第13話 神々の愛し子と、王都への招待状
第13話 神々の愛し子と、王都への招待状
洗礼の儀を無事に終えた僕は、両親と共に領主邸へと戻っていた。
日はとっぷりと暮れ、屋敷の窓からは温かな明かりが漏れている。
今夜は、僕の洗礼を祝う特別な晩餐会だ。
広々としたダイニングルームには、領内の食材をふんだんに使った豪華な料理が並べられていた。
メインディッシュは、カマの牧草で育った特選牛のロースト。付け合わせには、あの水路によって救われた畑で採れた新鮮な野菜たちが彩りを添えている。
「それでは、神々と大地の恵みに感謝して。いただきます」
「「いただきます」」
父サノスの音頭で、僕たちはナイフとフォークを手に取った。
口に運べば、肉の旨味と野菜の甘みが広がる。
それは単なる贅沢な食事というだけでなく、この領地が豊かになったことの証明でもあった。
「うん、美味いな。やはりカマの作物は格別だ」
「ええ、本当に。アルスのおかげで、食卓がより豊かになったわね」
和やかな会話と共に食事が進む。
だが、父と母の視線が、時折チラチラと僕の方へ向けられているのを感じていた。
メインディッシュを食べ終え、デザートの果実水が運ばれてきたタイミングで、父が我慢できないといった様子でナプキンを置いた。
「さて、アルス。お腹も満たされたことだし、そろそろアレを見せてくれないか?」
「そうよ! 気になって食事が喉を通らないわ(完食していたけれど)」
「アレ……ああ、ステータスボードですね」
二人の期待に満ちた眼差し。
正直、僕自身もまだ確認していないため、心臓が早鐘を打っている。
魔法神メヌ様の加護は確定しているが、他のステータスはどうなっているのか。変なことになっていなければいいのだが。
「わかりました。では、出します」
僕は深く息を吸い、空間に向かって魔力を込め、洗礼で教わったキーワードを唱えた。
「――ステータス・オープン」
その瞬間。
ヴォン、という低い音と共に、目の前の空中に半透明の青白い光板が出現した。
自分にしか見えない設定もできるらしいが、今は両親に見せるために可視化モードにしている。
「うわっ、出た!」
初めて見るファンタジーな光景に驚きつつ、僕はそこに羅列された文字を目で追った。
【基礎情報】
氏名:アルス・フォン・サーナス
年齢:15歳
身分:サーナス侯爵家長男
体力:600 / 600
魔力:300 / 300
【加護】
・魔法神の加護
・生命神の加護
・剣神の加護
・武神の加護
・農業神の加護
・商業神の加護
・大地神の加護
・技術神の加護
【スキル】
・身体強化(Lv.1)
・自然治癒(Lv.1)
・アイテムボックス(容量:中)
・検索(隠蔽)
「…………え?」
僕が内容を読み取った瞬間、横から覗き込んでいた父と母が、飲んでいた果実水を盛大に吹き出した。
「ぶふぉっ!!!」
「き、きゃあああっ!?」
上品な貴族らしからぬ音がダイニングに響く。
セシルが素早くタオルを差し出すが、二人はそれどころではないようだった。父は目を血走らせ、母は口元を押さえたまま硬直している。
「な、なんだこのステータスは……! こんな出鱈目なボード、見たことも聞いたこともないぞ!」
「そうよ、どうなっているの!? 加護が……一つ、二つじゃないわ。八つ!? 統一教の神様が全員並んでいるじゃない!」
二人の動揺はもっともだった。
この世界において、加護を持つ者は一万人に一人といわれる。
さらに、二つの加護を持つ「二重加護」となれば、歴史に名を残す英雄クラスだ。
それが、どうだ。
創造神ザイン様を除く、八柱すべての神の加護が並んでいる。
魔法神メヌ様は「他の神も興味を持っている」と言っていたが、まさか全員から愛されすぎているとは思わなかった。もはや「神童」どころか「神の友」レベルだ。
「それに、スキルも見てみなさい!」
母が震える指でボードを指差した。
「『身体強化』に『自然治癒』……これらは騎士たちが一生をかけて習得するような高等スキルよ。それに『アイテムボックス』まで! 国宝級の魔導具でしか代用できない希少スキルじゃないの!」
(やはり、凄いラインナップなんだな……)
幸いなことに、僕の切り札である『検索』スキルだけは、約束通り父たちには見えないよう隠蔽処理が施されていた。
もしこれが見えていたら、父は泡を吹いて倒れていたかもしれない。
体力と魔力の数値に関しても、一般的な成人男性の平均が体力100、魔力50程度であることを考えれば、十五歳にして体力600、魔力300は破格だ。
特に体力は、五年間の騎士団での訓練の賜物だろう。魔力は、魔法神の加護による補正が大きいと思われる。
長い沈黙の後、父サノスは額の汗を拭い、真剣な眼差しで僕の肩を掴んだ。
「……アルス。よく聞け」
「は、はい」
「お前の能力は、桁違いという言葉でも生温い。お前は将来、間違いなく歴史に名を刻む偉大な人間になるだろう。だが、同時に危険も伴う」
父の声色が、法務大臣としての厳しいものに変わる。
「八大神の加護と、三つの希少スキル。こんなことが知れ渡れば、王家はもちろん、他国のスパイや教会勢力が血眼になってお前を囲い込もうとするだろう。最悪の場合、暗殺の対象にもなりかねん」
「あ……」
言われてみればそうだ。強すぎる力は、周囲の恐怖や欲望を煽る。
「いいか、このステータスボードは、決して他人に見せるな。家族と、信頼できるごく一部の家臣だけの秘密にするのだ。対外的には『魔法神の加護を一つ授かった』程度に留めておけ。それだけでも十分すぎるほど優秀だ」
「はい、わかりました! 肝に銘じます」
父の優しさと政治的判断に、僕は深く頷いた。
やはり、この家に生まれてよかった。ただ喜ぶだけでなく、僕の身の安全を第一に考えてくれている。
場の空気が少し重くなったところで、父は気を取り直すように咳払いをした。
「さて、話は変わるが。お前の誕生日を祝うパーティーを、八日後に王都の別邸で行うことになった」
「王都、ですか?」
「うむ。お前も十五歳、社交界デビューの時期だ。明日にはここを出発し、王都サルサへ向かう。準備をしておけ」
王都サルサ。
人口百万人を擁する、マリアナ王国の心臓部。
ついに、物語の舞台は田舎の領地から、煌びやかで陰謀渦巻く王都へと移るわけだ。
「わかりました、父様。楽しみにしています」
僕はこの強力すぎるステータスボードを消し、残りのデザートを口に運んだ。
甘い果実の味が、これからの冒険への予感のように胸に染み渡った。




