第23話 思い切りやらかしました。とっても危険な魔の毛問題
「ごめんなしゃい!!」
『ぴぴぴぴぴ!!』
土下座して謝る私。その横でピィ君も翼を前に広げて、土下座をしているみたいに前方へ『ははぁ』と頭を下げる格好になって、やっぱり謝っている。
そんな私たちの前には、ゆっくりとリラックスした様子で伏せの姿勢をしている、ウルーの獣人。分かりやすく言うと、オオカミ獣人のヌードさんと。
同じく苦笑いをしながら、ヌードさんの毛を整えている、毛繕い室責任者のウッサー獣人。分かりやすく言うと、うさぎ獣人のイーストンさんがいるよ。
「ハハハ、そんなに俺の毛は気持ちよかったか。よっぽど俺の毛は上質らしいな」
「ごめんなしゃい!!」
『ぴぴぴぴぴ!!』
「良いって、良いって。洗う予定はなかったが、お前さんたちのおかげで、洗うきっかけになったしな。何だったら、今日は誰もいないが、普段は子供たちがここに集まって、さっきまでのお前たちと同じようなことをしてるんだぞ。ここは毛繕いに、子供たちの世話場も兼ねてるようなもんだからな。なぁ、イーストン」
「ええ、そうですね。ここまで誰もいないのは珍しいですが、基本的に、誰かしら朝からいますからね」
「だよな。何で今日は誰もいないんだ?」
「ちょうど、子供のいる獣騎士たちの休みが重なっているんじゃないですか? 今日は、どこかへ遊びに行くと言っていた獣騎士が多かったですし。それと他の子供たちも、さっきのキャンディースライムパーティーが終わって、皆帰って行きましたからね」
「それでか。そういえば、あの仕事がひと段落したとか言ってたもんな」
「ええ」
「まぁ、なんだ。お手伝いとしては、途中で『ああ』なったのはちょっとだが。それでも、ちゃんと謝ってくれたしな。それに、それだけ俺の毛を気に入ってくれたってことだろ。俺は、そっちの方が嬉しいから、もう謝らなくていいぞ。まぁ、次からは最後まで頑張れよ。それで毛繕いが終わってから、堂々とすれば良い。イーストンも何か考えてやれよ」
「ええ。私も、これからのことを考えましょう。リアとピィが、しっかりお手伝いできるように。特に疲れている時は、すぐに『ああ』なるでしょうからね。さぁ、一緒に残りのブラッシングをしてくれますか」
「あ、あい!!」
「ぴ、ぴぃ!!」
土下座をやめて、急いでヌードさんとイーストンさんの所へ行く、私とピィ君。土下座をすることになるなんて、私たちに何があったのか。それは……。
話はキャンディースライムパーティーまで戻るよ。パーティーがが終わったのは、午後14時ごろ。パーティーからの、お昼ご飯の、またパーティーみたいな流れになって、最終的に14時ごろに終わったんだ。
そうして解散になったあとは、私とピィ君はアンドリューさんと一緒に、毛繕い室へ行ったの。そう、最後の見学。獣人さんたちの毛並みの手入れを見学するためにね。
最初に毛繕い室にいたのは、責任者のイーストンさんだけ。毛繕いは基本、予約制で。今日はたまたま予約が少なく、一人で大丈夫だったから、イーストンさんしかいなかったみたい。
本当は、他にアルティオさんとメロディさんがいて、三人で毛繕い室を回しているんだって。
そうして、14時までには予約がすべて終わっていたから、ゆっくり見学と説明を受けることができた、私とピィ君。
毛繕い室でのお手伝いは、主に3つ。1つ目は、イーストンさんたちが忙しい時に、用意する物があったり、何かやって欲しいことがあれば、それの手伝いをする。
2つ目は、さすが獣人さんたち。毛繕いをすると、かなりの毛が出るらしく、その毛の片づけをするお手伝い。
あ、毛繕いで出た毛は、きれいに洗ったあと、いろいろな製品に再利用されるらしいよ。買い取りに来る人がいて、それも獣騎士団の資金になるとか。毛によっては、絨毯やクッションみたいな高級品になることもあって、かなり人気があるみたい。
ちなみに、私とピィ君が使っている毛布は、獣騎士さんたちの毛を使った、高級毛布だよ。枕もね。
あんなに気持ちの良い毛布と枕があるなんて、最初に寝た時、ものすごく感動したよ。まさか、それが獣騎士さんたちの毛だったなんてね。どれだけ、みんなの毛は気持ちが良いのか。
というか、この毛が問題で、私たちは謝ることになったんだけどね。
そして3つ目。これは、毛繕いの方法に関係があって。毛繕いには2つの方法があり、1つは、クリーン魔法でささっときれいにして、ブラッシングをして終わりの方法。これは、時間がない獣人さんたちに人気ね。
もう1つは、クリーン魔法を使わずに、きちんとシャンプーをして綺麗に乾かし、ゆっくりとブラッシングをする方法。これは、仕事がひと段落ついた獣騎士さんや、デートに行く獣騎士さんたちが選ぶことが多いみたい。
毛繕いには、この2つの方法があってね。最終仕上げは、もちろんイーストンさんたちがやるんだけど、シャンプーの前に、簡単なブラッシング作業があるらしくて。その最初のブラッシングを、私とピィ君に手伝ってほしいって言われたんだ。
まさかのお手伝いに、私たちがそんな大切なことをして良いのかと、きちんと確認したよ。
そうしたら、最初のブラッシングは、ほつれやゴミを軽く取るくらいの作業だから、難しくないことはなく。
それと、この毛繕い室は、さっき話に出ていたけど、獣騎士たちの子供が預けられることも多くて。その子供たちも、お手伝いとして時々、最初のブラッシングをしているから大丈夫だって言われたんだ。
そう話しを聞き、子供たちができるなら、まぁ、私がやっても大丈夫か? と、一応お手伝いすること決めた私。もちろん、ダメだと思ったらすぐに断ろうとは思っていたよ。だって獣人さんたちの毛が、さらにゴワゴワになったり、こんがらがったりしたら大変でしょう?
そして、そこまで話を聞いたところで、飛び込みのお客さん、ヌードさんがやってきたんだ。
それから、それとほぼ同時に、アンドリューさんが総団長に呼ばれて。戦闘に秀でているヌードさんがいるから大丈夫だろうと、アンドリューさんは一旦私たちの護衛から外れて総団長の元へ。
ヌードさんの今日のブラッシングの種類は、簡単な方だったから、流れを見させてもらうことに。
そうしたら本当に早かったよ。イーストンさんが、さっとクリーン魔法をかけて、毛をきれいにして、ブラッシングをして終わり。ここまで、だいたい30分くらいかな。
それでも最初に比べたら、見た目ツルツル、ピカピカ、サラサラって分かるくらい、とっても綺麗に仕上がっていたよ。
と、ここで、ブラッシングが終わったヌードさんが、私とピィ君に、あることをやらせてくれたんだ。
毛繕いのあと、何か予定があって、早く終わる方を選んだわけじゃなく、早く終えてもらって、ごろごろしようと思っていただけだし。ちょうど他のお客さんがいない今なら、ゆっくりできるんじゃないかって。
きれいな状態で、私たちに初めてのブラッシングをさせてくれたの。どんな感じか、分かっておいた方がいいだろうって。
ちなみに、獣人さんたちは、魔獣に変身できる獣人さんと、できない獣人さんがいるらしい。
例えば、ヌードさんの場合。普段は獣人の姿だけど、時と場合によって、オオカミ姿に変身するんだ。
でも、イーストンさんは、獣人姿のまま。ウサギの姿にはなれないみたい。何をするにも、獣人のまま。
これは獣人それぞれで、同じ種族でもバラバラみたい。イーストンさんとヌードさんの家族でも違うとか。
この時、ヌードさんは魔獣の姿になっていて、私とピィ君は、ドキドキしながら、初めてのブラッシングをさせてもらうことになったんだ。
……と、ヌードさんの毛の、気持ちの良いこと。
イーストンさんの腕がいいのか、ヌードさんの毛が、もともと質がいいのか。いや、その両方なのは間違いなくて。ブラシが、いっさい引っかかることなく、スッ、スッと通り、そのあと、手で触らせてもらうと、本当に気持ち良かったよ。
そう、気持ちよくてね……。
やらかしました。ハッ! と気づいたのは、ブラッシングを始めてから、1時間30分くらい経ってから。
あまりの気持ちよさに、私もピィ君も、ヌードさんに寄りかかって、よだれを垂らしながら、ぐっすり寝ちゃってたんだ。
慌てて起きて確認すると、私たちのよだれと、寄りかかって寝ていたせいで、ヌードさんの毛は、ぐちゃぐちゃになっていて、愕然とした私とピィ君。そんな私たちに、ヌードさんは苦笑いしながら、
「ハハハッ、よく寝てたなぁ。こりゃあ、ついでだから、洗ってもらうか」
って。それで、ブラッシングは終わっていたのに、シャンプーすることになっちゃったの。
まさか、最初の毛繕いのお手伝いで、こんな大失態を起こすなんて。ね、私とピィ君が土下座していた理由、分かったでしょう?
「さぁ、これで良いでしょう。リアとピィがやってくれたところも、特に問題はありません」
「おう、ありがとな! どれどれ……よくできてるじゃないか!」
「……ぬーどしゃん、ごめんしゃい」
『……ぴぴぴぴぴ』
「なんだなんだ、もう良いって言ったろう? それより、本当にお前たちの腕は良いな。今度また俺が来た時に、お前たちがいたら、ぜひ次も頼むぜ。イーストン、お願いしてもいいか?」
「仕上げを、ですか? 今日は特別にやってもらいましたが、本来は、2人には最初のブラッシングをしてもらう予定だったんですよ」
「だが、本当に仕上がりがいいぞ。それくらい、お前も分かってるだろう? 俺の時だけでもいいからさ」
「はぁ……まぁ、あなたがそう言うなら、良いでしょう」
「よし! それじゃあ、リア、ピィ! 次回もよろしくな!」
「あい!!」
「ぴぃ!!」
ヌードさんの言葉に、私は次回は失敗しないと、気合を入れて返事をしたよ。ピィ君もね。
と、ここでアンドリューさんが戻ってきて、毛繕い室の見学時間は終わり。ヌードさんを見送って、それからもう1度、イーストンさんに謝って。それから、これからよろしくお願いしますの挨拶をして、私とピィ君の今日の予定は全て終了したんだ。
……はぁ、獣人さんたちの毛。これは本当に危険だと思う。ある意味、アンドリューさんの臭い靴下くらいにね。獣人さんたちの毛は、私たちにとって魔の毛だ。これからは、臭い靴下と同じように、気をつけないと。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
『あっ、帰るみたい! 今日はもう何もしないのかな?』
『そうじゃない。もうすぐ夕方だもん』
『そっかぁ、終わりかぁ。残念』
『あの人間の子、面白いね』
『あの小さな鳥も、面白いんだじょ』
『キャンディーの時、他の獣人の子と盛り上がってたもんね』
『俺たちとも、気が合いそうだよな』
『いやねぇ、あれの何が良いのよ』
『あの、いろいろ大変そうな感じが良いんじゃないか』
『まぁ、それがなくても、僕たちとは気が合いそうでしょう? そう思わない?』
『気が合うのは、絶対よ。でも、あのキャンディーみたいなのは、あなたたちの気持ちが分からないわ』
『合うならそれで良いじゃん』
『ねぇねぇ、いつ声をかける?』
『もう少し様子を見ない?』
『あと2、3日したらどう?』
『お話しするの、楽しみなんだじょ!』
『ねぇ、楽しみだねぇ』
『あ、僕たちは今は遊ぶだけで良いけど、ミッケは家族になりたいんだよね』
『そうだじょ!!』
『じゃあ、それもちゃんとお願いしないとね』
『楽しみなんだじょ。早くお話ししたいんだじょ』




