(21)#面倒くさい客が来てました①
「イタタタ。仕事はいいから早く帰れよ」
マスターは赤く腫れたほっぺをさすりながら言った。
「はいはい。帰りますよ」
私は洗濯したシーツやタオルなどを棚に片付け、帰り支度を始めた。
「まったく、死んだかみさんより怖いわ」
マスターはオーバーに怖がりながら言った。
「怖い女は帰りますよ。お疲れ様」
「お疲れさん」
宿屋を出て行く私を、マスターはやれやれという感じで見送った。
「おっセーラ。もう帰りかい?」
夕食の買い物をしに市場を歩いていたら、ダリアに声を掛けられた。
「マスターが帰れ帰れうるさくて」
「どういうことだい?」
ダンが今日から住むことを知らないダリアは、キョトンとした顔をしている。
「それは・・・・・・」
恥ずかしかったが、私は同棲初日だと説明した。
「ふーん、そういうこと」
説明を聞いたダリアは何か言いたげな顔をしている。
「な、何だよ」
「そうだ、これやるよ」
私の反応を無視し、ダリアが買い物カゴの中からワインを出してきた。
「え?いいの?」
「お祝いだよ。」
「ありがとう」
「それと、そこの肉屋が安売りしてたから寄ってみな」
「わかった」
「じゃあダンと仲良くね」
「うるさいよ」
「ハハハ」
顔を真っ赤にして言い返す私を見て、ダリアは豪快な笑い声を残して去って行った。
「ダン、ただいま」
買い物袋を手に帰ると、ダンと話す面倒くさい奴の姿が目に入る。
「おっ、おかえり」
ダンではなく、ロベルトの笑顔に出迎えられる。
「げっ、何でいるの?」
予期せぬ来客に私は思いっきりしかめっ面をした。
「お前、げって言っただろ。げって」
ロベルトは思わず出た一言を聞き逃さずツッコミを入れる。
「で、何しに来たの?」
私はツッコミをスルーして話を進めた。
「可愛い妹の顔を見に来ただけだ」
「何が可愛い妹よ。昔、私にイタズラして楽しんでいたくせに」
「それはあれだ。好きな女に悪さするみたいなもんだ」
そう言うロベルトの顔は、絶対嘘をついているときのものをしていた。




