第12話 緊急事態はアンドリューさんの靴下テロが原因!?
「え? なんて、いっちゃ? いいまちたか?」
アリシアさんやチェルシーさんたち、獣人さんによっては、敬語を使わなくていいと。友達と話すみたいに、そうタメ口でいいと言われているんだけど。どうにもまだ慣れなくて、タメ口と敬語が混ざってしまう私。
でも今は、2人が私に話してくれた内容が予想外のことすぎて、意識せずに思わず混ざっちゃったよ。
「ええとね、今回、リアとピィが倒れたのは、あのバカの靴下のせいなのよ」
「そう、あのバカのせいなの。まったく。気づいた時に、必ず注意しているんだけど。見なさい!! ついに被害者が出たじゃない!! 子供たちが度胸試しをして、具合が悪くなったんじゃないのよ! すぐにあれから距離をとって、ちゃんと意識が回復してくれたから良かったけれど。私たちがいないところで、あの状態になっていたら、どうなっていたか」
「いや、あのだな、すまない」
「「すまないじゃない!!」」
『ぴぴぴぴぴっ!!』
そうだそうだと言わんばかりに、ピィ君のアンドリューさんへの攻撃が激しくなる。
「えちょ、あの」
ピィ君じゃないけど、私と話している最中に、アンドリューさんに詰め寄っていった、アリシアさんとチェルシーさんに声をかける。
「あ、あら、ごめんなさい」
「そうよね、今はあなたと話しているのに、私ったら」
「ピィ君、私たちはまだ話があるから、とことんやってやりなさい!」
「そうよ、ビシバシやっちゃって!」
「ぴぃっ!!」
アンドリューさんをキッと睨みながら、ピィ君にそう言い戻ってくる2人。
「あの、かくにんいいでしゅか? あたちとぴぃくん、くちゅしたでたおれちゃの?」
「ええ、そうよ」
「こげき、しゃれたんじゃない?」
「攻撃と言えば攻撃かしらね?」
「最悪な凶具、凶具!」
「えちょ、もいちどかくにん。こげきじゃない、くしゃいくちゅしたで、たおれた?」
「「ええ」」
アリシアさんとチェルシーさんの声が重なり、側にいた全員が頷く。
まさか、まさかの話だった。私とピィ君が倒れて気を失った原因が、そんなくだらない? いや、普通ならありえないって思うことだったなんて。
チェルシーさんとアリシアさんの話を聞いているうちに、倒れる前のことを思い出してきた私。私ね、倒れる直前、ぎゅうぎゅうに詰まった洗濯物の中に手を突っ込み、大きな靴下を取ったでしょう? あの靴下が、私とピィ君が気を失うことになった原因だったの!
その靴下の持ち主は、今まさにピィ君から攻撃を受けているアンドリューさん。そしてアンドリューさんの靴下は、この宿舎に関わる人なら全員が知っている、最重要劇物アイテムだったんだ。
何で最重要劇物アイテムなのか。それは……。もしアンドリューさんの靴下の匂いを嗅いでしまったら、下手をすれば再起不能になる恐れがあるほどの臭さだから。
本当に、あり得ないほど臭いんだって。私には臭いって記憶がないんだけどね。
チェルシーさんやレーノルド先生曰く。私とピィ君は、アンドリューさんの靴下の匂いを嗅いだのは初めてだったでしょう? だからあまりにも強烈すぎる匂いに、一瞬で鼻が麻痺し、臭いと感じる暇もなく、そのまま倒れたんだろうって。
え? そんなに臭いの? まさかぁ、って思うでしょう? でもね、最重要劇物アイテムって言われるくらいなんだよ?
それに今までにも何人も被害者がいて、数人はあまりのことに、普通の生活へ戻るまで3ヶ月かかったとか?
じゃあ今度は、それだけ強い匂いなら、チェルシーさんたちが気づいたんじゃって思うでしょう?
これがね、今回はたまたま洗濯物が多くて、他の洗濯物の匂いと、アンドリューさんの靴下の匂いが混ざることに。
そしてそれと合わせて、洗濯物係のチェルシーさんたちは、アンドリューさんの洗濯物と関わるうちに、匂いへの耐性がついたらしくて。それと慣れもあって、いつものことって感じで気づかなかったみたいなんだ。
それで、私を寝かせ直した時に靴下が出てきて、私とピィ君が匂いにやられたと気づき、思わずみんな固まっちゃったらしいんだ。私とピィ君の命が危ないって。
だけど、ハッとしたチェルシーさんが出したのが、意識を失う前に聞いたあれだったの。
「非常事態発生! 特別異臭警戒態勢をとって!!」
ってやつ。アンドリューさんの靴下で何かあった時に出される、特別な警戒体制だって。わざわざ作ったらしいよ。
と、こうして洗濯場は封鎖され、私とピィ君は医療室へ運ばれ、レーノルド先生の治療を受け、そのまま医療室で休むことになったんだ。
ちなみに洗濯場は今、アンドリューさんの靴下自体は回収されたものの、匂いが完全に消えるまでは立ち入り禁止にしてあるらしい。匂い消しを使ったから、明日の朝には再開できるみたいだよ。
うん。靴下で非常事態発生? 特別な警戒態勢って。チェルシーさんが言ってた凶具じゃないけど、これはもう兵器では? 最悪な兵器だよね。
というか、そんな臭い靴下を作り出す人物が、本当にいるの? いや、みんながアンドリューさんの靴下がそうだって言っているんだから、本当にそうなんだろうけど。それでもさ、現実だって思えないよ。
それから、獣騎士さんたちの子供たちが、よく宿舎に遊びにくるんだけど。アンドリューの靴下がある時は、誰がアンドリューさんの靴下に1番近づくことができるのか、度胸試しをするらしく、具合が悪くなる子が続出。
だから禁止にしているんだけど、みんな隠れてやるみたいで。仕方なくチェルシーさんたちは、子供たちに度胸試しをやらせないよう、特別な箱を作り。アンドリューさんが、洗濯物を持ってきた時は、その箱の中に入れろって言ってあるらしいよ。そして箱に入れた後は鍵をかけるの。
だけどアンドリューさんは面倒くさがって、時々普通に、みんなの洗濯物と一緒に、あの洗濯物を入れておく小屋へ入れちゃうみたいで。それを今回、私がたまたま取っちゃったらしいんだ。
「毎回、毎回、口を酸っぱすくて言っているのに、面倒だって小屋に入れるから、こんなことに」
「リア、ピィ、私がもっと注意しておくべきだったわ。本当にごめんなさい」
「ちぇるちーしゃんのしぇいじゃない。じぇんぶ、あんどりゅーしゃんのしぇい!」
私は思わずアンドリューさんを睨んでしまう。アンドリューさんがちゃんと約束を守っていれば、私は今頃みんなに迷惑をかけず、初めてのお手伝いをしていたはずだったのに。
私の睨みに、下を向き小さくなるアンドリューさん。そんなアンドリューさんを、さらに攻撃するピィ君。
その後、私はお昼ご飯までは治療室にいなさいって、レーノルド先生に言われたから。ピィ君、アリシアさん、チェルシーさんと一緒に、ベッドの上からアンドリューさんを叱りながら、お昼まで過ごすことになったんだ。
はぁ。本当なら今日のお手伝いの予定は、洗濯、掃除、厨房の順で見学をして、できる範囲でお手伝いもしていたはずなのに。掃除はお休みになって、午後の厨房だけ見学することになっちゃったよ。明日、お掃除の見学をさせてくれるって、言ってもらえたから良かったけど。
……お手伝いを邪魔する者は許さん!! ピィ君、もっとやっちゃって!!




