第4章:|世界に轟いた一球《ザ・ボール・ハード・ラウンド・ザ・ワールド》
翌朝、俺の人生は公式にステルスミッションへと突入していた。
ステップ1:異星の超兵器を隠蔽する。 俺は左手首に分厚い弾力包帯を巻き、母さんには「猫に躓いて捻挫した」と説明した。母さんはそれを信じた。 一方、リアからは午前3時に『目立つな』という脅迫めいたメッセージが届いていた。
目立たないこと。それは俺の特技だ。俺は学校の演劇で「木」の役をやるような男だ。
だが、宇宙には別の計画があったらしい。
「よし、聞け、貴様ら!」 シン・コーチが笛を吹き、その音が体育館の壁に反響した。 「今日はドッジボールをやる。地区予選が近いからな、特別に『狩人ルール』でいくぞ」
クラス全員が呻き声を上げた。『狩人ルール』とはつまり、ボールが通常より少し重く、そして頭部への攻撃が合法という意味だ。
「チームキャプテン! ヴィクラム、お前は赤チームだ。ロハン、青チームに入れ」
俺の胃が重くなった。
ヴィクラム・マルホトラ。もし俺が村人Aだとしたら、ヴィクラムは別番組の、もっと製作費がかかったアニメの主人公だ。 彼の父親は軍に兵器を供給している『エーテル技術社』のCEOだ。ヴィクラムは金持ちで、イケメンで、成績トップ。さらに、すでに「狩人能力」に目覚めているという噂まである。
彼はコートの中央に立ち、退屈そうにしていた。体操服を着ているだけなのに、まるでモデルだ。
「俺は……アルジュン、サミール……それと、あの転校生をもらう」 ヴィクラムはまるで戦争に行く兵士を選ぶようにチームメイトを選んだ。
俺の親友であり、哀れな青チームのキャプテンであるロハンは、売れ残りのメンバーを見た。つまり、俺だ。
「あー……じゃあ、俺はアリアンで」 ロハンはため息をついた。「悪いな、相棒。死ぬなよ」
試合は虐殺として始まった。 ヴィクラムの腕はキャノン砲だった。彼はボールを投げているんじゃない、発射しているんだ。開始2分以内で、俺のチームの半分が脱落し、打撲した脇腹をさすっていた。
俺は壁際の後方に立ち、背景の一部になろうと必死だった。 動くな、と自分に言い聞かせる。注目を集めるな。
「おい、そこの捻挫ボーイ!」
俺は顔を上げた。ヴィクラムが赤いボールを持ち、真っ直ぐに俺を見ていた。目は笑っていない。
「残ってるのはお前だけだぞ」ヴィクラムは言った。
俺は周りを見た。彼の言う通りだった。ロハンは数秒前に脱落していた。つまり、俺対ヴィクラムと、その取り巻き3人だ。
「降参しろ、アリアン!」ベンチからロハンが叫んだ。「顔面を守れ!」
「善処する!」俺は小声で言った。
ヴィクラムが振りかぶった。手加減する様子はない。 彼は腕にエネルギー――肉眼で見えるほどの魔力――を注入した。彼の肩の周りの空気が揺らめく。
『スキル』を使っている、と俺は気づいた。体育の授業で? 正気か?
「いくぞ」ヴィクラムは静かに言った。
彼が投げた。
ボールが悲鳴を上げた。風切り音じゃない、断末魔のような音だ。ボールは空中でブレながら、俺の顔面めがけて一直線に飛んできた。
俺の脳が叫ぶ:『避けろ(DODGE)』。 俺の体が叫ぶ:『動け(MOVE)』。
だがその時、包帯の下のブレスレットが微かに振動した。ほんのわずかな反応。 パッシブ効果(常時発動)。アドレナリン・オーバーライド。
突然、世界がスローモーションになった。 ボールの回転が見える。ヴィクラムの額から飛び散る汗が見える。宙を舞う埃の粒子が見える。 時速100キロで飛んでくるはずのボールが、俺に向かってふわふわと漂う風船のように見えた。
(遅すぎる)俺の本能が囁いた。
俺は避けなかった。何も考えなかった。俺は「捻挫した」はずの左手を上げた。
パァァン!
銃声のような破裂音がした。体育館が静まり返る。
俺はそこに立っていた。腕を前に伸ばしたまま。包帯からわずかに煙が上がっている。 俺はボールを掴んでいた。ヴィクラムの必殺の一撃を、片手でキャッチしていたのだ。
「あ、やべ」俺は呟いた。
時間が再び加速した。体育館が爆発的な騒ぎになる。 「見たかよ今の!」「キャッチしたぞ!」「アリアンがヴィクラムの球を止めた!」
俺はヴィクラムを見た。彼の退屈そうな表情は消えていた。目は見開かれ、俺に釘付けになっている。彼は……屈辱を感じているようだった。
「投げ返せ!」ロハンが叫んだ。「アウトにしろ!」
俺はパニックになった。ただこのゲームを終わらせて、トイレに隠れたかっただけなのに。
『軽く投げよう』俺は自分の腕に言い聞かせた。『ほんの、軽いトスだ』
俺はボールを投げた。 俺の体の中で、まだ神のエネルギーが唸りを上げていることを忘れて。
ボールが俺の手を離れた。
ドォォォン!!
ボールは音速の壁を突破した。 衝撃波で俺は尻餅をつき、後ろにひっくり返った。 ボールはコートを横切り、瞬きする暇もなかったヴィクラムの頭の横を――神に感謝を――数センチの差で通り過ぎ、背後の体育館の壁に激突した。
ズガァァァン!
ボールが爆発した。破裂したんじゃない。爆発したんだ。ゴムの破片が四方八方に飛び散る。ボールが直撃したコンクリートの壁には、蜘蛛の巣状の亀裂が入っていた。
再び、完全なる沈黙。シン・コーチがクリップボードを取り落とした。
俺は床に座り込んだまま、その破壊の跡を見つめた。 「たぶん……」俺は静寂の中で裏返った声を出した。「たぶんそのボール、不良品でしたよ、コーチ」
【ロッカールーム】
俺は急いで着替えようとしたが、手が震えていた。やらかした。盛大にやらかした。
「アリアン」
俺は凍りついた。振り返らなかった。その声を知っていたからだ。 ヴィクラムが俺のロッカーに近づいてきた。彼はシャツを着ておらず、タオルで首の汗を拭いている。近くで見ると、さらに威圧感があった。
彼は怒っているようには見えなかった。彼は……分析しているような目をしていた。
「いい投球だったな」ヴィクラムは静かに言った。
「まぐれだよ」俺はシャツを鞄に押し込みながら言った。「完全にまぐれだ。たまに……筋トレしてるから」
ヴィクラムはロッカーに手をつき、俺の逃げ道を塞いだ。 「俺の球速は110キロ出ていた。『捻挫した』手首で、片手でキャッチできるような球じゃない」
彼が手を伸ばした。その手が、俺の包帯を巻いた腕の上を彷徨う。俺はビクッと身を引いた。
「お前が何者なのかは知らないが」 ヴィクラムは冷たく鋭い瞳で俺を見据え、囁いた。 「俺の学校で力を隠すヤツはいない。ここの絶対的エースは俺だ。もしお前が脅威なら……必ず暴いてやる」
彼は俺の肩をポンと叩いた。それは脅しのように感じられた。 「またな、アリアン」
彼は去っていった。
止めていたことすら気づかなかった息を吐き出す。ポケットの中でスマホが振動した。リアからだ。
『今すぐ』 『体育館の映像を見たわ。あんたバカなの? 屋上に来なさい』




