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転生貴族は異世界を豊かにします。  作者: Nami


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第12話 魔法神の祝福と、規格外への布石

第12話 魔法神の祝福と、規格外への布石

光の奔流が収まると、視界は再びあの白亜の空間に固定された。

十五年前と変わらぬ、無限に広がる乳白色の世界。

神々の円卓。

そこに座る創造神ザインの姿は、以前と変わらず好々爺然としていたが、問題はその隣に座るもう一柱の神だった。

(……誰だ?)

僕の記憶にある教会や聖書の挿絵では、九柱の神々は皆、威厳ある老人や、神々しい女性として描かれている。

しかし、ザインの隣に座っているその男性神は、まるで違っていた。

身長が高く、モデルのようにスラリとした手足。透き通るような銀髪に、知性を湛えた涼やかな瞳。

「イケメン」という言葉すら陳腐に聞こえるほどの、圧倒的な美青年だったのだ。

人間界の芸術家が想像で描いた神の姿と、実物はこれほどまでに違うのか。神界の美的センスに驚かされつつ、僕は居住まいを正した。

「翔太くん、本当に久しぶりじゃのう。この神界から、君の活躍はずっと見ておったぞ」

ザインが嬉しそうに髭を揺らした。

その呼びかけに、僕は苦笑しながら一礼する。

「見ておられたのですか……それはお恥ずかしい限りです。それとザイン様、今の僕には『アルス』という名があります。どうかこれからはそうお呼びください」

「ほっほっほ、そうじゃったな。すまない、これからはアルスと呼ぶことにしよう。……それにしてもアルスよ。五年前の水路の件、誠に見事であったぞ」

ザインの瞳が、慈愛に満ちた光を帯びる。

「まだステータスボードも解放されず、スキルも使えぬ身でありながら、持てる知識と民の力を束ねて難局を乗り越えるとは。わしの見込み通り、いやそれ以上の働きじゃ」

「勿体ないお言葉です。ですが、それは僕だけの力ではありません。僕を拾い、この世界に導いてくれたザイン様たちへの恩返しがしたかっただけです。本来なら消えていたはずの命ですから」

僕が感謝を伝えると、ザインは満足げに頷き、隣の美青年へと視線を向けた。

「殊勝な心がけじゃ。さてアルスよ。君は十五歳になり、今日こうして洗礼の儀に臨んでおる。わしらに会えるのは転生者である君だけの特権なのじゃが……今日は隣におる『魔法神メヌ』が、どうしても君に話があると言うてな」

「魔法神……メヌ様!?」

僕は目を見開いた。

この美青年が、魔法を司る神、メヌ?

教会の像では、杖を持った厳格な老賢者の姿だったはずだ。実物はこんなに若々しい貴公子だったとは。

「ふふ、驚いたかな? 君とは転生の時に顔を合わせているはずだが、こうして言葉を交わすのは初めてだね」

メヌと呼ばれた神が口を開いた。その声はハープの音色のように心地よく、空気を震わせた。

「改めて名乗ろう。私が魔法神メヌだ。以後、よろしく頼むよ」

「は、はい! アルスです。メヌ様、お会いできて光栄です。……ところで、僕にお話とは一体?」

魔法を司る最高神が、一介の転生者に何の用だろうか。

メヌは長い足を組み替え、流れるような所作で僕を見た。

「君も今日で十五歳。ステータスボードが解放され、正式に魔法やスキルが行使できるようになる。そこでだ。私からは君へのプレゼントとして、私の『加護』を与えようと思ってね」

「えっ……か、加護ですか? そんな簡単に頂いてしまっていいのですか?」

加護とは、神からの祝福であり、才能の証だ。

通常は先天的に極稀に持っている者がいる程度で、後天的に、それも神から直接「あげよう」と言われて付与されるものではない。

「遠慮はいらないよ。君には、この世界を『地球の知識』を用いて発展させてほしいと、ザイン様から頼まれているからね」

メヌは指先で空中に幾何学模様を描きながら続けた。

「水路の一件で、君も理解したはずだ。君の知識を実現するためには、この世界の『魔法』が不可欠だと。通常なら数年かかる工事を、魔法を用いれば二日で終わらせることができる。文明の発展において、魔法は最強の触媒なんだ」

「はい、おっしゃる通りです。魔法なくして、僕の計画は成り立ちません」

「だろう? だからこそ、君には魔法のスペシャリストになってもらいたい。魔法神の加護を持っていれば、魔力の成長率、魔法の威力、そして習得速度が劇的に向上する。君の助けになるはずだよ」

なんというチートだ。

ただでさえ「創造神の加護(検索スキル)」があるのに、「魔法神の加護」まで。

これでは、努力次第で宮廷魔導師すら凌駕してしまうかもしれない。

でも、断る理由はない。僕にはやらなければならないことが山ほどあるのだから。

「ありがとうございます、メヌ様! 頂いた力、必ずやこの世界の発展のために役立ててみせます!」

「あぁ、期待しているよ。……そういえば」

メヌが何かを思い出したように、悪戯っぽく微笑んだ。

「今はここにいないけれど、他の神たちも君に興味津々でね。『私も加護を与えたい』なんて言っている神もいるんだ」

「えっ? 他の神様もですか?」

「うん。もしかしたら今後、教会以外の場所……例えば夢の中や、ふとした瞬間に彼らが君にコンタクトを取ってくるかもしれない。その時はよろしく頼むよ」

「えぇ……教会以外でも会えるんですか?」

神様って、そんなにフランクに降臨してくるものなのか。

僕が困惑していると、メヌは楽しそうに笑った。

「まぁ、私たちは神だからね。人間界のことわりに直接干渉はできないけれど、君の意識にちょっとお邪魔するくらいは造作もないことさ」

(プライバシーがない……!)

内心で冷や汗をかいたが、神々に愛されているというのは悪いことではないはずだ。そう思うことにしよう。

「さて、そろそろ時間のようだ。肉体とのリンクが戻り始めている」

ザインが終わりを告げた。

楽しい時間はあっという間だ。

「アルスよ。これからもここから見守っておるぞ。どんどんこの世界を面白く、豊かにしてくれ。頼んだぞ」

「君が検索スキルと魔法をどう組み合わせるのか、楽しみにしているよ! 頑張ってね」

二柱の神に見送られ、僕は深く一礼した。

「はい! 行って参ります!」

視界が白く染まり、意識が急速に現世へと引き戻されていく。

「――アルス様! アルス様!」

誰かに肩を揺すられている感覚で、僕はハッと目を開けた。

そこは薄暗い礼拝堂の中。

目の前には、心配そうに僕の顔を覗き込む司祭の顔があった。

「し、司祭殿……?」

「おお、気がつかれましたか! 洗礼の儀はとうに終わったのですが、アルス様がなかなか目を開けられないものですから、心配しておりました」

どうやら、神界での対話中、こちらの世界では意識を失ったように見えていたらしい。

「あぁ、申し訳ありません。祈りに集中するあまり、少し深く入り込みすぎてしまったようです」

「左様でございましたか。それほどまでに深く神と対話されるとは……さすがはアルス様です」

司祭は感心したように頷いている。

まさか本当に神様と会って雑談し、加護をもらってきたなどとは口が裂けても言えない。これは僕だけの秘密だ。

「洗礼は無事に完了しております。お帰りになってから、『ステータスボード』と唱えてみてください。ご自身の能力ステータスが可視化されますので」

「はい、ありがとうございます」

僕は司祭に丁重に礼を述べ、礼拝堂を後にした。

教会の外に出ると、待っていた父と母が駆け寄ってきた。

「アルス、遅かったじゃないか。心配したぞ」

「ごめんなさい。ちょっと祈りが長引いてしまって」

僕が無事な姿を見せると、二人は安堵の表情を浮かべ、すぐに期待に満ちた顔つきに変わった。

「それで、どうだった? 洗礼は上手くいったか?」

「はい、バッチリです」

「そうか! なら、帰ったらぜひステータスボードを見せてくれ! お前は奇才だ、一体どんなスキルや加護が発現しているのか、楽しみで仕方がないのだ」

「私もよ! きっと凄い魔法が使えるようになっているはずだわ!」

両親の目がキラキラと輝いている。

僕は馬車に乗り込みながら、内心で冷や汗をかいた。

(まずいな……検索スキルのことは『自分にしか見えない』設定になっているはずだけど、魔法神の加護とか、魔力量とか、とんでもないことになってたらどう説明しよう……)

「わ、分かったよ。帰ってからね」

期待に応えられるか、それとも期待を超えすぎて引かれるか。

僕は引きつった笑みを浮かべながら、帰路の馬車に揺られるのだった。


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