第10話 初めてのお手伝い開始! でもまさかの大事件に発展!?
「チェルシー、連れてきたわよ!」
「あら、ちゃんと起きられたのね。おはようリア、ピィ、今日からよろしくね」
「よろしくおねがいちましゅ!!」
『ぴぃ!!』
「お、来たな! 今日からよろしくな!」
「いやぁ、手伝ってくれて助かるよ!!」
「ちょっとあんた達! リアとピィは、あくまでも2人ができる範囲で頑張ってくれるんだからね。それに基本は私の手伝いをしてくれるのよ。あんた達はいつも通りさっさとやりなさい!」
「へぇへぇ」
「まっ、分からない事があったらどんどん聞いてくれ」
「そんなこと言っておいて、2人にいろいろやらせるつもりじゃないでしょうね?」
「ま、まさか、そんなことするわけないだろう。なぁ?」
「あ、ああ。さぁ、俺たちは邪魔にならないように向こうでやろう」
そう言い、少し向こうへ歩いていく獣人さんたち。
「まったくあいつら。リア、ピィ、2人が来てくれた時は、ちゃんと私が見張っておくから、安心してお手伝いしてね」
「あい!!」
『ぴぃっ!!』
「アリシア、今日のリアとピィの予定は?」
「ここが終わったら掃除班の所へ行って、その後は厨房へ行くわ。他は次回かしら」
「そう。厨房は午後から?」
「ええ」
「じゃあ、余裕を持って掃除班へ行けるように準備するわね。私が連れて行く?」
「そうね、お願いしてもいいかしら。向こうにはお昼頃迎えに行くと伝えておいて」
「分かったわ」
「それじゃあ、リア、ピィ、お昼ごろ迎えにくるから、それまで頑張って!!」
「あい!!」
『ぴぃっ!!』
裏庭まで連れてきてくれたアリシアさんが、手を振りながら戻っていったよ。
「さぁ、それじゃあ始めましょうか。今日はどうやって洗濯をしているのか見てもらうわね。そうね、時間があれば、何かやってみましょう!」
「あい!!」
『ぴぃっ!!』
「よし! じゃあ、こっちへ来て」
チェルシーさんに案内されて向かったのは、小さな小屋の前。小屋というより、大きめの外用物置くらいの大きさかな。
その小屋の扉をチェルシーさんが思い切り開けると、中には洋服やタオル、その他いろいろな物が、小屋いっぱいに詰め込まれていたよ。
「まずこの小屋ね。ここにみんな、自分の洗濯物を持ってくることになっているのよ」
「いっぱい……、くちゃ」
『ぴぃ……、ぴぴぴ』
ピィ君が、鼻の前に翼を持ってくる。ピィ君も臭かったみたい。みんな騎士だからね、汚れるのは当たり前だし、汗をかいて臭くなるのは当たり前なんだけど、それにしても臭い……。
「でしょう? 臭いわよね。匂い消しを使えと言っているんだけど、みんな使わないのよ。まったく嫌になっちゃう。そろそろまた、洗濯物を返す時にメモを挟んで、注意した方が良さそうね。そうそう、洋服にはちゃんと名前が書いてあるから、混ざっても大丈夫なの。だからごちゃごちゃでも心配しないでね」
「うん……」
『ぴぃ……』
あまりの臭さに、そっちに気を取られ、返事が『はい』じゃなくて『うん』になっちゃったよ。まぁ、『はい』も、今は『あい』になっちゃうんだけどね。
というか、私とピィ君は今、一体何をしているのか。
この前私は、地球では仕方なく身につけた、家事や身の回りのお世話や雑用全般を。今度はイヤイヤじゃなく、みんなの恩返しのために頑張るって決めたでしょう?
だからね、私のいろいろが落ち着いてから総団長さんに、お手伝いさせてくださいってお願いしたの。
ただ、まぁ、最初はもちろん断られたよ。私がそんな事をする必要はない。私はまだ小さな子供なんだから、友達を作って楽しく遊んでいればいいって。
でも、そんな1回のお願いで、私は諦めなかったよ。それから毎日、朝・昼・晩とお願いし続けたんだ。
そうしたら、私がやりたいことをすることで、もしかしたら記憶が戻るかもしれないし、それにそんなにお願いされたらなって。
必ず私が完璧にできることだけっていう約束で、お手伝いをさせてもらえることになったんだ。それが今日からだったの。
獣騎士団の宿舎には、獣騎士さんたちや、その他にもたくさんの人たちがいて、約100人くらい暮らしているでしょう?
常駐している人たちだと、宿舎全体を管理してくれている管理人さん。レーノルドさんやコンタンサンやアリシアさんみたいに、医療専門の人たち。いつも美味しいご飯を作ってくれる料理人さんたちがいるよ。
あとは、これは獣騎士団には必ず必要だって。地球の美容院みたいに、獣人さんたちの毛並みの手入れを専門にしてくれる人たちが、常駐してくれているんだ。
その他が、獣騎士さんたちね。この宿舎は未婚の獣騎士さんたち用で、結婚している人は街のどこかに家を持って暮らしているって。
そんな独身な獣騎士さんたちだけど、いつも交代で、宿舎のいろいろなことを担当しているんだ。武具係に掃除係、洗濯係に雑用係みたいな感じにね。
その中で私は、武具係以外でお手伝いさせてもらえることになったの。武器は危ないからダメだって。
そして今日からお手伝いと言ったけど、詳しくいうと、今日はとりあえず、洗濯と掃除と厨房で、全体的な雰囲気とか、どんな手伝いができるのかとか、見学させてもらう日で。
見学の後は、もしできるようなら、そのままお手伝いしても良いって。ただ、本格的なお手伝いは、全部の見学が終わってから。
明日はレーノルドさんたちの所と、毛並みの手入れの見学をする予定だよ。雑用はその時その時でやる事が違うから、その時に言うって。
ということで、最初にやってきたのが、裏庭の一角にある洗濯場だったんだ。……まぁ、早々に、臭いでやられたけどね。でもみんなのために、頑張ってお手伝いするよ!!
チェルシーさんはチータの獣人で、分かりやすくいうとチーターの獣人。第2獣騎士団に所属していて、洗濯を専門に担当しているの。洗濯係の班長って感じ。
他にも、ティルソンさんとアンセルさんがいて、みんなをまとめているけど、今日はお休みなんだって。
「どこに洗濯物が置いてあるかは分かったわね」
「うん……」
『ぴぃ……』
「……大丈夫?」
「うん……」
『ぴぃ……』
「具合が悪くなったらすぐに言うのよ」
「うん……」
『ぴぃ……』
「本当に大丈夫かしら……。それじゃあ、次よ。小屋の隣にカゴがあるでしょう? そのカゴに洗濯物を入れて……」
洗濯物の流れはこうだったよ。まずね、本当は前日に干しておいた洗濯物を取り込むのが、1番最初にやることなんだけど、今日は取り込んだ後に私たちが来たから、それはなし。
そして、全ての洗濯物を取り込んだ後は、洗濯物がぎゅうぎゅうに詰まっている小屋の隣に置いてあるカゴに、洗濯する物を適量入れて、洗い場へ持って行く。
洗い場には、レンガで作られた大きな丸い浴槽みたいなものがあって、水と風魔法、それから自然に優しい石鹸を使って洗濯物を洗うんだ。
こう、風で水を浮かせて、その中に洗濯物と石鹸を入れた後、風で水を回しながら洗うの。まるで洗濯機みたいにね。
だから基本、洗濯係は、風魔法と水魔法が使える人がなるみたい。みんなそれぞれ使える魔法が違うから、その人に合った係をやるんだよ。
洗い終わったら、浴槽みたいな所に水だけを捨てて、洗濯物に汚れが残っていたら、そこだけ丁寧に手洗い。
と、ここまで終わったら、いよいよ干す作業ね。何もなければ自然に乾かして、急ぎの時は風魔法を使うこともあるみたい。
そうして、小屋の中の洗濯物を全て洗濯し終わったら、取り込んであった洗濯物を畳んで、各自に届ける。と、ここまでが一連の流れだって。
ただ、洗濯物が多い時は、次の日に回すことも。今日は多い方だから、後で簡単なものと面倒な物を分けて、面倒な物だけでも先に洗うって言ってたよ。
それから、洗う時に出る水だけど。浴槽に流した水は、地球で言うところの排水溝みたいな物が、地下を通っているらしく。そこを通って、街の外れの建物まで流れていって。
その建物には、浄化の石って言う、汚れた水をきれいにしてくれる石が敷き詰められていて。そこで水を綺麗にした後、再利用されるんだ。
畑や薬草菜園、街の広場の噴水なんかに使われるらしいよ。水魔法を使えない人もいるからとても助かるって、街の人たちに喜ばれているって。
「どうかしら? 分からないことはある?」
うん、別に魔法以外は、今のところ私でもできそうかな。
「だいじょぶでしゅ!!」
『ぴぴぴっ!!』
ピィ君も大丈夫だって。
ヒルドレッドさん曰く、ピィ君は私たちも言葉をちゃんと理解できているらしい。だからピィ君の様子をみて判断すれば良いって。今の返事は大丈夫って感じ?
「そう。それじゃあ、まだ時間があるから、初めてのお手伝いをやってみる?」
「あい!!」
『ぴっ!!』
おおお! ついに初お手伝いだ!!
「それじゃあ、私は洗うところで待っているから、リアとピィは、カゴに洗濯物を入れて、私のところへ持ってきてくれるかしら?」
「あい!!」
『ぴっ!!』
すぐに洗濯物が置いてある小屋へ移動する私たち。そうしてカゴを持って扉を開ければ、むわ~んと漂ってくる凄い匂い。思わず鼻をおさえる私とピィ君。
だけど、匂いなんかに負けていられない。初めてのお手伝いだもん。しっかりやらないと。
私は、私の肩に乗っているピィ君を見る。するとピィ君も私を見ていて、お互いの目が合い頷き合うと、洗濯物に近づいたんだ。
そういえば、今日は後で洗濯物を分けるって言っていたけど、私たちが持っていく分はどれでもいいのかな?
う~ん、こんなぎゅうぎゅうだとなぁ。これを引っ張ると、この洋服が取れる? こっちを引っ張ると、この洋服? とりあえず手を突っ込んで、掴んだものを持っていけばいいか。
そんなことを考えながら、私は勢いよく洗濯物に手を突っ込んだよ。そして何かを掴んだから、そのまま一気に手を引き抜いたんだ。
うん。まさかこの行為が、あんな大騒ぎになるなんて。命の危機? に瀕するなんて、思いもしなかったよ。




