第9章:|好敵手の重み《ウェイト・オブ・ア・ライバル》
「伏せろ!」
俺は理由を聞かなかった。その場に膝をつく。背中の炎が轟音を立てて燃え盛る。 ヴィクラムが俺の背中を跳び箱のように使い、空中で回転した。彼の革靴が、迫りくる悪霊の顎を砕く。
バキッ!
悪霊が床に叩きつけられる。俺は即座に追撃した。 「爆炎撃!」
俺は拳を地面に叩きつけた。炎の噴水が噴き上がり、再生する間も与えずに悪霊を焼き尽くした。
「遅いぞ」ヴィクラムは優雅に着地し、ネクタイを直しながら批判した。「それに部屋を暑くしすぎだ。整髪料が溶けるだろうが」
「こっちは文字通り燃えてるんだよ、ヴィクラム! 少しは手加減しろ!」 俺は叫びながら、彼の足を掴もうとした骸骨を吹き飛ばした。
俺たちは講堂の中央で背中合わせになっていた。生徒たちは出口へ殺到していたが、紫色の結界が完全に封鎖していた。
リアは天井の梁のどこかにいて、メイド服のエプロンから投げナイフを取り出し、食屍鬼を狙撃していた。
死霊術師はステージの上空に浮かび、不愉快そうにしていた。 「印象的だな。粗削りな精霊使い(エレメンタル)と、遺伝子強化された兵士か。だが、それは運命を先延ばしにしているに過ぎない」
彼は両手を上げた。部屋中を渦巻く紫の霧が、さらに濃くなる。 霧が圧縮され、数百もの「影の槍」へと形を変えていく。
「死の雨」死霊術師が囁いた。
「障壁!」 ヴィクラムが叫んだ。彼はポケットから小さな金属のディスクを取り出し、床に投げつけた。エーテル技術だ。 青い六角形のドームが展開し、俺たちを覆った。
ガガガガガッ!
影の槍が障壁を叩く。青い光が明滅し、亀裂が入る。
「保たない!」ヴィクラムが歯を食いしばった。顔中から汗が吹き出している。「奴は支柱を狙ってる! 天井が落ちたら、中にいる全員が死ぬぞ!」
俺は見上げた。彼の言う通りだった。槍は俺たちだけを狙っているんじゃない。講堂の構造自体を破壊しようとしている。 出口の真上――怯えた一年生たちが固まって震えている場所――にある巨大なコンクリートの梁が、悲鳴を上げ始めた。
ピキッ。
亀裂が入った。
「あの子たちが!」俺は叫んだ。
俺は走り出そうとしたが、炎神の形態は重かった。足が溶けた床に沈み込む。俺は戦車であって、ジェット機じゃない。
「俺が行く」ヴィクラムが言った。
彼は待たなかった。障壁の安全圏から飛び出した。
「ヴィクラム、待て!」
彼は速かった。人間離れした速度だ。 数トンのコンクリート梁が崩落するのと同時に、彼は生徒たちの元へ到達した。 彼は梁を受け止めようとはしなかった。猛烈な勢いで生徒たちを突き飛ばし、落下地点から弾き出した。
ズガァァァン!
梁が地面に激突した。土煙が舞い上がる。
「ヴィクラム!」俺は咆哮した。
土煙が晴れた。 ヴィクラムは生きていた。辛うじて。 彼は転がって避けようとしたが、距離が足りなかった。コンクリートの梁が、彼の右足を完全に押し潰していた。 「完璧な王子様」からは一度も聞いたことのない、生々しい、悲痛な叫び声が響いた。
死霊術師が笑った。「高潔な自己犠牲か。退屈極まりない」
彼は動けなくなったヴィクラムに指を向けた。空中で紫色の巨大なエネルギーの槍が形成され始める。トドメの一撃だ。
「やめろ……」 俺は前に出ようとしたが、距離がありすぎる。炎神は強力だが、鈍重だ。一歩一歩が泥の中を歩いているようだ。あの槍を焼き払うことはできるが、間に合わない。
(俺は遅すぎる。怒りすぎている。ただエネルギーを燃やしているだけだ)
俺はヴィクラムを見た。彼が俺を見た。 その目はもう傲慢ではなかった。彼は恐怖していた。
『自由』リアの声が記憶の中で響いた。『何かに縛られている(アンカー)限り、あんたは風にはなれない』
俺は死霊術師への怒りに縛られていた。死への恐怖に縛られていた。 手放さなければならない。敵を破壊する必要はない。ただ、そこに辿り着けばいいのだ。
俺は目を閉じた。炎への燃料供給を絶った。
フッ……
周囲の轟音が瞬時に消えた。熱が去る。突然の冷気が肌を刺す。
『警告:炎神、停止』 『ユーザー心拍数、低下中』 『精神状態:解脱』
俺は目を開けた。死霊術師は見なかった。俺とヴィクラムの間にある「何もない空間」を見た。 それは距離ではない。ただの空気だ。そして空気は流れるものだ。
「システム」俺は囁いた。「風神」
ブレスレットは今度は抵抗しなかった。滑らかに回転し、ダイヤルが緑色に変わる。
『アクセス承認』 『化身:風神』
熱さはなかった。感じたのは「無重力」だ。 重力が俺への干渉を諦めたかのようだった。足が地面から浮く。 戦場の音――悲鳴、崩れる瓦礫の音――が、遠くのハミングのような音に変わった。
死霊術師が紫の槍を発射した。それは弾丸のようにヴィクラムの胸へと迫る。
俺には、それが水の中を進んでいるように見えた。
俺は一歩踏み出した。摩擦はない。俺は地面を蹴ったのではない。空気そのものを蹴ったのだ。
ヒュンッ。
ソニックブームが残っていた窓ガラスを粉砕した。 1ミリ秒前、俺は部屋の中央にいた。 次の1ミリ秒、俺はヴィクラムの目の前に立っていた。
俺は槍を止めなかった。その必要はない。 俺はヴィクラムの襟首を掴んだ。
「捕まってろ」俺は言った。その声は、そよ風の囁きのように響いた。
俺は動いた。世界が色の帯となって流れる。 紫の槍は、ほんの一瞬前までヴィクラムがいたコンクリートに突き刺さり、虚しく爆発した。
俺たちはすでに講堂の反対側、高いバルコニー席の上に移動していた。
俺はヴィクラムを下ろした。彼は喘ぎながら、潰された足を押さえた。周囲を見回し、方向感覚を失っている。 「何が……今、何が起きた? お前……テレポートしたのか?」
俺は自分自身を見た。 皮膚は半透明になり、蜃気楼のように揺らめいている。 髪の毛はなくなり――代わりに、白い風の霧となって背後にたなびいていた。 足は床に触れていない。
「いいや」俺は言った。人生でかつてないほど体が軽い。「ただ歩いてきただけだ」
俺は下の死霊術師を見下ろした。 彼はヴィクラムがいたはずの空白の場所を見つめ、混乱していた。キョロキョロと探し回っている。
「どこへ行った、ドブネズミめ!」死霊術師が怒鳴った。
俺はバルコニーから足を踏み出した。 落ちなかった。俺は空気の上を歩き、ゆっくりとステージへ向かって降りていった。
「おい、霧野郎」俺は呼びかけた。
死霊術師が見上げた。俺の周りに脈動する緑色のオーラを見て、奴の目が見開かれた。
「戦車を倒せる火力はあったみたいだな」 俺は言い、その場から消え――奴の真後ろに再出現した。 俺は奴の肩をポンと叩いた。
奴は振り返り、鋭い爪で切り裂いた。だが、奴が切り裂いたのは俺の残像だけだ。
「だが、風を殴れるか?」




