深淵《アビス》への降下
「メッキされたロブスターになった気分だ」 俺は潜水艦のエアロックの扉に映る自分を見て不満を漏らした 。
「深淵潜水服だ」 ヴィクラムが訂正し、ヘルメットを装着した。 「第二の皮膚として機能する。酸素をリサイクルし、体温を調整し、水圧で頭蓋骨がペースト状になるのを防いでくれる。礼を言え」
「ありがとうよ、ロブスタースーツ」俺は呟いた 。
「通信チェック」リアの声が耳元で鳴った。彼女はセンサー満載の細身のスーツを着ている。「全員グリーン(正常)?」
「グリーン」イシャが確認した。彼女の白いアーマーは恐ろしいほど似合っていた。手足の油圧システムをテストしている 。
「エアロック開放。3……2……1」
プシュゥゥゥ……
水が流れ込んできた。水しぶきは上がらない。部屋が一瞬で満たされる。人工重力が解除された 。 足が床から離れる。外扉が開く。
俺たちは虚無の中へと踏み出した 。
【沈没都市】
俺は息を呑んだ。通信システムがその音を拾ったが、誰もからかわなかった。全員、見入っていたからだ 。
ドワルカは瓦礫の山ではなかった。大都市だった。 虹色の真珠から削り出された巨大な尖塔が螺旋を描いてそびえ立ち、内部から柔らかな青い光を放っている 。 透明な水晶でできた橋が深い裂け目をまたぎ、塔と塔を繋いでいた 。 ネオンのように光る魚の群れが、ラッシュアワーの交通量のように通りを泳いでいる 。
静寂。荘厳。歴史が始まるずっと前に滅んだ文明の亡霊 。
「無傷だ」ヴィクラムが囁いた。「この建築様式……我々がまだ発見していない幾何学原理を使っている。反重力アンカーだけでも……」
「集中して、観光客」 イシャがスラスターを吹かして前進した。 「観光に来たんじゃないのよ。水神の神殿は都市の中央にあるはずだわ」
俺たちは静まり返った通りを漂った。不気味だ。 死体はない。家具もない。ただ空っぽの建物だけがある 。
「何かがおかしい」リアが手首のスキャナーを確認して言った。「堆積物がないわ。藻もない。この都市は数千年も水没しているはずなのに、昨日掃除されたみたいに綺麗だわ」
「自動洗浄の魔法とか?」俺は四本腕の戦士の像の上を飛び越えながら提案した 。
「それか」イシャが暗い声で地面を指差した。「何かが有機物をすべて『食べた』かよ」
彼女が指差したのは、石畳の上の巨大な爆発痕だった。新しい。石が黒く焦げている 。
「プラズマによる焦げ跡ね」ヴィクラムが分析した。「最近だ。ここで誰かが戦ったんだ」
「マヤと蛇神だ」俺は悟った。「奴らが先行してる」
俺たちはスピードを上げた。空き家の地区を抜け、中央広場にたどり着く。 広場の中央には、濃い青色のラピスラズリで作られたピラミッドがあった 。 巨大だ。ギザのピラミッドが小さく見えるほどに。頂上からは、純白の光の柱が上の海に向かって放たれていた 。
水神の神殿。
俺たちはピラミッドの基部に着地した。入り口は高さ10メートル(30フィート)の巨大な黄金の扉だ 。 それは吹き飛ばされていた。ひしゃげた金属と砕けた石が階段に散らばっている 。
「突破されたか」ヴィクラムが悪態をついた。「遅かった」
「待って」リアが手を挙げた。「破片の散らばり方を見て。扉は『外側』に向かって吹き飛ばされてる」
「外側?」俺は眉をひそめた。「つまり……爆発は中から起きたってことか?」
ギギギギ……
暗闇の入り口から音がした。 重い足音。肉の音ではない。石の上を歩く金属の音だ 。
影の中から、一つの姿が現れた。高さ4メートル(12フィート)。 青銅とガラスで作られた鎧のように見えたが、中身は体ではなく、渦巻く青い水で満たされていた 。 手には電気を帯びてバチバチと鳴る巨大な斧槍を持っている 。
神殿の守護者。
次にもう一体現れた。さらにもう一体。6体が階段を塞いだ。 だが、彼らは俺たちを見ていなかった 。 彼らは足元に散らばる半魚人の死体の山を見下ろしていた 。
「蛇神たちが無理やり入ろうとしたのね」イシャが気づいた。「それでセキュリティシステムが作動した」
先頭の守護者が、ガラスの兜を俺たちに向けた。 胸の中の水が赤く渦巻く 。
『侵入者ヲ検知』 『種族:人間』 『認証:ナシ』 『プロトコル:排除』
「俺たちは魚野郎の仲間じゃないぞ!」俺は叫び、手を振った。「俺たちは味方だ!」
守護者が斧槍を振り上げた。水中を稲妻が走る 。
「避けろ!」ヴィクラムが絶叫した 。
俺たちは散開した。稲妻が俺のいた場所を直撃し、海水を一瞬で超高温の蒸気の泡に変えた 。
「雷撃よ!」リアが警告した。「水は電気を通すわ! 近くの水に当たっただけで、スーツの電子回路が焼かれる!」
「最高だな!」俺は柱の影に隠れて叫んだ。「当たっちゃダメで、水中だから炎神も使えない。どうすりゃいいんだ?」
「壊すのよ」イシャが冷静に言った 。
彼女は柱を蹴り、先頭の守護者に向かって一直線に加速した。「ヴィクラム! 電磁パルスバーストを! アリアン! 奴らがガードした隙を狙って!」
「了解!」
ヴィクラムが衝撃手榴弾を発射した。 ズドン! 水圧の衝撃波が守護者たちをよろめかせる。 イシャが一体の肩に着地した。彼女は氷の短剣を、ガラスの首関節に突き立てた。「瞬間凍結!」 鎧の中の水が一瞬で凍りつく。膨張によりガラスが砕け散り、守護者は崩れ落ちた 。
「一体撃破!」彼女が叫んだ 。
二体の守護者が俺に向き直った。斧槍を振るってくる。 火は使えない。風も使えない 。 だが、俺には大地神がいる。 そして大地神は重い 。
俺はダイヤルを叩いた。 『化身:大地神』
スーツの下で岩の鎧が形成され、俺の質量が増大した。 俺は重く――信じられないほど重くなった 。 錨のように海底へ沈み、着地と同時に石畳を割る。 斧槍が俺の岩の肩に当たった。 ガィィィン!
ノーダメージ。
俺は石の手で武器を掴んだ。「俺のターンだ」 思い切り引き寄せる。守護者たちが体勢を崩した 。 俺は左の奴に頭突きをした。 ガシャーン! ガラスの顔面が砕ける。 右の奴を殴りつけた。 ドゴォッ! 胸部が陥没する 。
「大地神は水中でもいけるぞ!」俺は笑った。「俺は潜水戦車だ!」
「調子に乗るな!」ヴィクラムが叫び、ソニックキャノンで守護者を吹き飛ばした。「増援が来る前に中に入るぞ!」
最後の守護者を粉砕した。それは無害な海水と屑鉄になって溶けた。道は開いた 。 神殿の開かれた扉の前に立つ。中は真っ暗闇だ 。
「リア」俺は大地神を解除して再び浮かび上がりながら尋ねた。「なんで守護者は蛇神を攻撃したんだ? 蛇神って……水の生き物だろ?」
「水神は『秩序』の神よ」リアは暗闇を見つめて囁いた 。 「阿修羅は『混沌』の生き物。この神殿は海を崇めるために建てられたんじゃない。海を封じ込めるために建てられたのよ」
彼女は俺を見た。「中を見る準備はいい?」
俺は唾を飲み込んだ。「全然。でも行こう」
俺たちは暗闇の中へと泳ぎ出した 。




