで嫌なことを忘れるために、美味しいご飯を食べに行こうよ。
そう、ヒルドレッドさんたちに提案しようとした、その時だった。キンキラキンの馬車の後ろで何かが動いた気がして、私は話す前に、そちらをじっと見たんだ。
気のせい? さらに目を凝らして見る私。と……。
あっ!! やっぱり何かいる!! あの姿は、もしかして……妖精?
馬車の後ろに隠れるように、とても小さな、私の手のひらサイズの、羽の生えた人型の生き物が何人も顔を出したんだ。
それから車輪のところにもいて、その子は、羽の生えた、ハムスターサイズの……たぬき?だったよ。まぁ、本当はたぬきじゃないんだろうけど。
何だろう? あの子も精霊なのかな? いやそもそも他の子も本当に精霊なのか。え? 実は違う生き物?
なんて考えていると、なんとそのたぬきの子と、バシッと目があってね。そうしたらたぬきの子がとても嬉しそうに、ブンブンと私に手を振ってきたんだ。
思わず手を振り返しそうになった私。でも、それを止めてきた人がいたよ。アルバートさんね。
アルバートさんは私の耳に顔を近づけると、周りに聞こえない小さな声で、こう言ってきた。
「動くな。おそらく今、お前には小さき者たちが見えていると思うが、見えていることを周りに気づかれないようにしろ。知られると、あのおかしな者よりも、こちらの方が問題になる。私が後で、彼らと話ができるようにするから、今は何もせずにいるんだ。ピィも分かったか」
ピィ君を見れば、小さく頷いていたよ。アルバートさんの様子に、何が何だか分からなかったけど、私も頷く。
「よし」
そうして小さな子たちに目線を戻す。すると、話しているうちに、小さな子たちは前に出てきていて、何故かカタリーナに近づいて行っていたんだ。
すると、その間にまた騒ぎ始めたカタリーナ。
「ちょっと、どうして誰も何も言わないのよ! ああ、もう良いわ! それよりも鳥よ! さぁ、さっさと渡しなさい!!」
そう言ってカタリーナが、ピィ君の方へ手を伸ばしながら歩き始めようとした、その瞬間……。
「ぎゃあっ!? へぶっ!?」
おー! と、あまり良いことではないけれど、私は思わず拍手をしそうになったよね。ピィ君に変な言動を見せて、しかも害を与えようとするんだから、これくらいはね。ヒルドレッドさんとアルバートさんを無にした責任もとってもらわないと。




