第17話 掃除係班長、掃除のケルベロスとピィ君の匂い問題?
「そうか、それは災難だったな」
「うん。でも、どんなにおいかわかんないの。きじゅいたら、たおれちゃってたから」
『ぴぃ、ぴぴぴぃ』
「ピィも、気づいたら気を失っていたと」
『ぴぃぴぃぴぴ、ぴぃぴぃ』
「ダメですよ、ピィ。アレは本当に危険なのですから」
「何と言ったのだ?」
「どんな匂いか、確かめた方が良いのではないかと。リアもですが、他の初めて匂いを嗅いだ人々と同様に、臭いがキツすぎて、それを認識する前に倒れたようですからね。どのような臭いなのか気になっているようで」
え? 匂いを確かめたいって? ピィ君、何を言い出すのさ。
「それはやめておけ。また倒れるぞ。倒れるだけで済めば良いが、もしも何か後遺症が残ったらどうする。リアと共にいることができなくなるかもしれないぞ」
『ぴぃ……』
「そうですよ。それだけ危険だということです。気になるのは分かりますが、アレに近づいてはいけませんよ。他の子供たちと度胸試しをするのもダメです」
『ぴぃ~』
「何と?」
「分かったと言っていますが、どうでしょうね」
ヒルドレッドさんが苦笑いしているよ。
「一応気をつけておいた方が良いぞ。それにしても……。はぁ、アレはいつも私に迷惑ばかりかけてくる。が、今回はリアとピィの見学時間と、それのための私の時間まで奪ってくるとは。次回は必ず捕らえ、今回のことも含め、しっかりと掃除をさせる事にしよう」
「捕まりますかね」
「絶対だ」
昨日、洗濯と厨房の見学をした私とピィ君。今日は、ヒルドレッドさんの護衛のもと、昨日見学することができなかった、掃除の見学から始めることになってね。今は、掃除班班長のエドウッドさんと一緒に、掃除道具が置いてある部屋へ移動中だよ。
今日の予定は、午前中が掃除見学、午後最初が治療室の見学で、最後が毛並み手入れの見学ね。
まったく、昨日のアンドリューさん臭靴下事件のせいで、予定が変わっちゃって、みんなに迷惑をかけちゃったよ。
ただ、アンドリューさんは、どうも掃除でもいろいろと迷惑? をかけているらしくて。アンドリューの昨日のことと、いつもの掃除での迷惑のせいで、エドウッドさんはかなり怒っていて。
最初にエドウッドさんに挨拶をしてから、『今回の反省も含め、しっかりと掃除をさせる事にしよう』って言葉を、もう何回も口にしているんだ。
あ、そうそう。エドウッドさんはフォックという獣人で、簡単にいうとキツネの獣人かな。とっても綺麗でカッコいい獣人さんで、アンドリューさん曰く、女性にとても人気があるらしい。まぁ、こんなにカッコよければね。
でも私からすれば、獣騎士さんたち、イケメンばかりだと思うんだよね。というか、イケメンしかいない?
もし、ここの獣騎士さんたちが地球へ行ったら、即アイドルになって、めちゃくちゃ売れるだろうなって。それくらい、イケメン揃いな獣騎士さんたちなんだ。
そんな格好いい獣人さんたちの中でも、ひときわ綺麗でカッコいいエドウッドさんが、本気で怒っていたからさ。どうにも迫力が……。あの怒りようだと、アンドリューさん、捕まったら無事でいられるかどうか。まぁ、アンドリューさんへ自業自得だからしかたいないけど。
と、その話は別として、何でピィ君、靴下の匂いを嗅ごうとしてるのさ。あんな危険な物。匂いのために、他の子たちと一緒に度胸試ししないように、注意して見ておかないと。
ただ……。このピィ君の発言が、後々いろいろなことの突破口になるなんて、この時の私は思いもしなかったよ。
「よし、この話は終わりだ。ここが掃除道具がしまってある部屋だ」
エドウッドさんがドアを開けて、先に部屋へ入る。それに続いて入る私たち。部屋は10畳くらいで、いろいろな掃除道具が置かれていたよ。見たことない物がたくさん。
「皆、掃除とは簡単なものだと思っている。風魔法で吹き飛ばしてしまえば、それで終わりだと。しかしそんなことはまったくない。風魔法で飛ばすのは掃除の準備段階で、掃除の『そ』の字も始まってはいないのだ」
「ここの掃除道具は、すべてエドウッドが揃えたのですよ」
「そうだ。これでもまだ足りないくらいだが、ここでの掃除の時間は限られているからな。断腸の思いで、これだけで我慢しているのだ」
「ですからね。私たちの本来の仕事は、掃除ではありませんからね」
「分かっている。だから言われた通りにしているではないか」
ヒルドレッドさんから聞いた、エドウッドさんに関する事前情報。エドウッドさんは、みんなから『掃除のケルベロス』と呼ばれているらしい。
この世界には、ケルベロスという魔獣がいるんだけど。ケルベロスは規律厳守で、どんな物も者も逃さない番人として知られているようで。
掃除に対して妥協を許さず、自分に厳しく、他の人にも厳しいエドウッドさんは、このケルベロスに似ているってことで、掃除のケルベロスと呼ばれているんだって。日本で言うところの、掃除の鬼っていうのと同じ感じかな?
だから、掃除道具にも厳しく、いろいろと揃えているって。
ただ、あまりの掃除への徹底ぶりと、掃除道具の管理に時間をかけすぎちゃって。本来の獣騎士としての任務に影響が出そうになったり、掃除道具がこの部屋以外に溢れかえりそうになったりしたらしく。
さすがにこれではまずいと。これ以上掃除の時間と掃除道具を増やして、仕事にも宿舎にも影響を及ぼすようなら、掃除に関すること全てを禁止。騎士の仕事だけをさせるぞって、総団長さんから注意したの。
それからは、この部屋の半分ほどに道具を留め、時間を区切って掃除するようにしているんだって。
なんて素晴らしいのか。こんなに掃除に真剣に取り組んでいる人に、会ったことがあっただろうか。いや、ない。ここはしっかりとお手伝いをして、少しでもエドウッドさんの力になれたら……。
「まず、この道具だが……」
「あい!」
「それで、この道具だが……」
「あい!!」
次々とされる道具の説明に、真剣に聞く私。
そうして全ても道具の説明が終わったのは、説明が始まってから、1時間30分以上あとだった。
でも、アンドリューさんの臭靴下を気をつけないといけない、ってくらい大切ないとだったから真剣に聞いていて、そんなに時間が経っているとは思わなかったよ。
「さて、一応説明はこれで終わりだが。そうだな……。リア、ここに落ちているゴミを、リアだったらどうやって片付ける?」
エドウッドさんが示したのは、部屋の隅っこ。そこに毛が溜まっていたんだ。この宿舎に住んでいるのは、獣人さんたちだからね。みんなの抜け毛で、毛のゴミが1番多いらしいよ。季節の変わり目は、大変なことになるとか。
だから、いくら掃除しても、完璧に毛がなくなることはなくて。それはエドウッドさんも分かっているから、少しの毛には渋々目をつぶっているみたい。そう、渋々ね。
「ここにある道具は、どれでも自由に使ってくれて良い。もちろん、使わなくても良い。それはリアとピィも自由だ。が、どんな掃除でも良いから、1度やってみてくれ」
エドウッドさんにそう言われた私。昨日のお手伝いは微妙だったけど、これは初めて、ちゃんとお手伝いできるチャンスなのでは? そう思った私は、すぐに道具を選び始めたよ。




