第15話 遊び過ぎ注意! 初めての野菜洗いはツルッとポ〜ンッ!?
「おおお~」
「こんな事もできるぞ」
「ふおぉぉぉ~」
「お前はそれで良いのか?」
『ぴぃっ!! ぴぴぴぴぴっ!!』
「「……」」
た、楽しい。
「ふぉぉぉ~!」
「ぴぃぃぃ~!」
「……はぁ、リア、ピィ、あなた達、そろそろ厨房でどんな事をするか見せてもらわなくて良いの?」
「それに、時間があったらお手伝いするんでしょう?」
「サイラスも喜んでいるみたいだから、まぁ、私たちは構わないんだけど?」
「ん?」
『ぴ?』
「何だ?」
私とピィ君、それからサイラスさんの3人で、アリシアさんとチェルシーさんの方を見る。
「だからね、どんなお手伝いをするのか、見せてもらわなくて良いの? それでお手伝いするんでしょう?」
「サイラスも、そのまま遊んでいて良いの? リアとピィに使える時間は、おやつの時間までだったでしょう? それからは別の仕事があるとか言っていなかった?」
「あ……」
『ぴ……』
「あー……」
私たちはお互いを見てから、私はそっと床に下ろしてもらい、頭をカリカリかき。ピィ君は私の肩に戻ってきて、ツンツンと毛繕いし。サイラスさんも頭をかきながら、着崩れたコックコートを整え、エプロンを締め直し、最後にコック帽をかぶる。
しまった。楽しすぎて、本来の目的を忘れていたよ。まぁ、私だけじゃなく、ピィ君とサイラスさんも同じだったけどさ。ここへはお手伝いをしにきているんだから、遊んでちゃダメじゃん。
って、あれ? レーノルド先生は? 確かさっきまで一緒にいたはずだけど……。
「ありちあしゃん、ちぇりゅちーしゃん、れーのるどしぇんしぇいどこ?」
「はぁ、あなた達が遊んでいるうちに、仕事に戻ったわよ。もう30分以上遊んでいたんだから」
「しゃんじゅっぷん!?」
急いで水時計を見る私。この世界の時間は地球と同じで1日24時間。水時計を使って時間を知るんだ。
あとは、目を覚ました時に、大きな鐘を見たでしょう? 仕事としてあの鐘を鳴らす人たちがいてね。その人たちが1時間毎に鐘を鳴らして、時間を教えてくれるの。
他にも、街に危険が迫っていたり、何かあった時に鐘を鳴らして、街の人にいろいろ知らせてくれるんだ。
それで話を戻すけど、水時計を見たら、治療が全て終わってから30分以上も経っていて、そんなに遊んでいたのかとビックリしたよ。
「おてちゅだい、じかん!?」
『ぴっぴぴ、ぴぴぴ!?』
「いや、すまない。オレも時間を忘れていた」
はぁ、まさかこんなに時間が経っていたなんて。これはこれから、気をつけないとまずいな。カッコいい、優しいサイラスさんと一緒にいたら、遊んじゃいそうだもん。
私たち3人、お手伝いについて何もせずに、一体何をしていたのか。実は……。
レーノルド先生がサイラスさんを診察した時に、『今はあまりの感動に、何も言えなくなっているだけだ』って言っていたでしょう? あれはね……。
まず、サイラスさんはバッファーという獣人で、簡単にいうとバッファローみたいな獣人さんね。
その姿は、体が大きく、筋肉隆々、ムキムキのボディービルダーみたいな体に、強面の顔、低い声に、頭には立派で大きいツノが生えいて。この宿舎にいる獣人さんの中で、1番大きな獣人さんなんだ。
と、どうも、その姿がどうにも小さな子たちは怖いみたいで。初めてサイラスさんに会う子はもちろんのこと、何回も会っている子にも泣いたり、逃げられたり。これまでサイラスさんと遊んでくれた子は、数人しかいなかったみたい。
だけどサイラスさん自身は、子供たちが大好きで。子供たちにそういった態度を取られてショックを受けても、子供たちのためにって。美味しいご飯を作ったり、悪から子供たちを守ったりと、いろいろと影から子供たちを見守ってきたんだ。
そんなサイラスさんに対する、私とピィ君の気持ちだよ。こんなにカッコいいサイラスさんを、どうしてみんな怖がるかは分からないけれど。私とピィ君は、一瞬でサイラスさんを好きになって、その思いをぶつけたでしょう?
そんな私たちの反応は、いつもの子供たちとの反応と全く違い。しかも、自分の良いところや大好きなところを、私たちが物凄い勢いで言ってきたもんだから。あの時、感動して倒れちゃったんだって。
そうして、倒れたことから復活したサイラスさんは、こう、自分のカッコいいと思う姿を、ボディービルダーがポーズをするように、いろいろ見せてくれて、私たちを楽しませてくれた後。
今度は、こんな事もできるぞと。指を1本出してきて、私に掴まれと言い。私がその指に掴まると、そのまま持ち上げてくれて、鉄棒みたいにぶらぶらして遊ばせてくれたり、そのまま自分が回転して、遊園地の空中ブランコみたいにしてくれたり。
ピィ君はピィ君で、ツノが気に入ったらしく。ツノに掴まり、鉄棒選手のように回転したり、離れ業をしたりと、たくさん遊ばせてくれたんだよ。
まぁ、それが楽しくて楽しくて。それでお手伝いの事を忘れちゃって、いつの間には30分以上も経っちゃってたの。
「えちょ、しゃいらしゅしゃん、おてちゅだい、よろしくおねがいちましゅ!!」
『ぴぴぴ、ぴっぴぴ!!』
「ああ、オレからもよろしく頼む」
慌ててお手伝いの事を始める私たちに、アリシアさんとチェルシーさんが、何とも言えない顔で笑っていたよ。
そうしてすぐに始まった厨房見学。まずは厨房の中を簡単に案内してもらい、その後、私たちが絶対に近づいちゃダメな場所や、危険なものについて話を聞いたんだ。
私たちが近づいちゃダメな場所は、基本、火を使う場所と、包丁やらナタやら、ケガをしそうな物が置いてある場所ね。
火は、今のちびっ子の私とピィ君が近寄るのは危ないでしょう? それに火を扱っている人に近づくのも危ない。と、どちらにとっても危険だから、近づくのは禁止。
刃物は私の背と同じくらいの物もあって、あれはどう考えても危険だからね。禁止と言われたけど、元々近寄らなかったと思うよ。
「だからな、お前たちには基本、最初の下拵えの準備を手伝ってもらうつもりだ。野菜を洗ったり、皮を剥いたりだな。他はその時々で頼むつもりでいたが、どうだ? 手伝えそうか?」
「あい!!」
『ぴぃ!!』
「そうか!!」
「うわぁ。あんなニコニコの料理長、初めて見たぜ」
「いつもの圧もどこにいったんだか」
ん? 料理人さんたち、何か言った?
「よし、それじゃあこれで、この厨房での大切な話は終わりだが……。やってみるか? 手伝い」
「あい!!」
『ぴぃ!!』
「そうかそうか!」
とってもニコニコなサイラスさん。
「じゃあ、こっちへきてくれ。今日は初日だからな、1番簡単な食材から洗ってもらおう。ただな、1番簡単と言っても、面倒n食材の中で、1番簡単だと言われている食材なんでな。もし大変で無理だと思ったら、すぐに言ってくれ」
「めんど?」
「ああ。ちょうど普通の野菜をきらしていてな」
「ふちゅう?」
「食材には、下拵えが面倒な食材と簡単な食材があってな。面倒な方は、本当に手間のかかる物が多いんだ。まぁ、子供たちはその面倒事が好きなんだが。料理人や食材を育てる者たちにとっては厄介でな。それで料理時間が延びてしまうこともあるし、片付けが面倒になることもあるくらいだ」
面倒と簡単? 皮剥きが大変とか、玉ねぎみたいに目が染みて大変とか? 簡単なのはサッと洗える感じ?
よく分からないまま、直径30センチくらいのタライが置いてある場所まで移動した私たち。すぐに料理人さんの1人、ボルトレーンさんがタライに水を入れてくれたよ。
「今日洗ってもらう野菜はこれだ」
サイラスさんがカゴから取り出したのは、野球ボールくらいの大きさで、まん丸な泥だらけの野菜だったよ。本当に野球ボールみたいにまん丸なの。
「これはジャガーという野菜でな。水につけるとすぐに泥は取れて、綺麗になったように見える。だが、それでもその後、少しの間洗い続けてくれ」
ふむふむ、数分洗い続ける感じか。
「と、洗うことに関しては言うことはこれくらいなんだが、ここからは洗っている時に気をつけることだ。このジャガーはな、洗うともの凄くツルツル滑って、それからもの凄く跳ねるんだ。だからそれに気をつけて洗うんだぞ」
ツルツル滑る? まぁ、それについては、そういう野菜が地球にもあるから、そこまで不思議ではないけど、跳ねるって何?
「自分で経験した方がよく分かるか。とりあえず1回洗ってみろ」
そう言われ、私はサイラスさんからジャガーを受け取ると、ピィ君はタライの淵に乗り、私はしゃがんで早速ジャガーを洗ってみることにしたよ。
そっと水にジャガーを沈める。と、サイラスさんの言っていた通りすぐに泥が取れて、ジャガイモ色のまん丸ジャガーが現れ、本当に綺麗になったように見えるくらい全部の泥が取れたんだ。形は泥が取れても、やっぱりまん丸だったよ。
これをもう少しの間洗う……。私はすぐに手を動かして洗おうとする。だけど洗おうとした瞬間……。ツルッ! ツルルッ!!
「ふぉ!? ちゅる!?」
「ぴぃ!?」
右手からツルッと抜けたジャガー。慌てて左手で押さえようとすれば、ツルルッ!! とまた滑り。その勢いでジャガーがポ~ンっと、上へ跳ね上がったんだ。それにさらに慌てる私とピィ君。
でも驚きはそれだけで終わらなかったの。跳ね上がったジャガーが落ちる前に追いつく! と思ってジャガーの下で構え、落ちてきたジャガーを上手いことキャッチ!! ……できず。ジャガーはそのまま地面へ。
と、ジャガーが地面に落ちた瞬間。ポ~ンッ!! と、天井に付くんじゃないかってくらい、ジャガーが跳ねたんだ。
「ふおぉ!?」
『ぴぴぴ!?』




