第10章:|炎と風の舞踏《ダンス・オブ・ファイア・アンド・ウィンド》
俺は幽霊であり、そよ風であり、そして最高に鬱陶しいハエだった。
ヒュオオオオッ!
俺は時速300キロで死霊術師の周囲を旋回していた。 体育館の窓から見ている生徒たちには、俺はただの緑色のブレた線にしか見えないだろう。
「チョロチョロと!」 死霊術師が金切り声を上げ、影の矢を乱れ撃ちした。
俺はそれらを避けただけじゃない。矢の間を踊るようにすり抜けた。垂直な壁を駆け上がり、天井を蹴って、奴の背後に着地する。
「遅い」俺は囁いた。
掌を突き出す。「風弾!」
圧縮された空気の砲弾が死霊術師の背中に直撃した。
ドスッ。
奴は前につんのめった……だが、それだけだった。 燃えもしない。砕けもしない。奴の周りにある紫色の影の鎧が、スポンジのように衝撃を吸収してしまった。
奴は振り返り、嘲笑った。 「それだけか? 神の如き速度を持っていても、打撃は扇風機並みだな。私を傷つけることはできんぞ、小僧!」
俺はステージの反対側で急停止し、地上数センチでホバリングした。 奴の言う通りだ。風神は速いが、軽い。奴の防御を貫通できない。
『アリアン!』リアの声が耳元で響いた。『解析完了。奴の鎧は2秒ごとに再生してる。瞬間火力が必要よ。炎神を使いなさい』
「無理だ!」俺は叫び返し、別の影の槍を避けた。「炎神に変えたらスピードが落ちる! パンチを打つ前に串刺しにされるぞ!」
『なら、選ぶな』
ヴィクラムの声が割り込んだ。弱々しい声だが、その傲慢さは健在だった。 『ストライド(歩幅)の途中で切り替えるんだ。風の運動量を使って、炎の質量を叩き込め』
「そんなことしたら神器が焼き切れるぞ!」俺は反論した。
『他にいい案があるのか?』ヴィクラムが咳き込んだ。『俺は今、床の上で失血死しかけてるんだぞ』
俺は死霊術師を見た。奴は紫色の巨大なエネルギー弾をチャージしている。
「わかったよ。もし俺が爆発したら、母さんの手料理が大好きだったと伝えてくれ」
俺は深呼吸をした。 集中しろ。動くためには風の「自由」が必要だ。 打撃を与えるためには炎の「怒り」が必要だ。
俺は空気を蹴った。
ヒュンッ!
俺は死霊術師に向かって一直線に飛んだ。小細工なし。正面からの突撃だ。 奴は笑った。「愚か者が」 奴は紫色のエネルギービームを発射した。
『化身:風神』
俺は空中で錐揉み回転し、ドリルのようにビームの周囲を旋回した。奴のガードを突破する。 奴の顔まで、あと数センチ。
(今だ!)
俺はダイヤルに手を叩きつけた。
『システム・オーバーライド』 『切り替え:風神 >>> 炎神』
ナノ秒の世界で、重さが戻ってきた。緑の霧が消え失せる。 俺の拳が溶岩の塊へと変わる。炎が爆発的に膨れ上がった。
「隕石拳!!」
ズガァァァァァン!!
俺の拳が奴の仮面に激突した。その衝撃は破滅的だった。
風神の速度に炎神の質量が掛け合わされ、本来存在しないはずの運動エネルギーが生まれた。 死霊術師はただ吹き飛んだのではない。後ろ向きに音速の壁を突破した。 奴はステージの壁を突き破り、その奥のレンガ壁をも粉砕し、校舎の中庭へと弾き飛ばされた。
『警告:コア温度危険域』 『切り替え:炎神 >>> 風神』
俺は自分自身の攻撃の反動で腕が砕けるのを防ぐため、即座に風へと戻った。俺は奴を追った。
サッカー場のグラウンドにできたクレーターの中に、死霊術師が倒れていた。 仮面は砕け散っていた。顔の半分が消し飛び――その下に見えたのは、渦巻く紫色の煙だけだった。 こいつは人間じゃない。死霊だ。
奴は立ち上がろうと唸った。「貴様……小賢しい……」
「まだ終わりじゃない!」俺は叫んだ。
俺は奴の周りを円を描いて走り始めた。 速く。もっと速く。 風神が渦を作り出す。サッカー場に竜巻が発生し、死霊を中心部に閉じ込める。
「リア! ヴィクラム! 全員退避したか?」
『クリアよ!』リアが叫んだ。
「よし」
俺はあまりに速く動いていたため、世界は緑色の光のトンネルになっていた。俺は台風の目だ。 俺は最後に一度だけダイヤルを見た。
「混ぜてみようぜ」
俺は形態を切り替えなかった。ダイヤルを無理やり回し、両方のバルブを開放した。
『重大なエラー』 『二重接続を検知』 『システム完全性:5%』
俺の左腕が酸に浸されたように焼ける。ブレスレットの金属が白熱し、光り輝き始めた。 緑の風が、オレンジ色の炎と混ざり合う。
「複合奥義:火炎旋風!」
俺は竜巻の中にエネルギーを解き放った。風が発火した。
高さ12メートルにもなる回転する炎の柱が、サッカー場を飲み込んだ。文字通りの「地獄の嵐」だ。
聖なる炎が影の肉体を細切れにする中、死霊が絶叫した。風が奴を逃がさず、炎が奴を食らい尽くす。
「王は……帰還……する……」
フッ。
紫色の霧が蒸発した。 学校を覆っていた結界がガラスのように砕け散り、本物の太陽の光が降り注いだ。
炎が消えた。 俺は焦げたサッカー場の中央に立っていた。体から湯気が上がっている。 左腕はどす黒く変色していた。星の神器がシューシューと音を立て、排気口から煙を吐き出している。
『システム冷却中:72時間』 『よくやった、小僧』
俺は瞬きをした。今、時計が俺を褒めたか?
俺の膝が答えを出した。世界が回転する。 顔から芝生に倒れ込む直前、最後に見えたのは、俺に向かって全力疾走してくるリアと、校門に集結する対魔特務隊のトラックの赤い回転灯だった。
「おっと」俺は呟いた。「こりゃ間違いなく停学だな」
ブラックアウト。




