(2)#ダンと呼ぶことにしました
「1名様ご宿泊でーす」
私はテンションが上がり、つい大きな声が出てしまった。
「いらっしゃい兄ちゃん。こいつに捕まったか」
マスターは私の様子に気付き、ニヤニヤして男に話し掛ける。
「はい。有無を言わさずに」
「何だよ。困ってそうだったから連れて来てやったのに」
ため息混じりに男が返事をしたことになぜかイラッとしてしまい、私は感情を顔に出してしまった。
「セーラ。兄ちゃんを部屋へ案内してくれ」
「ほーい。客室は2階だよ」
マスターに言われ、私は首の後ろに両腕を組んで歩き出した。
「そういえば。あんた、名前なんていうの?」
普段は訊かないが、気付くと私は男の名前を訊いていた。
「ボンダダンです」
男の名前は聞き慣れないものだった。
「ええと、面倒くさいからダンでいいよな」
「別にいいけど」
間があったが、ダンは呼び名をすんなりと受け入れた。
「お疲れさん。もう帰っていいぞ」
ダンを部屋に案内して1階に戻ると、マスターが声を掛けてきた。
「うん。さっきの客をダリアの所に案内するついでに帰るよ」
「そんなにあの兄ちゃんが気に入ったのか?」
そう言うマスターはニヒヒと笑っている。
「うるさいよ。別にそんなんじゃねえし。異世界人に親切にしただけだし」
「親切はいいことだよ。ヒヒヒ」
慌てて早口になった私を見て、マスターはさらにニンマリと笑って言った。