|金持ちの玩具箱《リッチ・キッズ・トイ・ボックス》
「何にも触らないで」リアは警告した。「マジでよ。その花瓶一つで、あんたの一族全員の生涯年収より高いんだから」
俺は突っつこうとしていたピカピカのクロム彫刻から手を引っ込めた。 「触ろうとなんてしてないって」俺は嘘をついた。「ただ……オーラを感じてただけだ」
俺たちは『エーテル技術タワー』のロビーに立っていた。この街で一番高いビルであり、マルホトラ・コーポレーションの本社だ。 床の大理石はあまりに磨き抜かれていて、反射で自分の鼻の穴の中まで見えそうだった。天井付近では、警備ドローンが高い蚊のように音もなく飛び回っている。
俺は襟元を引っ張った。着ているのはいつもの学校の制服だが、この場にいると急に安っぽく感じられた。 「で、なんで俺たちここにいるんだっけ?」俺は囁いた。「ハンバーガー食べに行くんじゃなかったのか?」
「我々がここにいるのは」 中二階から声が響いた。 「お前がホームレスみたいな格好をしているからだ」
俺は見上げた。大階段を降りてくるヴィクラム・マルホトラの姿があった。 彼は制服を着ていなかった。マーベル映画に出てきそうな、流線型の戦術トレーニングスーツを着ている。片手にはタブレット、もう片手にはプロテインシェイクを持っていた。
「ようこそ、我が家へ」ヴィクラムは階段の下まで来て言った。「正確には、親父の研究開発部門だがな」
「ここに住んでるのか?」俺は尋ねた。
「最上階の5フロアとかな」彼は肩をすくめた。「ヘリポートがあれば通学も楽なもんだぞ。ついて来い。仕事だ」
地下4階:武器庫
エレベーターは下降した。深く、深く。 扉が開いた瞬間、俺は顎が外れるかと思った。
そこは宇宙船の内部のようだった。 壁には武器がずらりと並び、青く光る弾薬のラックがあり、近未来的なアーマーを着たマネキンが立っている。白衣を着た科学者たちが、クリップボードを持って忙しそうに走り回っていた。
ヴィクラムはレーザーライフルの棚を素通りし、早足で進んでいく。 「学校対抗トーナメント――『新人戦』が2週間後に始まる」ヴィクラムは説明した。「セント・ザビエル高校はここ10年、予選すら通過していない。だが今年は、俺がキャプテンだ。必ず勝つ」
彼はあるガラスケースの前で足を止めた。 中にはスーツがあった。分厚い鎧ではない。つや消しの黒い生地で作られたボディスーツで、胸と腕にオレンジ色の六角形のパターンが織り込まれている。
「お前のだ」ヴィクラムは言った。
「俺の?」俺は自分を指差した。
「ああ。お前が変身するたびに服を燃やすせいで、俺が隠蔽工作にいくら使ったと思ってるんだ?」ヴィクラムはため息をついた。「これは『サーマル・ウィーブ V4』だ。超高張力カーボンファイバー製で、筋肉の膨張に合わせて伸縮するし、摂氏3000度まで耐えられる」
俺はそれを見つめた。「なんか……キツそうだな」
「キツいぞ。着ろ。シミュレーションを行う」
仮想戦闘ルーム
10分後、俺は広い白い部屋に立っていた。 スーツは確かにキツかった。スキューバダイビングのウエットスーツみたいだ。 リアは上のガラス張りの観察室にいて、持ち込んだポテチを食べていた。
「シミュレーション・シーケンス:市街地ゲリラ戦」 スピーカーからヴィクラムの声が響いた。 「難易度:中級」
「待てよ、チュートリアルなしかよ!」俺は叫んだ。
ブブッ。
部屋が変化した。ホログラム投影機が、白い壁を荒廃した街並みに変える。 突然、ホログラムのバスの影から3機のロボットドローンが浮かび上がってきた。赤いレーザー照準が俺に向けられる。
ピュン。ピュン。
「痛っ! 痛って!」 胸に2発食らった。ハチに刺されたような痛みだ。スーツがダメージを吸収してくれたが、衝撃は走る。
「反撃しなさいよ、バカ!」インターコム越しにリアが怒鳴った。
俺は歯を食いしばった。 『化身:炎神』
ボォォッ!
黒いスーツの上から炎が噴き出した。オレンジ色の六角形パターンが明るく輝き、熱を皮膚から逃がしてくれる。 実際、かなり快適だった。
「これでも食らえ!」俺は中央のドローンに火球を投げつけた。 ドカン。 それはデジタルな紙吹雪となって爆発四散した。
俺はニヤリと笑った。「楽勝すぎ――」
カチリ。
背後で音がした。 振り返ると、路地裏から戦車のキャタピラがついた巨大ロボットが出てくるところだった。大砲が俺の顔面に向けられている。
「あ」
ズドン!
スイカほどの大きさがあるゴム弾が、俺の腹に直撃した。 俺は後ろに吹っ飛び、石切りのように地面を跳ねて、レンガの壁に激突した。ズルズルと崩れ落ちると、ホログラムが明滅した。
「シミュレーション、失敗」コンピューターが明るい声で告げた。
俺は腹を押さえて呻いた。「たぶん今、肺を飲み込んだ気がする」
ホログラムが消えた。ヴィクラムが部屋に入ってきたが、呆れた顔をしていた。彼は俺に手を差し伸べた。 俺はその手を掴み、引き上げてもらった。
「お前には純粋な火力がある、アリアン」ヴィクラムはタブレットのデータを分析しながら言った。「お前の炎神はSランクの破壊力を持っている。だが、防御力はFランクだ」
彼が画面をタップすると、俺が撃たれるリプレイが再生された。 「お前は回避(風神)か、圧倒的な火力(炎神)に頼りすぎだ。だが、避けられない相手と戦う時はどうする? お前をロックダウンしてくる相手なら?」
「えっと……逃げる?」俺は提案した。
「トーナメントでは、リングから出たら失格だ」ヴィクラムは鋭く言った。「ライバル校の『セント・ライオンハート学園』には、イシャというキャプテンがいる。彼女は氷の魔法で戦場全体を凍らせる。逃げ場はないぞ」
彼は俺の目を真っ直ぐに見た。 「勝つためには、攻撃を受ける方法を学べ。『ガラスの大砲』であることをやめて、『要塞』になるんだ」
手首が振動した。見下ろすと、星の神器が微かに光っていた。 オレンジ(炎)でも、緑(風)でもない。 深く、重い、茶色の光が一瞬脈打ち、消えた。
『適合率チェック:大地神』 『ステータス:15%』
「大地神」俺は囁いた。大地の化身。
「その通り」ヴィクラムは言った。「そして、それを無理やり引き出すためのトレーニングメニューを用意した」
彼は笑った。邪悪な笑みだった。 「リア、重力室を起動しろ。地球の2倍の重力だ」
「待て、2倍?」俺はパニックになった。「ヴィクラム、俺さっきサモサ食ったばっかりだぞ!」
「耐久トレーニング開始だ」ヴィクラムは背を向けた。「吐いたら自分で掃除しろよ」




