第16話 とったどー!! ん? ジャガーに敗北?
あまりに高く跳ね上がったジャガーに、思わず立ち止まって、それを見上げてしまった私。そんな私をよそに、天井にはぶつからなかったものの、そのままヒューンっと落ちてくるジャガー。
そのジャガーを、ボルトレーンさんがバク宙をしながらパシッ!! と受け止め、そのまま綺麗に着地。
「ほれ」
そうしてジャガーを私に渡してくれたんだけど、ツルッとね。また手から滑っちゃって、そのまま地面に落ち、またまた跳ねるジャガー。
と、また今回もすぐに確保してくれるボルトレーンさん。ただ今度は、私に戻さずに自分で持ったまま、私にジャガーを見せてくれたよ。
「どうだ? ビックリしたか?」
「うん」
「初めてジャガーを洗う奴は、だいたい驚くからな。ハハッ、ピィの顔も面白いな」
言われてピィ君の方を見ると、ピィ君はタライの縁に乗ったまま、口を大きく開けて、じっとボルトレーンさんの手にあるジャガーを見つめていたよ。
「よし、ここからは俺が、ジャガーの面倒なところを説明するぞ。まずはジャガーの皮だが……」
こうしてボルトレーンさんから、詳しいジャガーの話を聞くことに。
まずはジャガーの皮について。ジャガーは元々、土に埋まっている野菜で、泥がついているうちは特に問題はないんだ。
だけど水で泥を洗い流すと一変。皮がツルツルのすべすべになって、料理人さんたちでも、20回に1回くらいはツルッと逃してしまうらしい。
「俺が持っててやるから、触ってみろ」
「あい」
『ぴぃ』
いつの間にか復活したピィ君と一緒に、ジャガーの皮をそっと触ってみる。
すると、こう、何だろう。皮には少しの凹凸もなくて。もしここに、しっかり観察できる顕微鏡みたいな道具があったとしても、ザラつきを見つけられないんじゃないかってくらい、指がツルッと滑ったんだ。こんにゃくの上位版って感じ?
『ぴぃ!?』
ジャガーの上に乗って、滑り具合を確かめたピィ君。乗った途端にツルッと滑って、クルッと1回転しちゃって。その後も何回か乗ってみてたけど、やっぱり全部滑っていたよ。
「どうだ? この滑り具合、凄いだろう」
「うん……」
「ぴぃ……」
「俺たちは慣れてるから、今こうやって持てているが、ここまでになるのに、結構時間がかかるんだ。ただ、滑るだけなら、まだ何とかなるんだが……。あれもあるからな。きちんと持てるようになるまで、さらに時間がかかっちまう。あの跳ねだ」
ジャガーの皮は、あれだけツルツルしているにも関わらず、なんと弾力もあるらしく。それが、さっきみたいに、天井まで届くんじゃないかってほど跳ね上がる原因なんだって。
少しでも地面に触れれば、ポンポンポンと跳ねながら、あっちへこっちへ跳ね転がるもんだから。慣れていない人だとツルツルと相まって、持つだけでかなりの時間がかかるの。
ただ、これが子供たちには大人気。掴めないツルツルに、どこへ跳ねて行くか分からないジャガー。これで子供たちが盛り上がらないわけがなく、子供たちが手伝う時は、遊びに発展して大騒ぎになるって。
と、こんな感じで子供に人気だから、中身がスカスカで食べられない物は子供の遊び用として、お店にご自由にお持ちくださいって感じで置いてあって、みんなよく遊んでいるみたい。
遊び終わったら燃やして肥料にするから、無駄になることはないの。
「ただ、リアとピィは手伝いだからな。慣れるまではこれを着けて洗うと良い。今はどういうものか経験してもらおうと思ってな、何も着けないでやってもらったんだ」
そう言ってボルトレーンさんが私とピィ君に渡してきたのは。ゴム手袋みたいな物だった。魔獣の皮でできているらしく、ジャガーが滑りにくくなるんだって。それでも最初は大変みたいだけど。というか、まさかピィ君サイズのゴム手袋があるとは。可愛い……。
すぐにゴム手袋を装着する、私とピィ君。2人とも、サイズはピッタリだったよ。
「よし、じゃあもう1度やってみろ。料理長、今日はジャガーだけやらせるんだろう?」
「ああ、やれるだけやってくれれば良い」
「じゃあ俺が、どれくらい洗えば良いか見せるからな」
そうして、ボルトレーンさんが見せてくれたジャガー洗い。さすが料理人さんだったよ。ジャガーが1度も手から離れず、大体1分くらい洗って、洗い終わったジャガーを、専用のカゴに入れて終了。
「いいか、カゴに入れる時も気をつけろ。ジャガー同士がぶつかって、ここでもポンポン跳ねるからな」
「あい!」
『ぴぃ!!』
「よし、それじゃあ時間まで、ジャガー洗い頼むな」
こうして始まった、ジャガー洗い。
私とピィ君、それぞれでカゴからジャガーを取り出して……って、よくよく考えたら、ゴム手袋を着けたピィ君、どうやってジャガーを取ったんだ? そう思って、思わず見ちゃったよ。
確かに、ゴム手袋の指は人の手袋みたいに、ピィ君の指に合わせて、ちゃんと指の部分が分けて作られていたけど……爪、刺さらなくない?
「ぴぃくん、もちぇる?」
『ぴぃ!!』
任せろと言うように、片方の翼を胸に当てるピィ君。まぁ、できるなら良いけど……。と、ピィ君の心配もあるけど、自分の心配もしなくちゃね。
ピィ君は、そのままダイレクトにジャガーを水の中へ。私はそっと、離さないように水の中へ。……よし、ここまでは大丈夫。問題はここからだ。私はジャガーを洗おうと、そっと手を動かした。
うん、思いきりツルッとポ~ンと跳ねました。最初よりも、さらにツルッとポ~ンとね。ゴム手袋を貰ったのに、まさか最初よりも酷いことになるとは。
と、そんな私の横で、私とほぼ同時に、やっぱりジャガーを跳ねさせちゃったピィ君。2人のジャガーが、まぁ、跳ねる跳ねる。
「リア、ピィ、慌てなくて良いからな。それと、いくら転がっても気にするな。また洗い直せば良いだけだ。大体その後、皮を剥くんだ。少しくらい汚れていても構わないぞ」
「あい!!」
「ぴぃ!!」
跳ねて転がって、部屋の隅でようやく止まったジャガーを拾いに行く私とピィ君。そうして持とうとすれば、またツルッ! ポ~ン! とどこかへ逃げて行く。
ツルッ! ポ~ンッ!! ツルルッ!! ポーンッ!!
「まっちぇー!!」
『ぴぴぴー!!』
「ちょおっ!!」
『ぴぴっぴっ!!』
「まちぇー!!」
『ぴぴぴー!!』
そうして少しすると……。パシッ!! カシッ!! あっちへこっちへ、それそれジャガーを追いかけていた私とピィ君。同じ場所に転がったジャガーを、同じタイミングで掴み、そして。
「ちょったじょー!!」
『ぴっぴぴぴぴー!!』
私はジャガーを片手で持って頭の上に掲げ、片足を曲げて、もう片方は伸ばしてポーズを取り。ピィ君はジャガーの上に片足を何とか乗せ、翼を広げてポーズを取ったよ。
いやね、ピィ君もそうだと思うんだけど。ようやく捕まえたジャガーが嬉しくて、思わずポーズを取っちゃったんだよ。
ただ、ここで周りの様子が、何だか変なことに気づいて。確認するために周りを見ると、なぜか厨房にいるみんなが、私たちに背を向けて、じっとしていたんだ。
「しゃいらしゅしゃん? ぼるとれーんしゃん? ありちあ? ちぇるちー?」
声をかけると、みんなビクッとした。どうしたのかな?
「お、おう、どうした?」
なんか話しずらそうなボルトレーンさん。
「じゃが、ちゅかまえまちた! これからもいちど、あらいましゅ!」
「そうか、よくやったぞ!! ……だがな、今日はもう時間だ。また次の手伝いの時のよろしくな!」
「ん?」
『ぴ?』
どうやらジャガーを追いかけているうちに、時間がきちゃったみたい。
ということで、1つもちゃんと洗えないまま、今日は終了することに。何もお手伝いできなくて悔しいやら、申し訳ないやら。
だから、次は絶対に何個も洗おう!! ってピィ君と誓いあってね。そしてその後、サイラスさんたちにお礼を言って、私たちは厨房を後にしたんだ。
みてろよ、ジャガー! 次こそは絶対に洗ってやる!!
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【リアたちが出て行った厨房では】
「いやぁ、あの姿、可愛かったな」
「あの、やりましたってポーズだろう? まさか、あんな可愛いポーズを見せてくれるとはな」
「仕事は大変だが、これからは、仕事が楽しくなりそうだな」
「……おい」
「「「は、はい!!」」」
「これからオレは、リアとピィのおやつを作る。お前たちは夕食の支度を始めろ。だが良いか、少しでも手を抜いたり、リアとピィの食事に何かあってみろ。お前たちを食材にしてやるからな。それと、あの姿を笑った者は、後で俺のところへこい」
「「「!?」」」
「あ~あ、前よりも、ここでの仕事は大変なことになりそうだ」
「ボルトレーン、何か言ったか?」
「いいえ、何も!!」




